イーグル×ジェシカ

239氏



「ちょっ、に、兄さっ」
 妹は目を白黒させたが、手で口を塞いで強引に押し込めた。抵抗して手足を
ばたつかせるのを無理やり押さえつけ、そのまま羽交い絞めにして強引に
物陰へ引っ張り込む。思い切り向こう脛を蹴飛ばされて、痛みに顔をしかめた。
「いてててっ、静かにしろっ」
 ジェシカはしばらくウンウンと呻いていたが、どう足掻いても逃げられないと悟ったか
やがて抵抗をやめて大人しく床にへたり込んだ。オレは溜息をついて腕の力を緩め、妹を
抱え上げるように助け起こした。
「兄さんがわたしのことそんなに思ってたなんて知らなかったわ」
 オレはポカンとして妹の上気した顔を見詰めた。何か勘違いしているようだ、と思ったが
それがなんなのか敢えて訊かずとも大体想像はついた。
「でもいいの、兄さんになら抱かれたって」
 そういって彼女は頬を染めた。一体どこをどうしたらそうなるのだろう、呆気に取られて
うんともすんともいえなくなったオレに焦れたのか、ジェシカが口を開きかけて、そして
急に何かに思い当たったように、ハッとして口を閉ざした。
「なあ、おまえ何か勘違いしてねえか」耳元に口を寄せ、そっと囁いた。
「誰もおまえを襲おうなんて思っちゃいないぜ」
「えっ!?」
 パッと顔を上げて、それから頬を真っ赤に染めて俯いてしまった。
「じゃあ一体なんなのよ、こんな可憐な乙女に恥をかかせておいて」
「いや、夜に部屋の外をふらついてると見なくて良いものまで見ちまうな」
 突っ込みたいところは山ほどあったが、そんなことすればますます騒ぎになるのは明らかだ。
オレは妹から手を離し、窓際に歩み寄って冷たい夜の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 相変わらずだなこいつも。ようやく好きな男でもできたのか、女らしくしようって気に
なったかと思ったら、まだまだ心は子供のままだ。ふと、昔ホークアイたちと一緒になって
遊びまわっていた頃を思い出して苦笑した。ホークアイに宝物の腕輪を隠されて、彼を脅して
腕輪を取り戻した挙句にボコボコに殴りつけてガッツポーズをとっていたあの妹の顔ときたら。
いまの顔がそっくりそのままだ。
「見なくて良いものってなによ。妹を襲うことと関係あるの」
 そうは言っても照れ隠しだった。必死でごまかそうとしている妹がなんだか可愛いと
思って、慌てて打ち消した。いけないいけない、何を考えてるんだオレは。
「見ないほうがいいさ。もっともおまえなら見たがるかもしれないけど」
 さっきは危うくオレも気付かれるところだった。もしかしたら気付かれてるかも、いや、
大丈夫、大丈夫だよな、うんうん。一流の盗賊たるオレがそんなヘマはやらかさないぜ。
「な、なによそれ」ジェシカが不満げな声を上げた。
「わたしがお父様の部屋へ行ってはいけない理由でもあるの」
「その、なんだ」オレはちょっと躊躇って言葉を切った。言うべきか言わざるべきか悩んだが、
それでもジェシカなら根掘り葉掘り問い詰められるであろうことは分かっていたから、
無駄な抵抗はさっさと諦めることにした。

「静かに耳を澄まして、何か聴こえないか」神妙な顔をして、声を落とした。
 怪訝そうな顔をしながらも、妹は黙ってオレの言葉に従った。オレは壁にもたれ、じっと耳を
澄ませる彼女の様子を窺う。さてさてどんな反応をしてくれるか楽しみだと、イジワルな期待に
胸が膨らんだ。まだまだオレも子供だな。
「なんにも聞こえないわ。わたしを担いだ」言いかけて何かに気付いたらしく、更に耳を澄ませ
そろそろとオヤジの部屋のほうへ近寄って行く。
「おーい、あまり近づきすぎるなよー」
 こっちを振り向いて目だけで返事すると、とうとう彼女はドアのそばまで忍び足でたどり着いた。
さすがは盗賊の首領の娘、猫よりもしなやかな身のこなし。研ぎ澄まされたオレの感覚ですら、
