もうひとつの夜明け

239氏



「……おい、ちょっと待てよ」
 俯きがちに歩いていた俺は、突然声をかけられて身を強張らせた。
最近はこの町も一段と治安が悪い。マナの力がどうとか、そんな噂も聞いていた。
こんな裏通りを歩くなんて、いくら急いでいたとは言え迂闊だった。
「おい、待てってよ」
 しつこく追い縋られて足を止める。
まあ、いいだろう。その辺のゴロツキ相手ならば負けはしない。
そっと拳を固め、振り向いた。
「……何の用だ」
「へへへ、なんだ、やっぱりじゃねえか」
 そう言って、その浮浪者風の男は上目遣いに粘ついた視線を送る。
「忘れるたぁご挨拶な、旦那。それとも、シュミット坊やと言ったほうが――」
「――黙れ!」
 くそっ、つまらない奴に引っかかった。
確か、初等学校時代の同級生でガキ大将だった男。かすかにあの頃の面影はあるが、
今ではすっかり落ちぶれてこんなザマだ。
「何の用だ? 俺にはお前にゆすられる弱みもないはずだが」
 そいつはまた不気味に笑って揉み手で擦り寄ってくる。
「ここだけの話ですがよ、面白いものがあるんでさあ。
 いえ、たいした手間もお代もいらねえ。ただ秘密を守ってくだすればいいんで」
「興味ない。失せろ」
 冷たく拒んでまた歩き出そうとするが、俺の腕に縋り付いて放さない。
「つれねえなあ。むかし散々世話になった縁で呼ばせてもらったんですがねえ。
 正直な話ですがよ、あっしも客がいねえとボスに絞られるんでさ。
 んでも、このところの不景気で客は減るばかりだ。旦那、損はさせねえや」
「本当だな? 俺の身になにかあればお前も無事では済まんぞ?」
「参りやしたね、そこまで疑り深いとは。あっしらにも仁義はありやすよ。
 それでも信じられねえつぅんなら、もういい、引き止めて悪うやんした」
 なぜか、そう言われると却って気になってしまうのは人間の性だろうか。
とうとう承知して、誘われるままに薄汚いバラックの扉をくぐった。

               *

 民兵風の屈強な衛兵に目配せして中へ入ると、奴はあっという間にどこかへ消えた。
「へへっ、あとは適当に座って自分の目で確かめて下せえ。んじゃ、あっしはこの辺で」
 ひとまずさりげなく辺りの様子を窺って、どうにも雰囲気がおかしいと気付いた。
みな一様に目立たない格好をしているが、どことなく洗練された上品さを感じる。
「――はいはいはい、皆々様ようこそいらっしゃいませ! 今宵も掘り出し物が
 目白押しでござんすよ! そこの旦那、後ろ向いてちゃお宝は待ってくれやせんよ!」
 どっと笑声が起こって振り返ると、一段高くなった舞台の上で異国の商人らしき男が
半月刀を振り回している。自分が笑われていたことに気付くと、頭を掻きながら腰を下ろした。

