2学期が始まって数日経った日の朝…。
根室記念館3階のサロンにミツルの大声が響いた。
「姉様!どうしても姫宮アンシーのところへ行くのですか?」
ウテナは、さも当然というように答えた。
「ボクの大切な友だちだから」
「そのためにこの学園に戻って来たのにまだ話すことも出来ないんだ。ミツルも承知しているはずだよ?」
ミツルは目を見開き大きく息を吸い顔を真っ赤にして必死に訴える。
「姉様をだまして薔薇の花嫁の身代わりにしようとした人です」
「そんな人と姉様を二度と会わせたくありません」
ウテナは身支度の仕上げをしながら、ちょっと俯いたまま、反論を続ける。
「アンシーがそうしたかった訳ではないよ。あれは暁生さんの命令に従っただけなんだから」
「アンシーを助けようとしたのはボクの意志だ…」
ミツルはより毒を含んだ口調で、ウテナに疑問を投げ付けた。
「世界の果ての言う通りにすればどうなるか本人も重々承知していたはずでは?」
バチン!!!ウテナは鞄の留め金を思いきり引っ叩くようにして留めた。
これ以上アンシーを侮辱することは赦さないと示す態度だった。
「それじゃ!ボクは行くから」
始業まで1時間以上ある。
学園内の建物である根室記念館から教室までの所要時間を考えれば不必要な早出だ。
しかし東館前でアンシーと会うのなら、ちょうど良い塩梅の時刻かも知れない。
サロンを後にするウテナの後ろ姿を見送りながら、
ミツルは持っていたハンカチを引き裂いてしまうほどの癇癪を起こした。
月子たちお庭番は、そんなミツルの後ろ姿をイライラしながら見ている他なかった。
ミツルには理解不能なことが多すぎる。
まるでこの世の者とは思えないほどの万能を見せながら、
双子の姉を独占したいという子どもじみた執着。
どちらをミツルの実像と考えるべきなのか?
それともどちらも意図して作り出した虚像なのか?
ミツルは怒りをまき散らし、誰もついて来るなとお庭番に釘を刺した後、
もう使われていない根室記念館の古びたエレベータに乗った。
その1
その3
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