バレンタインデー。
引退宣言の日が段々近づいてくる、あの人に。
チョコレートに、もう一言を添える。
それもやっぱりプレゼント。
引退したら、その記念に。私を、差し上げます。
なんて、告白したら。
え、いいの、いいの、うれし〜、いつにする、いつにする?
なんて。
風情も何もない。はーっ。
そんなことを思い出しながら、もう夏。
お姉さまの部屋。
エアコンが丁度の温度でいい気持ち。
でもどきどきが止まらない。
遅くなったけれど。
やっと。
やっと引退記念を渡せる機会がやってきたのだ。
お姉さまの頬は緩みっぱなし。
私をぎゅうと抱きしめて、こうしたかったのよー、って。
まだ一枚も脱いでないのにこの調子。
あのね、お姉さま。
これからもっとすごいことをするんですよ?
と思ったら、するすると私を脱がし始めた。
これまた風情がない。
もっとロマンチックにできませんか、って言ったら。
まかせなさい、て本当かなぁ。
お姉さまのベットで、はだかでいるって。
はずかしいけれど気持ちいい。
隣で服を脱いでいるお姉さまにもどきどきする。
胸は普通ぐらいのつもりだけど。
お姉さまは私より背があって、胸もあって。
比べるとやっぱり素敵だなと思う。
そんな人が、わたしのとなりに滑り込んでくる。
お姉さまの両手が私の頬を包んで。お姉さまの顔もどんどん近づいてきて。
おでこ、こめかみ、頬って。
顔中キスされる。
ては頬からうなじ、肩、腕と優しく撫でながら降りてゆき。
キスも段々下がってゆく。
両の腕を上げさせられ、脇まで。
匂うかな、とちょっと心配したけれど。
お姉さまはかまわず優しいキスをしてくれた。
胸元も、ちいさな乳首も。
おなかも。
恥毛に差し掛かるとさすがに身体に力が入っちゃったけど。
そこも優しく触れるだけのキスで安心したり、ちょっと不満だったり。
あれ、でもでも。膝とかすねとかまで。
ついにつま先にたどりついて。
お姉さまは私の足をそっと抱いて頬ずりしながら。
あなたの体中にキスしたかったの、って。
うつ伏せになって、と言われその言葉に従う。
だってお姉さまのお願いだもの。
今度はキスが上がってくる。
さっきはしてこなかった、腿の内側まで。
え、おしりって、こんなに敏感だったなんて、、
背中やうなじに愛撫やキスをされてると、声がおさえられなくなっちゃう。
そっとお姉さまの手が私の腰からおなか、そしてその下のほうに差し込まれていって。
指でかき分けられて。
キスはまた移動してゆく。
肩、そして耳。
うつ伏せのまま、シーツに顔を埋めて。
でも声は止められなくて。
お姉さまの指が、気持ち良くて。
お姉さまの顔が近づいて来て、私もそちらに向いてみる。
前髪がおでこにピタッと貼り付いてる?
ちょっと恥ずかしい。
今の表情を見られているのも。
ちょっと恥ずかしい。
さぁ、ここでクイズです
な、なんです、か、おねえさ、ま、
まだキスしていないところは何処でしょう
えっと、えっと、、うっ、うんっ
あら、わからない?後で体験談でも書かれると思っていたのに
そんなのかきません、よぉ、あっ
お姉さまの愛撫は、普段のお姉さまからは想像もできないぐらい気持ちよかった。
もう感じすぎて、あっ、なんて母音すら発音できなくて、すっ、すっ、って痙攣みたいに息をするだけ。
姿勢もうつ伏せというより、お尻を突き出してるような格好。
お姉さまの指からつい逃れようとして、もっと恥ずかしい格好。
だって、指が気持ちよくて、足を閉じられない。
じゃあ、引継ぎを始めるわ
えっ、あっ、なっ、なんですっ、かっ、
何って編集長の引継ぎよ
私への愛撫、キス、指使いは続けられたまま。
お姉さまは話し始められた。
引退記念のプレゼントがこの日まで延びてしまったのは、たまたまではなかった。
お姉さまがこの日を選んだのだった。
祐巳さんのミスシンデレラのこと、覚えてる?
新聞部みんなでインタビューをモノにしようと、追い掛け回したでしょ?
