2学期の初めの日、鳳学園の北側通用門には3台の大型トレーラーが並んだ。
剣財閥による根室記念館への引っ越し荷物の搬入が開始されたのだ。
「おらおらおら、お嬢様の衣装を汚したら承知しないからねッ!」
月子は、朝から気分最悪で、搬入担当の人たちに八つアタリまくっていた。
…だいたい転校ってなに?…
…わたしはセント・ブレイズ女学園の学生生活が気に入ってたのよ…
…いまさらむさ苦しい男どもとなんて暮らせないわ…
…そのうえ、このめッちゃ悪趣味な制服。人バカにするのも大概にしとけよ!こらッ…
トレーラーのタイヤを蹴飛ばすと、頭の芯まで痺れた。
「痛ッたァーーーーーーー」
「月子先輩、転校が決まってからずっとご機嫌ななめですねェーー」
…うるさいお子様ども…
ルミナとキララが、けらけら笑いながら自分の荷物を運んでいく。
新しい学校が面白くて仕方ないという感じだ。
ふたりには鳳学園の悪趣味な女子の制服も全く気にならないらしい。
実際、細長い手足で頭の小さい彼女たちには結構似合っていた。
…お子様には似合うんだよ。こうゆうのが…
いまごろ正面玄関の車寄せに、剣家のリムジンが乗り付けているはずだ。
供回りには、陽子と水晶が付いているのでもちろん問題はない。
いまの自分が付いて行ったらきっと何かヘマをやらかすに違いない。
ミツルの転校に大反対だった月子が転入初日の警護から外されるのは仕方が無いとも言えたが、
月子が、荒れている最大の要因は、転校自体ではなかった。
…昨日今日現れて、お姉様っていったいなに?気安くミツルに触んなコラ…
腰まであるストレートの黒髪を振るわせて、月子は澄んだ空を睨んだ。
 
鳳学園の本館正面玄関の車寄せに物見高い一般生徒の人だかりが出来ていた。
全長8メートルはあろうかという黒いストレッチドリムジンは音も無くロータリーに滑り込み、
入り口の前に密やかに静止した。
運転席とは逆側の前のドアが開きふたりの少女が現れる。
鳳学園の制服を着こなしたふたりの美しさにギャラリーはどよめいたが、
まるで意に介さずと言った様子でふたりは後ろのドアを開き、中から現れる人を待った。
ゆっくりと地面に降り立ったその人は鳳学園の制服ではなく、
ボタンさえ見えない飾りのない黒い詰め襟のジャケットとぴったりした黒のスリムパンツ、
足元はこれも極めてシンプルな黒のショートブーツを身につけていた。
明るい色の髪は耳が見えるほどに短くされ、前髪だけがもの憂げにカールして顔に懸かっていた。
篠原若葉は、その少女の顔を見て突進した。
陽子と水晶は動かなかった。
ウテナからその娘にはどうか優しくして欲しいと言われていた人だったから。
若葉はミツルに抱きついて叫んだ。
「ウテナー!どうしてたのよー心配させてー!それにこの髪どうしたの?あんなに綺麗だったのにもったいない」
「心配要りませんよ。髪は長いままです」
若葉は抱きついたまま凝固した。そしてミツルの耳元で低く囁いた。
「あんた誰ッ!」
「いつも姉がお世話になっております。篠原若葉さん」
「天上ウテナの妹の剣ミツルと申します。姉様も一緒ですから安心してください」
ミツルが車のドアを手で示すと、そこからゆっくりと白く長い足が現れ、続いて全身が現れた。
ミツルと同じデザインのこちらは白いジャケットと白いショートスパッツ、そして足元は白いショートブーツ。
眩しいくらいの美しさだった。
その姿に陶然と魅入っているのは若葉だけではなかった。
ミツルは姉の美しさに心底、酔いしれていた。
…白を選んで正解だった。本当に素敵だ…

こうして新たな戦いの日々が始まろうとしていた。

その13
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