不用意に受け太刀し過ぎた。
冬芽の剣は無銘だが、幕末に鍛えられた無反りの実戦用、所謂、人斬り包丁だった。
それがモノの見事に真っ二つに切断された。
花壇の縁石に足をとられる。
もう後がない。
…花も身もある鳳学園生徒会長桐生冬芽もここで討ち死にか?…
まるで、スローモーションのようにすべてがゆっくり見える。
大蛇の鎌首のように青龍刀が振り上げられた。
次は間違いなく首が飛ぶ…。
たとえ、決闘ゴッコでも勝負に賭けて来た冬芽だ。
破れて果てるのなら悔いは無い。
しかし、何ともあっけないモノだなと心の何処かで人ごとのように呟く。
刃が間違いようもない軌道に乗って動き出す。素晴らしい太刀筋だ。
…これまでか…
右下方から、何かが冬芽の視野に飛び込んでくる。
…瞬歩?…
凄まじい金属音と妖しい発光が冬芽の五感を眩ませる。
「七実ッッッ?!」
覚悟を決めた冬芽の前に小さな妹の背中が見える。
「お兄様にはこれ以上指一本触れさせません」
魂の宝剣同士の激しい火花が散っていく。
冬芽は知る由もなかったけれど、七実は宝剣を抜いた経験がある。
御影草時による精神操作によって解放された力だったが、
いま初めて、兄の命を救うため自らの意志で発動したのだ。
「どけい、小娘」
「同じ小娘に言われたくありませんわ」
七実の双手には、それぞれ反りの強い細身のシミターが握られている。
冬芽の首を刎ねようと振り下ろされた一丈青の斬撃は、
交差して構えたその湾曲刀に、モノの見事に弾き返された。
物理的にはその細い刀身で一丈青を受けることなど不可能だが、
魂の宝剣は使用者の精神力で補強される。
それは物理力を大きく上回る力だ。
兄を想う七実の力はこれまでに経験したことも無い高みに達していた。
センサーから発せられる警報音で、
陽子の心拍数と血圧が異常値になったことが判るが救援には戻れない。
進むべき方向には巨大な門が立ち塞がり、後ろには追っ手が迫っている。
水晶は黒金の門を背にして、追跡者たちの方へ向き直った。
先に追いついて来た縦ロールの女は言った。
「無駄だ。この黒金の扉は薔薇の刻印を持つ者にしか開くことは出来ない」
「なら、それをあなたから奪い取ればすむのでしょう」
「面白い返事だね。気に入ったよ」
樹理は携えて来たエペの莢をはらった。
「気に入って頂けて嬉しいですわ。お・ね・え・さ・ま」
ニヤリと唇の片側だけで笑うと、水晶は自分の胸に手を当て叫ぶ。
「出よ!我が刃!小烏丸!」
光がはしり水晶の手に小振りの太刀が出現した。
ふたりは、そのまま必殺の間合へと踏み込んで行く。
その12
その14
Return to flowers