前から暖めていた大事なネタ、そろそろ花を咲かせてもらおう。
それは、ホッケー部のキャプテンの話題。
昨年まではなんだかんだと努力は実らなかったけれど。
今年はホッケー部、かなり好調らしく。
先の予選もなかなかの成績で突破した。
今週末の大会で優勝もしくは上位入賞なら。
リリアンかわらばんで大きく取り上げて。
楚々としたリリアン生の中に際立つ彼女の凛々しさ。
その彼女の魅力を大公開。
今までの取材の成果を、パーッと。
それでは大会前の彼女にインタビューを。
メモとボイスレコーダと新しい備品のデジタルカメラを用意。
カンタンソウサデワタシニモウツセマス。
簡単すぎる、って他の部員には不評なので。
とりあえず、私専用。
運動場の利用スケジュールはチェック済み、今の時間なら多分部室で準備中。
練習前の気合が入ったところなら、いい記事になりそう。
そう思って体育会の部室棟に向かう途中。
高い植え込みの並ぶ中。
見慣れた、トレーニングウェアが目に止まる。
彼女だ。
あ、もうひとり。
小柄な、可愛い感じの子。
プティスール、いたんだ、、、。
今まで気付かなかったのはちょっとショック。
でも、彼女にはすごくお似合いの子なので、思わず一枚。パシャリ!
失礼します、新聞部です。
それから挨拶をして、今度の大会にかけるホッケー部のコメントを、とお願いしようと思ったら。
とたんに彼女は私を睨みつけ。
新聞部ね!なにも言うことはないわ!
すごい剣幕で、取材拒否。
プティスールを引っ張って、部室棟へ走っていった。
以来、ホッケー部はまったく取材に応じてくれない。
ホッケー部の方々は両手を合わせて、ゴメン、って。キャプテンからの緘口令だって。
練習の様子すら、追い払われて見せてもらえない。
私以外の新聞部員でもダメ。
キャプテンから、物凄い目付き。
あぁ、せっかくのチャンス、だめかなぁ、、。
でもまったく心当たりがない。
体育系文化系を通じても、こんなに拒否されたことはない。
なぜ取材拒否?
もしかして、過去に。お姉さまと、何か。
でも。
お姉さまから、そんな「引継ぎ」は受けてない。
お姉さまとホッケー部が何かあったなんて。
今さら内緒なんて。秘密なんて。
三年の教室に行っても。
ミルクホールに行っても。
お姉さまはいない。
こんなときに限ってお姉さまが捕まらない。
捕まらないうちに放課後を迎えてしまい。
お姉さまを疑いたくない。
でも、不安が募る。
自己嫌悪。
今日は雨。
そんな時、突然。
ホッケー部からの申し入れ。
雨天で練習できないのでインタビューをお受けします。
部員はみんな大切なメンバーだから取材は全員に訳隔てなくお願いします。
但しキャプテンは欠席し、今後も取材は受けません。
ミーティングの時間は削れないので、取材時間は、、、。
えっえっ、たったそれだけ!
いえせっかくお許しいただいたこの機会、有効活用させていただきます。
幸いインタビューしたい項目はもうちゃんとまとめて表にしてある。
部室にいる二年生は私と一緒にホッケー部へ!
一年生はここにいない部員を集めてホッケー部に誘導!
それからこの表、インタビューシートにするから!
すぐホッケー部員の人数分、コピーして持ってきて!
季節のせいもあるけれど、もう外はかなり暗い。
まだ雨も降り続いてる。
でも全員ちょっと興奮気味に。
ぞろぞろ新聞部部室に戻ってくる。
たいしたことじゃないかもしれないけれど。
みんなで一緒に取材できると。
なんとなく、達成感。
心晴れ晴れ部室に入る。
ごきげんよう。
ごきげんよう、お姉さま。って!なにやってるんですか!一体!
お姉さまは資料を巻き散らかした部室の奥の。
私の机にドカッと座わられて。
パソコンをクリクリ、カタカタ。
やほ〜。今日はがんばってるみたいね
ホッケー部まで取材に。あ、それよりなんですか、この散らかしよう!せっかく整理してあったのに、、!
忘れ物があって取りにきたのよ
お姉さまの私物は全部春に引き上げられたのでは?
その中に見つからなくて〜って、あら、いいもの持ってるわね
話をそらさないで下さい、新しい備品です!