視覚以外で彼女の存在を感じ取ることはできない。
 しかしジェシカのヤツ、身体だけは一人前になりやがって。誰が妹の心を射止めるかと、
盗賊団の野郎どもが大騒ぎしていたことを思い出して、自分が兄という立場を利用している
のではないかとからかわれたことに思い至り、鼻を鳴らした。体の成長に脳味噌の成長が
付いてきてないからな、変な男に引っ掛かってもらっても困るな、などと兄として、いや
それ以上に男として、彼女を心配しながらも、引き締まった体つきに見惚れていた。
 燭台の炎がじりっと音を立てた。いつの間に妹はオレのそばへ戻ってきていた。
「兄さん、なんだかやらしいこと考えてたでしょ。よだれ垂れてるわよ」
「見たか」それだけを訊ねた。
「見ちゃった」
 何も言わなくても良かった。蝋燭の弱弱しい明かりでもはっきりと分かるほど真っ赤に
頬を染め、ジェシカは唇を噛んでいる。何を考えているのか、それも大体は想像が付く。
ほぼオレと同じことを思ったろう。オレだってこれまで肉親のそういう行為は目にしたことが
無かったが、やはりイヤなものだと思った。オヤジはこれまで義賊の首領として荒くれ者
たちを纏め上げてきた、やってることは確かに犯罪だろうが志は高潔だと、そう思っていたのに。
 溜息を落とした。何を血迷ったのか卑しい中年男に成り下がった父親の背中は小さくなっていた。
「オヤジ、なっさけないな」
 返事は無かった。ジェシカは黙って俯いたまま、オレの胸に倒れこんできた。
「兄さん、パパは、パパは」
 それなりに可愛らしい顔がくしゃっと歪んで、眼からサファイアの欠片が零れ落ちて
オレの胸で弾けた。さっきとは違う意味の溜息を吐き、無言で妹の肩を抱いた。久しく
触れることの無かったその肌は驚くほどにしっとりと潤い、華奢な肩が女らしい色気を
漂わせていた。それでも性格はまだまだ男勝り。セクハラ質問をしてからかった盗賊団一の
乱暴者を一撃で張り倒して以来、オレ以外の男はジェシカに惚れながらもその荒い気性を
怖れ、ロクに声も掛けられないらしい。でも幼馴染のホークアイだけは例外だけど。
 そういえば妹はすっかり男を意識して迂闊に男には近づかなくなったが、ホークアイに
だけは昔と変わらず馴れ馴れしく接しているようだが、さてさてその彼との関係は進んで
いるのだろうかなどと余計な心配までしてみたりする。お兄様としては気になるところだ。
 いや、違う違う、嫉妬なんかしてないぞと、オレは頭を振った。
「兄さん、久し振りに、その」ぼそぼそと言いにくそうにジェシカが呟いた。
「珍しいな、オレに甘えてくるなんて。もしかして生理か?」
 ちょっとからかったつもりだったが、平手打ちが飛んでくる……かと思いきや、意外にも
彼女はそのままオレの背に腕を回してきた。深い青緑に輝くサラサラの髪から香草の匂いが
立ち上っては鼻腔の奥をくすぐった。そしてなにより、その、胸のふくらみが押し付けられ、
柔らかく温かな感触にドギマギした。妹の身体が揺れるたびにふにふにと押し付けられる
双丘の心地良さと、時折強く押し付けられてその中心のかすかな突起までもが感じられて、
うっかりいやらしい衝動に下半身が充血しかけた。
「ばーか。わたしを眠れなくしたを責任とって、一緒に寝てよ」
 さすがにビクッとして身体を強張らせ、思わず妹の身体を突き放した。
「おい、もう子供じゃないんだからそんなこと」
「わたしのこと嫌いになったの。昔ならできたのに今はもうできないって言うの」
 こう切り返されては黙り込むしかなかった。手の甲でゴシゴシと額を拭った。冷たく
汗ばんだ肌が不快だ。砂漠の夜は冷える。湾岸砂漠に雨陰砂漠、西を寒流に東を高い山脈に
挟まれたナバールでは、年間を通してほとんど降雨がない。昼間に熱された砂は夕方には
冷え込み、夜は冷たい雪の如くに体温を奪う。薄い寝巻きでは肌寒い。ジェシカは女だから
脂肪があって寒さに強くていいな。脂肪。おっぱい。尻。おっぱい。

