お庭番を引き連れ、ウテナとミツルは並んで剣家の中庭を歩いていた。
そこからは、森といっても良いくらいの植え込みを隔て、セント・ブレイズ女学園の建物群を見渡すことが出来た。
ミツルは少し口を尖らせて言った。
「母様の話を全て聞いて頂いてから、セント・ブレイズ女学園への転入の件をお話ししようと思っていたのです」
「ミツルが嘘をついたなんて言っていないよ」
ウテナには、ミツルは信頼出来るという不思議な確信があった。
判らないことが多すぎて、どこから質問したらいいのか見えないだけだ。
ウテナが質問したことに対しては、ミツルは誠実に答えてくれた。
両親の件についても、母には母の避けられない事情があったのだろう。
この話をしていちばん辛いのは間違いなくミツルのはずだ。
なんといっても、母が手元に残したのはウテナで、手放したのはミツルの方なのだから。
自分が両親を無くした時のあの悲しみを思い出せば、ひとり遠ざけられたミツルがどれほど悲しく恨めしく思ったか想像も出来ない。
にもかかわらずミツルは、年齢に不相応なくらい、とても公平に話をしてくれていた。
若いウテナにもそれは十分に判った。
…まるで、ミツルの方がずっと年上みたいに感じるなあ…
「かあさんととうさんのことはいつかまた機会があるときに聞かせて…」
「ミツルの話に嘘は無いって判るから」
「何故そんなことが判るのですか?」
「なんとなく。でも、間違いないと思う」
「姉様はいつもそんなに簡単に人を信じてしまうのですか?」
ミツルは立ち止まってウテナの肩を掴み、非難の調子を含んだ低い声で言った。
「だから、あんな世界の果てなんかに騙されるんです」
ウテナは前言とは裏腹に硬い表情になり、ミツルを睨んだ。
「君は何でも知っているんだね!なら物知りついでに教えてくれないか?姫宮があの後どうなったのか」
また、今朝からの刺々しい空気に戻ってしまった。
…こんな風に嫌みな言い方をしたくないのに…
判らないことの多さに苛立つ自分を、後悔したウテナだったがミツルはただ静かにその問いに答えた。
「姫宮アンシーは薔薇の花嫁を止めました。兄の元を離れ姉様を探しに旅に出たようです」
ウテナの顔が見る見る輝くように明るくなる。
対するミツルの表情は少しだけ影が濃くなったが、それに気付いたのは月子だけだった…。
「なら、姫宮にボクがここにいることを知らせなくちゃ」
「彼女の居場所は不明です」
「じゃあ、ボクは直ぐに鳳学園に戻って、姫宮を待つ!」
ウテナの真剣な眼差しが、ミツルを射抜いた。ミツルは少しずつ後ずさりする。
ミツルが誰かに射竦められ後退するところなど、お庭番の誰ひとりとして見たことがなかった。
相手がたとえあの光彦CEOでも一度たりとも退いたり譲ったりしたことはない。
あのミツルはどこへいってしまったのか。
月子は先ほどからのふたりの会話を、歯ぎしりしながら聞いていた。
…こんなのミツルじゃない…
…いったいどうしちゃったの?…
そして、会話は、ついには月子を激怒させてるような話に発展して行く。
「姉様はどうあっても鳳学園で姫宮さんを待つのですか?」
「うん、ミツルのおかげで、もうすっかり良くなったから。帰らなくちゃ」
ウテナはにっこりと笑いかけ、ミツルはその笑顔に圧されたように、さらに半歩下がって俯いた。
「姉様の身体はまだ万全ではありません。医者もそう言っていました」
「どうやって助けてくれたか判らないけど、命を助けてもらった上、これ以上お世話になる訳にはいかないよ」
「いまのまま、ひとりで大鳳学園には行かせません」
ウテナの笑顔は一瞬で失われ、そのことにミツルは胸を刺されたような痛みを感じる
「いくら、命の恩人でも聞けないこともあるよ」
ウテナの声はまた、冷たい色になる。
ミツルは少し悲しげな顔でウテナを見て言った。
「ひとりで行かせないと申し上げたのです。鳳学園にわたしも姉様と一緒に転入します」
「へ?」
…なにィィィーーそれどういうこと聞いて無いぞそんなこと…
月子は怒り、他のお庭番も顔色を失った。
「2学期から、わたしは姉様と一緒に…」
ミツルだけがその考えを気に入っているようだった。

その11その13
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