鳳暁生は、煉獄に繋がれる激しい痛みに端正な顔を歪めていた。
ウテナのもとにディオスの剣を送り込んだからだ。
薔薇の花嫁を介さずにそんなことをすれば、
あれほど恐れていた煉獄の痛みに引き裂かれることは判っていたのに…。
だが、そうせずにはいられなかった。

その彼を頭上から嘲笑う声が聞こえた。
「ふふ、あなたあの小娘に本気で惚れてたのねえ」
「世界の果てのくせに、バッカみたい」
「王子様でも世界の果てでもない中途半端な亡者になって煉獄に繋がれればいいわ」
何か言い返してやりたかったが、うめき声をあげてしまうことが判っていたので黙ったままでいた。
プラネタリウムのある鳳学園理事長室は剣財閥社長秘書室介入班によって制圧されていた。
介入班といっても、ただひとりである。
始業式のあと、夜会巻きにセットした場違いな秘書風のグラマーが現れた。
(まあ実際に、彼女は社長秘書だったわけだが)
…やられた…と思った時は既に遅かった。
女は強大な魔力で理事長室を霊的に封印し、暁生の自由を奪った。

…下級悪魔どもこのままで済むと思うな…
嫌みな口調で受肉者だと訂正する冷たい女の顔が浮ぶ。
残忍な復讐心が僅かばかりの気休めになる。
暁生が捉えられ理事長室が占拠されたことは、
学園内に誰ひとりとして気付いている者はいない。
暁生の声と姿でいつものように指示が出され続けているから。

プラネタリウムの丸天井に決闘広場が映し出されている。
椅子に拘束された暁生を床に蹴り倒した美人秘書は、
「あなたには、これからわたしたちに協力して欲しいの」と、ぬけぬけと言った。 「本当に世界を変えて見たいのならね」
そういいつつも美人秘書はすこし不安げに天井の画像を見ていた。
彼女の上司の旗色が、余り良くなかったからだ。
その8 その10
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