根室記念館の地下、100人の少年たちの遺影の壁を背にしてその少女は座っていた。
「はじめまして御影草時さん」
御影草時はいつから自分がそこにいるのかを思い出せない。が、その少女の顔は知っていた。
「天上ウテナくん?」
「残念ながら違います。このたび御影ゼミのスポンサーになった剣家の者です」
「わたしの研究を援助してくれると…」
「ええ、今後、剣財閥が、御影ゼミの全研究費用を出資します」
「ありがたい話ですが、我々の研究の内容をご存知なのですか?」
「永遠を手に入れたいのでしょう」
ウテナとよく似た少女は、何とも形容し難い笑顔になった。
般若の面が微笑んだらこういう笑顔になるのかもしれない。
少なくとも天上ウテナはこんな風には笑わない。
そこで、初めて御影は自分が聞くべきことが判った。
「君は何者なんだ?」
「剣ミツル。剣家の現当主です」
「それでわたしは何をすればいいのかな?」
「話が早いですね。助かります」
ミツルは立ち上がり暗闇のその先にいる誰かに向かって小さく手招きした。
「御影センパイ!!」
「馬宮!!」
馬宮は駆け寄り御影に抱きついて泣いた。
「他に必要なモノはありますか?」
御影は馬宮をよりぴったりと抱き寄せると、ミツルを睨みつけた。
「馬宮はモノじゃない訂正したまえッ!それに、これほどまでの力があるなら、わたしに何をさせようというんだ?」
少女はまた般若のように笑うとこう答えた。
「ではまず訂正しましょう。彼はあなたの大切な人でしたね。仕事の方は、薔薇の花嫁をひとり始末して欲しいだけですよ」
「姫宮アンシーか?」
ミツルは小さくかぶりを振り
「彼女、いまは王子様です」
「薔薇の花嫁は、この人」
ミツルは胸のポケットから小さいプリントアウトを取り出して御影に渡した。
「ジャンヌ・ド・オルレアン16歳。強力な魔女!手強いですよ」
「このことを世界の果ては知っているのか?」
御影は不安を滲ませていたが、ミツルはあしらうような仕草で切り捨てた。
「わたしのために働いてくれるなら彼に気を遣う必要はありません。アレはただの世界の果てというだけですから」
「先週から根室記念館の3階から上は、わたしたちが使わせて頂いています。気が向いたらいつでも遊びに来てください」
「女ばかりですから美男子がたの訪問は皆、大歓迎だと思いますよ」
「あまりぞっとしないな」
馬宮を蘇らせてくれた相手であるにもかかわらず御影はこの娘が気に入らなかった。
世界の果てと契約する方がまだ、ずっとましな気がしてならない。
娘はトドメを刺すかのように御影の神経を逆撫でする台詞を残して、エレベータの中へ消えていった。
「ああ、研究の方はのんびりやって頂いて結構ですよ。わたしは永遠なんてもう沢山なので…」
「では、ごきげんよう」
その2
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