俺はウソップ。勇敢な海の勇者・男の中の男、キャプテンウソップだ。
 困ったことがあったら、いつでも俺を呼べ。どこにいても俺が駆けつけてやる・・・。

  なぁんてやっている場合じゃない。今の俺達は、海は海でも砂の海を航海中だ。
 とてもじゃないが、いつもの調子でなんてやってらんねぇ。
 砂漠なんざ、俺達の中で誰一人経験したことねぇと思う。イーストブルーは、どっちかってぇと気候は穏やかなところだ。場所によっては、冬が長かったり夏が長かったりするが、全体的には四季の移り変わりが楽しめる。
 
 皆の話ぶりから俺が推測するに、ルフィとナミの島は温暖な気候で、年間の温度差も緩やかなところみたいだ。反対にゾロのところは、結構冬は凍てつき、夏は暑いという、四季もヤツみたいにきっちりしているらしい。
 俺の育った島は、ココヤシ村よりも気温が年間を通して高く、雨も多い。だから農作物も豊かで実りが多い場所だ。
 サンジなんて、生活の殆どが海の上で、春から秋にかけてあちこちの海域を移動していた。
 夏の照り返しが凄まじい海の上にいても、火が入る厨房でコックとして立ち働いていたから暑さには慣れているが寒さには弱い。
 チョッパーに至っては、雪ばかりのドラムだ。水遊びすら船に乗って初めて経験している。ドラムでは川や湖はあっても全部が凍り付いていたから、そんな遊びをすれば即座に凍傷になっちまう危険極まりない土地だ。まあ、そんなところで泳いだ馬鹿を一人知っているが、あいつは人間じゃねぇから無視するに限る。
 そんなこんなで、本当の砂漠なんて場所は初めて体験するやつらばかりだ。
 
 さらさらとした砂は足場が脆すぎて、少しでも体重を掛けると深くまで足元が沈んでく。
 その中を歩くのは端で見るよりもずっと大変で体力を消耗した。吹きつける風は乾いていて、僅かな水分だって容赦なく奪っていく。焼ける砂粒が服の中まで入りこんで全身に貼りつくから、砂の中を転がりまくっている不愉快なざらつきがある。
 照りつける太陽なんざ、本当に俺達が海の上で見ている太陽と同じモンなのか疑いたくなるくらい、ギンギンと元気だ。天空に浮かんでいるあれが、どろどろとした火の塊だって、妙なところで実感できる。

 それが夜になった途端、気温はマイナスまで下がるから始末に終えない。
 さしずめ、砂はサンジが握るフライパンみたいなもんで、太陽はフライパンを熱する炎だ。
 火を止めてしまえば、フライパンは即座に冷たい鉄板になるのと同じで、砂漠は夜になると昼とは全く違う顔を見せて、これでもかと言うくらいに気温をぐんぐん下げていく。
 これが、結構きつい。
 昼の暑さもさることながら、へたばっているところに寒さが来ると、体力がなし崩しに絞られていくのがありありと実感できる。
 水と食料の配分は、サンジがきっちりしてくれているおかげで、たっぷりとは言えないが、体力が削ぎ落とされないよう上手く調節してくれている。サンジはレストランなんて場所で暮らしていた割に、少ない食料であってもそれを引き伸ばして使う術に長けていた。
 ほんの一握りの食料と一口か二口の水を、一日5回に分けて配り歩く姿は昔から砂漠で暮していた人間みたいに感じる。ベールで覆われているナミでさえも、うっすらと日焼けしているのに、サンジは無造作にしている割に顔は白い。昼の暑い最中でも長衣の下にはスーツを着こんでいる。
 骸骨みたいな肌の白い手で食料を差し出される度に、コイツの並大抵でない体力を俺は本能的に思い知らされていた。ゾロやルフィならいざ知らず、こんな優男丸出しのサンジが、ここまで強いとは正直思ってもいなかった。

 もっとも、俺がコイツをすごいヤツだと思えるのは、全然違うところにある。

 多分な、食い物の配分とか砂漠を渡る体力とか。
 そんなもんは経験と知識があればコツで生きていけるんだよ。
 実際、サンジが遭難して三ヶ月近くを殆ど食料もなく過した子供の頃の体験を俺達は知っている。だからヤツが俺達を生かそうとする執念やら、絶対に生き抜いてやるっていう迫力やらは、そんなところから発しているんだと想像もつく。
 たしかに、その体験は凄まじいと思うし、よく生きて戻れたって感激までしたさ。
 だが・・・。そんなんじゃねえんだ。
 サンジがすげぇって思うのは、そんな上っ面じゃないんだよ。