「はいはい、それじゃあ今晩の最初の品物はこれだ! アルテナ産の魔法の鎧!
 もちろん盗りたてホヤホヤ! 性能は折り紙つきだよ! よし、千ルクからだ!」
 そうして、周囲の黒衣の男たちが、二千、三千と声を張り上げる。
(しまったな……違法マーケットに誘い込まれたか……)
 当然だが、違法である。ヤバさはブラックマーケットなんぞの比ではなく、一歩間違えば
首が飛ぶ。しかし世界情勢が大荒れの今、バイゼルの商魂逞しい商人どもはこうして一儲け
しようと必死なのだろう。そうして、同じくこの機会を利用してやろうと企む馬鹿どもは
いいカモになっているって、そんなところだろう。 
 だが、俺はそんなことはどうでもいい。世界がどうなろうとも、これまで通りに伝統ある
家柄を守って平々凡々と生きていくだけだ。……そう思っているうちにふとまどろんでしまい、
気付けば「競り」も終わりに近づいていた。
「さぁ、次はいよいよ最後のお宝でござい!
 ……なんと! この間ナバールのコソドロどもに盗られたローラントのお姫様だ!
 へへっ、もうちょっと歳を食ってりゃあっしがつまみ食いするんですがね、うししっ。
 なんと、無傷の新品未開封品だよっ! さぁさぁ、1億ルクから行ってみよう!!」
 下卑た口上とともに、まだ年端も行かないような少女が引っ張られてくる。
「い、一億……高すぎやせんかね!」
 どこかから声が掛かる。
俺は競りそっちのけで、すっかり怯え切って涙も枯れたような、その少女の哀れな姿に同情した。
(ローラントが……そうだったのか、ここのところ外出してなかったからな……)
「旦那、高いとはあんまりだ。この価値が分からないなら買わなくて結構!」
 すかさず、そりゃねえぜ、せっかくの上物なのに、などと溜息交じりの声が上がる。
この期に及んでも相変わらず俺は何も競り落としてはいなかったし、むしろとっとと逃げ出したかった。
まさか人間まで扱うとは……バイゼルも腐りきったものだ。反吐が出るわ。
「……ん!?」
 ふと、顔を上げた少女と眼が合ってしまった。……マズい、マズい。
うっ……お願いだ、そんな眼で見ないでくれ、俺には……。
「そこの旦那、とっとと決めてくださいよ! これを逃したら、この娘は明日にゃまたどこかに
 売り飛ばされるんだ、可哀想に、この歳で人生真っ暗か。
 いや、ワシらだって褒められたモンじゃねえがな、うわっはっはは!」
 またもやドッと笑いが沸き起こる。
くそっ、なにが可笑しい……畜生、この糞虫どもめ……! ええいっ!
「……一億。一億だな?」
 急に場内が静まり返った。周囲から、突き刺さるような視線を感じる。
「はいはい、一億、一億来たよぉ! 他には……もう一声ないかい!」
 確か、両親が俺に遺してくれた婚礼用の資金が一億。手付かずで残ってるはずだった。
親父、お袋……馬鹿な息子ですまん、許してくれ……!
「よし、売ったっ!! 
 お分かりだろうが、お代は3日以内にウェンデル銀行までキャッシュでな!
 はいはい、今回はここまで! 身ぐるみ剥がれないうちにとっととお帰りくだせえ!!」
 その声に皆が立ち上がり、再び場内が喧騒に包まれた。
さっそく競り落としたものの額を比べあっている愚かな戦争成金どもを尻目に、外へ出る。
冷たい朝の空気に眠気は消し飛んだが、心は少しも晴れなかった。

               *

 俺の婚礼が消し飛んだ。
後は、わずかな地代と家屋敷しか残っておらず、貴族に相応しい式など望むべくもない。
両親や先祖には申し訳ないことをしたが、不思議と後悔はしていなかった。
「さあ、上がって」
 遠慮してなかなか家にも上がろうとしない少女を、なかば無理やりに連れ込んだ。
そうして、先ほど受け取った鍵を使って手錠と足枷を外してやるが、その間も少女は
一言も口を利かない。
「参ったな……」
 何をしていいか分からない。ずっと一人っ子のまま馬齢を重ねた無力な自分が恨めしい。
「ええと、そうだ、さっき執事に女の子の服を買いに行かせたんだ。
 どうやらしばらく風呂にも入ってないようだし、まずは身体を綺麗にしておいで。
 それくらいは大丈夫だよね?」
 少女はなぜか怯えたように後ずさったが、やがて意を決したようにこくんと頷いた。
(どうして風呂に入るのくらいで怯えてるんだろう……ううむ、分からん……)
 少女を浴室へと案内して応接間へ戻り、ソファに身体を沈めて考え込んだ。

