海の上での生活には、不自由がついて回るのは仕方ない。
自分から選んだ場所だから、誰に文句が言えるはずもない。 だがしかし。
間違えて蓋をしたら、内部発酵してガスは充満する。僅かな火花で大爆発が引き起こる。
多分、そんな欲求不満が始まりの切欠であった。
またもや寝過ごし、晩飯どころか眠る前の軽食を出す時間さえ逃した男は、案の定、サンジが片付けをすっかり終えた頃を見計らったように姿を見せた。
これが偶であれば、まだ情状の余地はあった。
しかし毎回となると、明らかな悪意しかそこからは受け取れないのは世の常だ。当然、男に対して優しさの片鱗を分け与えるのも惜しいサンジが、ゾロの自分本意な行動を黙って許すはずがない。
まるで深夜に帰宅してきた亭主みたいなゾロの態度に、サンジが切れた。
「そんなに寝腐れていたいなら、明日の朝まで起きてくるな。いや、一生起き上がってくるな!てめぇみたいなカビ野郎には、食わせる飯なんざひとっつぶもねえ!」
怒り心頭に達し、烈火の如くに悪口雑言を撒き散らしはしたが、手だけは勝手に動いてゾロの食事を用意してしまう。
なんて律儀で面倒見のイイ男なんだ。自分の体質をげんなりと思った。
これがナミだったら。もしくは女性だったら、喜んで食事を提供するのだが。
どうして、男。それもゾロになんて手間を取ってしまうのか。せめてルフィかウソップ。チョッパー辺りの方がマシだと真剣に考える。
しかし、罵倒されているゾロは寝過ごしても供される食事を確保するために、ついでに自分が悪いのをあっさり認めているので、サンジが何を喚こうが騒ごうが怒りもしない。それより、猛烈に腹が減っているのでイイ匂いの料理が次々出され、食べられる幸せに没頭していた。
口内で複雑に混ざる料理の味に脳みその粗方を持って行かれて、悪口雑言は頭上、数メートルの位置を掠めて通っていた。どんな言葉にも反論せず、本人は分かっているのかいないのか、非常に嬉しそうに料理をかっ込む姿だけがそこにはある。
図らずも可愛いなんて単語がぴったりだ。
誰かが食事をしていたら、それがゾロであってもサンジはタバコが吸えない。コックとして培ってきた性分は、こんな小さなコトにも拘りをみせてしまう。
ゾロに気を使っている自分がいやで、サンジは自身への抵抗のように火のついてないタバコを咥え、ぼんやりとゾロが可愛い。そんなことを思ってしまった。そして、はたと思考が止まる。
誰が誰に可愛いだって?
自分の記憶が確かなら、とんでもない男にナニを思った?
これまでの人生で、もっとも似つかわしくない人物、それも男に向かって、可愛いなんて単語を使ってしまった!!!
人生最大の失態だ。
何が可愛いだッ。
可愛いってのはこんなむさくるしい男に使う言葉じゃねえぞ。えーと、コイツは可愛いんじゃねえ、単純なんだ。餌を貰って喜んでいる犬っころと変わらねえんだ。
餌を貰うために、舌なんてだらしなぁく垂らして、耳をぺったり倒して、ケツまで一緒くたにして尾っぽを振ってる。それでもって、前脚をせわしなく交互に出していやがる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・か、可愛いじゃねえかっ!!!!!
