チキンラーメン(卵入り)と王将の餃子・中華丼・・・・・・
コレに杏仁豆腐かナタデココでもありゃあ、充分にチープコースだ。 「早く喰えよ」 半眼になってる俺に、ゾロが言う。 思わず目線を上げた俺に構わず、誰よりもでかくなったガキは、”いただきます”と両手をぱちんと合わせ。 わっしわっしとメシをカッ喰らう。 「おい」 「ん〜」 「おい、ゾロ!」 「ん」 聞いちゃいねえし。 湯と卵さえ入れりゃあ出来上がる、お手軽ラーメンに、レンジでチンした餃子。 具だけはサンジが作ったらしい中華丼。 だが、俺は知っている。この具にしても冷凍庫のやつをチンした具だ。 「ゾロ!!」 「ぁんだよ、うるせえな。喰わねえのかよ」 「喰うに決まってんだろ、コレは俺のだ!やらねえってのが聞こえねえのか!」 油断も隙もあったもんじゃねえ。 俺が何かを言うより前に、箸でもって皿を手前に引こうとしやがる。 慌ててラーメンに自分の箸を突っ込んで、俺は再度、ゾロを呼んだ。 ぎろ、と三白眼がコッチを見上げる。 こ・・・ココでビビってどうする!!俺はコイツがオシメをつけてる頃から知ってんだ。 14歳も下のガキに、脅されてたまるか!! 動悸がちょい激しい胸を宥め、俺は普通を装った。 「サンジはどうした」 「んー・・・」 途端、ゾロの目が泳ぐ。 ああ、どうやら。まぁたやっちまったらしい。 だいたい、俺が来たってのにサンジが出てこないあたりから、俺にはナニがあったのか見当がついてたんだ。 サンジは、オーディオとPCの配線工事を前から俺に頼んでた。 あいつも自分でもある程度はこなせるが、俺の芸術的配線には敵わねえ。 まあ、アイツは配線工を目指してたわけじゃねえし。 俺だって、趣味が高じてってやつで、その手のバイトをしたことがあるだけだが。 素人がやるよりゃ、ずっと見栄えも安全性も高い仕事はできる。 俺に仕事を頼んだはいいが、サンジと俺の休みはなかなかかち合わず、ようやくかち合った何度かはゾロにこうやって邪魔された。 ガキの頃からサンジに懐いてたゾロが、オランダから日本へ帰ってきてもう7年が経った。ちびだったゾロは、10年の歳月を経て、俺らの中でも群を抜いてデカくなり、ついでに神経もルフィクラスに逞しくなった。 ちなみに、ルフィのヤツは冒険だとか抜かして、今はアフリカにいる。 俺がよく世話になったエースは、南極だ。 国際色は豊かになっていくんだが、この3人の感覚は、すっかり日本人離れしすぎてて、俺としちゃあ疲れるときも多々ある。 オランダへ行く前に、サンジにプロポーズした齢4歳のガキの約束は。 サンジの胃炎で入院騒ぎやら、ゾロの大怪我やらの紆余曲折を経た末に、3年前にめでたくカップル成立となった。だが、結婚 ―――この単語についちゃ俺はいまだ馴染めねえ―――となると、カップル成立とは別の話らしく。俺らの前でも堂々としたいちゃつきぶりを発揮してた割りに、最後まで無駄な抵抗をかましてやがった。ま、その砦も強引なゾロと、性格が益々に破天荒になっていく兄弟の発破のおかげで、去年に突破され、晴れてヤツ等は夫婦(ぶふっ)になった。 まあ、サンジも本気で嫌がってたワケじゃねえし。 それについちゃあ、色々と相談されてた俺としても、こいつらがオランダで結婚をしたと聞いたときにゃあ、胸をなでおろしたモンだ。 なんせサンジのヤツは、落ち込むなら素直にひとりでヘコみゃあいいもんを、俺まで巻き添えにするからたちが悪い。 理不尽なヤツ絡みから開放された安心の中に、一抹の寂しさがあったりして。 俺は娘がまだ結婚から程遠い年齢なのに、花嫁の父親の気分まで経験させられちまったぜ。 そのまんま、アッチで暮らすのかと思いきや。一ヶ月もしねえうちに、帰国して日本で生活してるんだが・・・。 俺はゾロのヤツが、これほどに独占欲が強いとは知らなかった。 別に俺とサンジが、トクベツに仲がいいってわけじゃねえ。 単に、ゾロを知っているやつの中じゃあ、俺が一番、サンジにとっちゃ相談しやすい相手だった。それだけのことだ。 だが、ソレがゾロのお気に召さなかったらいし。 我侭独占大王は、結婚する前から俺とサンジが用事で会うってーと、機嫌を損ね駄々を捏ねる。 この年で。この凶悪な面構えで。 駄々を捏ねるかよ、ふつー。 考えろよ。寒いぞ、おめー。 だが、相手はサンジだ。アイツはアイツで、非常な常識人みたいだが、ゾロに関しちゃねじが相当に外れてる。歯車も配線も狂ってる。 でっかい猫みてぇに、サンジの膝に上半身を乗せ上げ眠るゾロに、アイツは顔中が緩んでた。頭もイかれてた。 サンジがそんな具合だから、ゾロは益々調子に乗りやがる。 俺には、サンジの現状が見てもないのに、はっきり分かる。 分かりすぎて、思わず頭の中が真っ白になった。 まあ、ナニがあったのか詳細までは知らないが。 昨日の夜に、ゾロは俺が来るってことを知った。よーやく、サンジの休みが取れたってのに、邪魔が入ると知って、こいつは大いに拗ねたことだろう。 