「ねえさまが参加するのよ」
「わたしのために」
ミツルは控え室になっている根室記念館3階サロンで、鼻歌まじりにクルクルと回っていた。
生徒会役員による公開デュエルが場内にアナウンスされた時の興奮が窓の外でいまだに木霊している。
主催者たちが、姿をくらましている間に白け切っていた会場の空気は一変した。
以前から、生徒会役員たちが秘密のゲームをしていると囁かれていたし、
一般生徒が決して知る事の出来ない秘められた儀式だと噂する者もあった。
ところが今日、この宴に招かれた者にはそれが公開されるというのだ。
まさに最高の余興。
秘密の輪に加えてもらえるのだという優越感。
客たちの発するその高慢な自惚れと、淫らな好奇心の腐臭で、あたりは噎せ返りそうだった。
その毒気を蜜のように味わい、ミツルはご機嫌なのだ。
暁生は憮然とした表情でそれを見ていた。
ほんの少し前まで自分の支配下にあったデュエリストたち、それがいまやこの魔物の思うままだ。
暁生自身さえも例外ではない。
この娘が直接手を下した訳ではないが、いまや暁生は小娘に変えられてしまっている。
『世界の果て』としての力は、どこか手の届かないところに行ってしまった。
…いまオレの手の中にある力は…
ミツルがいつのまにか、頬が触れるほど近くへ来ていた。
そして、耳元に毒を流し込むように囁く。
「決心はついた?暁生(あきら)。それともディオラと呼ぶ方が良い?」
「ウテナねえさまのために、このデュエル、全力を尽くしてくれるのよね」
「ねえさまの『薔薇の花嫁』として」
どこまでが、この娘の意図で起こることなのか?もはや見当もつかない。
自分の意志で行動したはずが、いつの間にかこの娘の望み通りになっている。
…オレはコイツの慰み者に成り果てるよりないのか?…
夜会に招かれた生徒会役員たちに、密かに『あの封筒』が届けられた。
あるの者はいつの間にかポケットに、ある者は見知らぬ生徒からおずおずと渡された。
一体いつ以来だろう?いまでは懐かしいとさえ思える薔薇の花押。
『世界の果て』からのデュエルの招集だ。
皆、勢い込んで封を切った。
しかし、そこに記されていたのは、あの筆跡。
記された言葉も明らかに『世界の果て』の物ではなかった。
…今宵、勝利を収めた方に『永遠』をお約束しましょう…
で始まるその文章は、デュエルへの参加条件にこれまでにない項目を含んでいた。
…『薔薇の花嫁』及び『聖なる剣』を所有する方は、その使用が許可されます…
その部分を除いて、ルールは以前のデュエルとほぼ同じだった。
相手の胸の薔薇を散らすことが勝利の印であり、相手を傷つけることは許されない。
ただ、一夜で何人もの対戦相手に勝ち抜くトーナメントは、これまで経験のある者はいなかった。
…だが、このルールなら負けはしない…
デュエリストたちは、それぞれの大切なモノのため、それぞれに必勝を期すのだった。
その33
その35
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