 憂鬱だ。何を考えてるんだオレ。訝しげにオレを見上げる妹の、童心に帰ったような
無邪気な視線が痛い。もう一度説得を試みる。これで彼女が思いとどまってくれと、
理性が悲鳴を上げていた。
「おまえ、ホークアイがいるだろ。あいつに頼めよ、オレは兄貴なんだぞ」畳み掛けるように、
そして吐き捨てるように後の言葉を続ける。それが嫉妬ではないという自信は、なかった。
「それとも単に人肌恋しいのか。男には気をつけろっているも言ってるだろ」わざと嘲笑めかして。
「違う」あっさりと否定して、ジェシカはオレの顔を見上げた。
「気の迷いなんかじゃない、兄さんと一緒にいたいの」
 妹の眼は真っ直ぐにオレを見詰めていた。やめろ。そんな眼で見るな。
「弱気なんかじゃない。パパがあの女に溺れたのかあの女がパパをたぶらかしたのかは
知らないけど、もうパパは昔のパパじゃないわ。お願い、一晩だけ家族に甘えてみたいの」
 急に現実に引き戻され、オレはげんなりして肩を落とした。バカオヤジめ、砂漠の雌狐に
引っ掛かってすっかり狂っちまって。イザベラだかなんだか知らないが、あんな年増に
誑かされるほど飢えていたのか、そんな人間をかつての父親と信じたくない気持ちは
痛いほどによく分かった。
「それは分かる、けどな、もう子供じゃないんだから一緒に寝られるわけないだろ」
忌々しげに吐き捨てた。間髪いれず奥の部屋からくぐもった男の呻き声と、女の甲高い
喘ぎ声が聞こえた。バカが。
「兄さん、もしかしてわたしに欲情しちゃうの」ボソッとジェシカが呟いた。
「まさか。妹だぞ」
「じゃあいいじゃない。行きましょ、いつまでもここに居ると風邪ひくわ」
 返事も待たずオレの腕を取って強引に引っ張っていく。痛い。憮然とした表情は可愛いいんだが。
「兄さんまでわたしに冷たいなんて、ショックでこのまま死んじゃいそうだし」
 参ったな、やはり彼女には口では勝てない。腕の痛みに耐えかねてあわてて妹を追って歩き
ながら、しかし腕っぷしだって、もしかしたら彼女のほうが上なんじゃないのかと思った。

           *

 ベッドは綺麗に整えられていた。ジェシカの気持ちは分かっていたが、どうしても素直に
従う気にはなれなかった。そうしてしまえばきっと後悔するだろう。どうしようもないとは
知りつつも、ささやかな抵抗を試みたのだ。
「じゃあオレはソファで寝るから」素っ気無く告げると、毛布を被って横になった。
予想通り、すぐに毛布は物凄い力で引っ張られた。必死で毛布にしがみついていると、
毛布もろとも床に転げ落ちてしたたかに腰を打ちつけた。
「もう、分かってるくせに。一緒に寝るって言ったでしょ」腰に手を当てて俺を見下ろし、
わざと威圧的に妹は宣告した。
「ほらほら、お兄ちゃんは向こう側ね」そのままベッドに引っ張り上げられ、押しやられる。
「へいへい、麗しきかな兄弟愛」
 彼女は不満げに鼻を鳴らしたが、かまわず外側を向いて毛布に包まった。そうしてふと、
自分が「お兄ちゃん」って呼ばれたと気付いた。もうそれは何年前の呼び方だろう、まったく
子供っぽい、そんな呼び方をする妹の態度に、なんだか嫌な予感がした。
「ねえ、お兄ちゃんてば」甘えた声を出してジェシカが擦り寄ってくる。
「なっ、なんだよ」
 焦ったせいか舌を噛んでしまい、歯を食いしばって痛みに耐えた。
「あははははは、なーにドキドキしてんのよ、もしかして期待しちゃったとか」
「ばかっ、そんなわけないだろ」煽るように追い討ちを掛けられて、思わずオレは大声を
出していた。ジェシカはびくっとして沈黙した。慌てて振り返って、泣きそうな顔をした
彼女に心が痛んで付け加えた。
「だって、兄弟なんだからさ。そんなんじゃないだろ」そうであってくれと必死に願いながら。
「なに言ってんのよ、別に変なことしようなんて思ってないわよ」
 想像しすぎたオレにくすくす笑って、妹は寝返りを打った。まさかとは思っていたが、
