足首から再び流れ出す血は、中々止まらない。
出血よりも違うことで困惑するゾロの足元で、サンジは傷口を止血しながら盛大に喚いていた。

「クソッ垂れ!タダでさえ血の巡りが悪い頭だってぇのに・・・・。てめぇ、こりゃ完全に馬鹿になるな。俺が保証してやるんだから、間違いねえ」

かっちょよくも潔く。
思い切りに自分の足をばっさりしたゾロは、サンジがキッチンへ入った隙に、目を盗んで応急処置だけはしておいた。だが、傷口は未だに口を開いたままだ。
上からぎゅうぎゅうと包帯を巻きつけたので、一時的に止血はされているが、辺りが暗くなるほどに、じんわり血が滲み出してくるのが分かる。

こりゃヤバイ。バレるかもしんねぇ・・・・

内心の焦りと傷の痛みに背中に汗をたらしつつ、顔だけは涼しくふてぶてしく。
どうにか慌しい時間をやりすごしたゾロに報いるように、その夜は、昼の尋常でない騒ぎの為か、ナミを筆頭に全員が部屋へ引き上げるのが早かった。

サンジに見つからないで手当てするなら今の内だ。
ガキがしでかしたイタズラを親に隠れて始末するのと変わらない。
デカイ図体の男が動けば、それだけ目立つとは、自分サイズが標準のゾロに気付けるはずがない。

密林を歩く恐竜が足音に気を使っても、尾っぽで樹齢100年の大木を薙ぎ倒すようなもんだ。

とりあえずゾロとしてはかなり迅速に行動したつもりだった。
ナミたちが早々に引き上げた理由にも、気付けないゾロの間抜けさは愛すべき長所だ。
治療キットを一式持って、誰もが知ってる秘密基地へと隠れたつもりだった。

動物並に嗅覚に優れているサンジは、とっくにゾロの傷に気付いてた。
靴で隠してようが血の匂いまで隠せない。
皿を出してやるときに、ゾロの体温が微妙に上がっているのも感知できたし、ぷんぷんキッチンに漂う鉄臭さはけっこう濃厚だった。これで誤魔化せると思っているんだから、アホである。
靴を脱ぎ、さあ治療を始めるかと意気んだゾロは、きっちり縄にかかっていた。
倉庫のドアを開いたコックは、ふぅんと嫌な笑いをして見下してきた。
そして、硬直するゾロからキットを取り上げた男は、いま現在ゾロの傷の手当てをしている。
ごろ・・・と転がされたゾロの足元で、サンジは実に手際よく傷口を洗っていた。黙って手当てしてくれるなら『優しい』とか『心配してくれた』と思えるが、現実は違う。 

「ぱっくり割れちまってよぉ・・・、お前、この傷きっちり見てみたか?骨見えてんぞ、骨。こう、穴ぼこが空いちまってるみてぇでさ、なんかこっから出て来そうじゃねえ?なあなあ、どう思う?」

どう思う?なんて聞かれて、この場合答えられるものだろうか。
ゾロはテンションが高いサンジに、少々の疲れと猛烈な眠気を覚えずにはいられなかった。コレを人は現実逃避と言うのだが、ゾロの辞書にはその熟語は載っていない。
だから、これは逃げてるんじゃない。
眠いだけだ。
医者でもないくせに、サンジは貧血も起こさずゾロの傷を間近から観察して、馬鹿丁寧な説明までつけてくれる。実況中継として拝聴するには、あまりにグロテスクな内容だ。
はしゃいでいるサンジの頭の中を占める企みを知るゾロは、虚ろな目付きになってしまった。

本日の昼過ぎにゾロはミスター3に捕獲されてしまった。
乗せられた悪趣味な蝋燭のケーキは、ちっとも美味そうじゃなかった。
食べられもしないなら、甘い香りもしない。
醜悪で巨大な蝋燭ケーキは、しかしふざけた見た目と違って、恐ろしく強固な造りをしていた。
お子様用ケーキでもあるまいに、蝋燭で固めた人間を飾るシュールなデザインは、ホラーなお菓子としては受けるだろうが、マジパン代わりにされる当人たちからすれば、堪ったモノじゃない。
まあ、一応は助かったが・・・・・・・。

切り落とそうとした足首からの流血は、生半可には止まらなかった。
力が入り難い上に、角度も決して適しているとは言えない状態で、骨に達するほどバッサリ斬れるなんて、腕を上げたものだと自分で感心したのだが、その傷を見つけたサンジの表情は、ゾロだけに通じる嫌味たっぷりな機嫌のよさになっていた。

