月子はウテナのすぐ後ろについて決闘広場への螺旋階段を登る。
…なんだここは?!…
現実とは思われない、お伽噺のなかにでてくるような建物。
螺旋の終点は背の高いアーチを描く門であり、
その先には薔薇の茂みに囲まれた真っ平らな大理石の床が広がっている。
…螺旋階段の他に何の支えも無くこれが空中に浮いている?…
…それにあの出来損ないのシャンデリアみたいなモノは何だ?…
ウテナは空、あるいは空のふりをした天井を見上げながら呟くように言った。
「相変わらず出来損ないのシャンデリアみたいだな」
そのシャンデリアの真下に月子の求める人がいた。

ミツルは漆黒の詰め襟の第二ボタンまでを外した。
その黒い襟元から、花が咲くように白いブラウスのレースが溢れ出る。
その繊細な手編みの雫は彼女の華奢な体つきをことさらに強調するようだった。
それに向き合う薫幹はフェンシングの練習着の白装束で、ミツルと同じほどに線が細い。
ウテナには、ふたりのその様子が痛々しく見える。
…なんで、このふたりが決闘しなけりゃならないんだ?…
まさか、自分が原因だとは夢にも思っていなかった。

幹が大音声で呼ばわった。
「薔薇の花嫁は居ないから、ルールは即席です!」
ミツルは表情を変えずに応じる。
「なんでも構わないさ」
「ボクは練習用のフルーレを2本持って来ました。得物はこれでいいですか?」
「問題ない」
「互いの胸に薔薇の花を飾り、勝負はその薔薇を散らされた方が負けです」
「承知した」
幹はそこで、初めてウテナと月子の方を振り向いた。
「ちょうどウテナさんが来てくれました。薔薇の花はウテナさんに挿してもらいましょう」
ミツルはその言葉に頷くと、やはりウテナの方を見つめた。

そのミツルの視線に、ウテナの傍らにいた月子は身動きとれなくなった。
長くミツルとともにあったが、彼女が誰かをこんな風に見つめることがあるなんて…。
…そんなに切ない顔をするんだ…

幹とミツルが見つめる人はひとり。
その射抜くような視線。
月子にはその渦巻き鬩ぎあう渇望が目に見えるように思えた。
自分の想い人が発する濃密で息も出来ないほどの嫉妬の香り。
月子は打ちのめされる。
…この場でそのことに気付いていないのは…
…この人だけ…
「なぜ、ミツルと幹が決闘しなければならないんだ?こんなことは止めてくれ」
…あんッたのせいだろ…

その3 その5
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