それでももしかしてもしかしたらどうしようかと本気で心配したのが恥ずかしくて、オレは
彼女のほうを向けなかった。
「昔はいつもこうやって一緒に寝てたよね」
「ああ、もっともそのころは誰かさんももっとおしとやかで可愛かったけどな」
「ほんっとに無粋ね」ジェシカが口を尖らせた。
 さすがに男とか女とかそういうことを意識する年頃になると別々の部屋をもらったけどな。
大勢が同じ部屋で雑魚寝してる三下に比べればとんでもない待遇だ。
「どうなっちまうのかなぁ、この盗賊団は」
「もう、そうやってすぐ話題を変えるんだから。まあいいけどね」
 急に現実に引き戻したのは申し訳ないと思ったが、実際にここのところオレはそのせいで
頭が痛い。これらか先オレたちはどうなってしまうのか、あのイザベラが来てからどうも
様子が変なのだ。ホークも言っていたが、下っ端の盗賊ならともかく、オヤジまであの色香に
惑わされて道を踏み外しそうな、そんな気がする。
「あまり深く悩みすぎないほうがいいわよ、若禿げのお兄ちゃんなんて見たくないし」
「誰が禿げるかっ」
 調子狂うな、もう。それでも、こいつはこいつなりにいろいろと心配しているのだと思った。
オヤジが席を外したときのあの女の厳しい表情、オレたちに向けた冷たい視線。普段は温厚そうに
装ってはいるが、オレもジェシカもヤツに対してはいまだ他人行儀な態度を崩してはいない。
根拠は無いが、野性の勘だ。あいつには敵性を感じる。
「パパもああいう関係になってるなんて、あまりいい影響じゃないわよね」
「いい影響じゃないどころか、血迷ったとしか思えないさ。盗賊団の大黒柱なんだから」
 ああいう関係、か。こういうことを平気で口に出せるあたりが大人なんだろうか。そんな
ふうに大人びた口を利く彼女に、昔とは違う兄弟の距離を感じてしまう。
「それでもなんとかなるわよ。万一変なことをしたら、わたしたちもみんな黙っちゃいないしね」
 その通り、杞憂に終わってくれれば楽なんだけどな。それならば楽なんだろうし、どうも
首領の一人息子のせいか、オレも自意識過剰なのかもしれないな。

 ジェシカはちっとも返事をしないオレに話し疲れたのか、不満そうに背中を突付いてきた。
「お兄ちゃん、眠いの」そうしてぴったりとオレの背中にくっついてくる。
「なんだかホッとしたせいか、ドッと疲れが出ちまったしな」
 つまんないの、抗議の声を上げてジェシカがさらにオレの背中を突っつく。それから首筋を
つんつん、つつーっと指の腹で撫でてくるから、オレはくすぐったくてジェシカの手を払いのける。
 ぴたっと攻撃がやんだかと思うと、急にふわっと芳しい香りが覆いかぶさってきた。
彼女は大胆にもオレに負ぶわれるかのような格好で、ぎゅっと肩にしがみついて足を絡めてきた。
すべすべした肌、ひんやりとした肢体に背筋がゾクゾクとする。必死に眠りに落ちてしまおうと
したが、オレはもう限界だった。
「眠いんだって言ってるだろ、いい加減にしろよ」
 きつい口調にジェシカは少したじろいだが、それでもまだ諦めなかった。
さらに身体をずらしてオレに覆いかぶさるような格好でオレにしがみついて、柔らかな感触が
オレの全身に伝わった。もう下半身は痛いほどに充血していたが、これだけは悟られるまいと
必死に身体を折り曲げて抵抗する。
 ふと目を開けると、ジェシカの顔が目の前にあった。
「お兄ちゃんはまだあの女に襲われてないんだ」くすくすと笑うたび、熱い息が頬に掛かった。
「うるせぇな、ほっとけよ」すぐにまた目を閉じて毛布に包まろうとしたが、妹はそれを許さな
かった。ぎゅっとオレにしがみついたまま、耳にふうっと息を吹きかけたり足をもじもじさせたり
して遊んでいる。やめろ、やめてくれ、心の底からそう思った。でないとオレは何をするか。
「妹でも、よ、欲情しちゃうのかな」そう言ってオレの頬っぺたを突付いた。
 彼女の体温が、絡みつく肌が、ぽよぽよんと左腕に当たる胸の感触が、熱い吐息が、扇情的な言葉が、
