ゾロは仏頂面でもって、酔っ払いのサンジの相手をしていた。
 どうしてこうなっているのかなんて、気紛れでお調子もののサンジでないと分からない。とりあえず、最大限に譲歩してやるとすれば。

 サンジは誰かに話を聞いてもらいたい。
 切々と胸の内側を訴えたい。だが、分かってもらえるのはゾロしかいない。
 だから一人酒を楽しむゾロに、酔っ払ったサンジが絡んできた。

『下半身事情が報われない、エロでアホでバカなガキ』
 ゾロがサンジの相手になってやっているのは、サンジが聞けば切れること間違いなしの、そんな認識と譲歩と、糸ミミズほどの同情心が為せる技だった。
 それに “ゾロしかいない”状況というのも、なんだか悲しい。
 普段から喧嘩ばかりの自分たちだ。
 酒を飲むにしても、仲間たちがいないのなら二人は各自で勝手にする。
 つまみが欲しければ言えば作ってくれるだろうが。元々が酒さえあればいいゾロなので、敢えて所望したこともない。酒だけあればそれ以外は欲しくない。
 サンジも、ルフィ相手じゃあるまいしとばかりに、ゾロから言わない限りツマミなんてわざわざ作ったりしない。
 酒だけ飲ませておけば、腹だって膨れるだろ。朝飯抜きで大丈夫だな。
 朝食の人数にはゾロは頭から入れてない料理人だ。食糧事情が豊かだろうが。ゾロだけのために貴重な食料を使う頭なんてひとつもない。
 
 というわけで、同じ夜・同じ時間に酒瓶を確保していても、ゾロはサンジと酒を酌み交わしたりしたことなんてない。サンジがゾロと二人きりで酒宴を開いたなんて覚えも無い。
 今夜の状況は、奇跡に近い。あっていいはずが無い。一歩踏み込んだら戻れない、『あなたの知らない世界』だ。ゾロ個人としては『知りたくも無い世界』かもしれない。

 互いに顔を突き合せたら、出てくるのは酒や肴じゃあなく。蹴りと刀なのだから、普段から危険極まりない。アルコールなんて危険物を体内に入れているところで喧嘩になれば、床に穴が空く、マストが倒れる、船が沈む。
 将来的な危機は、できるかぎり避けるべきだ。
 船が沈むより先に、鉄拳を誇る航海士に瞬殺される。それだけは避けたい。
 戦闘になると少しばかりの恐怖心で人間に戻れるようだが、ナミはこの船で最強の腕力がある。殴られたら、細い腕に似合わずに痛い。非常に痛い。激痛だ。頭蓋骨が割れてしまう。
 誰にも逆らえない魔女の怒りだけは避けたい。
 なのに、コレだ。

 どうしてこうなるんだ?

 ゾロは酒瓶を片手に、魔獣にしてはへんに可愛らしいしぐさで小首を傾げて悩んでいる。
 きっかけは、ゾロが酒を取りにキッチンへ入ったことだ。
 こんな男と酒を飲もうなんてつもりは、さらさらなかった。
 時間と精神的な無駄遣いにしかならない。
 だからいつも通り、ひとりで酒を飲むためだけに、ゾロはサンジの様子も見ないで、酒のラックへ近づいた。
 なるべく目は合わさない。入ったら速攻で退避する。
 凶暴で気紛れコックのことだ。ナニがいつ飛んでくるかも分からない。
 そう思っているのに、サンジはラックから酒を抜き取るゾロの腹巻を引っ張って。

「テメェもソコで一緒に飲め。でもって俺を慰めてくれよぉーーー」
 涙目でうるうるされて、わんわん泣かれた。うんと言うまで腹巻も離してもらえずゾロは困る。
 取るはずだった酒ビンは大事にラックへ逆戻りさせて、ゾロは腹巻を取り返そうとしていた。
 必死になるのに、サンジはものともせずに腹巻にじゃれかかっている。完全にイッている。

 「溜まるんだよ、しょーじき溜まるんだよ!
 今朝なんて、俺はついに夢精なんてカッコ悪いことまでなっていた。おいおい、むせーだぜ。
 へこむ・・・マジへこむ。
 変声期を迎える前からお姉さまがたに遊んでもらっていた俺が!舌使いと指使いのプロ真っ青のテクニックだけでも数え切れないレディたちに、潮吹きさせた経歴を持つ俺が!腰を振らせりゃ一突きで絶頂まで導ける魅惑のちんこを持つ俺が!!!
 こともあろうか夢見て出しちまったなんて、カワイソすぎねえか。聴いてて、涙でてこねえかッ」

