サンジの午前中はかなり、しんどい。
 乗員人数の二倍分の食事を三度三度作りながら、合間には午前中には軽く、午後には本格的な一日二度のティータイム。ルフィ専用には三度の食事と二度のおやつのほかに、あと二回の食事。揚句、夜中に出没する欠食児童の対抗策に就寝前にも軽い食事を出すのも忘れない。

 それらの準備の殆どは、午前中に全て集中して行われる。
 狭いキッチンを目まぐるしく動き回る傍らでは、飲み物を提供してやったり。ルフィ以外の時間外の空腹の訴えにも、摘めるものを与えたりしている。早朝から開始されるそれら一連の仕事は、午後の日差しが少しだけ和らいだ頃に、漸く休憩になる。
 そんなハードなスケジュールで、GM号のキッチンは運営されている。
 サンジがキッチンから出てくるまでの数時間は、包丁を使うリズミカルな音と鍋が高く鳴る音が常に聞こえるし、料理やお菓子の匂いが途切れることは無い。

 
 ゾロの一日はマイペースで終わっている。
 船外に出れば迷子になれる男は、たまに馴染んだ狭い船の中でも、とんちんかんな方向へ足を踏み出しては方向転換をしていた。言われれば、船での用事はそれなりに手伝うのだが、基本的に無駄なところで動きのロスするゾロは使えない。
 重たいものを持ち上げたり、移動させたりは安心して任せられるが、デリカシーには僅かに掛ける。繊細な物事に使うには適していない。
 一度だけウソップの手伝いで、金槌を振るったことがあったのだが、打ちつける板ごと床をぶち抜いてしまい、被害を余計に拡大した過去がある。
 以来、彼は戦闘のときが一番有効活用できることを誰もが疑わなくなり、ゾロはルフィと同じくらいに自由な時間が多くある。鍛錬と休息がこの剣士の最大の仕事であった。

 
 粗方の食材の下準備を済ませたサンジは、その日も早朝から午前中いっぱい、よく働いた。
 今日は意外にも早く昼のキッチンでの戦闘も終了した。
 珍しく久しぶりに、午後に供するお茶の時間までは自由になれる。
 外の空気を吸いに出たついでに、今夜のメニューに使う穀類を取りに倉庫へと向かった。キッチンから倉庫までの甲板には、ゾロの姿はどこにもなかった。見張りのシフトでは、まだゾロの順番は回ってこない。鍛錬をしていないなら、どこぞで眠っているだろう男をなんとなく捜してしまうのは、もはやサンジの本能と呼べる。
 サンジは忙しく立ち働いているのに、ゾロが休んでいるのを見ると構いたくなる悪癖は、この船に乗ってから身に付けた。
 子供のときから、他人が和む時間に働く生活ばかりを送ってきたので、GM号に乗ってからも、自分が料理の仕込みをしている時間に、仲間達が楽しそうに談笑していたりしても別段気にはならない。
 それなのに、ゾロにはどうしても絡みたい。ちょっとばかりホモな遊びもしてみたい。
 ゾロに絡むのは、捻じ曲がったサンジの裏返った愛情だ。
 朴念仁の剣士を突付いて煽り、軽く理性を突き抜けるのはサンジの日課にもなっている。

 通り道にいれば、寝こけている男の足でも踏んづけて倉庫へ行こうと思ったのだが仕方ない。
 わざわざ探すのも面倒で、大方、後甲板かみかん畑だろう予測をつけてドアを開いたサンジは、そこに目当ての男を見つけてにやりとした。
 ココにいやがったのか。満面に意地の悪い笑いが口元から広がった。
 屋内で眠るとは、ゾロにしては珍しい。
 日差しは確かに少々強いが、彼の眠りを妨げるほど威力はない。植物で作られているような頭に太陽光線を浴びてエネルギーを蓄えるゾロが、こんな場所で眠っていて大丈夫なのかとすら本気で思う。

   植物ってのは光合成で力を溜めるんだぞ。

 失礼極まりないサンジだ。
 だが、眠っていても気配だけは獣並に捕らえる男は、サンジがドアを開いても寝息ひとつ乱れなかった。自分が内包した相手には、警戒心の欠片も抱いていない証拠だ。それが可笑しかった。
 見知らぬ人物には微かな音すら逃さぬ男が。気配ひとつでも鋭敏に捕らえるあのゾロが。
 さも気持ちよさそうに眠っていて、蹴り起こされたり殴られたりしなければ目覚めないのは、彼の偽りない信頼と胸中が露にされているようで、つい嬉しくなってしまう。
「こんなところに隠れていやがったか」
 唇にぶら下げたタバコを吹かし、サンジは倉庫の片隅で眠るゾロの前にしゃがみこんだ。
 小さな鼾までかいて眠る男は、とてつもなく幸せそうだ。人が忙しく働いているのに、微塵も悪いとは思っていないのだろう。
 ま、別にイイけどね。バカだし。

