ご存知かしら、ご存知かしら？
昔々、おじいさんと孫娘がふたりで暮らしておりました。
とうさんとかあさんは、どこか遠くに離れて暮らしているのでした。
孫娘は、とうさん、かあさんに会いたくて仕方ありません。
そして、孫娘は双子のねえさんがとうさん、かあさんと一緒に暮らしているのを知っておりました。
「おじいさま、どうして、わたしはとうさまや、かあさまや、ねえさまと一緒に暮らせないのでしょう」
ある日、孫娘はおじいさんに聞きました。
「お前にはお役目があるからだ。しかし、お役目に就く前に、少しの間なら一緒に暮らすことも出来るかもしれない」
「6歳になったら、とうさん、かあさんに会いに行こう」
「やくそくだよ」
「ああ、約束する」
6歳になる少し前、ミツルは父と母と姉に初めて会った。
父は背が高く力強い。母は優しく美しかった。姉はふわふわした巻き毛の長い髪がとてもかわいらしかった。
…ねえさまみたいな髪にしてみたいな。わたしの髪は男の子みたいだ…
そして、そのとき父と母は、そっとミツルに囁いた。
「ミツルひとりにしてごめんね。でもとうさんとかあさんには他に仕方なかった」
「もしわたしたちに何かあったら、どうかミツルがねえさんのウテナを守ってあげてね。ミツルにはその力が宿るはずだから」
…ええ、かあさま、わたしにはその力が宿りました。約束通りわたしは何があってもねえさまを守ります…
夏休み中だったが、鳳学園の生徒会役員室テラスには、実家に戻っていない有栖川樹璃と桐生冬芽がいた。
テラスはうだるようにように暑かったがふたりは汗もかいていない。
「聞いたか冬芽、多国籍企業のオルレアンマテリアが東館を借り切ったよ」
「ああ、重要人物の子女を預けるらしいという噂だ」
「そして、今度は根室記念館にも引合がきているとか」
「そいつは初耳だ。聞かせてくれないか」
「おや珍しいこと。わたしの話を聞きたいなんて」
樹璃はテラスから広い校内を見渡す。敷地の北の外れに根室記念館が、東の外れに東館がある。
「剣財閥らしい。根室記念館を借切りにしたいと言っているのは」
冬芽は少し眉を寄せた。
「日本最大の軍事財閥…か」
樹璃もこの情勢は気がかりだった。
「どちらも桁違いだ」
「そして、国際市場では血で血を洗う戦いを続ける敵同士。荒れなきゃいいが…」
寮に学生が戻り始め2学期まであと数日に迫ったころ、さらなる噂が鳳学園を覆い始めた。
天上ウテナと姫宮アンシーが復学するという噂である。
1学期の末頃なぞの失踪をした天上ウテナ、後を追うように学園から消えた姫宮アンシー。
直ぐに夏休みに突入したため、喧しく取りざたされることは余り無かったが、
とても目立つふたりが消えたことは、生徒たちに影を落としていた。
今日も生徒会役員室のテラスに何人かのメンバーが集まっていた。
「ウテナとアンシーが復学するってのはどこから出た噂なんだ？」
西園寺がいらだちも露に言った。
薫幹は西園寺を半ば無視して噂の出所について説明して行く。
「学生課に正式な復学手続きがあったようです。それも、とても気になる成り行きで」
「どういうこと？」
幹は少し息を溜めてから、一気に説明した。
「ウテナさんの手続きは剣財閥関係者がして行ったそうです。根室記念館に入居するようです」
「アンシーさんの手続きはオルレアンマテリアの関係者が行い、入居先は東館」
「なんだそれは、じゃあ彼奴らの後ろ盾はそれぞれ世界的大企業ってことかよ」
西園寺は髪の毛を逆立てて、目を吊り上げた。
しかし、幹は落ち着いて話を続けた。
「そういうことになりますね」
「ウテナさんとアンシーさんがいなくなってから世界の果ては黙ったままです」
「どうも、ボクにはこの件は、世界の果てが仕掛けたことには思えないのですが」
冬芽と樹璃も頷いた。
「オレもそう思う。この件は世界の果ての意志を超えたところで事態が進行しているようだ」
「世界規模の軍事企業の代理戦争か？」
「お前ら大げさだ。たかが小娘がふたり学校に戻ってくるだけだろう」
西園寺はあくまで気に入らないという気分を優先したいようだった。
幹はさらに西園寺を無視して入手した情報を説明して行く。
「かなり、それに近いことが起こるかもしれません。ふたりと一緒に転入してくる人たちがいるのですが…」
「とても、気になる名前なんですよ」
「それは？」
「アンシーさんと一緒に転入してくる人は、ジャンヌ・ド・オルレアン16歳。この人オルレアンマテリアの大幹部の娘らしいんです」
「そして、ウテナさんと一緒に転入してくる人は、剣ミツル14歳。なんと剣財閥の前会長の孫」
「さらに剣の方には、托塔月子16歳、柴又陽子15歳、南方水晶14歳、広目ルミナ13歳、国持キララ12歳と合計6人も一度に送り込んできますよ」
「ただごとではないな」
幹の説明に冬芽は大きく頷いて見せた。
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