すべてがオレの中の男を弄び、不覚にも身体の芯が疼き始めていた。
 不意に股間を撫でられて、びくんと身体を震わせた。
「こんなになってても眠れるんだ」嘲られて、言葉も無い。
「このまえパンツ洗ってたのは一昨日だったよね。そろそろヤバいんじゃない」
 大ショック。
 そんな男の生理まで全部バレバレだったとは! この衝撃はバネクジャコ以上だ。ぽーんと空中
高く放り上げられて、そのままべちっと地面に激突する。アイタタタタタ。
「余計なお世話だ、変態女」わざと毒づいた。これでガッカリして離れてくれればと願った。
「エッチなお兄ちゃんの妹なんだから当然よ」
 そういって彼女はごしごしとオレの股間を摩った。痛いほどに力を入れられているが、それでも
熱を帯びた剛直は刺激に敏感に反応し、その圧力を押し戻す勢いで脈打っている。
「すごい、ビクビクしてるよ。ね、いいでしょ」そういってジェシカはオレを裸に剥いていく。
「こんなの入るかなぁ、大丈夫よね、きっと」
 散々擦りたてられて、オレはもう限界に近づいていた。ふと目を開けると、ぼうっと熱に
浮かされたような妹の顔、だらしなく開けた口からじゅるりとよだれを啜る音がした。
「どっ、どうなっても知らないぞ」
 兄と妹がこんな事に及ぶなんて、理性がすっかり失われてしまいそうになった。
「馬鹿。やりたいならやっちゃえばいいよ、問題ないでしょ」
「でも」それ以上はオレの言葉は続かなかった。強烈な快感に、射精の欲求が耐えがたく押し寄せてくる。
「くっ、ジェシカ……もう出ちまう」
「出したいんでしょ。遠慮なく出したいだけ出して、夢精するよりマシでしょ」
 そういうが早いか、ぱくっとオレのモノを咥え込んで舌を絡めた。先っぽをちろちろと舌先で
くすぐったり、カリ首に沿って唇をすぼめて凸凹を楽しんだり、裏筋に沿って舐めあげたり。
新しいおもちゃを与えられた幼児のように、口に含んで唾液でべたべたにしながらオレに快感を
与える。ますます硬さを増したことに自信を持ったのか、喉の奥まで咥え込んで激しくしごいた。
「やめろっ……だめだって、イく、イきそう……」
「ら、らいひょうぶよ……だひていいから」
 しゃべるかしゃぶるかどっちかにしろと思った。
 なんとか彼女の口内から引き抜こうとしたけれど、彼女は両手でオレの性器を揉みしだいて
離れようとはしなかった。裏筋から袋、肛門までを撫でられて、未知の快感が全身を走り抜けた。
 我慢が限界に達し、引き金が引かれた。
「はむっ……んぐぅぅぅぅ」
 びゅくびゅくと大量の白濁が吐き出されて彼女の喉奥を塞いだ。げほげほとむせて吐き出したが、
まだまだ終わらない射精は力強く脈打ち、精液がオレの顔から腹まで飛び散った。
欲望のたけを吐き出した気持ちよさと、生温かい液体が身体に纏わり付く不快感に包まれて、
もうなるようになってしまえと思った。
 しばらく意識が飛んでいたかもしれない。それほどの絶頂だった。
太陽の匂いのする枕に顔を埋め、ぎゅっとシーツを握り締めて荒い息をつく。股間のモノはいまだに
未練がましく屹立してひくついていた。ジェシカはまだそれを握り締めたまま、ひざまずいてオレを
見下ろしている。彼女の顔が赤らんでいるのは、燭台の明かりのせいばかりではなさそうだ。
「いっぱい、出ちゃったね。こんなに溜まってて苦しくなかった……」にちゃっと、竿に沿って手を
動かした。敏感になった射精後の剛直に温かな感触がまとわりつき、さらに精液を搾り出した。
「顔にまで飛んじゃったよ。でも自分のなら汚くなんてないよね」妹はそう言った。
おもむろに顔を寄せると、オレの頬に垂れた白濁液をぺろっと舐めた。にゅるにゅると塗り拡げられる
ような、不気味な感触に背筋がゾクゾクした。そのまま、薄い唇をオレの唇に重ねる。
「んっ……ちゅっ」
 ジェシカの舌がオレの歯を割って侵入し、唾液と精液を流し込んでくる。重力にしたがってオレの喉に