 自分達はきっちり役割が分かれている。
 既にテリトリーと言っても過言でないほど、持分は各自に自然に分担されている。各自の持ち場に責任を持つことは、航海でなくても当然だと思うし、サンジも誰かに料理を手伝ってもらおうとは考えない。
 その前にゾロやルフィには手伝って欲しくない。不器用なゾロとルフィに出来るのは、良くて皿洗い程度であるが、船長はそれすらも満足にできないゾロよりぶきっちょなヤツである。
 生クリームを泡立てさせれば片やバターを生成し、片やボウルを手渡した時点で胃袋に消している。そんな二人に手伝わせるなど、恐ろしくて、断りたくなるのは当然であった。

 しかし、こうも気持ちよく眠っているのを見ると邪魔したくなる。
 いきなり殴り倒してもいいし、蹴りつけるのも楽しい。痛みに飛び起きる瞬間のゾロの顔は、魔獣と呼ばれる男とは思えないほど間抜けで一見の価値がある。
 何より、びっくりしたゾロの顔は可愛い。セックスではケモノで、日常生活は動物なゾロのくせに、そんなときばかりは人間くさい。サンジだと分かった途端、剣呑になる目と顔にぞくぞくする。
 さて、どうやって起こしてやろうか。
 少しばかり危ない考えに浸りながら、取り合えず緑の頭を軽く小突いてみる。反応はない。
「おいおい、緊張感の欠片も無いやつだな」
 薄く口元を開いて眠る剣士に、警戒はない。完全に和んでいる姿は微笑ましい。
 口では悪し様に言うものの、ゾロの寝顔を見詰めるサンジの表情は穏やかだ。
 いつもの皮肉めいた色もなく、倉庫の隙間から入りこんだ日の光を柔らかに跳ねる蒼い瞳は静かに剣士へと注がれている。

 消えてたタバコを床へ捨てた。
 サンジはゾロの頭を小突いていた指を、短い頭髪へと絡みつかせた。
「ゾロ、起きろ」
 起こしたいのか、眠らせておきたいのか。
 自分でも判別がつかぬ意思に添って、呼ぶ声は低く小さい。頭髪を絡め取る指も優しく、熱いと感じる地肌を撫でていた。ゆっくりと呼吸を繰り返すゾロの胸が上下する動きがとても平和的だ。
 ここにいるのは、柔らかな曲線を持つ女ではない。
 どんなに強い女であっても、守ってやりたいとサンジに思わせるものがあるが、この男に関しては、そんな言葉は必要などない。自分の身は自分で守れるだけの強靭さがあり、夢に向かうには己が成さねばならぬことを、ゾロはしっかりと見据えている。
 傍観してやることはできても、手助けしてやる物事などゾロにはひとつも無いだろう。
 そしてゾロもそんな陳腐な感情など望んではいない。
 その潔さがサンジは好きだった。
 直ッ向な姿勢があまりに一本気でゾロらしくて。愛しさを覚えずにいられない。
 見返りなど求めもせず、自分が遣りたいと思ったから行動して、結果、それで周囲が助かることがあっても、ゾロは自分がすっきりすればそれで良い。うざったい何もかもを取っ払って、最終的には自分が満足できればそれでいい。面倒なことが苦手なゾロらしい考え方だ。
 長く保つには辛い体勢を解いて、床にぺったり座りこむ。
 飽きもせずにゾロの頭や頬をなぞり、分厚い肩を撫でまわした。掌に感じる体温が奇妙に心地良くて、癖になりそうだ。
「ゾロ」
 何度目になるのか分からない一方的な呼び掛けで、相手が動かないのを良いことに、好き勝手に手を滑らせていく。
 常人の倍はある逞しい肩から続く上腕を伝い落ち、剣を軽々と振る長い腕から、投げ出されている手へと指を走らせていた。

 この部分は煮ても食えそうもないとか。
 熱い掌が固い割に気持ちいいとか。
 弛緩していても触れる筋肉がセクシーだとか。

 ホモチックな方向へ迷走しながら、剣を握る指まで到達してそこから離れようとした。
 そのとき、不用意に手首が眠っていた男の指に掴み取られた。
 驚いて反射的に引きぬこうと動作したが、サンジよりも僅かに早くゾロの手はコックの長い指を手繰り寄せ、浮かし掛けた身体も同時に固い胸元へと引き摺りこまれた。

