「冬芽。お前のところにも来たか?」
「ああ、来た」
生徒会役員室のテラスにデュエリストたる鳳学園生徒会役員全員が集合していた。
西園寺莢一の言葉に桐生冬芽はその封筒を取り出してみせる。
「世界の果て」からの手紙が来なくなって久しいが、いま彼の手のなかにあるモノは、
それとはまた違った気配を漂わせていた。
淡い灰青色の封筒にラピスラズリを思わせる濃い藍色の封蝋。
封蝋の花押は、翼を象った紋章であった。
「世界の果て」の薔薇の花押に慣れたデュエリストたちには新鮮に映った。
レターヘッドにも同じ翼のモチーフがデザインされ、そこに達筆な手書きの文字で、
剣ミツルの転入と天上ウテナの復学のご挨拶のために宴を催すので是非ご出席くださいとの旨が記されていた。
淡いブルーのシートに濃い藍色のインクが心地よい。
「鳳学園生徒会役員としては出ないわけにはいかないだろう?」
冬芽の問いともつかぬ問いに、一同はそれぞれに思うところありげに頷いた。

「有栖川樹理様はいらっしゃいますか?」
中等部の制服を着た女生徒が樹理の教室を訪ねて来たのは昨日の昼休みだった。
樹理が教室の出入り口に現れたときは、男子生徒が取り次いでいたので少女の表情は固かった。
「おや!これはこれは…」
「ごきげんよう、樹理様」
有栖川樹理を昼休みに訪ねて来たのは、剣お庭番参の矢、南方水晶。
「どういう風の吹き回しかな?わたしを訪ねて来るとは」
「あ、あの今週末に剣主催の夜会を開くことになりまして、ご招待のため参りました」
そう言いながら、抱えていた紫の袱紗から封筒を取り出した。
妙にもじもじして、この前剣を交えた時とは別人のようで可笑しかった。
「よく判らないな。ついこの前、命がけで戦った相手をなぜパーティに招くのか?」
樹理は意地の悪い笑みを浮かべて水晶を見下ろしたが、
水晶の次の言葉を聞くと今度は不思議そうな顔になった。
「樹理様にはどうしても来て頂きたくて…」
「はあ?」
なにを赤くなっているのだろう?剣のお庭番の娘たちはどうもよく判らない。
共学の鳳学園で育った樹理にはセント・ブレイズ女学園育ちのお庭番たちの感性には理解し難いところがあった。
樹理にとって枝織とのことはあくまで個人の恋愛であって、
女学生同士がいちゃいちゃすることに対してはあまり関心が無かったからだ。
しかし、この娘の剣の腕には正直驚いたし、なによりもこの娘が抜き放つ心の宝剣に興味があった。
そこで、むげに断ることをせず、有り難くご招待に応じることにした。
鳳学園生徒会役員としても、剣家の力の一端を見ておくことは無駄ではなかろう。
その5 その7
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