流れ込もうとするそれを押し返そうと、オレも舌を使って押し戻そうとする。そうすると妹の舌は巧みに
俺の舌をかいくぐってさらに奥へ侵入し、オレの舌は負けじと彼女の舌を絡め取って、ぐちゃぐちゃと
卑猥な音を立ててお互いの唾液を混ぜ合わせ、粘膜の温かくぬめった感触を楽しんだ。
 キスがこんなに気持ちの良いものだとは思わなかった。
 ジェシカを引き寄せ、背中に腕を回した。彼女の肌にじっとり滲んだ汗とその匂い、押しつぶされて
ふにゃふにゃ歪んだ双丘とその頂点、愛らしく尖った乳首の感触、彼女の下腹部に押し付けた剛直。
そして足を絡め、彼女の細い身体を最大限に密着させた。
「あう……ちゅぱっ、ふうっ」
 ジェシカを抱いたまま寝返って、彼女を舌に組み敷いてベッドに手を付いて唇を離した。こくんと
喉を鳴らして唾液を飲み込んだが、頬には幾筋もの唾液の糸が光っていた。
「すごい……やらしい匂い」そう言って妹の股間に顔を埋めた。
 かすかに湿った下着を引き下ろして秘部をじっくりと観察する。鼻先がうっすら生い茂った陰毛に触れ、
そのまま舌を這わせて秘唇を割る。途端にジェシカがぎゅっと足を閉じたせいで、オレの頭は秘部に
押し付けられたまま固められてしまった。聴覚がほとんど失われて柔らかな肉に包まれ、オレはまた
痛いほどに股間を膨張させていた。
 ぐりぐりと頭を動かし、舌の付け根が痛くなるまで秘裂を執拗に舐め続けた。ときおり慎ましやかな
茂みをかいくぐって鼻先がジェシカの敏感な突起を刺激して、そのたびに彼女は身体を震わせた。
豊かに潤った秘裂からは粘っこい液体が溢れ出し、女の匂いを放っていた。一滴もこぼすまいとして
必死に舐めあげるが、どんどんと流れ出す泉の勢いには敵わず、頬までべとべとに濡らしてながら
ぴちゃぴちゃいやらしい音を立てて舌を使った。
 ぴったり閉じあわされた秘裂を割ってさらに奥へと侵入する。硬く閉ざされていた割れ目が解れ、
鮮やかなピンク色をした肉襞が舌を包んだ。舌先でくすぐるように刺激を与えるたびに、ひくひくと
震えて新たな愛液を溢れさせた。どろりと絡みつくような粘っこい液体が泡立ち、ますます強くなる
雌の匂いに嗅覚が痺れた。そうしてふっくらと膨らんだ陰核に吸い付いた瞬間、きゅっと収縮して、
温かな液体が排出された。
「いやぁぁっ、おしっこ出ちゃうぅ!」
 鼻に掛かった悩ましい悲鳴を上げて、ジェシカの身体から力が抜けた。俺は一旦顔を上げて、
思いっきり顔に掛かった彼女のしぶきを袖口で拭った。
「おしっこ出るほど気持ちよかった?」俺の質問に、はぁはぁと荒い息をついた妹が一言、
「バカ」と放心したように呟いた。
「もうシーツがぐっしょり濡れちゃったよ」
「パンツを洗うより大変だね」そういって彼女はクスっと笑った。
 オレはフンと鼻を鳴らし、ジェシカに覆いかぶさると首筋を強く吸った。
「やぁ……跡が付いちゃうよ」
 抗議の声を完全に無視して、首筋から鎖骨のあたり、真っ白な乳房、その頂点のピンクのつぼみ、
おへそと、オレはひたすら彼女の身体を味わった。
「いいけどさ、お兄ちゃんのもの……だけは」もうその声はオレの耳には届かなかった。

           *

 ジェシカは目を閉じて静かに、白いシーツの海を漂っている。
じりっと音を立てて燭台の炎が消えた。暗闇に沈みかけた部屋に月の光が差し込んでくる。
かすかに上気したその身体の熱を確かめるように、ささやかな胸の突起に口付ける。
「お兄ちゃん」不意に彼女が呟いた。
「なんだ」
 呼吸に合わせてかすかに揺れる胸に縋り付くように覆いかぶさり、お互いの体温を感じる。
とくんとくんと響き合う二人の鼓動が重なって一つになる。自分以上に自分に近い存在。
ふと彼女のことがそんなふうに思えて、不思議と興奮が治まっていく。
「いいよ」
 わざとオレの方は向かずに、天井を見詰めたまま彼女はそう言った。