 どうやらまた眠り込んでしまったらしい。
「……んっ、はむっ……ちゅっ……」
 最近疲れてるのかな。なんだか妙な音がするが……。
それに、なんだか腰が異様に重い。
「うぅんっ……はぅんっ、んちゅっ……!」
「……な、なにを!」
 ふと視線を落とすと、先ほどの少女が俺の股間に顔を埋めている。
のみならず、申し訳なさそうに屹立した一物を口に含んで擦り立てていた。
「ちょちょちょっ、ちょっと待てっ!」
 キョトンとしている少女の顔を無理やりに引き剥がす。
「……どうしたんだ? なんで俺にこんなことを?」
 わけも分からず、少女を詰問する俺。
途端に、少女は肩を震わせて泣き出してしまった。
「ごっ、ごめん、そんなつもりじゃないんだ! ええと、あの、その――」
 なんだか混乱して、ともかく少女を落ち着かせようと、肩に手を掛けて抱き寄せた。
美しく梳かれた黄金色の髪から、優しい石鹸の香りがした。
(ん、やばい……可愛い……)
 思わず頭をもたげるふしだらな息子をなだめつつ、そっと彼女の背中を撫でさする。
「大丈夫、悪いようにはしないから。
 えっと、名前は……リース、って言うんだったよね?」
 まだ涙を流したまま、少女がこくんと頷く。
「うーん、まあ、大体の流れは知ってるからいいや、つらいだろうしね。
 俺が知りたいのは、どうして君が売られていたかってこと、奴隷みたいに――」
 奴隷、という言葉に、リースの身体がぴくんと跳ねた。
「ご、ごめん、そんなつもりじゃないんだ……。
 あのさ、言いにくいんだけど……あの悪党どもに乱暴されたの?」
 リースは申し訳なさそうにふるふるふると首を振った。
(すると、あの商人の売り文句は偽り無しだったってことか……)
 じっと彼女の眼を見据えて、話を続ける。
「……王女様があんなことするなんて、まさか、ないよね。
 俺を信じて答えて欲しいんだけど、誰にあんなことを教えられたの?」
 わざと具体的に答えさせるような質問をする、俺の意地悪。
「……」
「ごめん、つらいよね。嫌なら答えなくていいから、もうお休み」
 じっと俺を見つめるリースの瞳が潤んだ。つらい。女泣かせだな、俺。
「……あの……盗賊、に」
「そうか、やっぱりな……いや、ごめん! 悪いこと訊いたな……」
 そうして彼女を放そうとした俺に、急に彼女が縋り付いてきた。
「あ、あの、私、なんでもしますから……どうかここに置いてください、御主人様っ!」
「えっ、ええ……御主人様って……!?」
「わた、私、山を降りる途中で盗賊に捕まって、それで、牢屋の中で、あの、
 女の子たちがたくさん捕まってる中で、それで、盗賊たちが乱暴してて、
 私に向かって、お前もこうやって御主人様にご奉仕するんだぞって言って、それで――」
 言葉に詰まって泣き出した彼女を、そっと抱いた。
このくらいならセクハラじゃない、よな?
「それで……お前は売り物になるから傷はつけないって、そう言って、
 だから、私、もうあんな、乱暴されて、恐ろしい目には遭いたくないから、
 それで、私を、買ってくださった御主人様に、気に入ってもらおうと――」
「おいおい……」
「お願いです、御主人様、なんでもしますから、どうかここに置いてください!!」
 そう言ってまた泣き出してしまう。
せっかくさっぱりしたばかりなのに、顔じゅう涙でぐしょぐしょになってしまって。
「ねえ、ちょっとは俺の話も聞いてくれよ」
「……え?」
 驚いたように泣き止んで、俺の顔を見つめる。やばい、可愛い。うん、可愛いな。
「なんだか勘違いしてるみたいだけど、俺はそんなつもりで君を身請けたんじゃないよ。
 ね、リース王女様」
「あの、私、王女だなんて――」
「おいおい、これでも一応は貴族なんだよ? まだ君がほんの幼子だった頃、
 ローラント城で君に会ったこともある。君は覚えてないだろうけどね」
「そんなことって……でも私は――」
「いいからいいから。まあ、すっかり可愛くなっててビックリしたけどさ。
 俺だってジョスター王を尊敬していたし、ナバールのやり方はおかしいと思うんだ。
 だから、ローラントの最後の希望だった君を、なんとしても助けたかったんだよ」
「そんなに優しくされたって、御主人様――」
「……その呼び方はなんとかしてくれないか。そう、シュミットでいい。一応、公爵だ。
 名前だけだけど、騎士道精神だよ。女性は……特に王女様なんて、大切にしなきゃ」
「ごしゅ――いえ、シュミットさま……ありがとうございます……」
 そう言って、リースはまた顔を伏せる。また泣かせてしまったらしい。
それにしてもよく泣く娘だなぁ。
 俺は肩を竦めてグラスのワインを啜った。
「そうだ……他の女の娘たちも捕まっているのなら、早く助けないと。
 リース王女も、もちろんまた戦ってくれる、よね?」
「はい。それに私……エリオットを、弟を助けないと……!」
「よし、分かった。早速仲間を集めよう。どこまで出来るかは分からんがやってみよう。
 それまで、今日はもう遅いことだし、お休みよ」
 そうして自分も自室に戻ろうと腰を上げた。
が、リースは身じろぎもせず、ギュッと両手を握り締めて立っている。
「……」
「どうした? 何かまだ気になることでもあ――んんぅっ!?」
 俺の言葉を待たず、彼女は俺に唇を押し付けてきた。
彼女は女にしては背が高いほうだが、それでも長身の俺には背伸びしなければ届かなかった。
そうして俺にもたれかかるような形になり、不意を疲れてバランスを崩した俺は……