戻ってしまった。
反射的に髪を掻き毟りたくなった。
グランドラインを泳いでオールブルーを目指したくなった。
この世の全てのレディたちに土下座して回らないといけない呵責に捕われた。
つまることろ、サンジは大パニックを起こしてしまった。
己が好き放題に連想したくせに、結局戻るのは『可愛い』の単語に、自分で自分が信じられなくなったらしい。
しかしいくら否定しようとも、目の前でゾロは幸せそうに料理をぱくついている。その姿を目にしてしまえば、どうしても口元が緩むし、大きな犬が尾っぽを振っているみたいに見える。 凶悪ツラで親父臭いゾロが、自分と同じ19歳である実感まで沸いてしまう。
拵えた料理を美味そうに食べてもらえるのは、料理人冥利に尽きる。それが気に入らないゾロであろうとも、やはり嬉しいと素直に思えるサンジも、実はとても単純で可愛い男の自覚がない。
一人で思考のループに絡まっているサンジを余所に、ゾロは次々と料理を平らげた。
舐めたように綺麗になった皿の白さが目に痛い。本当に腹が減っていたんだろう。
食材はふんだんにあって、料理人もいる船で。腹を死ぬほど空かせている状況と言うのもどうだろう。
食べ終えたゾロが自分から皿をシンクに下げ、ついでに皿洗いまで一緒にしている。
ゾロを手伝わせながら、『男を可愛いと思う心理状態と、幸せそうにメシを食うゾロ』の関係を考えた。もちろん、結論が出るはず無い。
とりあえず、迷走する疑問を抱かせた男への罰として、サンジはゾロを容赦無く使ってやった。もっとも、『てめぇ可愛いじゃねえか』なんて台詞は口が裂けても言うつもりはない。
ゾロはゾロなりに手間を掛けさせて悪かったと思っている。サンジは『手間を掛けさせられたんだから手伝うのは当たり前』の態度を崩さないから、ゾロはサンジが思索のドツボに嵌っているとは全然知らない。
二人は並んで黙って皿を洗い、食器棚に仕舞い込むまで沈黙は続いた。その頃には、サンジは考えても仕方ない疑問は投げうってしまっていて、ゾロに酒でも呑まないかと誘い掛けていた。
日頃は喧嘩ばかりしている年長者であるが、流石に深夜にまで争おうとは思わない。アレは二人にとって一種の組み手みたいなもんで、身体を動かしていないとエネルギーの発散する場所がないから喧嘩をしているのだ。今はどちらもが、争いたくないと思っていた。だから俄か飲み友達となって差し向かいでグラスをぐいぐい傾ける。たまには、こんな夜もあってもいいだろう。
最初は、触らず当たらずの無難な話題だった。
しかしアルコール消費量が進むに連れて、話しの矛先も下方向へと指針を変更する。酒と猥談は切っても切れない仲良しセットなのは仕方ない。
「だぁから〜、女は胸だろ胸!ふわふわマシュマロなあの胸に挟まれる幸せは、最高だぜ!」
サンジの好みは胸のデカイ女だった。顔ではなく、体のみに話しが集中している。
かなり酔っている証拠だ。白い肌を少しばかり酔いの色に染めて、サンジは恍惚とした表情で豪快に笑った。器用な男だ。
対して、ゾロは目元だけにアルコールの影響を留まらせるのみであったが、見た目より大分ときこし召していた。肘をテーブルに着いて、ちっちっちと人差し指を軽く振る。
「胸なんざ飾りみてえなもんだ。中味だろ中味!きつ過ぎず、緩すぎず。きゅっと締まって絡みつくみたいなヒダヒダがねえと、気持ち良くなんねえ!」
日頃、禁欲に見えるかもしれないゾロの滅茶苦茶にむっつり宣言だ。
ふらふら上体を危なげなく揺らしているコックの鼻先に、ゾロは節くれだった指をびしっと音付きで突きつけた。その指を寄り目で暫し見ていたサンジは、何を思ったのかケタケタ笑いながら両手でゾロの手を握る。
酔っ払って理性も恥じも無くしてしまうと、人間、思わぬ行動に出る典型みたいなもんだ。
「ヒダヒダだって、ヒダヒダだってよぉ〜!ぎゃはははははは、てめぇヒダよりもツボツボのが大事だぞ!でもって、ヌレヌレも加えてくれたら、もっと上等だ〜!!」
「んでもって、締まりだ締まり!これだけは譲れねえぞ、俺ゃぁ・・!」
力説する内容だろうか。
サンジが両手で取っている右手の上に左手を重ね、ゾロはサンジの右手を逆に包み込んだ。普段なら、男同士で手を握り合って顔を突き合わせる構図に、二人揃って吐き気を催した。だが、彼らとしては全くのノリだ。
