東洞院右近 ◆.UPqm0er1Y氏
そして、カールが死んだ時――自分が親友を殺めてしまった時から。
月光を浴びると、獣の血が目覚めるようになった。そして、モンスターの熱い血を浴びて、《気持ちいい》と思ってしまうようになった。
だから。
自分は――月の光が、もっともっと嫌いになった。そして、自分のことも――。
透明な夜。空に浮かぶ星月が、透き徹った影を地に落としている。
辺りに凝るはずの宵闇は明るくさえ渡り、生い茂る草木の緑もまた、仄かな銀の輝きを帯びていた。
「こんなに月が綺麗だなんて……」
「何だか、風も穏やかな気がします」
アンジェラとリースが、辺りに降りしきる月の光を浴びながら、うっとりとため息をついていた。――空を仰ぐ二人の表情は、浪漫に魅せられた女性のそれだった。
アンジェラに視線を奪われているデュランを見て――ケヴィンは、人知れずに笑いをかみ殺した。
月明かりの都《ミントス》。
月の精霊ルナの祝福と、月読みの塔のマナストーンの守護を受けた永遠の夜――その中に、ぼんやりと浮かぶ上がる小さな村。
深々と舞い降りる清らかな月影と共に、穏やかな獣人たちがそこで静かに暮らしている。――無論、ケヴィンの父親――獣人王の聖都侵攻を疑問視する者も、少なくない。
のんきに騒ぐ女性人を尻目に、ケヴィンはぽっかりと浮かぶ月を見上げた。――夜空を照らす銀色の月は、あの時からまったく変わっていないようだった。
月夜の森、獣人王、死を喰らう男、そして――カール。
自分が始めて《ケモノ》になった、あの夜から。
少しだけ、胸が疼いた。
「ケヴィン、どうしたんだ? もっと、明るく行こうぜ?」
「お、おう……」
ケヴィンの背中をバシリと叩きながら、陽気に笑うホークアイ。ケヴィンもつられるようにして笑顔を浮かべたが――その表情は、仄かに昏い翳りを帯びていた。
「オイラ、ちょっと月を見てくる。みんなは、先に宿屋に行くといい」
ケヴィンはそう云い残して、月夜の森――透き徹った闇の中に消えていった。
「何かあったのか?」
「バカね、久しぶりの故郷なんだから、行きたいところもあるでしょ。ホント、デュランってデリカシーが足りないわ」
「何だと?」
「何よ!」
バチバチと視線の火花を散らすデュランとアンジェラを傍観しながら、ホークアイとリースがくすくすと笑っている。どこから見ても、仲が良い勇者たちの日常風景そのもの。
しかし。
「ケヴィンしゃん……」
シャルロットだけが――月夜の森に消えたケヴィンの背中を、不安そうに見つめていた。
月光を纏った月夜の森を、奥へ奥へと進んだ所――木々が開けた小さな広場に、《それ》は静かに佇んでいた。
カール――かつての親友の、小さな墓。涙で濡らしながら作った、簡素な墓碑だった。
「カール……元気か?」
ケヴィンは墓石の前に胡坐を掻くと、呟くように声をかけた。
ざわり
木々が音を立てて揺れると、ケヴィンは穏やかな微笑を浮かべた。
「そうか、元気か」
カールの墓に向き合いながら、ケヴィンは訥々とした口調で語りかけ始めた。
「カール、オイラのこと、許してくれなんて云わない。だって、オイラがカールを殺した。それは、とても悪いこと。だから、許してくれなんて云わない」
降りしきる月光が、胸を騒がせる。
「オイラ、好きな人、出来た。――シャルロットって云う。でも、オイラ、怖くて堪らない」
ざわりと、木々たちがケヴィンに問うた。――何が怖い、と。
ケヴィンは、ゆっくりと双眸を閉じた。ざわざわと吹き抜ける風が、身体のあちこちをくすぐって、気まぐれに去って行った。
ゆっくりと、双眸を開く。金色の瞳が、きらりと瞬いた。
「シャルロット、そこにいないで、こっちに来るといい」
「ぶー、バレてたでちかー」
ケヴィンが後ろも振り向かずに声をかけると――その背後の木陰から、ひょっこりと小さな影――シャルロットが躍り出た。
