その人は椅子に足を組み、静かに座っておられる。
板張りの床に膝をついて。
その人の御み足を手に受けて。
布靴に口づける。
まだ大丈夫と思っていたけれど。
館の二階はもう寒くて。
素肌にはとても寒くて。
でもそれは季節のせいではなく。
古い館のせいではなく。
私に授けられた枷と。
その枷を授けた人の所為。
そのまま靴を擁いて。
頬擦りし、キスし、額に押し付け。
私はできる限りの思いを込めて。
私に許された、できる限りのことを。
つい、とつま先があがり、私の顎を捉え。
私は顔を上向けさせる。
その人と目が合う。
なぜだか動揺してしまい、でもそれを隠し。
幸せそうに、甘えるように。
そう見えるように微笑む。
そういう風に、躾けられたから。
ありがとう、蓉子。暖めてくれて
手は、もう使わなくても良いわ
手も床につき、四つんばいになる。
またたくさんのキスを布靴に注いでから。
舌を伸ばし。
靴底に。
布製の内履きだから、濡らしてはいけないから、と。
ゴムところなら大丈夫だからと。
私に許されたところを。
ちろ、ちろ、
ぴちゃ、ぴちゃ、
じゅ、じゅりゅつ、
はじめはそっと。
音を控えめに。
不意にまた、つま先が。
私の顔を。
眉間と眉を踏むようにされ。
私への、次なるお許しの合図。
だんだん強く。
音を大きく。
もっと激しく。
部屋中に響くほど。
舐め上げ、べとべとにし、それをすする。
丹念に、何度でも。
顎から胸までつたってきても、ぬぐうことはできない。
だって両手は、使わなくても、良い、のだから。
再びつま先が動いて顔を踏まれる。
額から頬もべとべとになる。
そろそろきれいになったかしら
私は靴底に肩をこすりつけ。
胸元の乾いているところをこすりつけして。
靴底を拭き取る。
そうしてから、もう一度頬擦り。
ちゃんと乾いているかを確かめる。
その人は視線を私から外す。
もうひとり。
すこしはなれた椅子に。
同じように足を組んで、座っておられる。
二人は視線を合わせ。
そして下目遣いに。
私を見る。
そして微笑まれる。
本当に良い躾ですこと、さすがロサ・キネンシス
当たり前よ。だって自慢の妹ですもの、ロサ・ギガンティア
つぼみの妹になって。
お姉さまはやさしく、時に厳しく。
あらん限りの愛情を以て私をお躾けになられた。
私はそのお姉さまからのあふれんばかりの愛に感謝し。
この身にこのすべを仕込まれることを喜びとした。
姉が妹を導くのはなぜ。
躾るのはなぜ。
それは妹が姉に失礼がないようにするためではない。
だって姉妹なのだから。
姉は自分以外の者に礼を失することのない様に、妹を躾けるのだ。
だから私は。
私は。
つぼみになったとき。
お姉さまに、たいそうなお褒めの言葉をいただき。
この身をロサ・ギガンティアに贈られたのだ。
私とお姉さまの関係は変わらない。
敬愛する姉。たった一人の姉。
お姉さまもことあるごとに。
臆面もなく私を最愛の妹と呼んでくれる。
だから。
私は。
ロサ・ギガンティアにも。
敬愛するロサ・ギガンティアにも。
ロサ・ギガンティアもちゃんと心得ておられる。
私がロサ・キネンシスの妹であることを。
だから、私を妹としては接することはない。
あくまで、ちゃんと躾のゆきとどいた親友の妹として。
やさしく私を、なぶって下さる。
あの脱ぎ方もあなたが教えたの?ロサ・キネンシス
いえ、ロサ・ギガンティア!あの、制服と下着をたたんだ上に靴を置いていることしょう?あれは蓉子が自分から始めたことなの
まぁ、蓉子ったら自分からそんな惨めな振る舞いを。素敵よ、蓉子
ロサ・ギガンティアにお褒めいただいて感激だわね、蓉子。私も姉として鼻が高いわ
ロサ・ギガンティアからいただいたお誉めの言葉。
お姉さまからいただいたお誉めの言葉。
本当にうれしく思ったけれど。
今日は、肌寒さを拭うことはできなかった。
ロサ・ギガンティアは足を解かれ。
両足を私の背に。
その上で、また足を組まれる。
私は、ずり落ちたりせぬよう、身動きしないようにする。
お姉さま方は最初は私の話を。
最近ロサ・ギガンティアが私をどう辱められたか。
それにお姉さまはより一層私が苛むようにとアドバイスをなさる。
でもお姉さま方も女学生。
いつしか普通の会話になっていく。
全裸で四つん這いになり。
足を載せられて。
身動きせぬよう必死で踏ん張る、私という存在。
それが、さも、当たり前のように。
普通の会話になっていく。
そういえばロサ・ギガンティア、最近あなたの妹はいかが?
ドキリとする。
なにかありまして?
いえ、また近頃薔薇の館で見ないから
他家のことは口出し無用よロサ・キネンシス
はいはい、あなたのことだから心配しないけれどね。でもおかげで蓉子はいつも大忙しよ
そうね、私が卒業するときにこの蓉子を譲ってみようとか考えてはいるけど
あらそれなら聖も来るようになるかもしれないわね
その話は、それでお終い。
話題はどんどん変わっていって。
会話は尽きなくて。
でも、私は。
組まれた足の下で私は。
しばし、肌寒さを忘れていた。