 あれから二時間。サンジはさらにワケが分からないアホになっていた。
 呑むなといっても呑むコックだ。それに、このサンジは珍しい。船の上では、翌朝が早いコックは深酒は禁物とばかりに、泥酔するほど呑んだりしない。物珍しさも手伝って、こんなアホは放置しておけばいいのに、律儀に耳を傾けている。
 それにしても、随分とご大層な台詞だ。
「だれか、魅惑だ・・・」
 ここぞとばかり思わず突っ込む。ぼそっとした低音で、聞き逃してしまいそうな声だったが、こと女と自分に関してのサンジは聴覚が動物並みに鋭い。がばあっ!!と揺れる上体を引き起こし、テーブルを乗り越えてゾロへと突っかかってきた。
「俺のちんこに決まってんだろーーーっ!!!!」
「やかましい!!耳元で主張するな!!」
「テメェこそうるせえ!!!そーゆーテメェはどうなんだよっ!夢精したこともなけりゃ、疼いて眠れねえなんてこともねえってのか!え?そーなのか?ちきしょーーっ!!俺ばっかりがこんな目にあうなんて理不尽きわまりねえ!!!」
 もはや理屈もへったくれもあったもんじゃない。どうしてソコへ話が行くのか、論法もクソもない。

 理不尽なのは俺だ・・・・・・。遠い目になってしみじみした。
 こんなバカ相手にしてやっている自分のいい人加減に、涙もちょちょぎれる。

「オラオラッ、テメェ聞いてやがるのか、コノヤロッ!俺はなあ、俺は・・・」
「はいはい、あああ、聞いてるきーてる・・って離せ、この阿呆!」
 襟首をがっしり掴まれて息が苦しい。
 もぎ離そうとしても、絡んだ指はしつこかった。
 腕力なら負けはしない。握力だってゾロのほうが上なのだが。
(どーして剥がれねえんだっ!!)
 焦った。いつもより今のサンジはアホがパワーアップしている。アホの執念は怪力剣士の力も跳ね返す。ちょっとばかり怖いかもしれない。
 至近距離から迫るサンジの目は、血走ってヤバイかんじだ。思わず後ろへ体をそらしたゾロの動きにあわせ、サンジがずりっと前へ出る。
「ゾロよぉ、ゾロぉーーー」
「鬱陶しい!!泣くな!鼻水くっつけんなーーーっ!」
「冷たいじゃねえか。同じ男同士で同い年なんだぞ。もうちっと優しくしてやろうって気になんねえ?」
 なってたまるか・・・!
 速攻で思ったが、えぐえぐするサンジはずいぶんと幼い。鼻の頭も目元も頬も真っ赤にして、自称いい男は顔中、ぐしゃぐしゃになっている。
 つい、ほだされた。
 こんな酔っ払ったアホなんて、放置しておくに限る。
 なのに、間抜けな顔が妙にゾロの保護欲をそそっていた。なんだかなぁ・・・って気分になる。
 気紛れを起こして、デカイ手でめちゃくちゃに乱れている金髪を触ってやると、蒼い目が真ん丸くなっていた。それがまた可笑しい。すっごい不細工で、これ以上望めないアホ面だ。
「なんて顔してやがる」
「ゾロ・・・?てめぇ大丈夫か?」
 自分から慰めろと言っておきながら、随分な台詞である。
 無責任な男に少しばかりムカッ腹が立ち、間抜けな顔をもっと間抜けにしてやりたくなった。
 頭をぽんぽん軽くいなし、大サービスとばかりにテーブルを越境しているサンジの体をこっち側へ引き寄せる。
 後から思うに、ゾロも自覚なしに酔っ払っていたのかもしれない。