でも突然、祥子さんが自らインタビューに応じてくれた
あの祥子さんが、よ
なぜかしら
お姉さまこそ突然何を言い出すのかと思って。でも、ものすごく気持ちよくて、考え続けることができなくて。
その結局、祥子さんはあのシンデレラ騒ぎを最小限に押さえて、祐巳さんをスールに迎えることができた
どう思う?
胸の鼓動。早い鼓動が一回だけ、冷く鳴る。でもまた、熱い鼓動に戻る。
黄薔薇革命の前に、黄薔薇姉妹のアンケートインタビューの記事があったわね
あのときの二人のアンケート、私が知ってて入れ替えたんだとしたら?
えっ、でっでもっ、なんっ、つっ
凛々しい姉とそれに従う従順な妹のほうがみんなのお手本になっていいじゃない
そして黄薔薇革命。あの記事を悲劇的に脚色したら何組もの姉妹が離れたりくっついたり
でも一度そんなことがあった姉妹の結束は固くなるでしょうね
同時に黄薔薇姉妹のカリスマ性もあがったわ
恐ろしいささやき。でも、それを聞きながら、なお、全身に与えられる愛撫に身をゆだね続けてしまう。
バレンタイン企画も結果オーライよね
生徒会選挙での第四の候補者登場。あのバカ騒ぎったらなかったわ
でもそれで緩んだ生徒間の結束も、そのライバル同士がデートする結果になったことでまた締まったもの
志摩子さんのカード、新聞部が指定されたところに隠したんだけどね
あんなみんなの盲点になるところにあったのに、発見した静さんは本当にすごいわ
そう、この一件で志摩子さんのカリスマもぐーんとあがった気がしない?
、、卒業式の浅香さんと真純さんはかわいそうだったわ
このことはみんながもう一度姉妹のことを考える良い機会になったのではないかしらね
なぜっ、なぜっ、
絶え絶えの息の中で問いかける。
暴走するけれど、いつも一生懸命だったお姉さま。
それを押しとどめて、一緒に記事を作るのは本当に楽しかった。
そんな日々は、本当は、本当は、、
私と祥子さんはね、中等部まで仲良しだったの
でも、高等部に進んで、祥子さんは蓉子様に見初められ、山百合会の一員になった
そのときから殆ど話さなくなったわ
でもね、疎遠になったわけでもないし、まして喧嘩別れでもないのよ
私は祥子さんのためになるようにしているだけ
そして祥子さんはそれを察して上手く立ち振る舞うだけ
バレンタイン企画、影で薔薇様方を説得したのは私じゃないわ。祥子さんなのよ
やっぱり、祥子さんは今でも私の大親友よ
裏切られた、という気持ちと絶頂の繰り返しの中で、心がぐにゃぐにゃになる。
もう、お姉さまの言葉を必死で聞きつづけるぐらいしかできない。
祐巳さんのこと、好き?
ぁあっ、えっ、、
私はね、こんなだから
色物に徹するしかないのよ
リリアンかわらばんをゴシップ紙にするつもりか、ってよく言われたけれど
煽動して、策謀して、スールを壊したりして、友人を傷つけることまでして、、
でも、親友のために何かするには、私には手を汚すことしか方法がなかったのよ
愛撫はいつも間にか止まっていて。
あなたにすら卑怯な手を使ったわ
全身にしたキスであなたの感じるところをチェックして
抵抗できなくして、怒ることも悲しむことも何もかも封し込ませてからこんな話をして
この手、何人にも使ったの
軽蔑してもいい
でも、あなたは違うわ
あなたの書く記事は光ってる
あなたの作る紙面は光ってる
何にも謀略をめぐらせる必要はない
でも、お願い
もし祐巳さんが好きなら
もし祐巳さんの力になってくれるなら
あなたには、書かない、というだけでいいの
それだけでもう、力になるのよ
わたしにはできない、あなただからこそできることなのよ
もちろん、無理強いはできないから
できればのお願いよ
これがわたしからの引継ぎ
二学期が楽しみだわ
二学期が始まったら、祥子さんにね、中等部のときみたいに話し掛けてみようと思ってるの
でも、二年半ぶりよ〜、上手く話せるかしら
愛するお姉さまのちょっとかわいらしい一面を知る。
そんなお姉さまに寄り添う。
ぴたっとくっついて。
それじゃ、号外出しちゃいますよ?
「あの築山美奈子女史、小笠原祥子嬢と仲良く歓談!」
なんて、ね。
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