 女と見れば距離を詰めて賞賛を浴びせ掛ける男が。
野郎は全て自分の敵か味方に極端に分類するような男が。

 どっからどうなったのか分からないまま、未来の大剣豪。
 末期的方向音痴のゾロとイイ仲になっちまっちていることだ。
『あの』ゾロを一言で腰砕けに出来るサンジは、化け物の域も越えてんだろ。
 ゾロもゾロだぜ。
 ルフィにケツを狙われてるからって、そこまでサンジに頼るかよ。
 
 今日もゾロがルフィに狙われ、押し倒されて。サンジがかっ飛んで来てぶちのめす。

 おまえ等、体力の温存って言葉知っているか。
 その元気はクロコダイルとの戦いにとっておけ。
 悪いことは言わねぇ、俺さまの言うことは一般常識として聞いておいて損はない。
 おいおい、オマエ等、親切で筋の通った忠告をする俺さまを無視するな。サンジ、てめぇは睨むんじゃねえ。ゾロには甘い顔して見せるくせに、この俺さまには凶悪面かい。
 いや、悪いなんて一言も言ってねえぞ。むしろ喧嘩ばかりされるより仲良しのほうが何かと都合はいい。但し、節度ある仲良しにしておいてくれ。夜中に二人で同じ敷布に潜りこんで妖しげな動きをしていたり、休憩中に二人揃ってどっかに消えて戻りが遅かったりするのは、どうかと俺は思うわけだ。

 ・・・って、てめぇ等、せっかく俺が注意してやっている側から、何している!
 ああ?愛し合っている?
 それで、濃厚なキスシーンを繰り広げているのかい。
 悪かったな、お邪魔してよッ!!

 炎天下も裸足で逃げ出すフライパンの上で、コイツ等は暇さえあればくっついている。
 ま、夜になったら寒いからくっつきたい気持ちくらい分かってやろう。
 俺の心は海よりも広く、砂漠よりも強靭だ。ちっとやそっとのことでグラつきゃしねえ・・・・・・・と、思う。
 そうさ、男同士がいまさらどうだって言うんだ。
 悪魔の実の能力者がうじゃうじゃ出てくるわ、人間としてバロメーターをぶッ千切っている男たちはいるわ。
 すでに生き物としてどうよ?と突っ込みたい連中ばかりに出会うわしてみろ。
 化け物2匹がふつーに恋愛しているくらいで、誰が驚くか。
 「ああ、そう?」ってなもんよ。
  むしろ他人にミュータントな遺伝子が行かないように、自分達で管理してくれた方がマシってもんだ。
 だが、俺の側では出来る限りごく一般的な男達でいてくれ。
 俺は人間を捨てたくねえし、おまえ等の感性に染まりたくもねえ。
 まっとうな海の勇者にならねえと、俺のファンと子分が泣くからな。

 なんだよ、ビビ。

 は?ゾロとサンジのラブシーンにコメントできるだけ、俺も普通の神経じゃないだと?!
 くっそぉ〜、なんだかグサッときたぞ。繊細な俺の心臓が張り裂けたぞ。
 で、そう言う割に、どうしてオマエはスケッチブックなんざ持っているんだ。
 8ミリビデオまで持って、何を撮影しているのかそこんところ詳しく教えてもらいたい。
 い、いや、孔雀ラッシャーはいらん。俺が悪かったッ!
 だから!!!振り回すんじゃねえッ!!!!!!

 ふぅ〜、あぶねえ、あぶねえ。
 ビビのやつ、いきなり逆キレして凶器を振り回してきやがった。
 砂漠の王族ってのは血の気が多いのか?そーいや、コイツってすぐに手が出るもんな。
 過酷な砂漠で生きていくにはそれくらい強くないと駄目なんだろう。
 きっとコブラ国王って父親も、ビビにそっくりで少し突付けば2メートルくらいありそうな剣を振りまわして追っかけてくるような、おっかねえおっさんなんだろうな。

 そう言ったら、今度は回し蹴りまで入れてきやがる。
 おいおいおいおい、クロコダイルを倒すより先に俺を御陀仏にしてどうしようってんだ!
 落ち着け!

 危うく鼻の骨が折れるところだったぜ。ナミも笑っていねぇで助けろってんだ。
 その前に、俺が言われない暴力を振るわれるのは、オマエ等みたいなバカップルが生息しているからだ。即座にくたばりそうな砂漠で、抱き合っていてなにか嬉しいのか?
 繊細な俺の神経では、ケダモノなヤツ等の考えることなんざ、さっぱりわからねえ。
 それとも朱に交われば赤くなるって例えみたいに、俺もヤツ等の真似をしたら何かアイツ等の思考回路が少しばかりは理解できるのか?
 ううむ、厄介な連中のことを把握するのもキャプテンの勤めかもしれないな。
 ルフィがゾロに迫るのだって、案外、そんな目的があるのかもしれねえ。
 うっかり俺としたことが、外見の物事だけに惑わされるところだったぜ。
 まあ、ルッフィ〜だから、考えてやっちゃいねえだろうが、一考の価値はありそうだ。
 よっしゃ、いっちょやってみるか。

「ゾロ〜抱っこしてくれぇ」
 うげっ、気持ちわるッ。
 だがこれでメゲテいちゃあ、男が廃る。ヤツ等のことをこれっぽちも俺は理解してない。
 気持ち悪さをかみ殺して、俺はもう一度抱っこしてと言って見た。
 んん・・・?なんだ、俺の周りの温度だけが夜になったみたいに、冷たいぞ。
 それに大気中に地鳴りみたいな低音の不気味な震えも感じるんですけど?

