ウテナの顔を覗き込むもうひとりのウテナ。
その、とても短く切られた髪は潔いくらいだ。
「ボクを助けてくれたのは君?」
ウテナが訪ねるとその娘は、ただ微笑んで、否定も肯定もしなかった。
…なぜ、どうして、どうやって、そして、君は誰?…
ウテナのなかにその他の疑問が次々と浮かんで来たけれど、
いまは、それらを尋ねる気力が無かった。
その娘は、ウテナの額に優しく手を当てると来た時とは逆にとても静かにカーテンの外に出た。
静寂の支配するその部屋のドアを誰かが手荒く開けた。
「お嬢様!」
「静かにッ!!姉様が療養中は立ち入り禁止と言ったはずだ!!」
先ほどの優しい声とは別人のような冷たい声。
そして、部屋に入って来た人物と彼女は部屋を出て行った。
ひとりになってウテナは疑問に戻る。
あまりに判らないことが多すぎる。
でもいまは、眠くて堪らない。
ひとつだけハッキリしているのは、あの娘はボクを姉だと思っているらしいこと。
他の疑問はいくら考えても判りそうにない。いまはただ眠るだけにしよう…。
「報告を聞きましょう。佐伯さん」
「申し訳ありませんでした。慌てまして…。オルレアンのテントをロストしました」
「我が社の偵察衛星の視界から消失です」
「目的地は判るのですか?」
「まだ確定出来ません。ただ、直前までユーラシア大陸を真東へ進んでいましたので…」
「日本へ来るのね」
「まだ確定したわけでは…」
「全社を挙げて迎え撃つ準備をしてッ」
「光彦さまは通常業務を指示されておりまして…」
「また、おじさまですか?」
「やはり、CEOでいらしゃいますから」
「いつか叩き出してやる!」
ミツルは目を針のように細め、冷えた怒気を含くむ言葉を吐き出す。
「あの人が情報を隠していたから姉様があんなことになるまでわたしは助けに行けなかった」
「一般社員の前ではお言葉をお控えください」
ふん、というようにそこだけカールした前髪を振ってから彼女は話題を変えた。
「午後は姉様の転入手続きに学校へ行きますから」
「畏まりました。会長のお出ましを聖剣(セント・ブレイズ)女学園にはすぐ伝えます」
アンシーの視界にはどこまでもつづく草原が果ても無くつづいているようにしか見えない。
しかし、トレーラーの艦隊は通常空間から外へはみ出したらしい。
太陽の運行速度がどんどん速くなっている。
影が特殊効果みたいに動いて行く。
「敵が何処にいるか判っているときはこの方が速い」
トレーラーハウスの窓の外を見ているアンシーにラ・ピュセルが言った。
「本当にウテナは日本に戻っているの?」
「ああ、敵の手の中だ」
「まだ、敵の正体を教えてもらっていません」
「剣財閥、そしてその会長の剣ミツル」
ラ・ピュセルは思わせぶりに間をおいてから付け加えた。
「ウテナの妹だよ」
アンシーは驚きに目を見開き息を飲んだ。
「ウテナに妹がいるなんてッ!!」
「我々も剣ミツルに姉がいるなんて、つい最近まで知らなかったよ」
白金の女騎士は、その端正な眉を微かに寄せて続ける。
「あれは魔女にして魔女に非ず、人にして人に非ざる者」
「それは?」
「アダムの最初の妻で、魔王の妹、わたしたち魔女の母」
「リリス!!!」
「そういうことッ!我らリリンの血を受け継いでいる者の全てのご先祖様」
「いま、地上にいるのですか?」
「8年ほどまえに顕現したらしい。剣ミツルの上に」
その4その6
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