「止せ!樹理!そいつはマトモじゃないぞ」
西園寺の叫び声は無視された。
マトモではないことに関しては、樹理も他の生徒会役員もあまり人のことは言えない…。
無論、樹理にもこの相手がとんでもない手練であることは十分に判った。
だか、もう後戻りは出来ない。
そんなことは樹璃自身が赦さない。
「西園寺。黙って見ていろ!」
半ば自分に言い聞かせるためそう吐き捨てると、樹理は最初の突きを放つ。
水晶の太刀は絡み付くようにそれを捌く。
そこから、ふたりの腕は別の命を持つ生き物のように躍動し、
互いを食らい尽くそうと激しく攻防を繰り返す。
小烏丸は、かなり小振りで緩やかな反りを持ちながら、
片刃の胴から切っ先だけが両刃に変るという不思議な形状の太刀だった。
水晶の手のなかで、それは冷気を発するように冴えた煌めきを放つ。
樹理にもそれが特別な力を持っているのが判る。
…ディオスの剣に似ている…
刃を交えながら樹理が達した答えは冬芽と同じ。
王子の剣とは、ディオスの剣だけを指す言葉ではない?!。
…気高い志を抱く者、全てに与えられる可能性があるものなのか?…
相手の強さ以上に、その存在の有り様が樹理の心に深く刺さっていく。
…君はどうしてその剣を手にすることになったんだ?…
激しく斬り結び、追い込み、誘い込む。
そのなかで水晶と樹理は互いの心を知っていく。
張りつめた気合いに、ほんの少しの緩みがあれば、
その場で絶命するだろう命の遣り取りをしながら、
ふたりは不思議な共感を感じ始めていた。
鍔迫り合いのさなか、樹理は囁く。
「まだ名を聞いていなかったな。わたしは鳳学園生徒会、有栖川樹理だ」
「剣家お庭番参の矢、南方水晶!」
そして両者は、弾かれたように再び距離をとる。
同じ頃…。
七実は必死に耐えたが、すぐ防戦一方になった。
剣術の心得のない七実は、ただただ兄を救いたいという気持ちだけで、立ち向かっていた。
だから、自分が引き出せる魂の宝剣の力の限界を見切られてしまえば、
とても陽子の敵ではないのだ。
一方、肝心の冬芽は剣を折られもう見ている他ない。
…たったひとりの妹すら守れないで…
…世界を革命する力などお笑いぐさだ…
冬芽は無力感に飲み込まれ、
知らず知らずのうちに力を自ら放棄しようとしていた。
絶望の黒が心を塗りつぶしていく。
二組の立ち会いの流れが決着に向けて動いている時…。
勝負以上に重要なことがあったことを剣のお庭番たちに強制的に自覚させる事態が起こった。
決闘広場の上空に突如出現した雷雲から、凄まじい雷鳴を伴って、
激しい雷光が何度も発した。
それはふたりの心を貫いた。
…早くあそこに辿り着かねば…
…勝負にこだわっている時間は無い…
さらに、鳳学園生徒会役員たちにはもっとハッキリとその力の顕現が判った。
…ディオスの剣が力を解放している?…
…ウテナなのか?…
その13
その15
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