ナミにメロメロになっていても。
ビビにへらへらしていても。
巨人のオッサンたちを相手に会話をしていても。
船に戻って、オヤツを配り歩いていても。

サンジの顔にへばりついた笑いは、ちょっと・・・・どころか、かなりイってた。
挙句、ようやくお化け金魚から逃れたと思ったら、この騒ぎだ。
遠目からサンジに傷を見つかったのは諦めるとして。せめて傷口だけは見せないよう、自分で処理をしようと思ったのに・・・・。
物事は得てして思ったとおりには運ばない現実を噛み締める剣豪だった。

「ゾロ・・・てめぇ、なんでも捕まって、もう少しで死ぬところだったんだってなあ?」
漸く出血が少なくなり、サンジはゾロが前もって用意していた消毒薬を、たっぷりと塗布した。
容赦無く薬液を振り掛けられ、思わず奥歯をがっちり噛み締める。

コレが、仮にも恋人にする態度なのか。

言いたかったが、口を開けば無様な声が出そうで止めておく。
「で、こんなとこにオシャレな傷こさえて・・・チャームポイントのつもりかよ、アァ?」
散々に薬をぶちまけ、次には簡易医療キットから針と糸を取り出す。以前、ココナツ村の医師がゾロの傷のデカさとルフィたちの行動の無鉄砲さに危惧を抱き、こんなモンでも無いよりマシだろうとくれたものだ。
別段、戦闘で負傷しなくても、ルフィ海賊団の船では生傷は絶えない。
誰かがマストの天辺から落っこちて額を割ったり、転げ落ちてきた樽で指を詰めたり。包丁でざっくり指を切ってみたり。
縫い傷は日常のかすり傷程度に頻繁に見られる。
ヤクザな外見の医師がくれたコレは、それなりに役立っているので、島に降り立てば必ず不足分は補充されているのだった。
もっとも、ここまで派手な傷をこしらえたのは、ゾロしかいない。
せいぜい世話になっていたのは二針から三針程度の可愛い傷だが・・・・。

これは、両方合わせて糸が足りるのか?
解ける糸なら手間隙かからずラクだったが、傷口の縫合には、抜糸用のほうが適している。
足りなくなったら足りなくなったで、そこいらにある釣り糸でも使ってやりゃあいい。
なんだったら、料理人らしくタコ糸でも持ってくるか?

キットの中身と傷の具合を見比べながら、サンジはさくさく手を動かした。
いや、口のついでに手が動く。

「体が固てぇわ、不器用だわなてめぇが、踝の裏側が縫えるわけねぇだろ。それとも、脚取れるのか?そうなのか?クソジジイみてぇに、取ってみるか?んでもって、また嵌めるのか?それはそれで面白そうだな、おい」
くっちゃべるサンジの足元では、ゾロが床に冷凍マグロよろしく転がされ、縫い目があちら側になると足先で腹を押して転がされる。
相当に怒っている。いや、楽しんでいる。
サンジは自分が優位に立てる状況を、かけらも見逃さない非情な男だった。 
べらべらべらべら口を動かしつつ、手元もさくさく動いていく。実に器用だ。
ここまで、ぱっくり割れたら、痛みも局部的に痺れに変化している。ついでに、痛くってもゾロは何も言えない立場だ。

この手当てが終ったら、何が来るのかを充分に知っているだけに、下手な反論は避けるが賢いことを、口下手な剣士は知っている。
時々、ぐっさり刺さる針先に悪意を感じつつ、ゾロはとにかくサンジの口撃に耐えた。手当てされる痛みより、サンジの口の方がよっぽど痛い。耳の奥の方が傷口よりジンジン痛い。

「ふぅ〜ッ、終った。あああ、腰が痛てぇ・・・」
爺臭い台詞を吐きながら、立ちあがったコックは細い腰をとんとん拳で叩いている。ずっと俯いていたから首も痛いだろうが、そっちは仕事柄、気にならないらしい。
手当ての間、口にしなかったタバコを美味そうに吸い、ふーっと紫煙を細く吐き出す。その間に床に体を置きあがらせたゾロに、金髪の隙間から蒼い瞳を覗かせた。

口がにんまり笑っている。
尻から真っ黒な尖がり尻尾が生えている。
頭に角がある。

その顔つきは、朴念仁、鈍感と年中言われ通されているゾロであっても、良からぬことを考えていると知れるものだった。ついでに言うなら、ゾロは金色の頭の中に巡らされている企みが、何であるか知っている。

