窓と窓の間の壁の際。
そばまで椅子を引きずって、すわる。
そのまま、板壁にもたれかかって。
頭も付けて、目を閉じる。
お腹が痛い、こんなとき。
誰もいない、こんなとき。
机にうつ伏してはお腹が圧迫されてしまう。
だから壁に寄りかかって。
板張りの壁は、最初は冷たいけれど。
すぐ、私の体温を受け取って。
ぬくもりを返してくれる。
自分の痛みは自分にしかわからない。
例え同性であったとしても。
その人なりに。
その時なりに、異なるもの。
では、私は。
では、友は。
では、あの人は。
どんな痛みを感じているだろう。
他人のことを考えても。
仕方のないことなのに。
がちゃ
扉が開き、私をみて。
お決まりの挨拶は今日はない。
できるだけ静かに。
すぐそばで、そっと。
ごきげんよう
、また痛むの?
普段はそんな気遣いはしない友。
とても貴重だけど、今の私にはその気遣いは素直に受け取れない。
でも、やつあたりなんてしないように。
ええ。でも、私、あなたに心配かけるほどひどい顔してる?
というより、前から話してたでしょ、生理が重いとか痛いとか。
生理だって。
重いだって。
痛い、だって。
悪気はないってわかっているのに。
言葉が重なれば重なるほど。
どんどん。
つらさが増してくる。
友にそんな気持ちになるなんて。
そういう意味じゃないってわかっているのに。
そんな気持ちになるなんて。
すまない気持ちになって。
目を閉じ、友から意識を遠ざける。
カタ、カタン
なにかを動かす音。
そぉっと動かす、気遣いの音。
鎮痛剤が感覚を麻痺させたのか。
遠くでもあり、近くでもあり。
どこからか聞こえる音。
突然、背中から聞こえる声。
私を呼ぶ声。
そして背中に広がる暖かさ。
友は、私のそばに椅子を寄せ。
私にそっとうしろから。
無言のまま寄り添って。
暖かい。
なにか、ゆるんでゆく、ほぐれてゆく。
その暖かさは背中から脇、お腹へと広がってゆく。
友の手が、両手が。
私の、大きくて重い氷の塊を。
ゆっくりと溶かそうとしている。
こんなときにこんなふうにされて。
でも、不快感は感じない。
鈍痛はまだ感じるけれど。
それもふわふわと
現実感を失ってゆく。
そのまましばらく、夢のよう。
ふわふわと、夢のよう。
一方の手がそぉっと動き出しても。
私は夢の中。
その手が私をまさぐりだしても。
まだ、夢の中。
何をされているのか気付き始めても。
まだ。
まだ夢から覚めきれなくて。
何時の間に、私。
こんなに息を荒げて。
眉を引きつらせて。
両手を、握り締めて。
膝を震わせて。
かんじてるの?
欲情、してるの?
友の前で。
友によって。
どうして?
どうしたの?
どうなってるの?
どうなってしまうの?
制服の上からだけど。
友の手は私の上を滑り。
両胸をかわるがわる揉みしだいて。
うなじにキスされて、
耳にキスされて。
あごにキスされて。
肩にキスされて。
それでも、もう片方の手は。
優しく優しく私のお腹を。
その優しさで暖められた氷は。
どんどん、どんどん小さくなっていって。
腰がガクガクとなって。
背中を反らせて。
長い吐息を、吐いて。
意識が白くなって。
、、、、
それで?
いや、あのね、ご近所のね、
ご近所の方が、どうされたの?
あの、ご夫婦と娘の三人で住んでいてね、
それで、猫を飼っていて?
うん、そう、牝猫をね、飼っているのよ
うんそれで?
でね、やっぱりね、春とかはね、発情期、とかあってね、いえ、あなたがそうだっていうわけじゃなくて、猫がね、猫の話、
うん猫の話、ね。それで?
にゃごにゃごとね、うるさいしね、血、とか、、汚れたりするしね、あ、でもあなたがそう、、
繰り返さなくていいから!それで!
それでね、そこのお父さん、がね、
うんうんそれで?
電気あんま器でね、
うんそれで?
猫にね、ブルブルして、あげるんだって、さ、でね、
ふぅ〜ん!それで!
猫はすごくにゃごにゃごして、にゃごにゃごして、ね、
それで!
お父さんにそんなこと押し付けといて、お母さんと娘は、いや〜ね〜、とか言って、ね、
ええ!それで!
でも、でも、、、発情期がね、早く終わってね、
そ・れ・で!
生理とか、、そういうの、早く終わるんだって、、
それで!それで!
私に!
あんなこと!あんなことを!
手を合わせ、頭を垂れ、ごめん、ごめんを何度も繰り返す友。
そんな友を見て、
本当に、引っ掻いてやろうと思った。