スーツを着た背の高い男が、少女のはだけた胸を覗き込んでいる。
本来ならエロティックな構図なのだろうが、
男の表情は全く違う事態を物語っていた。
そこに映るのは純粋な恐怖。
男の膝はやがてガクガクと震え出し、ついに立っていられなくなる。
両手で顔を覆い、膝をつく。
まるで祈るような姿になり…。
それも維持出来なくなって、やがて、くずおれるように横たわる。
少女は、はだけた胸をしまった。
「これで知りたいことは判ったろう?」
返事は無い。
「受肉者には凍結地獄(コキュートス)は刺激が強かったか?」
「彼はマリッジしたわたしの目を通じ全てを見ている」
「お前の気持ちもちゃんと知っているよ」
ミツルは倒れた石岡の耳元で囁くように語り続けた。
…だが、その気持ちに彼が応えてくれるかどうかは判らないけれどね…
石岡の額に手をおいて、やさしく癒すように髪を梳いてやる。
「いまは、光彦さんに指示された仕事に戻りなさい」
子どものように小さく丸まってしまった社長秘書室長は、そのままの状態で、
微かに頷いたようだった。
「この件は光彦さんには知られないように」
「そしていまは、元の指示通り動いて光彦さんに疑われないように…」
「菊乃さんも来ているのだろう。とにかく一度、彼女のところへ戻りなさい」
もう一度、微かに頷く石岡。
その瞬間だった。
白い世界が大きく揺れた。
巨大なハンマーで引っ叩かれているボールのように、その内側の空間は歪み、わななく…。
そして、声が響き渡る。
ミツルにはその声がまるで、甘い蜜のように思われた。
「気高き城の薔薇よ!内なるディオスの力よ!主に応え今こそ示せ!世界を革命する力を!!!!」
結界が切り裂かれて、雷鳴と雷光が白い闇だった世界を塗り替えていく。
…姉様が助けに来てくれたんだ…
「姉様が来た。早く行け。亀吉」
もう一度頷くと、石岡は横たわったまま、黒い霞となって空中に飛散していった。
ミツルは膝をついたまま、ウテナを待った。
ディオスの剣の力を解放したウテナは、
何の迷いもなくミツルを見いだし、一直線に此処へ来る。
ミツルはただただそのことが嬉しくて、
涙をいっぱいに溜めてしまった。
その様子は、勾引された乙女が恐怖に震えていたように見えなくもなかった
その15
その17
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