王国到来号の艦橋ではバレンシア公が白鳩の頭を撫でている。
副官は出撃準備の完了を報告した。
「いつでも、出られます」
「彼奴ら、自分たちの都合のいいときだけ我らを頼りおる…」
「実戦試験にはちょうど良い機会です」
「コア無しの状態で、どれほどの力が出せるのだ?」
副官はヒゲに手をやりながら二ッと口の端で笑う。
「それを確認することも目的のひとつですから」
「理論値に近い出力が得られたら、コア無しでも充分戦えますよ」
「そして、もしダメなときはサッサと逃げる」
「ハハハ!よかろうッ!!!」
「王国到来号発進」

樹璃とその少女のところまであと十歩…。
水晶は熱に浮かされたように近づいて行く。
頭の中には誰かの声が囁き続けていた。
…有栖川樹璃はその娘に利用されている…
「樹璃お姉様。本日はわたくしたち剣家の夜会へ、ようこそお出でくださいました」
水晶はニッコリと笑顔を作り、膝を折って小さく上下動するお辞儀をした。
樹璃も笑顔でそれに応え、枝織はあからさまな感情を表さない程度の微笑みを浮かべる。
「盛況でなによりだね。素敵なパーティに呼んで頂いて嬉しいよ」
水晶は笑顔を維持したまま身体の向きを変えた。
「こちらの方は?」
「ああ、紹介しよう。わたしの古くからの友人。高槻枝織さんだ」
「はじめまして、高槻と申します」
「こちらこそ、わたくし南方水晶と申します。樹璃お姉様にはいつもお世話になっております」

暫く三人で他愛ないゴシップや天気の話などしていた。
そのうち枝織はどうにも落ち着かない気分になって来た。
チリチリと背中に電気が流れるような感じがする。
枝織は敵意や羨望や嫉妬を含んだ視線には敏感なのだ。
実はそういう視線を浴びることが好きであったりする。
そして、目の前にいる中等部の娘の視線は、微かではあるが間違いなく枝織に敵意を送りつけて来ていた。
それは、すぐに読み取れた。
そしてなぜ、この娘にこんな目で見られるのかも、おおよその見当はつく。
試しに、甘えるような仕種で樹璃の腕に纏わりついて見せると、
恋の鞘当てなどしたことのない未熟な相手は、アッと言う間に正体を曝け出す。

主催者側のひとりとしてお客様に失礼などあってはならない。
だが、樹璃に甘える枝織の姿を見て、水晶の嫉妬は完全に炎上した。
まるで、幼い子が癇癪を起こすように感情のコントロールを失う。
自分がこれほど愚かであることに、そうでなければ、
余りに恋を知らなさ過ぎることに、今まで気付かなかった。
水晶は剣家お庭番としての誇りも体面も打ち捨てて、
あろう事か、枝織に対抗するように樹璃の反対側の腕の下へ潜り込んで、
そのしなやかな身体に縋り付いてしまったのだ。
縋り付いたまま、枝織を睨みつけた。
嫉妬に狂った子ども丸出しである。
樹璃が驚いたような困惑したような顔で水晶を見ている。
もうどうしていいのか判らない。
それでも、水晶の内なる声はなおも囁き続けていた。
…その虚栄心の塊のような娘は樹璃には相応しくない…
…お前のような一本気な娘こそ樹璃を幸せに出来るのだ…
水晶はオルレアンの長が張った罠の中に落ちて行く。

御不浄の個室に入ると直ぐに超常空間への扉を開いた。
陽子を表に待たせているから、急がねばならない。
待たせると心配して中まで見に来てしまう。
お庭番たちはそう仕込まれているのだ。
…魔力を行使出来る味方がやはり手薄なのかも知れない…
ミツルは、万能者である。
だが常にその力を制限無く行使出来るわけでも無かった。
その一番の制限項目は彼女の中の人の心だったから…。

もう、夜風の中に立っていた。
馬宮が驚いたように見上げている。
「ミツルさん!!御影先輩が!!」
「直ぐに地下の棺の間へ戻る。そうすれば助かる」
「本当に?」
「ああ!」
しかし、ミツルはそう簡単にことが運ばないことを知った。
何者かがここを見下ろしている。
夜空のなかに巨大な影が溶けているのだ。
恐らくは強力な護符によりステルス化されているのだろう。
ミツルにさえその全貌は易々とは見えなかった。
その24 その26
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