紅蓮の魔導師×アンジェラ

835氏



「お願い、行かないで」
アンジェラの翡翠の瞳から涙があふれた。
夜明け前のまだ暗いアルテナの城門。
旅立とうとする青年に、少女が必死で懇願する。
薄い部屋着のまま飛び出してきたのだろう、アンジェラの肩は肌寒さに震えていた。
呼び止められた青年が足を止め、振り向く。
美しい金髪と、整った目鼻立ち。瞳の深い青は孤独の色。

「あたしを一人にしないで…」

駆け寄ってそのまま胸に顔をうずめた。
彼の腕が背中に回されて、冷えた肩がほんのり温もる。
「魔力を手に入れたらきっと、戻ってくる。そしたら…」
苦悩するようなテノールが頭上からふってくる。
アンジェラはいやいやとかぶりを振る。
いいようのない不安が次から次へと湧き上がってくる。
「約束、するから…アンジェラ」
彼の顔が間近に迫ってきて、あたしはまつげを伏せた。
温かくてすこし苦い、柔らかな唇が重なる。
約束なんて信じられない。今この腕のいましめを解いたら、あんたは二度と戻ってこない。
そんな気がして…


魔法王国の王族のくせに、魔法が使えないあたしはいつだって一人だった。
ホセやヴィクターはなにかれと構ってくれるけど、それもあたしが王女だから。
お母様が最近、あたしと目を合わせるのを意識してさけているのにだって気付いてる。
そんな折、逃げ込む先の図書館にいつも同じ人影を見るようになった。
真摯なまなざしで読書に耽る青年。少し長めのたんぽぽ色の明るいブロンドが
長いまつげにかかっていて少女心を軽くときめかせたのを覚えている。
ヴィクターからそれとなく話を聞き、
金髪の彼もまたあたしと同じ悩みを背負っていることを知った。

「ねえ…あんた、名前はなんていうの?」

王女が話しかけたことにではなく、"誰か"に話しかけられたことに驚いたのだろう。
深い青の瞳があたしを捉えたとき、あたしの身体に痛いような電撃が走った。

あたしと彼は自然に二人寄り添うようになっていた。
ホセの授業を抜け出し、図書館の彼の元へ走り、甘いささやかな時間を過ごした。
彼は控えめで無口だったが、あたしの無茶苦茶な言動から
いつだってちゃんと意図を読み取ってくれた。
魔法が使えないもの同士傷をなめあっていたように見えたかもしれない。
あたしたちは孤独に惹かれあうように自然に、身体を重ねる関係になっていた。
一度すら想いを口にすることもなく。


大広間で行われた王女17歳の誕生祝賀会の後、
あたしは片付けの忙しさに紛れてそそくさと城を抜け出し、夜の城下を彼の家へと走った。
両親を早くに亡くした彼は、城下の片隅で一人で暮らしていた。
明るいオレンジのランプの光が窓からこぼれて街路を照らしている。
少し遅くなってしまったけど、彼はまだ起きている。

「王女…!」
ドアを開けた彼が、あたしの姿を見て驚いた声をあげる。
「いいから入れて入れて!」
走ってきたために呼吸が落ち着かないあたしは、短くそういうと彼の腕をすり抜けて
家の中へ入る。彼はドアを閉めて鍵をかける。
ランプの灯る机のまわりには、上にも下にも魔法書がたくさん置かれていた。

あたしはランプの灯りをそのままに、ショールを脱ぎ捨てると彼に抱きついた。
背伸びして、彼の唇に唇をおしつける。なにか苦い飲み物の味がした。
彼の腕があたしの背にまわされ、そのままあたし達はベッドに倒れこむ。
柔らかいキルトの掛け布団をそのままに、夢中で唇を貪る。
「んんっ…くふ…」
彼の舌が唇を割ってあたしの口の中に入ってくる。夢中で自らの舌を絡めた。
上にのしかかっている彼の重みを散らそうと、わずかに太ももを動かすと
すかさず彼の足が割って入ってきた。あたしは抵抗せず足を大きく開く。
彼の首にぎゅっと腕を回し、引き寄せて顔をうずめた。
甘くて優しい匂いに、脈拍がひとつとんだ。

