妙に親しみ易い声でその黒い魔物は言った。
「悪魔ではないよ。悪魔は霊的存在だから普通地上にはいない」
「わたしは器に依存する受肉者さ」
そのわりには、数珠丸がその胴体に深々と突き刺さっているにも拘らず、
魔物はこれといってダメージを受けていないようだった。
「ウォォォォォオォォォオォォオ」
月子には遮二無二突進するほか戦術がない。
数珠丸をどう使って良いか全く判らない。
「オイオイ、君を傷つけると怒られるから、あまり暴れないでくれたまえ」
「ダマレェェェーーーー」
ウテナはもどかしかった。
守られるだけの女の子でいることが嫌だったから、
子どものころから、王子様になりたいと本気で考えていた。
気高く、勇気を持って生きることがウテナの生き方ではなかったのか?
いま自分のために、ひとりの女の子が命をかけて信じ難い魔物に立ち向かっているというのに、
なにひとつ役に立つ事が出来ない。
このまま、手をこまねいているくらいなら、
たとえ徒手空拳でも魔物に打ちかかろうと決意したその時、
あの懐かしい感覚が戻って来た。
天空の城から光がウテナの上に舞い降りた。
手の中には微かに暖かい柄がある。
煌めく刀身。
ディオスの剣。
いまウテナの手にその剣は戻って来た。
あの言葉がウテナの声を借りて発せられる。
「世界を革命する力を!」
からだの中に力がみなぎり、自分が王子に変身するのが判る。
魔物はウテナに気付いた。
「ちぇッ、こちらも勇ましいお嬢さんだなあ」
「会長が戻って来るまでに怪我をさせずに身柄確保なんて出来るのかな」
魔物の望みは既に空しいモノになっていた。
ミツルはもう剣を振りかざし魔物に迫っていた。
「石岡あーーーーー貴様あーーーーーー社長の差し金か?」
「あれれ、もう来ちゃったよ」
魔物は溜息をついた。
その6
その8
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