ジャンヌは自分が会場内に撒いた茨の棘を限りなく目標に近い人物が踏んだことを即座に知った。
…掛かった…
望外の成果だった。
…まさか剣のお庭番が釣れるとは…
あとは棘に刺された者自身が玉を転がしてくれる。
こちらはそれが手の中に落ちて来るまで待つだけだ。
口の端に歪んだ笑みが浮かぶ。
そして、同時にそんな自分を嫌悪する。
…騎士の風上にも置けぬ卑怯者だな…
思わずアンシーの手を握る手に力が入った。
実際には、茨の棘はそれを望む者だけが踏むのだ。
それは半ば踏んだ当人の望みであると言って良い。
ジャンヌは無論そんな言い訳はしない。
…たとえ、卑怯でも勝たねばならない…
どれほど長く生きて来ても、生来の気質は変わらなかった。
本当は致命的に甘かった。
その外見の通り、16歳の少女のようなことで思い悩む…。

暁生に石岡の思考伝達が入る。
…裏の草原で戦端が開かれた…
…実況よろしく…

「髑髏輪舞(ダンスマカーブル)!!」
心の剣は抜くことができずとも、戦う術は心得ている。
殺到する百の心の剣に対し、ジルは百の髑髏で防御円陣を組んだ。
ふたりの周囲には、切っ先を中心へ向けて円軌道を描く刃と髑髏の輪舞が向き合って二重の螺旋を描いている。
少しでも髑髏の円陣に隙があれば刃の群れは包囲の輪を一気に縮めようとしていた。
一方、髑髏隊列はカチカチと不気味な音を響かせて歯を噛み鳴らした。
白刃に空中で噛み付いて撃ち落とそうというのだ。
双方の危うい均衡があと数瞬続く続くと思われた時ピエールが動く。
地上スレスレを弾丸の速度で走る。
その双手は鋼鉄を打ち抜く威力があった。
「馬宮!!」
百一本目の刃が御影の手に現れる。
馬宮の剣だった。
これこそが御影がずっと長く望んで来た剣。
御影にとっての永遠。
時は止まっているようにゆるゆると進行した。
突進して来る必殺の拳。
振り下ろされる馬宮の剣。
「ぐはッ」
勝負は一撃だった。
御影の斬撃はピエールのつば広帽を真っ二つにしたのみ。
対してピエールの抜手は御影の脇腹を突き破り心臓に到達した。
…終わりだ…
だが、心臓を打ち抜かれたはずの御影はまったく動かない。
倒れる気配もなかった。
永き月日によって練り上げられた剛体術で鋼鉄をも貫く硬度に達しているはずのピエールの右手に激痛が走った。
白い滑らかな死顔を見せているはずの御影の皮膚がなにか波打つように蠢いている。
強烈な腐臭がピエールを打った。
月を覆っていた雲が晴れ薄明かりが草原を照らし出す。
「グオオオオオオオオオ」
ピエールは右手を慌てて引き抜こうとしたが、びくともしない。
今や相手の正体が分かった。
彼は人の形をした巨大な蛆の柱に右手を二の腕まで突っ込んでいるのだ。
一匹一匹に込められた呪詛が強烈な痛みを伴って鋼鉄の腕を食い破り体内に侵入して来る。
その22 その24
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