たかが手を握り合ったくらいで、妊娠するはずがない。
お付き合いを申し込んでいるんでもない。
全ては酒の上でのノリだった。
・・・・・・・・・・・・・・はずなのだが。
サンジは、初めて握ったゾロの手の分厚さと体温の高さに、まさにお子様を連想した。
剣を振るう手は固くゴツゴツしていて、お世辞にも気持イイなんて思えない。大剣豪の座を得る為だけに作り出した掌は、手が大きい方のサンジであっても掴みきれない厚さがある。 剣だけの道をまっしぐらに生きている不器用そのものの男の性格をそこに写しとっているかのように、無骨さばかりが目立つ。だが、この手は懸命に自分の夢を掴み取ろうとしてきた。 一歩も後ろに引かず、命を掛けて戦ってきている。
眠くなった小さな子供みたいな温かい手をして、一人で世界を目指して戦ってきたかのを思うと、なんだかゾロが無性に可愛らしく感じた。先刻の『男に可愛いなんて、俺は末期だ』の嘆きはどこにもない。
ゾロはサンジの手をまざまざと見ていた。
白くて滑らかだと思っていた手は、意外にも力があり、フライパンを握る右手にある料理人としてのタコが、掌に硬く当たった。
この手は触り心地が良いとも、ましてや造形美に溢れた綺麗さとも程遠かった。あちこちに魚のひれの刺し傷があり、治りきらない火傷の筋がくっきりついている。指も身体に見合わぬ太さで、水を使っている手は荒れて、がさがさとした手触りばかりだった。
だが、ゾロにはサンジの手が世界で一番綺麗に思えた。
コックは手を大事にしていると公言しながら、その実、彼の手は皆を食べさせるために、こんなにも傷だらけになっている。無言で優しさと労わりをこんなにも掌に溢れさせていながら、日頃は不遜な態度を崩そうともしない。表面と内面のギャップが大きいのはサンジの性格もあるだろうが、照れもあってのことだろう。そう思い至ると、どうにもサンジが愛しい存在に見えてきた。
ふと上げた視線は、握り合った手を越えて互いの珍しい瞳の表情を捕らえていた。
実に穏やかな目に惹き込まれる。
こんなにも優しい顔をこの男は隠し持っていたのか。
ゾロの手が、サンジの手をゆっくりと手前に引き寄せた。サンジも手が持っていかれるにつられて、身体が前へと傾ける。
この手を離したくない。
サンジは抗いもせず、ゾロの口元が待ち受けているのも知っていて半ば自分から、それに唇を押し付けていた。重ねた唇は意外にも柔らかく、しっとりと包み込むような心地良さだ。
ゆっくり混ざり合う唾液と舌先が、深くに相手の口腔を弄り、酒の匂いと味が甘かった。上体を伸ばしあって、手だけを握り合ったキスは、じきに物足りなさを覚えさせる。
腕が寂しい。掌が感知する体温をしっかりと全身に絡みつかせたかった。
今度はサンジの片手がゾロの首筋を引き寄せ、角度を変えて口付を続けようと無言の催促をする。ゾロはその僅かな隙にテーブルの角を回り、サンジのより近くへと場所を移し変えた。体温が高い腕が肩を抱き寄せ、それよりも幾分か温もりも腕の太さも低いサンジの腕が手に取って代わり首に巻きつく。
胸を密着させてのキスは、先ほどよりもずっと気持いい。
思う様にその唇も息も味わえる。
ゾロよりもアルコール分解能力が劣るサンジの身体からは力が抜けていき、重みが太い腕一本で支えられる。座っているのに膝が痙攣して、背筋が柔らかな熱に蕩けていく。
「ふっ・・・・ぁ・・・ゾ、ロ・・・」
どうしてゾロを呼んだかの理由なんてない。
呼びたかったから音にしたまでだ。しかし、サンジの浮ついた声は確実にゾロを刺激したようで、もう一度、唇が重なる寸前に、音にしないゾロの声が、サンジと。動きだけで呼び返してきた。
唇の表面をくすぐる動きにゾクゾクする。
自分の背中はマシュマロにでもなったように柔らかだ。だが、嫌な気分じゃない。それよりも、もっとこの感覚を楽しみたい。覆い被さって来るゾロの硬い身体が、芯を無くしていっている自身と相反して、とても頼り甲斐があった。
固いベンチに横たえられ、腰を半端に浮かせたゾロの手がネクタイを解き、シャツをベルトから引っ張り出すのが分かったが、制止しようとは思わなかった。むしろ、そうされるのが自然だった。