「……っ!!」
 踏みとどまる余裕もなく、先ほど自分が腰掛けていたソファに仰向けに倒れこんだ。
自然と彼女は俺の上に……
「お、おい! なにを――」
「シュミット様……私、要りませんか……?」
 彼女は寂しそうに笑った。
まだあどけなさの残る少女の顔。彼女がしようとしていることとはあまりにもそぐわなかった。
開け放された窓から晩夏の風が忍び込み、ひゅうっと燭台の火を吹き消した。
「お願い。私、リースは貴方を信じます。
 だから、その契約の証として、私と……」
「……王女。自分がなにをしようとしているのか分かってるのかい?
 一夜限りの熱情として片付けるには、あまりにも行き過ぎてる」
「……」
 がっくりと肩を落とした彼女に、俺は心を痛めた。
だが、仕方ない、据え膳喰わぬはなんとやらとも言うが、それは俺の貴族のプライドが許さない。
眉尻を下げて今にも泣き出しそうな彼女。俺ごとき足元にも及ばない、神々しい程美しかった。
「さ、だから今日のところはもう休みな――」
 そう言いかけて、急に目の前が真っ白になった。
立ちくらみかな、最近ろくに休んでいなかったから……
「んっ……おかしいな……疲れているのかな……」
「……ごめんなさい」
 彼女の声。そして、くすくすっ、と。
「だって、貴方が悪いんですよ。私を拒むから」
「な、なんだ――いったい何を!」
「いいの。シュミット様、初めてなんでしょう?
 私も初めてだけど、頑張りますから、ね?」
 ソファに倒れこんだまま身動き出来ない俺に、リースがそっと口づける。
俺の首にしなやかな細腕を絡ませ、口の中へ舌を割り入らせる。
「んふっ……はむっ……」
 目を閉じて、口元からだらしなく唾液を垂らしながら俺の口を貪る。
 やがて、ちゅっと音を立てて口を離すと、二人を繋ぐ光の糸を手の甲で拭い、妖しく笑った。
なにか薬でも盛られたのか、身体が言うことを利かない。なのに、股間の一物は痛いほどに充血していた。
 彼女が俺の服を脱がせようと手を掛けて、ふと下半身の膨らみに気付いて顔を赤らめた。
「あの……これって……」
「ご、ごめん、あんまりリースがいやらしいものだからつい――」
 そう言うと、彼女は怒ったように腰に手を当ててこちらを睨みつける。
「私のせいにするんですか? そんなことおっしゃるなら……もうやめますね」
「……はぁ?」
「なに?」
 くそっ、すっかり形勢逆転だ。このまま昂ぶりを抑えられないままで放置されてろってか!?
「ごめん。俺が悪かった。だから続きを――」
「ふふふっ、ごめんなさい、ちょっと意地悪してみただけです♪」
 彼女は俺に覆いかぶさって、股間に手を這わせる。
これで本当に処女だというなら――女神様! ローラントでは一体どんな教育を!?
「すごい……ビクビクしてる。こんなになるんですね……」
「……いや、そんなたいしたこともない、さ」
「ええっ!? こんなにおっきいのに?」
「いや、悲しくなるからそれ以上は言わないでくれ……」
 そうして無言で俺のズボンのベルトに手を掛ける。
カチャカチャと音がして下着ごと引き下ろされ、俺の恥ずかしい下半身が露になる。
おそるおそるリースがその一物に手を伸ばし、柔らかく握る。
「熱い……私でこんなに興奮してくださるんですね……ふふっ」
「あぁ、こんなにエッチな王女様だなんて思いもしなかったし、な」
「あの、じゃあ……こんなのはどうですか?」
 彼女は先刻と同じように、一物に舌を這わせた。
鈴口の辺りをちろちろっと舌先でくすぐったかと思うと、裏筋に沿って舐め上げる。
しかし、彼女の痴態に興奮しきった今、その快感は先ほどとは比べ物にならなかった。
 こんな少女相手に感じるなんて……俺の変態!
声が漏れそうになるのを必死で堪えるが、リースの舌の温もりを感じるたびに背筋がゾクッとする。
「あ、あの、私、まだ下手だから気持ちよくないんですよね……頑張ります」
「いや、そういうわけじゃ――」
 かぷっ、と美しい唇が俺の亀頭を飲み込んでしまう。
そのままゆっくりと頭を振り始め、だんだんと一物が彼女の粘膜に包まれていく。
「くっ、んあぁぁぁっ!」
 辛抱堪らず、声が漏れてしまう。時々歯が当たるが、それすらも快感でしかない。
「ちゅっ、んくっ……じゅっ……ふぅんっ……!」
 根元まで咥え込もうとして、喉に先っぽが当たったらしく咳き込みそうになる。
それでも涙を流して堪え、咥え込んだまま離さない彼女が、なんだか無性にいとおしい。
「おい、無理はしなくて良いから、な……」
「んんんんんっ!」
 懸命にふるふると首を振る彼女。もちろん深く飲み込んだまま。
舌先がカリ首あたりにまとわりついて、敏感な部分を刺激する。
「うぅっ……ダメだ、もう我慢できない!」
「ううんっ……はむっ、んちゅっ……ふうううんっ……」
「おい、もう、もういいからやめ――」
 何を思ったか、袋の部分を両手で包み込むようにやんわりと握り、揉みしだく。
リースの冷たい指の感触が、火照った性器にたまらない快感を与える。
もう出そうだって言うのに、彼女はまったく行為を止める気配がない。
「……ふぁっ、んふっ……くっ……ぢゅっ」
「うぁっ、リースっ、も、もうダメだっ!」
「んんんんんっ――!」
 ギュッと彼女の細い肩をわしづかみにして、口内に劣情の体液を注ぎ込む。
ビクビクッと震える肉茎にしがみ付き、彼女は必死でそれを嚥下しようとする。
自分自身恥ずかしいくらいに脈打ち、大量の白濁を放出した。