いいなーいいなーデジカメいいなー私もそれで取材した〜い
話をそらさないで下さい
貸してくれないと片付けするわよ
、、、、、昨年度の経験。
お姉さまが片付ける→どこに何がしまってあるかわからなくなる→新聞部一時機能停止。
はいはい、取材お願いしますからお外へどうぞ
わあいありがとう、いいネタ拾えるか楽しみにしててね
操作わかりますか?
簡単よ、こんなの。ってこれいつものメモリカードと違うじゃない、このメモリカードの予備ないの?
そのなかの一つしか、あ、り、ま、せ、ん!
ケチ
学園の備品ですから!そんなことおっしゃるとマリア様のバチがあたりますよ
私はデジカメをお姉さまに押し付けて。
本当に悪いと思ってるのよ、その分取材がんばるから、って言ってお姉さまは部室を出て行った。
お姉さまの片付け事情をよ〜く知ってる二三年生が一年生にさらっと説明すると。
不平不満もなく(あきらめて、ともいう)全員でおとなしくお片付け。
さっきまでの達成感というか高揚感というか、が台無し。
あれ?部長の傘が
どうしたの?
いえ、部長の傘がそのままなので。編集長の傘を差していかれたんですね。
ドキリ
なぜ、私の傘を差して?
放課後を過ぎて生徒も少なくなっている。
こんな暗くなった外へ。
雨の中へ。
取材?
嫌な予感がする。
片付けを他の部員にお願いし、お姉さまを探す。
お姉さまの傘を持って。
校舎では見つからなくて。
しとしとと降る雨の中へ。
校庭をめぐり、庭園へ。
遠くに見える、背の高い植え込みの間。
傘を肩にかけながら、手に小さな光るものをぶら下げた生徒。
見覚えのある柄の傘、見覚えのあるクロームの反射光。
間違いない、私の傘とカメラを持ったお姉さま。
その生徒の死角から、もうひとりの生徒。
手には、何か。
長いもの。
棒のような。
こん棒のような。
声が出ない。
急がなきゃ!
気持ちだけが急く。
駈ける。
まるでスローモーションのように。
こん棒は振り上げられ。
お姉さまに打ち降ろされる。
すごい音がして。
背中でこん棒が曲がり。
背を弓のようにのけぞらせ、
その弓は逆にしなり。
膝を着き、背を丸め。
お姉さま!
何かを抱え込むように背を丸めているお姉さまに駈け寄った。
傍にはヒビの入ったホッケースティックにすがり付きながら、両膝を突く生徒。
脱力していた。
キャプテン!お姉さまを医務室まで連れて行きます、肩を貸して下さい!
そうしてお姉さまの腕を取り、私は脇へ潜りこむように。
お姉さまは息をひどく荒げておられ、でも一瞬安堵の表情を浮かべられたが。
私がお姉さまのスカートのポケットから手紙を没収すると。
顔を背け、ただ息を。
苦しそうに息をつかれるだけになった。
そしてそのまま医務室に着くまで、わたしの方を向かれることはなく。
ただ、あのデジカメを大事そうに抱え込まれていた。
医務室には誰もいなかった。
お姉さまはベットで背を丸めたまま横に。
私は枕元の傍にスツールを置いて座る。
キャプテンは、、少し離れたところに。
伏し目がちに座っておられる。
私が久々に部室に行ってみたら、もうめちゃくちゃになっててね、びっくりしたわ
新聞部を荒すっていっても、貴重品はパソコンプリンタカメラレコーダ、色々あるけれど
保管棚はかき回された様子もないし、戻ってきた部員の手にちゃんと備品が握られてたから、そういうどろぼうではないと思ったの
だから欲しいのはモノでなく、「情報」
で、起動したままになっていたパソコンをチェックして
Recentとファイル検索の履歴からね、部室荒しは特定の期日のデジカメ画像を探している、てわかったのよ
目的のファイルは見つけられなかったみたいだけど
一応プリントアウトしてないか原稿なんかを物色したのであんなに散らかったのね
で、部室にないとすると
部員の誰かが持っているデジカメの中にまだあるとすると、どうすればいいか
そして、
お姉さまは一瞬言葉を詰まらせる。
編集長の机の引出しに、呼び出しの手紙を見つけてね
絶対秘密だのシャッターチャンスだの内緒だからひとりで来いだの、失礼だけど稚拙で怪しくて
編集長のデジカメを狙っているとしか思えなくてね
部室荒しと同じ人とは限らない、とも思ったけど
荒すにも、他の部員に見られないように手紙を引出しに入れるにも
新聞部員全員の人払いが必要だから、やっぱり同一人物と思ったのよ
では人払いしたのは?
