…ミツルと同じ戦場(いくさば)を駆ける…
幼い頃からの月子の夢想は唐突に、そして全く不本意なかたちで、実現しようとしていた。
だが、自分の気持ちはもうどうでも良い。
大事なのはミツルを、そしてミツルの大切な人を守る事。
敵に向かうミツルの背中は輝いて見えた。

月子は一族が代々受け継いできた内なる秘剣を、生まれて初めて抜き放つ時が来たことを知った。
「古式剣流(こしきつるぎりゅう)禁呪式解放!」
「我が問いに応えよ!数珠丸ゥ!」
…この日はこんな形で来ることになっていたのか?…
不思議な気がした。
この奥義を使うことは、固く禁じられていた。
師である父にも、その師である祖父にもことある毎に言われ続けて来た。
父も祖父も幸いにして一生涯この剣を引き抜いたことはなかったと聞いている。
…ただ主家たる剣の家に危急の事ある時は、是非に及ばず…

「月子さん!あなたは!」
「ウテナさん、それに薫幹さんでしたね。わたしの後ろから離れないで」
ウテナは自分がディオスの剣を振るう時、王子に変身すること、
その時、同時に姫宮アンシーが薔薇の花嫁に変身する事を経験していた。
だが、自分と姫宮以外が変身することがあるなどとは想像した事がなかった。
月子のいたはずのところに、一瞬の閃光のとともに現れた美しい人は、
平安の王朝の公達そのものだった。
反りの大きな古の太刀、柄と鍔には美しい装飾が施され、その刃紋は氷のような輝きを発する。
月子はその大太刀を担ぐように構え、左手は的を指し示すように突き出された。
薔薇の花嫁なしに自らの剣を抜く事の重荷に月子が気付くのは未だ先の事だった。

ミツルは大股で進んだ。
少しのためらいも無く。
「開け第二の封印」
「我が求めに応じ地の底より出よ」
前進を続けるミツルの手にそれは現れた。
ねじくれた茨を象った柄を持ち、黒い刀身の刃紋はダマスクブレードのように乱れている。
世界の終わりに現れるはずのそれ。
それには銘など無かった。
ただ「それ」と呼ばれるだけの剣。
金属イヌがどれほど襲って来ても、ひと薙ぎで灰燼に帰す事が可能だ。
加減を誤ればこの世界を破壊し尽くす事さえ出来る。

無音で殺到する黒い犬たち。
装填される重金属のブレッド。
特殊鋼の牙と爪。
その装甲。
それらのなにもかもが止まって見える。
静止画像のようだ。
動いているのはミツルだけだった。
恐らく月子には自分の姿が見えているはずだ。
ミツルは6頭それぞれをさっと撫でた。
時間が再び動き出す。

凄まじい金属音が響き渡り、特殊合金と複合材と生体部品の血が辺り一面に飛び散った。
なにも原型は留めていない。
決闘広場は血と金属隗の海と化した。
…これは柔すぎる…
陽動だと気付く。
…人間の感覚に慣れ過ぎた…
「月子ォォォォォオオ」
ミツルは今度は自分のからだがスローモーションのようにもどかしかった。

敵の本隊はセンサーには決して感知されないものだった。
それが月子とウテナと幹のまえに出現した。
地獄の兵卒。
受肉した高次元の生き物。
形状はあまりにも千差万別であるので外見を言葉で言い表す事に意味は無い。
だが誰であっても一目見ればそれが何であるか例外無く理解できる。
「悪魔!」
叫び声を上げ月子は突進した。
その5 その7
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