 ワクなので酔う経験がないのだが、たぶんサンジに同情したのは、酔って思考回路が緩くなっていた所為だ。
 着やせする料理人の体は、存外に重い。
 人に筋肉がどうこう言う割りに、この男もかなり引き締まったいいガタイをしている。
 掴んだ上腕は発達した隆起がある。近くにした上半身も、ゾロほどではないが厚みがあった。
「うるっせぇヤツだな。優しくしてやってんだろーが!」
 なかなかコイツも鍛えていやがる。少しばかり見直した。ついでに、からかうには今のサンジはとても美味しい状態だ。ココにつけ込まずどこで突っ込む。それくらいに無防備すぎた。
 サンジからしたら、たぶんゾロの触り方はかなり乱雑なんだろうと思う。
 ごつい指は荒れていて乱暴に髪の毛の隙間に入り込んでいるし、力任せに引っ張った身体は、テーブルの角にずりずり擦られている。たぶんイタイ。いや、腹あたりは擦り傷になっている。
 ゾロとしても相手が痛みを感じている自覚はある。
 あったが、どうせサンジだ。どうでもいい。
「ゾロ・・・・・・・・」
 あんまり顔を見ていると笑いが止まらなくなりそうだったので、テーブルに完全に乗り上げた金色のヤンキー頭は片腕に抱きこんでおいた。残った手で、酒瓶を傾ける。これで酒が飲める。思った矢先、
「ゾロっ、ゾロッゾロ!!」
「うわああ、なんだなんだ、テメェ!!!!」
「サセてくれーーっ!!!」
 サンジがトチ狂った。
 いきなり両腕が首筋に絡みつき、抱えていた頭はちゅうちゅう肌に吸い付いてくる。
(いや、吸い付いてんのは頭じゃなくって、クチだ、クチ!)
 それどころじゃないのに、冷静にどこかで突っ込む自分がいる。この船に乗って突っ込み気質が染み付いてしまったのかもしれない。
「止せ!やめろ、サンジ!!」
「止めらんねえ、俺はオマエとヤル!」
「だから、するな!!吸い付くなーーっ!!」
 ヒルみたいに肌にくっつく唇の感触にぞわぞわした。
 ぶわっと腕まで鳥肌が立った。
 一生懸命に頭を引き剥がそうとするのだが、どうにも離れない。それどころか、全体重をゾロに掛けて傾いでいるサンジの所為で、反射的に背筋でもって支えようと踏ん張ってしまった。
 その間にも、酔っ払ってトチ狂ったサンジは、着実にゾロの頭のみを捕らえ舌を這わせてくる。
 ぬめぬめと首の筋から伝いあがった舌が、荒い呼吸と一緒になって喉元に到達し、顎先に噛み付かれた。
「いてっ・・・・・・・!サンジ、やめろって・・!」
「駄目だ、俺・・・・も、限界なんだよ、ゾロ」
「もうすぐ島につくじゃねえか!あと一週間の辛抱だろ!」
 暴走している列車に、各駅停車しろと言うようなものだ。
 サンジが止まるはずがない。懸命に伸び上がってくる両肩を押し戻すのに、首を捩り上体を捻った体勢では、どうにも力の入り具合が悪い。
「俺はテメェとヤりてぇんだ!一週間も待ってられるか、クソヤロウーーーッッ!!」
「逆切れすんじゃねえ!そこで開き直るな!」
「開きなおってねぇだろ!素直になっているだけじゃねえか」
「どこが素直だーーー!!!」
 怒鳴るゾロにサンジが覆いかぶさってきた。もともとが不安定な状態だったものだから、そのまんま後ろへ見事にひっくり返る。ベンチと二人分の人間が倒れる音が凄まじく上がったが、この船でそんな音に反応して飛んできてくれるヤツはいない。