「うるせぇぞ」
 しばし何が起こったのか分からない。声を発するゾロをぽかんとして見上げる。
 首を仰け反るようするものだから、金髪が零れ落ちて蒼い双眸が露になっていた。
「起きて・・・・たのか?」
「オマエ、俺を何だと思ってる」
「寝腐れミドリハゲ」
 即答された。聞かなきゃ良かったと思う。
 反射的にゾロの眉間に皺が寄るが、暴言を吐いたコックはけろりとしたものだ。
  「どうせ、もうすぐ起きるタイミングだったんだろ。俺が触ったくらいで目が覚める神経を、てめぇが持っているわけがねえ」
 何が可笑しいのかケタケタ笑うサンジに、瞬間、殺意が湧く。
 膨れ上がる剣呑な空気を肌で感じ取っていながら、それでもサンジの笑いは一向に衰えもしないなら、掴み取られた手や身体を取り返そうともしない。なんとなく、体の良いソファ代わりになっている状態だ。
「休憩か」
 目が覚めた原因がサンジだと言い返しても。目覚めるまでサンジに気付かなかったゾロの言葉はかなり信憑性が薄い。
 自覚はある。あったが負けたみたいで素直には肯定しない。
 ゾロは早々にその辺りの会話を切り替え、サンジがここにいる理由を尋ねていた。

 当然、下心は見え見えだ。

「そそ、やっと終わった」
 ゾロの目の色が変化する。囲む空気の温度も匂いも微妙に変わった。
 その反応に満足なサンジは、もそもそと身体の位置を納まりの良い場所に動かす。
「ナミさんのお茶の時間まで、フリーだぜ?」
 あからさまな誘いに、ケモノスイッチが入ったゾロのモードが全開になる。
 ゾロを振り仰ぎ、仰け反る喉もとの皮膚は白くて薄い。めちゃくちゃ美味そうだ。
「喰わせろ・・・・・」
 獰猛な笑みで剣士の口元がめくれ上がる。低い唸りが降ってくると同時に、晒した喉元にがっぷり食いつかれた。
「うおっ・・・!て、てめぇ!!」
 跳ねる身体が、がっちり固定された。
 てきぱきとベルトを外し、身を捩った隙間から手が差しこまれる。キツク吸い上げられた性感帯に声が漏れそうになり、罵倒しようとした台詞は慌てて呑みこまれた。
 瞬時にサンジを追いこめた状況に満足して、ゾロは強引に寛げたフロントに潜りこませた手を下着に掻い潜らせた。サンジのペニスは手先で探り当てる合間にたちまちに硬度を増して、ゾロの手の中で主張を開始した。
「噛、み付くんじゃ・・・・ねぇ・・・ッ!」
「腹、減ってんだ。いいじゃねえか」
「こ・・・の・・・んっぁ・・・アホっ・・・・あっあッ・・」
 軽く掌をスライドさせ、前屈みになるサンジの上体を無理に起こして言えば、強気に返された。
 
 かち合う蒼い目は研ぎ澄まされた刃物のように鋭い。ぎらぎら光を放ち、艶っぽく見える。
 組み敷いてもサンジの目は決して屈しない。強い力を湛えた瞳は充分に雄の匂いがして、強烈に男としての性を感じさせる。それが逆にひどくセクシュアリティでゾロの好みだった。

 こんな目をした男は滅多といない。こんなにゾロを執着させる人物もいない。

 夜であれば、もう少し時間をかけて言葉の報酬も楽しめるのだが、まだ仕事が残っている。
 あまり無茶もさせられない。一度だけで満足できるほど、ゾロの性欲は薄くない。少しばかりのつまみ食いで今は終わらせて、本格的な食事はゆっくりとしたい。
 考えが伝わったのか、床にゾロごと伸びたサンジは下半身を嬲られながら、唇をゆっくりとゾロのペニスへと寄せてきた。味見でもするように、料理人の舌先が先走りの液を舐める。そのまま、ずるずると喉の奥へとデカイものを飲み込んだ。
 半端に服を脱がし合い、必要な部分だけを取り出しての触れ合いは、セックスには程遠いが気持ち良いものであった。
 ゾロのぬめる舌が形をなぞり、先端の窪みを掬い取られて上がりそうになる悲鳴を慌てて呑みこむ。覆い被さるゾロの胴体の厚さが妙に安心できて、口腔に差しこまれる性器を指と舌で締め付けると同じように刺激された。
 ほんの少し、夜まで待てない劣情を誤魔化す手段だ。
 焦らすのはナシで、だが手は抜かず。
 無謀に快楽だけを貪欲に追い掛ける。
 そんなふうにして、熱情を吐き出して気怠い甘さを腰の奥に蟠らせて夜まで過すのも、また一興だった。自分達は何度もこんな悪ふざけをしている。それについての善悪の観念はサンジにもゾロにも無い。