「それとも、やっぱりわたしじゃイヤなの?」
 そうではない、たぶんそうではないと、オレは思う。兄妹でこういう関係になるってのは
もちろん後ろめたくもあったけれど、それだけではない何かがオレたち二人の間に立ちはだかって
いるような気がして、じっと彼女の鼓動に耳を澄ました。
「なんとか言ってよ。不安になるじゃない」
 ジェシカの細い指がくしゃくしゃとオレの髪をまさぐった。気の聞いた言葉のひとつも
掛けられない、そんな自分が妙に情けなくて、オレは無言のままジェシカの首筋に腕を回して
唇を重ねた。
 ゆっくりと時間を掛けて唾液を交換し、彼女の綺麗な歯並びを舌でなぞった。
「綺麗だよ、ジェシカ」
「んもう、お世辞を言っても何にもあげないわよ」
 それでも嬉しそうに彼女ははにかんだ。
「なんだかね、お兄ちゃんがどんどん遠くへ行っちゃうんじゃないかって」
 ずいぶん子供っぽい悩みだなと、オレは笑った。大人になればどんなに仲のよい兄弟だって
自然と距離を置くようになるだろうし、まして男と女なら一緒にお風呂なんて入らないし、
ましてやこんな身体の関係には、ああ、いや、そういうことじゃないかと一人で考えて一人で
恥じる。
「相変わらずよね、一人で考え込むクセは」そう言ってオレの顔から眼を逸らした。
「そうは言ってもなあ、なんだかいろいろありすぎて訳が分からないよ」
 オレたち兄弟がこんなことになってしまっては、変な女にたぶらかされたオヤジを笑えるの
だろうか。いやいや、それとこれとは別の問題だと思うが、ホークアイが知ったらどんな顔を
するだろうな。
「お兄ちゃん、今ホークアイのこと考えてたでしょ」
 ぎょっとしてオレは妹の顔を見詰めた。オレは無意識に口に出したりしてたかな。
「そう、いつもそういう優しい眼をするの。ホークアイのことになるとね」
 なんだそんなことかと、少しホッとした。しかしそれと同時に、それほどまでに彼女がオレを
見ているというのは一体どういうことだろうかと心配にもなった。
 オレの頭を優しく抱いて、妹は口を開いた。
「彼がわたしのことを特別な目で見てるのは分かってるわ。お兄ちゃんとしてはそれが
嬉しくもあり妬ましくもある、それも分かってるつもりよ。だから、最初だけはお兄ちゃんに
あげようって決めてたのよ」
 瞳に虚無の色を浮かべ、オレは呆然と彼女の話を聞いていた。彼女の考えることは理解
できそうでいて、実はちっともそうではなかった。昔から妹は人とは少し違う考え方をして
いたけれど、ここまでぶっ飛んでいると驚きを通り越して呆れてしまう。
「なんだかね、お兄ちゃんがどんどん離れていくのが寂しかった。わたしはジェシカ。
ナバール盗賊団の首領フレイムカーンの娘。でもそれ以前に一人の女、お兄ちゃんの妹なのよ。
わたしをちゃんと見てくれていたのはお兄ちゃんとホークアイくらいだったけど」
 そんなことを思っていたなんて。でもそう言われると、自分の妹の事すらきちんと把握できて
いたかどうか不安になってしまう。オレは妹の胸に顔を埋め、その体温を感じ取って少しでも
彼女に近づこう、彼女を感じようとした。
「みんなわたしを置いていく。大人になることで子供を亡くして、子供の頃の素直な気持ちを
忘れて、みんなバラバラに自分の事ばかり考えて動こうとする。わたしのことを愛した人も
少なくはなかったけど」
 そこで言葉を切って、自信ありげに笑って見せた。一応妹はそれなりに美人だから、
嫁に欲しいって話もいくつかはあったし、そのために盗賊団が討伐されかけたりもした。
しかし、こうして彼女が自分から自分の話をするなんて珍しいことだった。
「それでもみんな、自分の得になるから、わたしの愛が自分を癒してくれるから、だから
わたしに近づいたんだろうって。そう思ったらなんだか馬鹿らしくなっちゃって」
「まあ、まったくお前らしいよ」そう言ってオレはふと思い付いた。
「お前さ、盗賊団に嫌気がさしてたりしないか?」