 大きく息を吐いて一物を抜き取ると、彼女は目を白黒させながらこくんと喉を鳴らして、
それから、けほけほっとむせ返った。
「ごめん、中で出しちゃった……」
「んんっ、いいんです、私がしたんですから……気持ちよかった、ですか?」
 頬に幾筋も涙の跡をつけて、それでも彼女はそう言ってのける。
たまらなく可愛い。思わず手を伸ばして抱き寄せてしまう。
「あ……身体、動いてる」
「ああっ……おクスリ、切れちゃったんですね。
 ごめんなさいっ! どうか、怒らないでください!」
「そうは言って――」
 開きかけた俺の口をを、彼女の唇が塞ぐ。
さっきよりも長く深く、お互いを吸い尽くしてしまおうとするかのような、濃厚なキス。
恍惚とした表情で頭を揺りながら、リースは俺の下半身に手を伸ばす。
「んふっ……また、元気になってる♪」
「あぁ、でも――」
 またまた俺の口が、今度は彼女の手で覆われてしまう。
「だーめ。私は、貴方にあげようと決めたんだから。有り難く受け取ってくださいね。
 受け取り拒否したら……ローラント仕込みのくすぐり地獄で昇天させちゃいますから♪」
 さりげなく、怖い。
これじゃまるで逆レイ――いや、現実に犯されているのは俺のほうなのだが。
不思議と悪い気はしなかった。ただ、くすぐったい、心地よい被虐間に浸っていた。
やはり俺は変態か……。