 欲しいものは手に入れたいし、気持ち良いことは楽しい。
 素直と言えば、これほど自分に素直な感覚はない。

   余裕のない喘ぎがひっきりなしに零れ落ち、濡れた卑猥な音が薄暗い倉庫に満ちていた。どうにもホモくさい空気が濃密になる中で、切羽詰った体が燃え盛るように熱かった。
 あと少しでゾロが弾ける。それよりも先に自分のほうが持たないかもしれない。
 力比べをしているようだ。どっちが先にイクか。
 男だから女みたいに絶頂が分かりにくいことがない。浮き上がる太い筋がどくりとする。
「ンッ・・・く・・あ・・・・」
 腰が持ちあがり、ゾロへ自分から差し出した身体が強く抱き篭められる。
 どうしようもない気持ちよさから逃れたくて閉じ掛けた太股が、ゾロの頭を挟み込んだ。
 余計に刺激を拾ってしまった。
 失敗したと思う間もなく、更に鋭い喜悦が背筋を走り抜ける。目も眩むような瞬間がもう少しで遣ってくる。覚悟を決めるしかない。
 うっとりとして全感覚を流れに委ねようとしたその刹那、唐突に甲板がざわめいた。
 不穏な空気が倉庫へと入りこみ、その違和感に二人は動きを即座に停止した。
 
「敵襲だ!!」
 
 狙い済ましたようなタイミングで、見張りをしていたチョッパーの叫びが飛びこんでくる。
 叫びが頭の中で意味を成すより先に、ゾロがサンジの上から飛び降り、組み敷かれていた男が素早く立ちあがった。
 そろって倉庫から出れば、沖合いから海軍マークの高速船がぐんぐん近づいている。
「ちっ・・・無粋なヤツだぜ」
 ネクタイできっちり襟元を合わせ、上着のポケットからタバコを取り出したサンジに、ゾロは目線だけで同意を伝えた。  欲求不満が全身に行き渡っている。イイところを邪魔されて、股間はゾロに同調して大暴れしたがっている。サンジでないと鎮められない。
「・・・・・・」
 黙っているのにゾロの全身から、殺気なんだか欲情なんだか。分からない熱が漂ってる。
「おい、敵相手に勃てんじゃねえぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「黙るんじゃねえ!そんな目もするんじゃねえ!さっさと小さくしとけ!!」
「俺のは小さくねえぞ」
 そりゃ知ってる。たしかに小さくはねえわな。
 しかも、常に腹を減らせてる。
「俺のだって小さくねえ」
「さっき咥えたから知ってんぜ?」
 言ってやると、ケモノなホモ剣士の熱が上昇した。
 あっさりエロくさい台詞をゾロに貰う。
 やっぱりヤりたい。ゾロに突っ込まれて擦ってほしい。とてもつまみ食いじゃたりやしない。
 全部を丸ごと喰らいたい。

  「まあ・・・温存しておけ。どうせ、この分じゃあ午後のティータイムなんてやってらんねぇし」
 タバコをふかし、サンジはにんまり笑った。
 とりあえずは目の前の敵に八つ当たりだ。その後はバスルームに二人して直行しかない。
 ちょっとスッキリしたら晩飯を作り。ゾロと本格的に絡み合おう。
「へっ・・・今晩こそ腰が立たなくしてやる」
「できるもんならやってみろ」
 ちょっとばかり性欲魔獣の回路が開かれた。二人の周りがホモっぽい空気になる。
 ズボンの上からでも立ち上がったモンの形が分かる。
 さっきまで・・・アレで遊んでいたんだよなあ。しみじみ思ってしまった。
 隣の相手と見詰め合った二匹のケダモノには、いかにもヘボイ海軍は見えてない。このまま放置しておけば、きっと速攻でケツ合しそうだ。もしかしたら、戦闘中でもヤりかねない。
「どーでもいいけど、あんたたち」
 不穏なドドメ色な二人の濃密空間に、ナミはさっくりぱっかり切り込んだ。
「ウソップのほうがデカイわよ」

 

 その日、ルフィ海賊団の二人の戦闘員は、妙に殺気立っていた。
 そして後日、海軍本部に届けられた連絡では、彼らが揃って合言葉のように同じフレーズを繰り返していたと記されていた。
『デカさじゃねぜ!』
『大事なのはテクニックだ!!』

 本日も、素晴らしいホモ日和だ。




 

end


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