 いつもの喧嘩だ。あ、そうか。
 それで片付けられるに決まっている。ゾロは自分の貞操は自分で守るしかない。

   衝撃でくらくらする意識は根性で引き戻した。ココで意識を失っている場合じゃない。そんなことになったら、コックの思うとおりに料理されてしまう。それだけは避けたい。避けたいのだが・・・・
「なんで離れてねえんだ!!」
「へっへっへ・・・逃がさねぇぜ、ゾロ。俺がすっげえ天国に連れて行ってやるからな」
「うおっ、て、テメェどこ触ってやがる!」
「ん?ココ?」
 ズボンの上から股間を弄る手が、ゾロのくたりとしたペニスの形をなぞる。
「誰が応えろって言った!離せぼけっ!」
「なんだ、口でして欲しいのかあ?それならそうと先に言えよ」
 へろんと笑ったサンジの顔は嬉しそうだった。さっきまでの鼻水と涙が残った顔で、だらしなく緩んだ笑いをする。
 あああ、脳みそがイってるアホには言葉が通じるわけなかったじゃねえか・・・・
 深く、深くゾロは脱力した。気力が一斉に萎えた。
 どうして、こんなことになっているんだか。
 頭痛までしてくる。床とモロに衝突した後頭部がずきずきしている。こぶでも絶対にできている。
 一瞬の気持ちの隙を女タラシのサンジが見逃すはずが無い。それまで押さえつけるばかりだった手が、甘ったるくゾロの頬に添えられた。虚脱したゾロが見上げたそこには、なんだか別人みたいに男の顔になっているサンジがいた。
 まだ涙の跡も残っているのに、とんでもなくゾロを見下ろす顔つきは大人びて、セクシーだった。
 深い瞳の色に呑まれる。
「ゾロ」
 そっとした囁きが繊細な音を孕んでいた。壊してはいけない、突っぱねてはいけない。そんな気持ちにさせられる、ひどく脆い音が声のあちらにある。本能的にその音に惹かれた。
 ナニをそんなに情けなくなっていやがる。
 言ってやろうかと思ったが、意外にもサンジの掌は心地よかった。見下ろしてくる相貌は嫌いな顔つきじゃない。真摯な色を滲ませて、じっと見つめられていると妙な気持ちになってきた。
 近づいてくる顔がどこへ到達するのか分かっていたが、止めようとしなかった。
 瞼は伏せないまま、唇が合わさった。確かめるようにして、小さなキスが繰り返される。頬にある手が大事そうに額を撫で、頭髪に埋もれ、耳まで包み込んでくる。
「んっ・・・・・・・・・」
「俺にさせてよ、なあ。絶対にアンタに嫌なことしないから」
「シテ・・んじゃねえか・・・・・・・・」
「もっとサセてって言ってんの」
 キスを嫌がらないゾロの唇の表面で、サンジの口元が反り返る形になった。

 酔っ払いの相手なんて、したくもない。
 バカでエロなコックの下半身事情なんてのも知りたくない。

 なのに、ふざけているんでもなく。
 嫌味や冗談にしてしまおうとするでもなく。
 触れてくる指や唇はやけに優しい。どこか真剣な空気を纏いつかせたサンジの目が、伏せた瞼のあちらに隠れていった。案外と長い睫の先が、小刻みに震えていて静かに泣いているようにさえ感じられた。
 戸惑っているのはサンジではないのか。疑問に感じるほど、緊張しながらもありったけでゾロに触れているようで、どうにも強く拒絶もできない。

 いつもの憎たらしいコックの顔だったらよかった。
 嫌味ばかり含ませている女ッタラシの口調なら突っぱねられた。

 それなのに、どうにも今のサンジはゾロから反発すら失わせる。
 ああ、負けたな。
 意識の端でそう思う自分がいる。

「下手だったら、ぶった斬るからな」
 ヤケクソで腕を回して引き寄せた。
 自分の馬鹿さ加減に腹が立ったが、たまにはマグロの気分も悪くない。開き直った。
 ゾロからの抱擁に目を見開いたサンジは、まだ僅かな弱気な目でいながら、どうにか皮肉っぽい笑い方をする。見慣れた男の笑いに何故かゾロは安心していた。
「癖になるぜ、俺の味はよ」
「ふん、言ってろ」
「ゾロ、そのまま口開いてろ」
 タバコの匂いが強くした。長い金色の髪が目元に降りかかってくる。反射的に目を閉じた瞼の上に、薄いサンジの顎鬚が当たりキスがそんなところにも落とされる。
 鼻梁を通り、頬に逸れ、やがて唇に戻ってくる湿った体温にゾロのほうが焦れた。
 潜り込む舌の動きは卑猥だった。粘膜の全部を舐め取ろうとしているのか、丹念にゾロの口腔内を犯していく。先ほどまでの切羽詰まった様子ではなく、全部でゾロを感じ取ろうとするかのようにサンジは動く。
 徹底的にマグロになったゾロの頬に唇を寄せ、柔らかく口付ける。放っておくと、それを良しと判断したのか、存外に大きく骨ばった手が体中を弄りだした。
 反応を外に出さないゾロの僅かな呼吸の乱れとか。食いしばった歯の動きからサンジは実に巧みに性感帯を拾い上げて刺激を寄越す。とんでもないほどセックスに手馴れている。
 抵抗もしないが協力もしてやらないゾロの身体から、衣服を取り去る手管は見事だった。布越しに愛撫が伸び、直接的な刺激が欲しい頃に服を脱がせる。焦れた肌に施される唇や指からの刺激に、知らずと息も声も漏れていた。
「サ・・・ンジッ・・・ぁ・あ・・」
「テメェのココ、すごいことになってんぜ」
 長い指の全てで濡れたペニスを擦り上げ、唇には片側の陰嚢を含み。時折にぬるりとアナルから上へと舐め上げられる。
「あっ・・あ・・・よせ、てめっ・・・ソレ・・・・・・・・」
 ぎちぎちに奥歯を噛み締める隙間から、ゾロは懸命に言葉を綴ろうとするが、マトモな音にはちっともなれない。猛烈な射精感が腰の奥から頭まで駆け上がってくる。
 敏感になっているペニスの先端が熱い粘膜に覆われ、別個の生き物みたいな舌がはちきれんばかりのそれに巻付いてくる。
「あ、あ・・・くっ・・・ああああっ」
 どうにも止められない絶頂に身体ごと掻っ攫われた。狂ったように熱が外へ外へと押しやられる。脳内が快楽で真っ白に弾けた。体内に滑り込む骨ばった指を無意識で締め上げ、凄まじい最高の波に乗って、ゾロはあっさりと流された。