               *

「お願い。抵抗しないで、くださいね……」
 俺に背を向け、さっき着たばかりのパジャマがふわっと床に落ちる。
ちょっと躊躇ってから、一気に純白のショーツを引き下ろし、一糸纏わぬ生まれたままの姿になった。
「あの、見ないでください……恥ずかしい……」
 胸に手を当てたまま、目を伏せて振り返る。
胸と秘処は何とか隠しているものの、穢れない新雪の肌と流線型の身体のラインが露になる。
 カーテンを揺らす夜風に、さらさらの金髪がふうわりと膨らみ、月明かりに光り輝く。
ほのかに染まった頬。緊張した面持ち。
「では……いきますね」
 情けなくも期待に股間をいきり立たせたまま放心状態の俺に、そう声をかけて体を重ねる。
ソファの手すりに両手を着いて、俺の身体を跨ぐ。さすがに恥ずかしいのか顔は背けたまま、
隠すもののない、ささやかな胸の膨らみと申し訳程度に茂みのある秘処がさらけ出される。
「綺麗だ……本当に、綺麗。夢じゃ、ないよな……」
 馬鹿みたいな俺の言葉に、彼女は笑って軽くキスをくれた。
そうして、ゆっくりと腰を下ろし、秘処に俺の一物をあてがう。
「さっきよりも……おっきい……」
「えっ、ああ……」
 バタバタとカーテンがはためき、風圧に負けて押し開けられる。
上になったリースの背後から月光が降り注いで、髪に銀の輝きを与え、濡れそぼった秘処をてらてらと光らせた。
どうしようもなく性的には興奮しているのに、なぜだかとても優しい気持ちになる。
ただただ彼女をぎゅっと抱きしめていたい。それだけでいいと、俺は思う。
 しかし、リースは俺を求めて腰を沈める。