タバコをじっくり味わって、サンジはおもむろに上着を脱ぎ落とした。
ネクタイを外し、シャツを落とす。
これから着替えをするような、色気もない動作だった。しかし、光源がある場所でサンジの肌を見るのは、実に久し振りだった。
露になる肌にランプの影が踊る光景は、今のゾロには充分に官能的に見える。
するりと腕が袖から抜ける映像に、喉がごくりと鳴った。
やりたい盛りの19歳は、性欲がいつでもどこでも溜まるのだ。

「なあ、ゾロ?俺とたしか『約束』したよなあ?」
舐めるように肌を見詰めるゾロに、サンジはことさら綺麗に笑った。
ベルトのバックルを思わせぶりに握り締め、ゾロにちらりと壮絶な艶の篭った流し目をくれてやる。目の前の男が欲情しているのが手に取るように分かった。とても楽しい。

「てめぇがヤリてぇって言ったから、俺はちゃぁんと待っていてやったんだぜ?獲物も捕まえて、そんでもってテメェと落ち合う場所まで、きっちり行ってやったんだが、その間にテメェときたら、ナミさんとビビちゃんの二人と豪華なケーキの上でデートしてただと?」

いや、正確には捕まっていました・・・・。
ついでに言っていいなら、危うく死ぬトコでした・・・・。

心の中で訂正をいれてみる。ささやかなゾロの抵抗だ。
しかし、サンジの頭の中では、あくまでもゾロが両手に花だった状況だけが重要視されている。
座りこむゾロの膝の上にどっかりと腰を降ろし、サンジは自分の薄い唇を舌先で舐めてみせた。
ゾロのモノが尻の下で大きくなる。吐き出される呼気も心なしか荒い。
「サンジ・・・」
滅多に人前では呼ばない名をゾロは丁寧に口にした。
床に着いた両手の指が、固い木の表面を音を立てて掻く。
サンジの尻たぶに当たるゾロのものは、益々狂暴化している様子だ。

「でもって、殺されかけたんだって?」
料理人の器用な手が、己の白い喉元を覆い隠し、ゾロに見せつけて下へ下へと降りていく。
「それって1度は負けたに変わりねぇよな?」
煽られて野獣モードになりそうなゾロのピアスの近くに、サンジは口元を寄せて手酷い一言を囁く。サンジにもゾロの興奮は移っているらしく、肌は薄く上気し、刺激も受けていない乳首が尖っていた。
「俺と、前に約束したことは忘れちゃいねえだろうな」
柔らかな腹部を伝い落ちた料理人の手は、半ば勃ち上がりかけている己のペニスへと到達した。感じやすいサンジのそれは、ゾロの興奮を伝播しているだけで既にしっとりと濡れ始めている。濃いピンク色をした亀頭が、白い肌の中でひどく卑猥だった。
その先端をサンジの指先が、ゆっくりと擦る。
膝の上の身体が呼応して跳ね、薄い口元から微かな喘ぎ声が漏れた。蒼い瞳が、欲情するゾロの顏を面白そうに見下ろしていた。

敏感な部分を撫でるサンジの手は、眩暈を覚えるほどに扇情的だ。
官能的な喘ぎを早くも零す唇が、ゾロの頬に寄せられ、小さな舌が震えて肌を舐める。
その間も、いやらしい動きを繰り返す白い手は、猛るペニスを緩慢な動作で撫で擦っていた。そこから釘付けになった視線を引き剥がすこともできず、ゾロはサンジの指の動きを凝視する。
「ぁ・・・・ん・・・ンッ・・・・・・」
強請るようにサンジの唇が強くゾロの頬を擦る。甘えた歯がやんわりと肌を食み、舌の濡れた感触に、下腹部の熱が塊となって膨れ上がってくるのが分かる。

だが、ゾロはサンジに指一本も触れられない。

鷹の目との闘いに敗れたときに、ゾロは2度と負けないと誓った。
確かにそれ以降、ゾロは負け知らずで来ている。
今回の件にしても、結果的には死なずに戻って来ているから、ゾロが負けたとは言わないのではないか。
思うんだが、サンジにゾロの理論は通用しない。

