野辺菊乃が青い封筒を暁生の前に差し出すと、
暁生はゆっくりと身体を起こした。
ベッドの上に取り付けられたテーブルの上でそれの封を切る。
銀のペーパーナイフの重さをもう辛く感じなくなった。
「出られそう?」
菊乃は気のなさそうな声で聞いた。
「おかげさまで…」
暁生は嫌みたっぷりに応じ、取り出したレターヘッドに鋭い視線を走らせる。
…コイツが何を考えているか判らないと話にならん…
このままでは、剣財閥とその支配を受けている受肉者の間で、うまく立ち回ることなど無理な相談だ。
…少なくとも女神様の顔を直に見ておく必要はある…

金曜日の放課後、普段なら寮に一度戻ってから、
街に繰り出す若葉だったが今日はそういう訳にはいかない。
根室記念館3階へ直行だ。
ウテナが若葉のためにドレスを選んでくれるのだ。
ふたりで、あれでもないこれでもないと散々迷ったあげくに選んだドレスを着付け終わると、
ウテナが髪を解いて梳ってくれる。
ウテナに髪を触ってもらっていると、もうそれだけで幸せな気持ちになった。
豪華なドレスに身を包み、髪型も大人びた解髪に変えた若葉がサロンに現れると、
御影草時と千唾馬宮がヒューと音を出さない口笛で、その美貌を賛美した。
「若葉さん、美しいですよ」
「明日のダンスの相手がまだお決まりでなかったら僕らと踊っていただけますか?」
「そんな!」
若葉は真っ赤になるが、返事をする前にウテナが代わりに答えた。
「御影先輩や間宮君には悪いけど、若葉の最初のダンスの相手はボクだから!」
「これはこれは、王子様がすでにご予約でしたか」
「あ、あの、ウテナ。ごめん。わたし西園寺先輩にダンスの申し込みしようと思って」
御影と馬宮は笑いを堪えるのに精一杯。


夜会の当日は、よく晴れた初秋の空。
花やディスプレイの最後の搬入が行われ、根室記念館は中庭とテラスにも豪華なテーブルがしつらえられた。
慌ただしい設宴の最中に搬入業者の顔をいちいち確認するほどの警戒態勢は敷かれていない。
ゴージャスな巻き毛の黒髪の男とプラチナブロンドの男というふたりが、
およそ似合わない作業服を着て紛れ込んでいたが、誰もそれを誰何したりしなかった。
作業は夕方の開宴にむけて急ピッチに進んで行く。
「アーしんど」
「テントの設営の方がまだましだった」
「とにかく、開宴には間に合ったらしいぜ」
ふたりがひそひそと小声で話しているうちにも、初秋の夕暮れが迫っていた。
そして、最初の招待客が現れた。
「鳳学園生徒会長、桐生冬芽様」
「同じく生徒会役員、桐生七生様」
「生徒会副会長、西園寺莢一様」
「生徒会役員、有栖川樹璃様」
「生徒会役員、薫幹様」
次々と招待客が読み上げられ、そのたびに主催者側のフロア係たちから拍手があがる。
「そろそろ、うちのお嬢たちも来るころだな」
「オレたちは、いざという時まで裏方へ引っ込んでるとするか」
作業服の男たちは邸外に停めてあるトラックの運転席へと退がる。
こうして、戦いの幕は上がった。
その16 その18
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