「ウテナ君!すぐにオレと一緒に来るんだ!」
これからダンスが始まろうという夜会のただ中で、
ウテナは見知らぬ相手に、突然、右手首を掴まれた。
ミツルが席を外している間、警護を任されていた月子は、当然阻止しようとしたし、
勿論アンシーも同時に割って入ったのだが、その相手の体捌きは尋常ではなかった。
このふたりを躱して、その人はウテナの前に立ち、右手首を掴んだのだ。
ウテナは呆然と相手を見上げた。
幾つもの驚きがウテナを動けなくした…。
なんと美しく、それでいて、なんと粗野な人。
まるで野性的な男の人のよう。
そして、なんとアンシーに似ていること!
その美しい褐色の肌。溢れるように流れる翠の黒髪。深い紺碧の瞳。
違っているのは背の高さと不敵な笑みだけと言っても良い。
アンシーに暁生さん以外に姉がいるなどとは聞いたことがない。
恐らく一番驚いているのはアンシー自身だろう。
アンシーの初動が普段の彼女からは考えられないほどに遅れたのは、そのためだろうと思われた。

ウテナの右手をダンスのリードをとるように待ち上げたまま、その人は顔を近づけて囁いた。
「君の妹は、いま取り返しのつかないことをしようとしている」
「君にしか止められない!」
「だから一緒に来てくれ!」
ウテナは、ミツルが何かとんでもないことをしようとしていると聞いた時、
既に抵抗出来なくなっていたのかも知れない。
だが、なんと言ってもその人の、蒼い炎のような瞳がウテナを捉えて放さなかった。
額が触れ合いそうになるほど近くで言葉を交わすふたり。
ウテナは呼吸が止まりそうだ。
「あなたは誰?…どうして、そんなこと判るんですか?」
「大事なことは、いまミツル君が破滅しようとしていることだ!」
「オレが誰か?なんて問題ではない」
「……」
「もう一度言う。君にしか止められない!!」
「い、一緒に行きます」
「よく言った」
その少女はドレスの裾を大きくたくし上げ、ウテナの手を引いたまま走り出した。
月子とアンシーはジャンヌの檄で、漸く呆然自失の状態から息を吹き返す。
「グズグズするな、わたしたちも行くぞ」

石岡から送られて行くる脳内の実況画像は、最早一刻の猶予もないことを告げている。
…走っていたら間に合わない!あそこへ運んでくれ…
…出た途端に死ぬかも知れないぞ…
…あそこでリリスが炸裂すれば、皆死ぬだろう!同じさ…
「ウテナ君!息を止めて」
根室記念館の廊下を走り抜けるふたりを緑色の光が包んだ。
後を追っていた月子、アンシー、ジャンヌの目の前でウテナとなぞの少女は光の中へ掻き消えた。

光、光、光、光の海だった。
名も知らぬ美しい少女に抱き締められたまま、
ウテナはこの世ならぬ空間を渡って行く。
上に向けて落ちて行くように感じる。
光の闇の中から、夜の微かな明かりの中へ通じる出口が見えた。
ウテナはその少女の胸の温もりをなぜか知っているように感じた。
…この人に抱かれたことなんて、ある訳がないのに…
…どうしてこんなに懐かしいんだろう…
その26 その28
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