 妹は驚いたように手を止めた。それからまた、ゆっくりとオレの頭を撫ではじめた。
そう思ってみると、これまで何度もそういう兆しはあった。ホークアイが大怪我をしたり、
討伐を受けたり、泥棒呼ばわりされて精神的にも辛かったし、まともな人間であればあるほど
義賊という大義名分に誤魔化されきれず、良心に苦しむ。
「そう、よね。やっぱり今のままじゃ限界だと思うの」
 じっと考え込むように黙り込んだ妹の後を引き継いで、オレが胸のうちを明かした。
「こんな強引なやり方じゃなくてさ、金持ちも貧乏人もなくみんな平等に暮らせるような、
そんな国をオレたちが作ればいいんじゃないかって思うんだ」
「お兄ちゃん……」
「ウェンデルやローラントとも仲良くしてさ、もっとこの世界を良くするためにでっかい
ことがしたいって、そうホークアイとも話してたんだ。せっかくの盗賊団なんだから、
もっとでっかいもの、たとえば世界の平和とか人々の幸せとか、そういうものを盗もうって」
 感心したようにジェシカはオレのことを見詰めていたが、ボソッと呟いた。
「誰から盗むの?」
「うーん、キザな言い方するとボロがでるな……オレにもカッコつけさせてくれ、突っ込みは禁止」
 オレは軽く妹の頭を小突いた。くすくすと笑って、彼女は毛布を引き上げた。
「ありがと。男と女の関係にならなくても、やっぱりお兄ちゃんが遠くに行ってしまうなんて
無駄な心配だったみたいで良かった」
「馬鹿だな、そんなことあるわけないって。オヤジはともかくな」
「ごめん。やっぱりお前のことが好きだからこそ、男と女なんて獣みたいな関係には
なれないと思う。最後まではできない、その代わりオレはいつまでもお前のそばに居るから」
「うん、わたしは大丈夫だから。無理に迫ったみたいでごめんね」
 そういってふと横を向いた妹の眼から、涙がひとしずく零れ落ちたのを見逃さなかった。
「でも、お兄ちゃんが相手でも恥ずかしかった。本当にするときはどうなるのかな」
「まあ、なるようになるだろ」
 オレはジェシカに向かい合って、そっと彼女の頬に指を伸ばして涙を拭った。
 みんな大人になっていく。その運命から逃れることはできないし、それは悪いことばかり
でもない。でも例えばだんだんと人と人との距離が遠くなって、子供の素直な心を忘れて、
他人を思い遣る気持ちがなくなって……そんなことで大人を否定したくはない。
 これからオレもジェシカもそれぞれの人生を歩み、それぞれの生き方を見つけるだろう。
けれども、こうして一緒の時間を過ごしたことだけはいつまでも忘れたくなかった。
お前の幸せがオレの幸せ。自分勝手だけど、オレのわがままだけど、彼女が幸せであるために
オレは彼女を愛していたいと思った。
「ところで、もう疼いたりしないだろ?」
 ストレートにそう訊ねると、妹は耳まで真っ赤になって向こうを向いてしまった。
「ね、腕枕してよ」
 言われるままに左腕を伸ばし、彼女の頭をひょいと乗せた。さらさらの髪が剥き出しの
腕にくすぐったかったが、可愛い妹のためだ、我慢することにした。
 いずれ来るべき運命を待つのではない。自分では何一つできないまま後悔しながら生きるなんて
死んでいるも同然だ。オレはオレの人生を生きる。答えなんてなくていい、ただ一生懸命に
幸せを求めて戦う。自分のために、妹のために、親友のために、仲間のために。
失敗したっていい、一切合財含めてオレは我侭にオレのままでありたい。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
 そっと毛布を妹の肩まで引き上げて、目を閉じた。やがてジェシカはすうすう寝息を立て始め、
そんな彼女が無性に愛しくて、腕から伝わる温もりを懸命に感じ取ろうとしているうちに、
いつしかオレも眠りに落ちていた。



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