その結果として、翌朝は動けないゲル状態のサンジが出来上がったのは確かだ。 王将餃子をゾロと奪い合い、丼メシと一緒に喰いながら。 俺はゾロの脚をテーブルの下で蹴った。 「おめえな、サンジの体力ってもんを考えてやれよ」 「うるせぇな。アイツは俺んだ」 お前、いまどき子供でも、そんなこと言わねえぞ。 アホか。人権って言葉、知ってるか? 丼がいい具合に空になったんで、俺はすかさずレンゲでゾロの頭を殴った。 「てぇっ!!!いってーなっ!!!」 「喚くな、サンジのヤツが起きんだろ。いいか、ゾロ。お前がサンジを独占したいってのは、我侭だって自覚はあるんかよ。アイツは確かにおめーがすきで好きで。ゾロ馬鹿って呼ばれるくらいのやつだがよ。それでも、アイツはアイツだけのもんで、おめーはアイツの許しがあってアイツを共用しているに過ぎねえ。アイツが受け入れなかったら、おめーがどんなに喚こうが、騒ごうが。これっぽっちも振り向きもししねえヤツだってことくらい、てめーが一番、知ってんだろ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「なんでソコで黙るんだ、おめーはョ。反論できねえんだったら、妙な勘ぐりはヤメロ」 「勘ぐってねえし。言われなくても、あいつが許してるからってのも分かってる」 「んじゃ、なんでこーなるんだ」 ぽつぽつ言うゾロに、俺は主のいないキッチンで両腕を広げてみせた。 本来なら、サンジがこの光景に加わって、テーブルにはそこそこの飯が並んでいるはずだ。お手軽中華コースが並ぶってのは、間違ってるだろ。 いや、俺はコレでもいいんだがな。問題はサンジが居ないってことだ。 ぐ、と言葉に詰ったゾロ坊やは、レンゲを銜えて上目遣いでコッチを見る。 でかくなったのは成りだけかい。おめー、ガキの頃のまんまな。そーすっとよ。 カチカチ前歯でレンゲの端をかみかみし、ゾロは今にも泣き出しそうな顔をする。 だからっ!! そーゆー顔をするんじゃねえ。 俺らは、サンジのことを『ゾロ馬鹿』とは呼んでたが、ゾロに弱かったのはサンジだけじゃねえ。赤ん坊の頃からのゾロを知っている連中は、サンジほど重症じゃねえにしても、全員がゾロにまいっていた。 青臭ぇガキの頃に植えつけられた父性本能は、今もって健在で、俺たちゃゾロのこの顔に弱い。 ゾロも分かってるのか、知らないのか。 判断はつかないが、天然ぶりは筋金入りだ。 はぁ〜と、思わずでっかい溜息が出るぜ。 立ち上がり、身体を伸ばした俺は、ゾロの頭をぽむぽむ叩いて、慰める。 「おめーが分かってるってのは確かだろーよ。ついでにサンジのことを大事に思ってるのも、充分に知ってる。ただな、ちっとだけ爆走しそうになったら手綱を緩めるくらいは覚えろ。な?ヤツだって人間だ」 「緩めたら、いいのか」 「まあ、おめーにだけ言っても仕方ねえけどな。こーなった原因はサンジにもあんだろ」 「・・・・・・・・・・・・・」 「いや、だから!!ソレをヤメロってーの!!」 言ってるそばからコレだ。 ゾロ、おめーの睨みは凶悪すぎだ。分かってんだろーな、ソレだけは!! 俺を睨んでどうする。まったく聞く耳ねえやつだ。 「誰もおめーからサンジを取り上げたりしねえし、間に割り込みたくもねえんだ。がっつかねえでも、アイツは離れたりしねえんだから。な?すこぉしだけ、労わってやれ。それでアイツは充分に感動してくれる。おめーの言うことなら、何でも聞いてくれんぞ・・・・・。だからいつまでも、無茶なガキでいねえでよ。もうちっと、サンジを寄り掛からせてやれるような男になっとけ。そうなったら、今以上にサンジはおめーに惚れてくれんぞ」 「ホントか」 「ホントだ。信じろ」 にま・・・。 ゾロは口元だけで笑った。危ない男になっていた。 俺のアドバイスは・・・・なんか違う方向へ捻じ曲げられてちまったらしい。 サンジ、すまねえ。 おめーの明日が、またもやゲル状生活になったとしても。 ソレは俺が悪いんじゃねえってことは覚えておいてくれ。 食い終わった皿をさり気に下げて、俺は工具を持って立ち上がった。 配線する部屋へ入っていく直前、ゾロを確認のために振り返ってみた俺は、心の中で何度もなんども、たったひとつきりのフレーズを延々と繰り返した。 俺は何も悪くねえ・・・・・・悪くねえ・・・・悪く・・・・・・ さくさくと配線済ませて、速効で帰るしねえな。あああ、いや、マズイ。 まっすぐ帰るなんざ、命知らずにもほどがある。今日はナミの実家に転がりこんで、日本に戻ってきたばっかりのエースを呼び出してもらおう。ついでに、ノジコも呼び出し。 俺のささやかな防波堤になってもらう。 ホモに対しちゃ、まったく偏見はねえ俺だが・・・・ この馬鹿どもだけには、付き合っていけねえ。さっさと逃亡して、バリケードを巡らせるが良策だぜ。 とりあえず、俺は仕事を1時間で完璧に仕上げることを目標に。 すべての力を注ぎ込んだ。 |