『捕まって、死にかけた』のが気に入らない。
だから負けたも同然のサンジの言葉に、密かな納得をしてしまっているのも、強く反撃に出れない要因でもある。
皮膚を嬲るサンジの湿った息に、ゾロのペニスは凶悪に硬くなり、押し付けられる尻にもどかしさばかり味わった。
「あ・・・・ぁ・・・・ふっ・・・・・・・ゾ、ロ・・・っ・・・・」
堪えきれずサンジに腰を押し付けると、熱っぽく潤んだ瞳がゾロを睨みつけた。
肩を掴んでいる手が胸元に押し当てられ、そのまま背後へ倒される。
サンジはゾロの腹に跨り、偉そうに視線を引き降ろした。床にある剣士の手が、サンジの膝に延び掛ける動きに、人の悪い笑みを浮かべる。

ミホークに叩き斬られた傷が塞がった頃、サンジはゾロにある約束をさせた。
ゾロの手に先走りに濡れた指を絡みつかせ、サンジは身を屈めた。
興奮に歪むゾロの唇を、舐める。
「な、ぁ・・・お前、俺と約束・・・したろ・・・・」
その言葉に、舐めている唇が悔しげに歪む。
欲情にぎらつく双眸は、いっそ殺気にも似た波動を湛えていた。純粋な劣情だけを宿す双眸に、首筋から滑り落ちた寒気は尾骨の裏側にまで入りこんでいった。ゾロに視線だけで貫かれた。
「す・・・・っげ・・・・イイ・・・っぅあ・・・・・」
「覚えてろよ・・・・てめぇ・・・」
奥歯を噛み締めるゾロの声は、彼の限界を示してひしゃげていた。ゾロの上に跨って、サンジはゾロの指に痛いほど指を巻きつけ、ペニスを擦るピッチを早めていった。
水音がくちゅくちゅと倉庫内に満ち、零れる喘ぎは実に扇情的だ。

自分ひとりでスルときよりも、サンジは感じている。
腰をしきりにゾロの昂ぶりに押し付け、衣服越しに刺激を欲しがっているくせに、仕掛けた遊びを止めようとはしない。

ゾロが負けたら、ペナルティで三日はセックスはしない。
その期間、好きなだけサンジはゾロを煽る。

治療に専念しないゾロに、サンジはそう言って寄越したのは最初にセックスした夜だ。
あの時には、それなら、自分の命を粗末にするような真似をしたら、俺のペナルティを受けろと言い返した覚えがある。
ゾロは負けるつもりなんて毛頭ないし、サンジは自分を粗末にするつもりなんてない。
だから、馬鹿な約束をしてしまったのだが。
 
くそっ・・・・・するんじゃなかった!!
 
今ゾロは、猛烈な後悔真っ只中にいる。
だが、こんなサンジも中々お目に掛かれない。悶々とする股間の疼きは頭痛まで引き起こすのだが、爛れた頭は僅かな動きも逃さぬよう、サンジの艶姿を克明に記憶に刻むに忙しい。
「っゾ・・・・ロ・・・アアっ・・・あああ・・・んっ・・・」
サンジの喘ぎは益々もって艶っぽくなり、これも耳に何時までも残りそうだ。
いや、耳どころか脳みその端々にまで、きっちりインプットされてしまうに違いない!
三日もコレの連続なんて。
コレの連続なんて・・・・・・
連続で、コレ?

・・・・・・・・・・・・・・・・・むしろ、美味しいかもしれん!!!

思いなおすゾロは、やっぱり馬鹿だった。そして、
「あっ・・・あ・・・!!」
背を弓なりに反らせ、絶頂の階を上り詰めながら、ゾロに穿ってもらえない物足りなさに、サンジは早くももどかしさを感じていた。
衣服を隔てたところには、ゾロの太い楔があるのに入れられない。
硬い感触は、ゾロの熱の上がり具合をしっかりと伝えてくる。
この調子で三日を煽りつづけた末のセックスは、サンジがどんなに懇願しても終らないだろう。

うわ・・・それって、凄いイイじゃん!

ほわんと期待に体温を上げるサンジも、同様に馬鹿だった。
本能を丸出しにしているゾロの危険な視線に、快楽指数のメーターは振り切られていく。
四日目に期待を激しくする彼らは、その後『おいしいものは最初にガッツガッツ喰うに限る』ということを知るようになる。
三日後どころか、この翌日にはナミが熱を出し、さらにサンジの怪我やらなにやらで忙しくなるとは、アホなりにも可愛らしい2匹のケダモノが、このときに分かるはずもなかったのだった。



昔の原稿を見つけたんで、つなぎにアップしてみた・・・
もう空から降りてくるかもしれんって時期に、いまさらな足首ネタ。
おそっ!!!
と、自分でも思うけどな。
倉庫にあったんだから、仕方ないんだよ・・・と。
言い訳をしたいお年頃。
     


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