ふわりと靡く金色の髪と、きらきらと輝く空色の瞳。月光を浴びるその姿は、物語に出てくるいたずらな妖精そのもので。
転がるようにケヴィンの隣に駆け寄ると、ちょこんと座る。
「えへへー」
無邪気に笑うと、ケヴィンにその小さな身体を摺り寄せた。――ほんのりと、ケヴィンの顔が赤く染まった。
「ケヴィンしゃん、こんな所で何をしていたでちかー?」
「べ、別に、オイラ、シャルロットのこと、は、話して、なんか」
意地の悪そうな微笑を浮かべるシャルロットの言葉に、ケヴィンは何回かどもりながら応えた。
心臓の鼓動が、シャルロットに聞こえてしまいそうだった。身体から、火が出そうだ。
そんなケヴィンの顔を覗き込んで、シャルロットはくすくすと笑った。
「ケヴィンしゃん、もしかして、照れてるでちか?」
「ち、ちがう、そんなこと」
ぶんぶんと首を横に振るケヴィン。シャルロットはその様子を眺めながら――いたずらっぽい笑みを浮かべた。
ケヴィンは、何となく嫌な予感がした。
「シャルロット、何を――」
「えいっ!」
案の定、シャルロットは不意にケヴィンの正面に重なるように倒れこむ。その重さを受け止めて、ケヴィンも柔らかな緑に、仰向けの姿勢で倒れこんだ。
「シャルロット……むう……」
突然、ケヴィンはシャルロットに口を塞がれた。――小さな小さな薔薇色の唇が、妙に熱く感じられた。
「ふう……ん……」
「んん……ふ……ふうん……」
口の中に何かが入ってくる。熱くて、柔らかくて――自分の舌に絡みつくように動いている。――それがシャルロットの舌だと理解するのに、少しだけ時間がかかった。
お互いの唾液と吐息が交じり合い、舌と舌とが絡み合う。ケヴィンにとって、それは経験したことのない感覚だった。――今まで、他人に唇を許したことは、一度もなかった。
「ふうん……んんっ……ぷはっ……」
二人の唇の間を透明な糸が繋ぎ、すぐにそれは切れた。
ケヴィンは無意識に――シャルロットの身体を、そっと抱きしめた。ふわり、と微かな香りがケヴィンの鼻をくすぐった。
「ケヴィンしゃん、こう云うは初めてでちたか?」
「うん。オイラ、まだ、キスしたことない」
「じゃあ、初めてはシャルロットのものでち。――それに、気持ちよかったみたいでちね」
「気持ちいい……あうっ!」
シャルロットの手が、ケヴィンの股間のモノをさわりと撫でた瞬間――ぞくり、と背筋が痺れた。味わったことのない、初めての感覚。
悲鳴を上げたケヴィンを見て、シャルロットはくすくすと笑った。
「ケヴィンしゃんの、とっても元気でち」
「オ、オイラ、その……」
何だか、シャルロットとのキスで興奮してしまったなんて――少しだけ、胸がちくりと痛んだ。
心の中で鎮まれと念じてみても、ケヴィンのそれは収まらない。
「シャルロット……ごめん」
「ケヴィンしゃんがいけないわけじゃないでち。それに――シャルロットだって……」
シャルロットはそう云うと、ケヴィンの右手を、自分の秘密の場所に導いた。しっとりと湿った感触が、ケヴィンの指に伝わる。
どくん、と胸が鳴った。
「触っても、いいでちよ?」
耳元で、吐息が混じった囁き声。
ケヴィンはこくりと喉を鳴らすと、ゆっくりとシャルロットのスリットをなぞった。――とても滑らかで、熱い。
「あふうっ!」
シャルロットの喘ぎ声と共に、その金色の髪がさらりと揺れた。
ケヴィンは吐息の熱を耳元に感じながら、とろりと濡れたシャルロットの中に、つぷっと指を差し入れた。
「ん、あふっ、そ、そこでち……」
「気持ち、いいのか?」
「ふうん……とっても、気持ち、あう、いいでちよ……」
声を聞くたびに、じんわりと頭の中が痺れてゆく。指でシャルロットを感じていると、すぐに自分の中で何かが弾けそうになる。
