皆が寝静まった真夜中の男部屋で、ゾロはひとりでっかい背中を丸め、小さな明かりの下でちくちく針仕事に精を出していた。ごっつい手の中には、ゾロの風貌と比較すると気が狂うほどに可愛いキャンディピンクの布切れが、愛しく納まっている。
揺れる船の中で、丁寧に丁寧に、ゾロはちっこい布に針を刺す。
ひと針ひと針に愛を込めて、部屋の片隅で夜なべするゾロの後姿を見たチョッパーは、この世ならざる光景を見た恐怖で気絶した。
哀れなチョッパーの姿も目に入らず、一心不乱にごっつい男は針仕事に勤しんで、心を込めまくって新作を仕上げていく。
どんな怪談よりもホラービデオよりも恐怖を呼ぶゾロは、今日も出来上がった新しいパンツを愛しげに眺めた後、満足そうにサンジと自分の“共用引き出し”に、新作パンツをしまいこんだ。

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「ぬううう・・・・・・」
箪笥の前で、サンジは腕組みして唸った。
開いた引き出しの中は、男部屋には似つかわしくない華やかな彩があふれてる。ここのところ忙しく、ゆっくり引き出しの中身も見てなかった、というより、見てみぬ振りをしてきたんだが・・・・。
目にも鮮やかな色とりどりの引き出しに、ついに気付かずにはいられない状態となった。
何が起こっているのかを考えるのは愚かだ。なにせ、この“サンジ専用引き出し”を勝手に開けるのはゾロしかいない。

ひとの皿には容赦なくフォークを突っ込む船長ですら、他人の引き出しには興味もない。なのに、いっけん『お前ら勝手にしとけよ。俺には関係ない』の態度でいるゾロは、自分の引き出しがあるにも関わらず、サンジの引き出しを勝手に開けてパンツを拝借するだけでなく、いつの間にやら共用と認識までしてくれている。
「こりゃどうなってんだ・・・・」
極彩色の布切れたちから目を逸らした先にいるのは、ハンモックで爆睡しているゾロの派手な寝姿だ。今朝もゾロは大口を開いたスタイルで、があがあと眠ってる。
振り向いて寝顔を眺めてはみたが、彼の寝姿から情報を得ようなどは端からサンジも思ってない。ただ、ここんところのゾロはやけに熟睡度が深いのは確かだ。
むうう・・・・と眉間に皺を寄せ、しばし睨みつける顔つきでゾロを見ていたサンジの目に、ふと彼の枕元にある布袋が目に入った。

そのずた袋は、思い返す限りにおいて、ここ一ヶ月のあいだに出現したゾロの私物だ。
刀とバンダナ以外、私物らしい私物がないゾロにしては珍しいと、興味を抱いたことを覚えている。
いつもなら、興味は覚えても中身を見ようなど思わない。
だが、今回ばかりは気がかりになって仕方ない。

フリルやリボン、赤に青。オレンジ、レモンイエロー。白い絹やら革素材の下着が、ぎっしり詰め込まれた引き出しを元に戻し、ゾロのハンモックへ近づいた。

ゾロの枕元に大事に大事に置かれているのは、いっけん普通のキャンバス素材の布袋だ。そっと気配を殺して腕を伸ばしたが、ゾロは起きる様子も無い。
恐々と袋の口を開きのぞいた中にある布も、多少の華やかさはあるものの。やっぱり異常もない布切れだったが、問題は出所と使い道だ。
「いつの間に拾ったんだ」
サンジがまず見つけたのはネクタイだ。
戦闘でボロになったので、その場に捨ててきたはずだった。それがどうしてゾロの私物に入っているんだろう。首を捻りながらも、実は脳裏に先ほどの引き出しにあったパンツの柄に見覚えがあった理由に行き当たっている自分もいる。
その他にも、ナミやロビンが着ていた服の切れ端。ウソップが大事にしていたバンダナがある。女物に関しては、なにやら協力者がいるような気がしないでもない。やたらとレースや刺繍モノが多いのが気になる。
以前、ねじまき島でナミが着ていた純白の絹のドレスと、ロビンが昔に着用していた革の上着は、あちこち型紙で抜いた跡がある。

パンツの中に、絹と革のが・・・・・あったよな・・・・・・。
思い出しサンジはみたび、「ムムゥ・・・・・」と唸った。

誰が作っているのか、考えるのもいやだが。
ゾロの近くにある以上、これは未来の大剣豪さまの私物だ。
しかも・・・。
「ンだ、こりゃ!!」
ひっくり返したずた袋の際奥から何枚もの型紙と一緒に、非情に際どいパンツの出来上がり写真まで出てきたときには、朝方なのも忘れて叫び声になった。思わず心拍数が跳ね上がった。
紐とかヒモとかひもとか・・・・・・・
革製ヒモ・パンツとか!!