 一滴の水分だって惜しいと言うのに、俺の背筋を冷たい汗がタラリと伝い落ちていった。
 頭から血の気が引いていくのが自分でも分かる。
 硬直した死体みたいになった俺は必死の思いで、そっちを向きたがらない首を強引に後ろに回した。
 うおっ、見なきゃよかった!!
 そこには、地獄の底から蘇った死人みたいな血色悪いサンジがいた。

「サ・・・・サン、ジ」
「ながっぱな。てめぇまでイイ度胸してんじゃねえか?俺のゾロに『なにを』して欲しいって、もう一度、はっきり大きな声で言ってみろ」
 俺がきっちり聞いてやろうじゃねえか。
 もしもし、サンジさん。目が怖いんですけど。
 ついでにゾロ、今にも刀を抜きそうなのはどうしてかな?
 俺はただこの場を和らげて、皆の気持ちを軽くしてやろうとだな・・・・・
 うっわ、聞けよぉ〜!!
 抜刀するな、踵落としを炸裂させようとするな!!
 構えに入った二人の凶悪な生き物の間で冷や汗がたらたら垂れてくる。
 その時、天の助けが横からゾロに飛びついてきた。

「あちぃ〜、おいゾロ、ひと汗かいて涼しくなろうぜ」
「てめぇとだけは絶対にならん!!」
「ルフィ!ゾロに触るんじゃねえよっ!!!」

 ゾロの長衣を裾からたくし上げ、もぞもぞとルフィが下から入り込もうとしている。
 それを手で押し返そうとするゾロと。ゾロの胸元に顔を突っ込み、中にいるルフィをサンジが怒鳴りつけている。
 その状態はすっげぇ間抜けだぞ。サンジ、授乳期のガキじゃねえんだから止めておけ。
 ルフィ、スカートめくりの年頃は10年前に終わっているだろ。海賊王になる男が、男のスカートをめくって何が楽しいんだ。
 ゾロもな、ルフィの一人くらいあしらえないで世界一を目指すってのはどうかと思うぜ。

 暑さでぼぅ〜っとなっている俺の目の前で、三人の男たちが団子になって騒ぎ出している。元気だ、やっぱり元気だ。どっからこの体力が出てくるのか、ぜひとも教えて欲しい。
 そうこうするうちに、乏しい食料を与えられないサンジがいつもの如く凄まじい蹴りを放って、ルフィを地面へとのめりこませた。砂地だとルフィの身体は深くまでめり込むので、自力脱出するまで随分と力を使わないと抜け出すのも難しい。流石コックだ。どんな材料も腕次第ってことろか。ん?この場合は脚か?まあ細かいこった、気にすんな。そこんとこまけておけ。
 ムギムギ・・・
 すっごくヘンな唸り声を上げながら、ルフィはすたすた歩き出していくバカップルの後姿に向かって、声を上げていた。
「ぞろぉ〜ん、俺もだっこぉ〜v」
 ルフィ・・・甘声がてめぇほど似合わない男はいないだろう。首をろくろ首みたいに長くして、ルフィはゾロの背中に懲りずに言っている。挑発に乗った二人の改造人間たちは秒速でルフィを振りかえり、ゾロは眉間に不愉快な皺を寄せ、サンジは中指を立てて威嚇している。
 マジに、元気だ。
 船の上でも砂漠でも。
 コイツ等は同じ光景を繰り返す。そんなことが出来るコイツ等を俺はちょっとだけ見なおしてやった。  
 
 俺は海の勇者・キャプテンウソップ。
 俺の人知れずの災難は全部俺に降り注ぐ。そんでもって、その火の元は、今日もいちゃつき、狙われてしてユパまでの旅程を面白いように進んでいく。
 俺は決して誰にも言わない。ホモでバカップルな二人と。襲いまくりの船長が、その後ナミの鉄槌を食らって、嫌が応でも表面上は仲良しになったことなんざ、間抜けすぎて言えないだろう。
 ゾロの背中にはサンジがへばりつき、その周りをルフィがちょろちょろ走っている。

  がんばれよ、誰もてめぇらの恋愛に口出しなんざしやしねえ。
  世界一だろうが伝説だろうが。
 なんでもくれてやるから、俺の側にだけは、やっぱり寄るんじゃねえ。
 分かったか。


                                          END





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