柔らかな粘膜に人差し指を締めつけられて、ケヴィンは思わず微かな叫び声を上げた。
「シャルロット……もう……」
硬く反り返ったケヴィンのモノは、先から溢れ出た液体でぬるりと湿っていて――少しの刺激でも、すぐに漏らしてしまいそうだった。
シャルロットは年不相応な笑みを浮かべ――ケヴィンの耳元で、優しく囁いた。
「ケヴィンしゃん……今、気持ちよくさせてあげるでち」
シャルロットの小さな手が、再び布越しにケヴィンのモノに触れた。熱くなったそれを――そっと、ズボンの中から引き出した。
「ふあ、おっきいでち……」
シャルロットはうっとりと呟くと、天を向いたそれをまじまじと見つめた。――それに応えるように、ケヴィンのモノがひくりとしゃくりあげ、とろりと透明な液体を零した。
「シャルロット、あんまり、見ないで……んあうっ!」
ごにょごにょと云う呟きが、突然悲鳴に変わった。――慌てて視線をやると、シャルロットが自分のモノを口に含んでいた。
亀頭を包む、粘膜の感触。裏側の部分をちろちろと舐められて、ケヴィンはきゅうっと眉を寄せた。
「シャルロット……ふうっ、だ、ダメ、んんっ……」
にゅるにゅるとした粘膜で全体をこすられて、思わず腰が跳ねそうになる。腰の奥がじんわりとしびれて、頭の中がぼんやりとかすむ。
「くう、ん、や、やめてぇ……!」
ケヴィンはやっとの思いで、シャルロットを股間から引き離した。
「……どうしたんでちか、ケヴィンしゃん?」
「オイラ……んう、その――」
「あ、もしかして、シャルロットの中に出したいんでちね?」
ケヴィンは黙って俯き――やがて、こくりと頷いた。シャルロットはその様子を見て微笑むと、またがるようにして秘裂をケヴィンのそれにあてがった。
ぴたり、と粘膜同士が触れ合う。二人の身体に、微かな震えが走った。
そして――徐々に、シャルロットは腰を沈めてゆく。
「あ、や、シャルロット……!」
「ふう、ん、あ……にゅるにゅるが……気持ちいいでち……」
ぞくぞくと背筋を走る未知の感覚に、ケヴィンのそれが硬さを増す。燃えるような熱を帯びて、シャルロットの中を割り開いてゆく。
「あう……ふう、ん、くう……ぜ、全部、入ったでち」
ふるふる、と身体を小刻みに震わせて――シャルロットは、ケヴィンの熱を感じながら云った。
根元までケヴィンのモノを咥えこんだ秘裂から、とろりと蜜が溢れた。つうっと竿を伝って、ケヴィンの会陰をしっとりと濡らす。
シャルロットの小さな身体を、ケヴィンはそっと抱きしめた。それに応えて、シャルロットの小さな手も、ケヴィンの背中に回された。
銀色の月明かりが作る静寂の中で、とくんとくん、と二人の胸が鳴る。
「動く……でちよ」
シャルロットはそう云うと――ゆっくりと、円を動かすように、腰を動かし始めた。その瞬間、ケヴィンの中で快感が弾けた。
「シャルロット……それ、気持ちいい!」
「あふう、じゃあ、もっと……くうん、う、動くでち」
シャルロットの中から、ケヴィンのモノが出入りするたびに――交じり合った二人の粘液が、とろりとろりと零れ落ちる。
粘膜同士がこすれ、くちゅくちゅといやらしい音が響く。
「くうっ、お、オイラ……」
どくん、と胸が鳴り――。
「気持ち……いいでち、か……きゃうん!」
「だ、ダメ……うあ、く、来るぅっ!」
金色の髪を振り乱しながら、ケヴィンの上でシャルロットが踊る。身体と身体を絡ませ、そして離れ――本能の命ずるままに、快感を求め合う。
段々と、息が乱れ――。
とろりと蜜が溢れ、ケヴィンの竿をぬるぬると包みこむ。
「オイラ……壊れちゃう、く、ふう、ん……《オオカミ》が、んあうっ……!」
――《ココロ》のそこから、這い出してくる。
あの夜と同じだ。――親友を殺めてしまった、あの夜と。
絶対に、吐き出してはいけない!
