わずか30分ほどの間に、決闘広場の模造品が根室記念館の中庭に出現した。
異常に手回しが良い。
良すぎる。
普通に考えたら、いくら剣家の財力をもってしても、こんなことは出来る訳がない。
けれどいまの月子と陽子は、それをいちいち気にしてはいられない。
このデュエルトーナメントになんとしても優勝しなければならないのだから。
それもこれも、当主が勝手に自分自身を優勝賞品にしてしまったからだ。
…もう慣れたつもりだったけれど、甘かった…
…ミツルは、絶対どうかしてる…
とにかく、ミツルを守るには、剣の家の者が勝つしかない。
ふたりはまだ、今宵初めて、お庭番としてミツルに望まれ、ミツルのために戦うのだということに気付いていなかった。
あれほど望んでいたことだったのに…。
そのことに気付かないほど、事態は慌ただしく勝手に進んでいたのだった。


デュエリストたちの控え室は東西ふたつ用意されていた。
団体戦がある訳でもないのに。
デュエリストたちは自然とそれぞれの控え室に別れた。
西の控え室には主に生徒会役員たちが、東の控え室には剣のお庭番と天上ウテナが集まった。
そしてもう一組、オルレアンの娘たちは西の控え室を選んだ。
「きさまァ、やはりデュエリストだったのか?」
西園寺莢一が、もの凄い顔でジャンヌを睨みつける。
ジャンヌは片方の眉を微かに動かしただけで、それを撃退した。
「残念ながら違う、だがルールには『薔薇の花嫁』の参戦が許されるとあった」
「だから、アンシーを連れて来たんだろう」
西園寺がなおも絡む。
「馬鹿には、どう説明すればいいのか判らんな」
「西園寺、今宵のデュエリストはアンシーなんだよ」
やむなく冬芽が助け舟を出した。
「えッ?!」
自分の価値観にしがみつく男に、それを超える状況を理解させる事は何時の時代も難しいことであった。


西園寺が黙った後、ジャンヌは部屋に居るデュエリストを見渡した。
心の剣を秘めた娘がひとりいるだけで、薔薇の花嫁の所有者はゼロ。
このままでは、剣家のお庭番連中には勝てる見込みがない。
ジャンヌはツカツカと桐生七実に歩み寄った。
「あなたは兄思いな娘ね。今夜のデュエルで、お兄様を少しでも有利にする気はあるかしら」
「はい?!ええ、もちろんです」
小首を傾げながらも肯定する七実。
ジャンヌの意図を察した冬芽が慌てて妹とジャンヌの間に割って入ろうとするが、
アンシーに機先を制され進路を塞がれてしまう。
ジャンヌは膝をついて七実と視線の高さを揃えて、真っ直ぐにその瞳を見つめた。
そして、静かに話し始めた。
「生徒会役員の中で、あなただけが心の剣を隠し持っているわ」
「でも、あなたの剣の腕では勝ち残る事は恐らく無理」
「けれど、お兄様にその心の剣を託す事が出来るのなら話は別だわ」
その34 その36
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