「こうして、ふたりで話すのはいつ以来かな。亀吉」
「あなたが六つの時以来です。お嬢様」
…あれは、母様に会いにいく前の日…
…あの時は、優しくしてくれたっけ…
ミツルは何も知らない子どもだったころ、
大好きだった亀吉お兄さんのことを思い出して苦笑した。
ミツルと石岡の周囲は全く影のない世界。白い闇だった。
その白い壁は銀河の星ほどの彼方にあるのか、
それとも手を伸ばせば触れられるほど近いのか、全く判断出来ない。
石岡の結界の内側、ここは距離の無い世界。
これでは、ミツルはその巨大なアストラルボディを振るわせて、
亀吉の拘束呪文を迂闊に振りほどく訳にはいかない。
ウテナがすぐ側にいるのかも知れないからだ。
…うまく考えたじゃないか見直したよ。亀吉…
石岡は、空中に縛り付けられたミツルを見つめ、
ミツルも石岡秘書室長を見つめ返す。
と、突然ミツルのからだは自由に動くようになり、
足が体重を感じる固い床の上に降りたことが判った。
そのミツルの前に石岡は片膝をついて頭を垂れた。
「猊下。あなたとふたりきりで話すにはこのような方法しか思いつきませんで、失礼の数々お赦しください」
「赦す」
「わたくしが知りたいのは…」
「わたしが本当にリリスなのかどうかでしょう」
石岡は一段と低く頭を垂れた。
「言葉で説明するのでは判るまい。立ちなさい」
石岡が綺麗に背を伸ばすのを確認してから、
ミツルは自分の詰め襟のホックをさらに下まで外していき、
そこから白いブラウスがさらにあふれ出した。
「見なさい」
ミツルはそのブラウスのリボンを解きボタンを引きちぎった。
そこに現れたのは白い柔肌ではなく…
暗黒。
ミツルの胸は黒い虚無だった。
石岡は目を見張り、息を飲む。
「それは…」
その闇のなかに微かに微かに何かが瞬いている。
それが次第に一千億の星々であることが判る。
「彼のいる世界」
その14
その16
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