「魔女同士の出会いに偶然はありえない。わたしたちは出会うべくして出会ったのよ」
「…」
姫宮アンシーは黙って頷く他はない。
いま、彼女の前にいるのは、白金色の髪を短く顎のラインで切りそろえた、
自分より少しだけ年上の少女だった。
「君が自分の魔力を全開にして、愛する人を探し求めたのに見つからない、その訳をもっと考えるべきだわ」
俯くアンシーに追い討ちをかけるようにラ・ピュセルは言った。
ウテナの墜ちた先は自分自身がかつて閉じ込められていた世界。
必ず、見つけ出すことが出来るはずだった。
はずだったのだが…。
ウテナが自分の身代わりとなって捕われた永劫の煉獄へ、恐怖心と戦い、全ての魔力を動員してアシンーは再び赴いた。
…今度はわたしがあなたを助け出す番だわ…
しかし、そこには「羨望と妬み」が作り出す幾百万もの人の心の剣に貫かれ苦しんでいるはずの愛しい人の姿はなかった。
在ったのは木っ端微塵に打ち砕かれた幾百万の邪な心の剣の残骸だけ。
それらは全て氷付き、粉々に砕かれていた。
そして、そこにいたはずの愛しい人は、氷の大地に髪の毛一筋一筋まで精密に焼き付けられた影絵だけを残し消えてしまった。
「ウテナーッッ!!!」
「ウテナーッッ!!!」
叫んでも、亡者のうめき声が返って来るばかりの世界で、これ以上叫び続けることは危険だ。
邪悪な者を呼び寄せてしまう。
果てしなく続く氷の世界で彼女は沈黙した。荒れ狂う風の中に亡者の呻きだけが聞こえる。
「そうそう、止めておきなさい。ここに長居は無用」
アンシーは相手の接近を全く察知出来なかった。
声はすぐ後ろから聞こえたのに。
もう一度前を向いたときその人はいた。初めからそこにいたかのように…。
白金色の髪の乙女。
白金色の輝く甲冑。白いマント。
白馬に乗っていないのが不思議なくらいだった。
およそ、この暗黒の世界には相応しくない。
「初めましてかな?褐色の髪の魔女さん」
「あなたは?」
「君と同じ。魔女さ!皆にはラ・ピュセルと呼ばれている」
「ウテナを隠したのはあなたねッ!」
アンシーは逆上した。
相手は少し肩をすくめるようにして言った。
「煉獄の理をねじ曲げることが可能なほどの魔力を持ってみたいものだわ」
そして、アンシーの怒りを全く意に介した様子も無く話し続けた。
「わたしが探しているのはあなたの想い人を連れ去った相手だと思うのだけど…」
その2
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