「ね…しよ…?」

あたしの言葉を待つつもりはなかったようだ。
彼の指はすでにあたしの太ももをはっていた。
ついばむようなキスを繰り返しながら、その手によってドレスがゆっくりとはがされる。
見せようと思ってちょっと意識してつけてきた可愛らしい下着も、いまやベッドの下。
彼は露わになったあたしの割れ目を、そのしなやかな指でからかうようになぞった。

「…我慢してたのか?」

かすれたテノールで囁きながら、彼はあたしの割れ目をくにゅくにゅと愛撫する。
そこはすでに淫乱な泉となっていやらしい液体を溢れさせていた。

「あっ…ふぅんっ…」

彼の中指がちゅるりと音をたてて肉壁の中に侵入する。
あたしは耐え切れず喘ぎをもらす。

「いいっ…気持ちいいよぉ…」

彼はあたしの乳房をも同時に責めた。
自慢の豊かな胸は、仰向けになっていてもまだ谷間を作っている。
彼の手の中で乳房はぐにぐにと形を変えた。
そして彼は桜色の乳首を舌で器用に転がし、軽く咥えて痛みを与える。
その痛みがあたしにとって快感だということを彼は良く知っていた。

「ね…お願い、もう、我慢できないっ…」

乳首と割れ目を責められて、あたしは淫乱な牝のように彼をねだった。
優しい彼はすぐにぬるりと指を引き抜くと、自らの性器をとりだした。
それは既に天を向いていきり立っていて、恥ずかしいことにそれを見たあたしの子宮は
物欲しさにきゅうきゅうと締まった。

「いくぞ…いれるぞ…!」

膝をついて割れ目に性器をあてがった彼は、そのまま一気に腰を突いた。
素晴らしく巨大な剛直が、衝撃とともにあたしの中を貫く。

「あっ!ああぁんっ!きゃぁぁんっ!」

嬌声を抑えることすら忘れ、あたしは彼の肉棒の与える快感にのたうった。
彼はあたしの足首をつかんで持ち上げ、より深く挿入できるよう角度をかえた。

「ああ…綺麗だ…王女、おうじょッ」
「王女って呼ばないでぇっ…名前で呼んでぇ!あぁぁんっ!」

パンパンと肉が打ち付けられる乾いた音に、ぐちゅぐちゅと濡れた水音が混じりあう。
小さな家は若い二人の放つ情事の香りに満ちていた。
あたしは彼の思いのほかひきしまった背につめをたて、
激しいピストンに振り落とされないようこらえた。
彼の肉棒は思うがままにあたしの膣壁をこすり、内臓をえぐるように深く突きささった。

「アンジェラ…アンジェラっ…!!」

堅苦しい彼は、セックスのときだけはあたしを「王女」ではない、名前で呼んでくれた。
あたしはそれを期待して必要以上に彼とのセックスを欲しがった。
彼の額に浮いた汗で、端正な顔に細い金髪がはりついている。

愛してる

唐突に胸の内に湧き上がった言葉は、あたし自身が戸惑っている一瞬の間に
最奥への彼の一突きで掻き消された。

「いっ…いっちゃうよぉぉ!!」
「アンジェラ…いくぞ、出すぞ…!」

びくびくっという射精の音が聞こえたような気がした。子宮に熱い液体が注がれる。
あたしの糸が切れるのと、彼があたしの最奥で果てたのはほぼ同時だった。
最後の一滴までしぼりとろうとしているかのように、あたしの膣はきゅうきゅうと勝手に収縮した。

「ん…抜かないで…」

動こうとした彼に、あたしはぐったりと夢見心地のまま言う。
ずっとつながっているよ、アンジェラ。
キルトの掛け布団にくるまれて眠りに落ちていくあたしの耳に、
彼がどこか遠いところで囁いた気がした。

「行かないで、行っちゃいや!」
唇を重ねただけで、彼は離れた。
去っていく、アルテナから、あたしの側から。
必死に走って追いかけた。追いかけて、つまづいて、後ろ背にむかって叫んだ。

「あたし、あたし、あんたを…」

愛してる

続く言葉は嗚咽に飲み込まれた。涙で視界が曇り、もう何も見えない。



後に約束どおり戻ってきた彼は、あたしの知る彼とは別人のように変わっていた。



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