酔っ払った頭と身体が、不安定なバランスを保っていられるかどうかだけ、僅かに心配した。
「なあ・・・シテもいいか」
唐突にゾロの低い声が鼓膜を撫で、それだけでサンジは息を呑まねばならなかった。半ば飛んでいる意識を掻き集め、引き上げた目線が結んだゾロの映像は、なんだか泣き出す直前みたいに情けない目をしている。
ああ、可愛いじゃねえか。
柄にもないほど可愛らしいゾロに、サンジは笑い出したくなった。妙に律儀な男が愛しい。
「サンジ」
固い指の背が頬を撫で、前髪を撫でつける手付きは優しかった。深く目を閉じてゾロを引き寄せ、言葉としては明瞭にどうとも応じなかったが、ゾロには充分に伝わったらしい。
凪ぎの海のように再び動き出す手と唇に、アルコールに重くなっている頭の中が快楽に溺れ始める。
ゾロの分厚い背中を掌で手繰り寄せながら、サンジは低い喘ぎをはっきりと解き放った。
巻き込まれる熱波の甘さに、背が撓り皮膚は髪一筋の隙間もなくなっていく。
「んっ・・ぁあ・・・あっ・・・」
胸元と下半身を性急に嬲る指に、熱い身体が揺らめくのを止められない。沸き立つ官能に反射的に首を捩ったそこに、荒い呼気と共にゾロの歯が食いこんだ。
「い、てぇ・・・・って・・・」
「痛いだけか?」
笑いを含む声が首筋を這いあがり、耳孔に舌先がぬるりと入ってきた。
捩った首筋から上半身全部に痺れが走り抜け、直後には弄りまわされている乳首が固く尖ったのが分かる。ゾロの掌に包まれているペニスの容量が増して、早いピッチで擦り上げられサンジの嬌声が喉元から迸った。
この状況では自分がゾロを受け入れることになるが、経験が無いわけじゃない。
不安どころか、期待で身体が奥底から疼いて堪らなかった。余裕を無くしたサンジの手が、ゾロのフロントを乱暴に寛げ狭い隙間から強引に侵入した。
「・・・・・ッ・・うっ・・・・ぁ・・」
艶めいたゾロの呻きに煽られる。ぬらつくペニスは、指が長いサンジであっても包み込むに苦労がある。他人の手に触れられる感触は、ココ暫くご無沙汰だった所為かどちらもが酷く敏感になっていた。濡れた音が卑猥に空間を満たしていき、肌の温度は熱病患者のそれと変わらぬほど高くなった。
アルコールが汗になって流れ出していき、意識は快楽を覚えると同時にクリアにもなり朦朧ともする。あまりの暑さに引き剥がすように服を脱がせ合い、手淫を止めずにずるずると床へと移動した。
不安定なベンチの上よりも、背が落ち着く床の上でサンジは安堵の息を微かに吐いた。
対するゾロは動きやすくなったのだろう。
サンジのスラックスを下着ごと引き降ろし、首筋から胸元まで噛んだり吸ったりして忙しなく唇を移動させている。半端に短いゾロの髪が肌を滑る感触にまで欲情した。手の中の肉棒に筋が浮き出て、灼熱の熱さに喉の奥がひりついてくる。ごくりとサンジの喉が鳴る音が、ゾロの耳元でリアルにした。
サンジが握り締めているペニスがはちきれそうに膨らんでいる。
ゾロの手が捉えたサンジのものもしとどに濡れて、劣情が加速していくのが止められない。
サンジから声を引き摺りだして、白い身体を悶えさせてみたい。
こみ上げる征服欲のまま、敏感な先端だけを握るように手を持ち変え、腰の揺れに合わせて指の動きを早めていった。
「ぁああ、あ!!・・ゾ・・・ロっ・・んっ・・・俺・・・も・・出、ちま・・・・っ・・・」
上滑る男の声は、ひどくエロティックだ。耳から視覚からゾロを刺激して、興奮を煽ってくる。 背中に縋る大きな手が、切羽詰る快楽に上下して指先が皮膚に食い込んだ。顎先を跳ね上げたサンジが、伏せた瞼のあちらからゾロを見詰めた。常にタバコか美辞麗句だけに飾られている薄い唇が、ゾロの名を形作る。うっすらと開いた口の隙間から、赤い舌先がちらちらと見え隠れしていた。
キスを恋しがっているかのような仕草に惹かれ、ゾロは噛みつくようにそれを塞いだ。待ち構えていた口元の合わせに舌先を滑りこませたゾロに、サンジの薄い舌が絡んでくる。
皮膚は随分と高い温度を保っているのに、捉えた舌はひんやりしている。
すばらしく繊細な味覚を保持する料理人の口腔内を隅々まで舐め上げる。途端、サンジの喉が悲鳴のような音を立てた。
