「はやく襲ってくれないかなぁ」
 お茶を飲むタイミングでそんなことをいわれたから、ついむせてしまった。
 薔薇の館の二階。今日はまだわたしと由乃さんの二人きり。
 咳が止まらない私の背中をさすりながら、でも話は終わらない。
「当選おめでとうってえっちするのは変だけど、でもバレンタインには絶対だと思ったのにな」
「よ、由乃さん、わたしたちまだ高こ…」
「だって手術していつでも受け止められる身体になったのに。このままだと卒業式の準備が始まって春休みになっちゃうわ」
 由乃さんの話はどんどんエスカレートしていって。
 要は令さまと由乃さんの間ではなんとなく同意ができているけれど。
 令さまが身体を気遣ってお手を付けられない、ということらしい。
 でもそれはあくまで由乃さんの想いに過ぎない。
 令さまは由乃さんのことをプラトニックに愛されているのだから。

 でもまだ由乃さんの話はまだ終わらず、それどころか次第に内容が犯罪めいてくる。
 …しかもわたしを共犯者にしようとしている…わわ、これはヤバい。
 と同時にひとつアイデアが浮かぶ。
「由乃さん、ストップストップ」
「なによ、今更おじけついたのっ」
 今更…あわわ
「わたしそんなことは出来ないよ、でも縁結びならできるかも」
「もうその段階は終わったんだ!」
「それ違う違う。とにかく今度のお休み、由乃さんのお部屋とかに令さまをお誘いできるかな」
『もちろん、ご家族のいない時、だよ』

 今年の儀式は不安が的中してしまい、ついお姉さまを思い浮かべて失敗するところだった。
 その反省もあってあの祝詞について自分なりに調べていたところだった。
 内容や音韻を分析し実際に一人でも試したこともある。
 あの祭事は神鏡を通して常世の国から神の一部だけ巫の身体に降ろし、慰めるもの。
 そのために富士から流れる力が強く澱む場所に社を建て神鏡を置き一年間その力を蓄積する。
 全てが揃わなければ、祝詞だけでは神は呼べない。
 逆に言えば、祝詞だけ唱えても問題はない可能性が高い。
 ただえっちな気持ちになるのを除けば。
 次のお休み、令さまの部屋。
 しばし三人でこたつにあたり、お話ししながらぬくぬく。
 やっぱり令さまのお菓子とお茶はおいしい。
 と思ってもうひとつクッキーを取ろうとすると、つり目になった由乃さんと目が合う。
(祐巳さん、なにやってるのよ〜)
(う〜ん、ではそろそろ)
 ごそごそしていると令さまが「おや」って。
「懐かしいね、幼稚舎の時のものだよね?」
 それは鈴。納屋から探してきた、プラスチックの輪っかに鈴が八つついたもの。
 マジックで『ふくざわゆみ』って書いてある。
 私の時と同じ型だね、お遊戯とかしたよね、って令さまは懐かしそうにされて。
(なんなのよいったい〜)って由乃さんはつり目にふくれ顔をプラスして。
 わたしはこたつを出て、目を閉じ、二人に鈴を鳴らし始める。
 強く、弱く。強く、弱く。
 二人は何が始まったかわからずとまどっていたけれど。
 口の中だけで含むように詠唱を始めると、途端に動きが止まってしまった。

 お二人は愛し合っている。
 それならちょっとお互いの背を押してあげればいい。
 その気持ちを解放すればよい。
 由乃さんが令さまを襲っちゃうかもしれないけれど。
 まぁそれはそれでいいや。

 薄目を開けると、二人は耳まで真っ赤にしながら腰をもじもじしている。
 感じ始めているんだ…よしもう一押し。
 鈴にいっそう気を配ながら詠唱を続ける。
 ぱたっばさっておこたのふとんの音。続いてがさがさって衣擦れの音がステレオで聞こえてくる。
 は、始まるのかな、遂に。
 いつの間にかわたしも身体が熱くなって来ている。
 そろそろおいとましなきゃ、でもなんだか見てみたい気もする…どうしよう…。
 突然両手首に感触があって、そのままカーペットの上に押し倒される。
 びっくりして見回すと逆光のなかには二人の優しい微笑み。
 右手首を押さえているのは下着姿の由乃さん。
 左手首を押さえているのはショーツだけになられた令さま。
「令ちゃん、好きよ」
「私も由乃のことが好き」
「でも、祐巳さんもかわいい」
「かわいいね」
「一緒に…だったら、浮気じゃないよね」
 そんなことない!ない!だめだめ!
「そうだね、由乃。ふたりでなら浮気じゃないよね」
 きゃ〜〜!だめ〜〜!

 力が入らなくなっているわたしは易々と令さまに組み伏せられて。
 ファーストキスだけはって必死に拒んだけれど。
 でも耳や胸や首や脇、感じてしまうところは全て愛されてしまう。
 上半身は令さまになら下半身は由乃さん。
 内ももにたっぷりと舌を這わされ焦らされた挙げ句、舌がちろちろと動かされる。
 そのうちに舌の動きを止めないまま鼻でクリトリスまで刺激され始める。

 祝詞によって発現した二人の思いはお互いにでなく巫体質のわたしに向かってしまったのだった。
 それどころかふたりの深い絆は共同戦線となりわたしを責め苛む方向へと。
 そんな、そんな、そんなぁ〜

 何度目かの絶頂の後気がつくと、わたしにからみついているのは由乃さんだけになっていた。
 わたしの耳を甘かみしながら指で乳首を転がしている。
 何か令さまと話しているけれど、令さまの声は由乃さんの耳元でささやくような声にかき消されて。
「…祐巳ちゃんに…」
「うん、賛成」
「…由乃にするときの練習……」
「えへへ、そのときはわたしも、令ちゃんに、、」
「…そのときは、よろし…」
 そして場違いなモーター音がし始めて、クリトリスに衝撃が起こる。
「あぁっあーーーっ!」
「えへへーー祐巳さん、びっくりした?」
「いつか由乃に使おうって思って色々おもちゃを買ってあるんだ」
「わたしこわいから先に祐巳さんで試させてね」
「もちろん絶対傷つけるようなことはしないからね」

 令さまのコレクションはたくさんあって。
 由乃さんのことをどれだけ愛しているかわかるぐらい、本当にたくさんあって。
 そのことを二人は延々わたしの身体で確認しあったのだった。
『由乃さんのことをプラトニックに愛されているのだから』なんて。
 そう思ってたのに、そう信じてたのに…。
 令さまっ、とっ、由乃さっんっ、の、バカーーーーー!


 そして薔薇の館。
 わたしの正面にはお姉さま。
 左右には…ベンチシートの様に椅子をくっ付けて、令さまと由乃さんが座っている。
 令さまはほおづえをつきながら書類を書くわたしの手と頬とうなじをかわるがわる眺めている。
 そして由乃さんはわたしの肩にほおを乗せるようにして寄り添っている。
 この異様な雰囲気に志摩子さんは離れたところに座って。
 こちらを見ないようにして書類を広げている。

 人間相手では強すぎたらしい…力が地脈に還るまで、もう少しかかりそうだなぁ…。

 ピシッと音がして、恐る恐る正面を見てみると。
 お姉さまの手の中のボールペンは折れ曲がっていた。

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