「ねぇれいたん」
 令はその呼びかけに動じる様子もなく、会計報告のチェックを続けている。
 だが呼びかけは執拗に繰り返され、仕方なく視線を親友に向ける。
「う〜んれいたん、れいたんってばぁ」
「なにかあったの、ちーたん」
「まぁ!すごいわ、れいたん」
 祥子は本心から感心した、という表情をしている。
「さっちんとかさっちーとかを予想していたのだけれど、『さ』を取って『ちーたん』とはね」
 さすがれいたんね、メモメモ、とか言いながら手帳に書き込む姿に令は呆れた。
「どうしたのさ祥k、、ちーたん?」
「れいたんは由乃ちゃんに『お姉さま』よりも『令ちゃん』って呼ばれることが多いでしょう?」
「その事情はちーたんも良く知ってるじゃない」
「私も『祥子さま』『お姉さま』と呼ばれて来たけれど、れいたんみたいに呼ばれてみたいな…なんて」
「そういうことはわたしじゃなく祐巳ちゃんに言ってよ」
「もし由乃ちゃんが『令ちゃん』じゃなくて『れいたんっ』て甘えてきたらどうかしら」
「あのねぇ、ちーた…」
「『れいたん』」(伊藤美紀のロリ声で)
 ぐっ……。
「れいたん、よちのね、れいたんのことが、いっちばんすきだぉ?」(なおも伊藤美紀のウィスパーロリ声で)
 これは…これはイイ!ちーたんイイ!
 令は思わず右手を握りしめ親指を立てる。GJ!
「じゃ、、れいたん今度は私に………」
「えーっと、『ちーたん』?」
「……よちのとかゆーみんの気持ちになってお願いしたいわ」
「『ちーたん』?」
「少しずつ、心を込めていってね…」
「『ちーたん』」
 「ちーたん」
  ちーたん、、
 令が繰り返す度二人は接近していき、いつの間にかお互いの体温がわかるようなところまで。
 二人は目を閉じる。


祥「れいたん、うれしいよ、よちの、うれしいよ」
令「ちーたんがうれしいとゆみゅもうれしい」

『ゆみゅ』とは。言いにくいが、可愛らしい感じがする。
 さすがれいたんね、と感心しながら祥子は続ける。

祥「きょうはね、よちの、れいたんにいっぱいあまえたい。そんなきもちなの」
令「ちーたんうれしい、ゆみゅも、ゆみゅもいっぱいあまえたいな」
祥「うふふしってるよ、れいたんあまえんぼうさんなんだってよーくしってるんだから」
令「えー、ちーたんしってたんだぁ、ゆみゅはずかしいよう」
祥「いつもいつもよちのはれいたんといっしょだったんだもの。それに」

 祥子が握りしめて来た手の温かさに、令は気持ちが蕩けてしまう。

祥「これからもれいたんといっしょだもの」
令「ちーたんだってゆみゅにいーっぱいいーっぱいあまえてね」
祥「れいたんやさしいにゃあ、よちのうれしい」
令「ゆみゅだってちーたんすきすきだぉ」
祥「よちの、れいたん、ちゅき」
令「ゆみゅもちーたん、ちゅき」
祥「よちの、ちゅき」
令「ゆみゅ、ちゅき………」


 不意の物音に二人は同時に目をみ開き、視線はビスケット扉へ。
 いつも間にか開け放たれた扉。
 無表情でその向こうに立つ、祐巳と由乃。
 何か言おうとして、口をぱくぱくさせる祥子と令。
 見つめ合う顔と顔。
 しばらくの沈黙の後。
「かえろ、ユミユミ」
「そうだね、よっしー」
 そうして姉をほおったまま、妹達は手を繋いで薔薇の館を後に。

 へたれ崩れる令を見下ろしながら祥子は思う。
 ユミユミ&よっしーだなんて、あの二人……センスないわねぇ…
(あくまで高慢)


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