頭がぼうっとしてくる。
酔いばかりではない。劣情が全身を駆け巡り、ゾロが口の中を動き回れば顎下を通りぬけた感覚は、胸を通り抜けて真っ直ぐにサンジのペニスに血流を送りこんだ。
堪らない・・・・。
ゾロの固い掌が棹を擦り、荒れた指が敏感な先端ばかりを弄繰り回すのも。
濃厚な酒の味がする舌が動き回るのも。
ゾロの腕が背筋を痛いまでに抱き締めるのも。
全部が堪らなくイイ。
沸騰した頭が弾き出した単語はそれだけだった。
その思いを自覚すると同時に全身を駆け巡っていた熱は一気に一点へと集中していった。 怒涛の勢いで迫りあがる快楽に、若い性は呆気なく流され巻き込まれる。低い悲鳴を断続的に上げて、サンジは白濁とした熱を解き放った。
とろりとした蒼い視線がゾロを見上げ、吐精の最中に痙攣している脚を無理からに腰に絡めてくる。
「良い・・ぜ・・・」
挿れてぇんだろ。俺も欲しい。
強い力でゾロを引き寄せたコックは、ピアスの嵌る耳朶を舐めて囁きいてきた。
目の前が瞬間、真っ白になり、こめかみが劣情に激しく脈打った。ぞんざいに指で内部を広げ、その合間も待てないサンジがゾロのペニスを自ら宛がおうとする。狭い内部を切り開き、入りこんだサンジの中は、ひどく熱くて申し分なくキツイ。
自分から煽ってはみたものの、さすがに慣らしが足りなかったのだろう。浅い呼吸を繰り返しながら、ゾロの太さに感覚を馴染ませるサンジは辛そうにも、快感を耐えているようにも見えた。
じっと動かないで待っているゾロへ、やがて蒼い瞳がにやりと笑った。
「どう・・・・よ・・・?ヤロウ、の味は・・・よ・・」
「ああ、俺好みの締まり具合だ」
軽口を叩くサンジの頬を掌で撫で上げ、下品な台詞にどちらからともなく笑いが弾けた。動くつもりはなくても、ゾロの笑いの振動がサンジの中を擦り上げ、切なげな声を放ちながらも、笑いだけは途切れない。
喉の奥でまだ笑いながら、サンジはゾロに頷きを返した。
「いいぜ・・・・動け・・よ・・・」
それを合図に、ゾロは上体を倒し、ゆっくり腰を使いながら何度目か分からなくなったキスをまたサンジと交した。
その翌日、昨日の記憶に蒼褪め、どうしようかとおろおろする男達の姿が見られた。
自分たちでは既に酔いが覚めているつもりだったらしいが、あの行動は酔っ払いの無鉄砲と変わらない。二日酔いと尻の痛さに起き上がれず唸るサンジの隣では、肩をがっくり落として頭を抱えるゾロがいた。
どちらもが自己嫌悪に陥り、己が犯した過ちに何故の言葉ばかりを繰り返していた。
彼らが悩める期間、船上は驚くほどに静かで、不気味なまでに平和であったという。
だが、そんな殊勝さが長持ちするはずがない。
それから更に一週間後には、二人そろって見事に復活した。
したもんは仕方ない。気持良かったし、嫌じゃなかったんだからそれでイイじゃないか。
開き直ってみた。
どうしてキスをした上に、セックスにまで縺れ込んでしまったのか。考えても結果は同じだ。
ヤッテしまったんだ。妊娠もしなかったし、問題なんてない。
なにより、これまで経験のない素晴らしいセックスができたし、その相手は常に自分の側にいる。今後の性生活の不自由さがなくなれば、船上生活は更に快適なものとなっていく。
どちらもが同じ結論に達した。
悩むことをしない単純な二人は、相手に魅了されている自覚もなかった。海の上の欲求不満がガス爆発したくらいにしか受け止めていない。そして常識から外れまくった二人の男たちは、それ以降も身体の関係を続けていた。
馬鹿に付ける薬はねえ。
どう見ても恋人同士のアイコンタクトを取り合うゾロとサンジを遠目にしながら、ウソップは彼らが日々、バカップルの様相を呈してきているのを本人たちよりも早くに実感していた。
自覚を早く持ってほしい。それだけを願った。
( お前ら・・・・羞恥心ってもんを知れ!!)
ウソップの嘆きも知らない男達は、目と目で会話を交し、いそいそと物陰へと移動していく。
外見と経験だけが大人で、恋愛にはまったく初心な二人の関係は、始まったばかりだった。
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