 息が上がる。体中が心臓になったみたいに、動機が激しい。
 こんな感覚は何年ぶりだ。

 閉じた視野に影が差して、ゾロはうっすらと瞼を開いた。上着とネクタイは無くしているが、まだきっちりとシャツとスラックスを着けたサンジが、真上からゾロの顔を覗き込んでいる。目が合うと、心配そうな顔が、ほっ・・・・と安堵して笑う。
「だ、大丈夫か?」
 喉に絡まった声になんだか笑いが漏れて仕方ない。
 マグロになると決めていたのだが、まさか本当にマグロで終わらせられるとは思ってもみなかった。真下から見上げているので、いつも隠れているサンジの顔が全部見える。
 両目が露になったその顔は、ゾロが始めて見たサンジの表情だった。
 片側だけの目があるときより一段と内面の動きが掴みやすい。
 ナニを考えているのか分かり難い男だと思っていたが、こうやっていれば単純なヤツだった。

 笑った顔も、さっきまでの触れ方も。どうにも胸の底が疼くキスも。

 まったく、こうも顔に出されちゃ気付けないでいれねぇだろ。

 呆れて溜息が出てきそうだ。
 気付いてやれなかったことが可哀想になってくる。
 馬鹿な子ほど可愛いとは言うが。まさか自分がそのカテゴリーを持っているなんて。アホが感染したかもしれない。どっちにしても呆れてしまう。また息が漏れそうになって、あんまりにもサンジが心配そうにしているのでやめておく。

 だるい腕を伸ばし、サンジが気に入っているらしいシャツの両肩に手を置いた。
「大丈夫なわけねえだろ。このキチガイコックが」
 言い切りざまに、一気にシャツを両側から引き裂いて裸に毟る。
「なに・・・!」
 いきり立つサンジの罵りは、しかしあっさりゾロに封じられた。
 ごつい腕に首の後ろが捕らえられ、喚こうとしていた口に軽いキスがあった。驚いて固まり、数秒してからおずおず目線をやった先に、ゾロが笑っていた。
「阿呆が、カッコつけてるんじゃねえぞ。天国はどうしたよ」
「お・・・?」
「さっきので天国なんざ言うんじゃねえぞ。おら見せてみろよ」
「お・・・・おお、そら・・・イイ、けど」
 もぞもぞしながらも、サンジはひどく遠慮がちだった。

 まったく、とんでもないアホに惚れられてしまったらしい。
 とてつもなく優しい心根の相手に懐かれてしまっているらしい。

「本当に、イイのか?」
 ココまでしておいて聞く台詞か。聡いようで、差し出される気持ちに対しては鈍感な男だ。
 どんなになろうが、サンジ相手に苦労するのはこれで決定だ。
「さっさと次に行け」
 呟いてもう一度引き寄せた男の唇は、めちゃくちゃ嬉しそうな形にゆがんでいた。

 再びに始まった巧みな手の動きに合わせ、ゾロもサンジの身体に手を伸ばす。
 白い背中は予想していたよりも広かった。温かいビロードみたいな皮膚の感触は、癖になりそうな手触りのよさだ。
 なんで、こうなるんだろうな・・・・・ 
 頭の端を疑問が通り抜けていった。ゆっくりと気遣わしげに入り込んでくるサンジでいっぱいの身体には、取るに足らないかすかなものになる。
 限界まで身体を開かされ、少しでも動かされると火花みたいな閃光が瞼の裏や体中に散っていく。

 まあ、いいか―――
 薄まる視野で、サンジが満足そうに笑っていた。





 

end


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