これを・・・・・履けと・・・・。

ゾロが履くのか、サンジが履くのか。
考えれば頭痛どころか、気が遠くなっていきながらも、胸の辺りはちょっとだけ淡い期待でほんわかしてた。
そうして、ついに回避していた記憶が、フィードバックを開始する。

ここんところ、自分のパンツ事情が変わってきているのには気付いてた。
ゾロはどうしてか、サンジのパンツを横取りするのが趣味だった。しかも、ふたり揃って戦闘では前に出るので、パンツの消耗も激しく布地が薄くなったり破れたりが続いてる。パンツ一枚にこだわりがあるでなし。
破れたら捨てていたので、あっという間に手持ちのパンツは枚数が片手で数えられるまでに減った。次の島で購入しよう。ゾロの分もいるからまとめてダース買いだと決めていたが、次の島ではログが溜まるのがめっぽう早く、食料と資材の補給をするのが精一杯で余計な買い物もできなかった。
まあ次があるさと自分を慰めしていたが、その頃から不思議なことに新しいパンツが増えてきた。

ゾロが、自分のパンツを横取りしただけでなく、ナミの総レースのパンティを拝借したことは記憶に新しい。
あのパンティは今もって行方不明だが、あのときナミは恐ろしい一言を言い放っていた。
サンジに履かせるのかと、ゾロに問い詰めたのだ。あの魔女は。
その一言で、サンジは次の島でパンツの購入を決めたのだが、ゾロは違う方角へ思考回路を飛ばしたらしい。
そういえば、この前、ウソップが自分が作ったマシンに電々虫の配線を取り付けてた。
これで世界中、どこにでもアクセスできる。データも落としてこれるんだぞと、見せてもらったが、忙しかったので適当に流していた。
そのマシンがあるのは、ウソップ第二工場、すなわち格納庫だ。
倉庫には毎日10回以上の出入りをしているサンジだが、格納庫は基本的に行く用がない。盲点だった。ゾロは、そこでウソップが作ったマシンを使い、パンツ作成の場所に行き当たったのだ。

最初に引き出しに入っていた新しいパンツは、普通のトランクスだった。
いつの間に買ったっけ?と少しは思ったが、あれば別にいいと深くも考えず持っていった。いまから考えるに、ゾロがこっそり入れておいてくれたんだろう。なるほど、その夜のゾロがやたらと機嫌が良かったのも頷ける。
だが、サンジは欠片も気付かなかった。
次に箪笥を開いたら、今度は白と黒、グレイのほかにペイズリー柄が入ってた。あれも使った。その次のドットもスマイルも、星柄も使った。
いい加減、その辺りで気付けばいいものを、サンジもサンジで忙しさにかまけて、ちょっとした疑問は投げていた。
なにせいままで使ったどのパンツより抜群に履き心地が良かったのだ。
一度つかったら、もう違うのなんて履けないくらい。ゾロが作った数々の作品は、サンジのケツにジャストフィットした。

あれは・・・・・
フィードバックから現在に脳みそを戻し、サンジは遠い目をした。
「あれは、愛だったんだなあ・・・」
そう、まさしく愛!
サンジの身体を隅々まで知り尽くしているゾロだからこそ、あれほど見事な傑作が生み出すことができたのだ。
いつもいつも、サンジはゾロの身体を作っているのは自分だと思っていた。強靭な剣士の肉体は、サンジが栄養バランスに気を遣い、たんぱく質にコラーゲン、ビタミン・ミネラル・カルシウム。ついでにたっぷりの愛まで注いで作り上げた至上の作品だ。
だが、そのサンジの身体を――主にケツを――守っていたのはゾロの愛だったわけだ。

歪みきった思考回路は五次元にジャンプしまくり、最後の最後には愛にたどり着く。
計り知れないアホウである。
しかし、アホウは阿呆なりに健気だった。あまりに阿呆も極めると、現実逃避のせいか可愛らしく見えたりするときもあるが・・・。まさにいまのサンジにとって、ゾロは力いっぱいに愛すべき存在となっていた。そして多分、アホウの極地にゾロと一緒に立つサンジも、ゾロのみにとって大事な存在だ。
少なくとも、眠るのが趣味と公認されている男が、大事な睡眠時間を削ってまで、黙ってパンツを作り続けてくれていたことは、サンジに大きな感動を与えていた。

床に落とした布を掻き集め、一枚いちまいを心をこめて折り畳み、綺麗にずた袋に直しこむ。最後の一枚を布にいれ、きゅっと袋の口を縛って元に戻しながら、サンジはゾロの寝顔をしみじみと見つめた。

どんな顔して作ってくれているんだろう。
思うだけで笑みがこぼれる。当然、そこでほのぼのとなれるのはサンジだからだ。
それ以外の連中ならば、ルフィを除く全員が全力でもって引いただろう。ルフィだけは、『それいいな。俺にも作ってくれよ』と羨んでくれるだろうが、ゾロは敬愛する船長の頼みだろうが、サンジのパンツほどの作品は生み出せない。

きっぱり言い切れる。
それが、愛の差だ。

サンジが近くでごそごそしているのに、ゾロはまったく目を覚ます気配もない。
敵襲があったり、不穏な動きを誰かがすれば飛び起きる男は、サンジに対しての警戒は皆無に等しい。
大口を開き、完全に熟眠する剣士の無防備さに胸が掻き毟られるような、激しい感情を味わった。
ハンモックへ身を屈め、眠る男の広いデコに、小さく口付けた。
そして、近づくゾロの誕生日に間に合うよう、いっちょ自分もゾロのためのパンツを作ってみるかと、迷惑千万な決心をしたのだった。

真っ赤な布地に黒いレースをちりばめた、見るのも履いた姿を想像するのも凶悪なパンツは、その後無事にゾロの誕生日の夜に手ずから渡された。
深夜のふたりきりの宴会に、セックス前のパンツの作成時間が設けられるようになるのは、もう少し後のことだった。



すんません。すんません。すんません・・・(以下エンドレス)
パンツ作成サイトを教えてもらった直後から、やりたかったんです。ごめんなさい。
しかし・・・これを誕生日SSを言い張ってしまうアタシが、一番にアホでしたーーっ(大汗)
サンジのように、見てみぬ振りして。スルーしてやってくださいまし<(土下座)


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