私を呼びにきた一年生の話だとお膳立てしたのはホッケー部でキャプテンだって
編集長はそのキャプテンに嫌われてるみたいだったのにって
だからやっぱりキャプテンは取材は受けないって
もうアリバイにもなりゃしない
取材を受けないというより受けられなかったのよね
がらあきの新聞部の部室に入り込むのが目的だったんだから
そうまでして取り返したかった画像ファイルって?
呼び出し場所に向かう間に、借りたカメラの画像を見て納得したわ
真美、あなたが最初に取った写真を御覧なさい
キャプテンとそのプティスールのツーショット写真。
その子、確かキャプテンの同級生よ
二人はスールでなくて恋人。そこでキスとか、してたんじゃないかな
キャプテンは目を閉じる。
キャプテンはあなたがそんなシーンを撮影していて、それをゴシップに仕立て上げようとしたと誤解したのではないかしら
そして恋人を守るために、必死になって
あんなことをしてしまうほど、思い余って
キャプテン、あなたがこんなことを仕出かしたのは、多分私のせいだと思う
私が編集長だった頃のかわらばんのイメージがあなたにこんなことをさせたのだと思う
でも、今は違うの
私のプティスールはそんなことはしない。信じて欲しい
、、真美
お姉さまは私を呼んだ。
私は何もいわず、お姉さまにキスをした。
だから、信じて欲しい
あなたの恋人のことも、部室のことも、さっきあなたがしたことも、全部誰にも言わない
これは私達だけの秘密
でも!
キャプテンは大きな声で、何かを言おうとしたけれど。
もう行って、、お願いだから、、
お姉さまの搾り出した、懇願するかのような声で。
キャプテンは保健室を出て行かれた。
そのまま、向きを変え、お姉さまは私のほうを見ようとしない。
そんなお姉さまに手紙をつき返し、言った。
お姉さま
、、、、、
叩かれたところ、見せてください
お姉さまは顔をしかめながら制服を脱ぐ。
背中には板切れが隠されていて。
それは完全に割れていた。
スティックが背中を打つ音を反芻して気付いた。
お姉さまは背中になにか入れておられると。
その大きな音と衝撃と。
スティックに入ったヒビがキャプテンを驚かし、正気に戻らさせた。
そのまま下着を取り、胸をあらわにし。
ペチコートだけの姿になる。
背中の大きな、赤いあと。
わたしは板切れで支えきれなかった打撲のあとに、そっと触れる。
お姉さまは唇を噛み、顔をしかめる。
わたしがこぶしでぎゅうぎゅうと押し始めたから。
力いっぱい押し始めたから。
お姉さまは、またわたしを騙した
わたしの傘を持って、わざと傘を髪型が隠れるように肩にかけて
あのカメラをこれ見よがしにぶら下げて
お姉さまはわかってたんだ!
理屈なんかじゃない!
お姉さまはわたしが襲われるって予感があって、だから背中にこんなものを入れて!
危険を承知で!
わたしの身代わりになったんだ!
そして打たれて!
こんな怪我をして!
あんな酷い目にあったのにまた赦して!
こんなのって、こんなのってない!
キライだ、お姉さまなんてキライだ!
キライだ!キライだ!キライだ!キライだ!キライだ、、、
いつの間にか、お姉さまの背中にしがみついて。
痛くならないように、しがみついて。
わんわん泣いていた。
わかってる。
お姉さまはわたしに知られたくなかった。隠しておきたかった。
かつてこんな風に身を守らなければならないような、危険なことまでしていたってこと。
これ以上わたしに、汚れた手、を見せたくなかったってこと。
ホッケー部は優勝はできなかったが二位となり、リリアンかわらばんの一面を大きく飾った。
キャプテンはあんなことがあったにもかかわらず、いえ、あったからこそ恋人や私達姉妹のためもにがんばってくれた。
キャプテンを大きく取り上げることは止めたけれど、その代わり今まであまり知られていなかったホッケー部を紹介することにした。
全部員に取材できたことが役に立った。
お姉さまはまだ背中を丸めてらして。
なんか最近ひなたぼっこが好きになって、なんておばあ様にでもなった口振りで笑わせる。
でも、時折見せられる、辛そうなお顔。隠し切れないお顔。
その度、胸が締め付けられた。