このクソ馬鹿マリモは、強烈な照れ屋だ。 分かっちゃいたんだがな。まさか純情な恥かしがり屋さんだったとは・・・・。 それで誕生日を聞いても教えなかったってか? 笑えねえ・・・・・・・・・・。 存外にコイツが恥かしがりで、猛烈に照れるヤツだと分かったのは。なんのこっちゃねえ、昨日の夜だ。驚くよりも呆れた。呆れた直後には、あんまりの可愛さに力が抜けてった。 信じられねえヤツだな、おい。 たかが誕生日だろうが。ちっとした話のネタじゃねえの。 軽いノリで過ごすイベントを、コイツがあんまり隠すもんだから。俺だって意地になって最後は取っ組み合いまでして聞きだした。もっとも、あまりな答えに俺はまたもや切れて。 喧嘩はナミさんの愛の鉄槌を頂くまで続いた。 海のど真ん中で、愛しくもバカヤロウなアホの誕生日は、あと二時間も残っていたらいいほうだった。コレが切れずに居られるか。 今夜は早くに全部の仕事を切り上げて、あとはコイツとエロいことするだけだってえのに。 俺はずきずきする愛情を頭に感じて、またもやキッチンに逆戻りだ。 材料なんてそろえてねえが。デザートを作るストックはある。 ちきしょう、予定外の出資だぜ。 速攻でスポンジを焼き。生クリームをあわ立てしている俺の後ろで、ゾロは『忘れモンか?』なんて暢気に聞いていやがるし。 スポンジを落ち着かせるだけの余裕もないまんま。 一時間と少しで仕上げたケーキは右手に、ボトルラックで一番上等の酒は左手に引っつかみ。俺は、まったりキッチンのテーブルに懐いているゾロのケツを蹴り上げ倉庫へ追い込んだ。 なんて慌しいバースデーだ。 まったく分かってないよな、てめえはよ。 倉庫の床にどかんと置かれたケーキと酒を前にして。 『こりゃ、新しいツマミか?』 首を傾げて真剣に尋ねられた俺の立場ってのは、どこよ? まあ、てめえならケーキで酒が飲めるだろうよ。密かに激甘党だもんな。よだれでもたらしそうな顔つきで、そんなモンを見ているんじゃねえ。 それも・・・・仕方ねえか。 ゾロがケーキをワンホールごと自分のものに出来るチャンスなんて、無いに等しい。 『てめぇのバースデーだ。食っていいぞ』 そんなに嬉しそうにするんなら、どうして俺だけにでも言わねえかな。こっそりでも祝ってやれただろうが。もっと美味いモンだって用意しといてやれたのによ。 大口開けて、がっぷりケーキ本体に食いつく馬鹿を眺めつつ。俺は溜息を吐いていた。 そんな俺に気付いたのか。それとも俺の態度が悪かったのか。 ゾロは大好物から顔を上げて、大事そうにケーキを机の上に避難させた。 ずい、と筋肉質の身体が前に出る。 な、なんだかケモノみたいなんですけど?ついでに、その目はさっきまで生クリームに向けられていたのと同じ真剣さなんですがね、お客様? 『サンジ』 『おわっ!!!』 反射的に後退ろうと床を引っかいた足が、むんずと捕まった。 爛々と欲情しきったオトコの目をして、にんまりゾロが笑う。 『バースデーは食って、イイんだよな』 なんのことだ? おちゃらける暇もなかった。反論ひとつも出させてもらえず。 誕生日ってモンに何か多大な間違いの認識をしたゾロは、すっかり出来上がっている。 『お、おい、ゾロ?』 『イタダキマス』 はい、召し上がれ。 じゃなくってだな。確認しようとした俺にゾロの普段よりも熱くなった体が圧し掛かった。 押し込む舌の温度の高さと甘い味に、こっちの口の中まで蕩けていけば。若い俺達に自制なんてあるわけない。 たまらないキスと一緒に服を剥ぎ取り合って、全身の肌を重ねたい俺達の頭には。 ケーキも酒もバースデーも、欠片も残っちゃいなかった。 船の中じゃあ手加減するゾロは、その夜は陸に上がったときみたいに凄かった。 手探りする記憶にあるのは、気が触れたとしか思えない気持ちよさばかりだ。 身体の芯から蕩かされ、デカイ手が身体中の全部を辿っていった。零れる喘ぎまで舐め取られ、皮膚の奥底までゾロが染みていくようだった。 気持ちイイ感覚にどっぷり溺れ、身体の境目も分からなくなるようなセックスをした。 甘だるい重さが指の先まで埋め込まれてる感覚に、タバコを持つ手が震える。 隣には、非常に満足そうな顔つきで眠るゾロがいる。 久しぶりにゾロを堪能させられた。思いがけない夜になった。 鼻先で笑った俺の目の前で、タバコの煙がゆらりと狭いドアの隙間から入る気流に流される。 「ん?」 そのとき、流れる空気に乗って仄かな色が視野の端で舞い踊った。 近寄った床でくるくると落ち着く花びらは、キッチンに飾ってあったものだ。人の出入りがあるキッチンから流れた落ちた花びらは、甲板の片隅にでもあったのか。倉庫まで流されていたのか。 手にすれば、少しばかり萎れていても、その花は綺麗な色を湛えたままだ。 どんなに荒んだ道を歩いていても、いつも真っ直ぐに人を見ているゾロみたいに、その花びらは萎れていても色を褪せさせていなかった。こんなにも華奢で脆い存在なのに、綺麗なままだ。 剛健なゾロに、脆弱なんてものは一番似つかわしくないはずなのに。 俺はどうしてか、正反対の印象を持つものにゾロを重ね合わせずにいられない。 どうか、来年のこの日まで。 ゾロが純粋な魂のままでいられるよう。 願わずにいられなかった。 シーツを腰までずり下げて眠る筋肉質の男の身体を見ていると、守ってやりたくて堪らなくなる。 俺にしちゃあ随分と敬虔な気持ちになって。 掌から零した花は、綺麗なゾロに重なった。 無造作に飾られてゾロと花びらは、僅かばかりに鮮やかさを増していた。 煩いのか潜められた眉根にゾロらしさが残っていて、俺は笑わずにいられなかった。 END |
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