 すっぽりと亀頭が飲み込まれたところで彼女は身体を硬直させ、肩を震わせた。
やはり、不安なのだろう。当たり前だ、俺だって不安だ。……などと勝手なことを考える。
 無言のまま、彼女に手を差し伸べる。
嬉しそうに微笑んだリースと、しっかりと両手を合わせる。
「では、いきます……んんっ!」
 激痛に身体を震わせながらも、それでもなんとか一物を押し通そうと全体重をかける。
 細い。思った以上に細く、今にも折れてしまいそうな華奢な身体。
槍術の達人だとか、アマゾネス軍団のリーダーだとか、そんな事実からは想像も出来ないほど。
 このまま彼女が壊れてしまいそうな気がして、ギュッと手を握る。
俺に応えて、彼女も負けじと俺の手を握り返す。そうして、目を閉じて弾みをつけて腰を沈めた。
「痛たたたたっ!!」
 恥ずかしい。
声を上げたのは俺のほうだった。ぎちぎちと、痛いくらいに締め付けられる。
何かを突き破るような感触、温かな隘路を押し広げて一物が彼女の最奥に達する。
彼女はといえば、額に脂汗を浮かべて必死に激痛に耐えていた。
「……んふううぅっ!」
 彼女の苦悶を少しでも和らげようと、彼女の身体に刺激を与えてみる。
繋がったままで首筋から脇腹に沿って舌を這わせ、乳首を軽く突付いてみた。
「――ひゃんっ!」
 ピクンと身体を震わせて、切なげな吐息を漏らす。
好感触にさらに調子に乗り、控えめな胸に舌を這わせる。つんつんと突付いたり、交互についばんだり、
新しい遊びを見つけた子供のように、夢中でいじくりまわす。
「ううんっ……はぁっ、んんっ、あふっ……!
 そ、そんなに――!!」
 俺に全体重を預けたまま、小刻みに彼女の身体が跳ねる。
そのたびに、新しい蜜が溢れ出しては結合部を伝い落ちてシーツを濡らす。
 まずい。きゅっきゅっと締め付けてくる彼女の膣内で、このままで果ててしまいそうだった。
顔をしかめて必死で高まる射精感と戦う俺に気付いたのか、リースが俺に頬を寄せて耳元で囁いた。
「もういいですから……私で、気持ち良くなってください……」
 彼女の瞳に迷いはなかった。
繋がったまま彼女を抱きかかえて身体を反転させると、ソファに彼女を横たえて覆いかぶさる。
そっとキスをして、耳たぶを甘噛みして囁く。
「……いくよ」
 彼女は目を閉じて、ゆっくりと頷く。そして、抽送を開始した。
「くううんっ!」
 そっと一物を引き抜きに掛かる。赤黒く光る秘肉がめくれ、結合部に視線が釘付けになる。
そのまま、浅くゆっくりと突く。めいっぱい押し広げられた陰唇からとめどなく蜜が漏れる。
2人の荒い息遣いに、くちゃっ、くちゃっという卑猥な水音が重なる。
「見てごらん……こんなにいやらしく光ってるよ……」
「い、いやっ……!」
 言葉とは裏腹に、そっと目を開けた彼女もたちまちのうちに淫猥な眺めの虜になってしまう。
ようやくこなれてきたところで、入り口に留まったままぐりぐりと円を描くように腰を捻る。
なんかと彼女が痛くないようにと思ったが、意外な快感に一気に射精感が高まってしまう。
「んぁっ、あふっ……ひゃんっ、くうぅぅぅんっ……!」
 俺の口からも、情けない声が漏れてしまう。
「……んっ、シュミット様……可愛いっ……んはぁっ!」
 そういわれて、なんだか恥ずかしく、それでいて温かい気持ちが胸に広がった。
「もう、いいかな……?」
「はい、来て、ください……」
 そろそろ限界だった。
 そっと手を添えて狙いを定めると、一気にまた最奥まで突き入れる。
ずぷぷぷっ、と盛大な水音が漏れて、2人とも羞恥に顔を歪めた。
「あはっ……くぁぁぁぁっ!!」
 そのまますぐに抜き出し、ゆっくりと彼女を気遣いながらも長いストロークを往復する。
俺の一物に合わせて変形しながらぎゅっと包み込む彼女の温もりに、急激に絶頂に上り詰める。
「きゃんっ……むぅっ、くぅっ……んんんっ! いや、いやっ……私、んはぁっ……!」
リースが俺の背に両手を回し、柔らかく爪を立てた。
ただただ彼女が愛しくて、倒れこむようにお互いの身体を合わせる。
「うぁっ、俺……もう、出ちまうっ……」
 途端にリースが俺の腰に足を絡めた。
結合部が密着して、一物が彼女のなかに閉じ込められてしまう。
そうして、恥骨をすり合わせるようにして快感を貪ると、すぐに射精を迎えた。
「うおおおおぉぉぉぉっ!!」
 最奥で繋がったまま、身体を仰け反らせ、痙攣する。
剛直の中を何度も熱い液体が通り抜け、大量の精液を注ぎ込んだ。
「はぁっ……」
 そのまま、心地よい疲労感に身を任せてリースに倒れ掛かる。
まだ繋がったままで抱き合って笑う。痛々しい涙の跡を、そっと舐め上げた。
「シュミット様……」
 どちらからともなく自然と唇を合わせた。
いつの間に、静かに眠りに落ちていた。

          *

「シュミット様ぁ〜! 早く早く〜!」
 丘の上で彼女が手を振っている。
旅に出てすでに3日が過ぎた。今のところ順調、かな?
なんといっても、モンスターなんて彼女がほとんど一撃のもとに撃退してしまうのだ。
これでは、男である俺の面目が立たない。
 だが、この旅が何の問題もなく終わるとは思えなかった。
エリオット王子の捜索、ナバールの討伐、そして至る所で囁かれる魔界の住人の噂……。
とてもとても解決できそうにもない難題が山積していた。

 でも、彼女ならきっとこの世界を救えるような、そんな気がした。
――俺は? さあ、どうだろう……どうも、俺は彼女に似合う男ではないように思う。
彼女が世界に平和を取り戻したとき、彼女の傍には一体どんな仲間がいるのだろう?
「……ぼんやりしてると置いていきますよ〜!」
顔を上げ、手をかざして眩しく輝く丘の上のシルエットを見つめる。
「あぁ、すまんな、すぐに行くよ!」
ただわけもなく、彼女と過ごすこの一瞬の時間がいとおしかった。
俺の、女神様と――
「頑張って! もうすぐ……ほら、あれがジャドヘ向かう定期船だわ!」

                                             ――fin.



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