「もう、シャルロット、イッちゃう……!」
ケヴィンは力任せにシャルロットを引き寄せて、その奥を硬く反り返ったそれで突き上げた。
「きゃふううぅぅううんん!!!」
「う……ぐう、ああ……!」
びくびくとシャルロットが痙攣した。欲望を吐き出せと蠢く粘膜のうねりに、ケヴィンは身体を震わせて耐える。
出してしまえ、出してしまえ――頭の中でその声だけが、がんがんと響く。
頭の中で火花が弾け、快感が全身を駆け巡る。しかし、絶対に欲望を吐き出すわけにはいかなかった。
心の底の《ケモノ》を、ケヴィンは必死に押し止めた。
やがて――。
「うあ……はあ、んん……ふう……」
弓なりに沿っていたシャルロットの身体が、くったりとケヴィンの上に倒れこんだ。荒く呼吸をしながら、シャルロットは焦点の合わない眼差しのまま、ぼんやりと呟いた。
「ケヴィンしゃん……シャルロットに、くれないでちか? ケヴィンしゃんは、シャルロットの中が、気持ちよくなかったでちか……?」
雫が一滴、シャルロットの頬を伝った。
ケヴィンは上体を起こしてシャルロットを抱きかかえると、そっと、指先でシャルロットの涙を拭い取った。
「違う。シャルロットの中、とっても気持ちよかった。でも、オイラ…………怖いんだ」
ケヴィンはシャルロットの髪の毛を指で梳りながら、小さな声で云った。――昏く、翳りを帯びた声音だった。
「オイラ、獣人だ。月の光を浴びていると……《オオカミのココロ》が出てきて……オイラ、《ケモノ》になるんだ」
ポツリ、ポツリと、ケヴィンは言葉を紡ぐ。誰もが知っているようで――本当は、獣人にしか解らないこと。
「目の前が、いきなり真っ赤になって……何にも聞こえなくなって……まるで、オイラがオイラじゃなくなるみたいなんだ。オイラ……オイラの《ココロ》を、《オオカミ》に喰われるのが……とっても、怖いんだ」
堰き止めようとしても、次々と流れ出てくる言葉と想い。
声が、濡れてゆく。溢れる重いが雫となって、ほろほろと、その黒い双眸から零れ落ちた。
「オイラ、初めて《ケモノ》になった時……カールを、この手で殺した。この拳で、何回も……何回も、殴った。でも、自分を、止められなかった。……シャルロットまで傷つけちゃったら……オイラ、自分を許せなくなるよ……!」
無意識に力を籠めてシャルロットを抱きしめると、ケヴィンは涙と共にくぐもった嗚咽を洩らした。――その身体は、小刻みに震えていた。
どんなに鍛え抜かれた身体を纏っていても――その内側に宿っていたのは、闇に怯えるちっぽけな心。光と温もりに飢えた、孤独な少年の心だった。
「ケヴィンしゃん……」
シャルロットはそっと囁くと、嗚咽と共にしゃくりあげるケヴィンの背中をそっと撫でた。――逞しい身体の内側を感じるように。
柔らかく抱きしめながら、シャルロットはゆっくりと云った。
「ケヴィンしゃんは……半分はケモノかもしれないでち。でも、もう半分は――絶対に、人間でち」
優しい声音。しかし、その口調はしっかりとしたものだった。
歌うような音律で、シャルロットはケヴィンに体重を預けながら呟き続ける。
「ずうっと前に、おじいちゃんが云ってまちた。人間には光と闇があって、どちらかをなくすことはできないって。けれど、どちらかを選ぶことは、簡単にできるんだって」
言葉が連なるにつれて、ケヴィンの嗚咽が、少しずつ、収まってゆく。――シャルロットの温もりが、ケヴィンの心をじわりと暖める。
「ウェンデルの詩(うた)に、こんなのがあるんでち」
空色の双眸を閉じると、シャルロットはゆったりとその詩を暗誦し始めた。
光と闇は 表裏
一つで二つ 二つで一つ
光が在るから 闇が在り
闇が在るから 光が在り
二つで一つ 一つで二つ
光と闇は 裏表
柔らかな抑揚が、不思議な韻律を帯びる。鈴の鳴るような声音が、ケヴィンの心に温もりを与え、光を与えてゆく。
「闇が嫌いなら、光を選べばいいんでち。大切なのは――嫌いなものを、怖れないこと」
そこまで云うと、シャルロットはケヴィンに向かって、にっこりと笑った。――春の陽だまりのような笑顔だった。
その笑みを見て――ケヴィンもつられて、にっこりと笑った。そして、シャルロットの小さな身体を、ぎゅっと抱きしめた。
「オイラ……シャルロットのこと、好きになってよかった。シャルロットがいるから、オイラはもう、大丈夫。だから――」
耳元で囁く間に――ケヴィンのモノがシャルロットの中で、再び硬さを増してゆく。――じんわりと熱を帯びたそれは、シャルロットの中でひくひくと震えていた。
シャルロットは黙って頷くと、ゆっくりとケヴィンと体位を入れ替えた。
「ケヴィンしゃん……シャルロットのこと、気持ちよくさせてくれるでちか?」
「うん、がんばる」
普段の口調でそう云うと、ケヴィンはシャルロットの唇を塞いだ。軽く触れるだけで離し――やがて、ぎこちなく腰を動かし始めた。
「シャルロット……気持ちいい?」
「気持ちいいでち……ん、何だか、ケヴィンしゃん、優しいでち……きゃうっ」
ケヴィンのモノがスリットを出入りするたびに、シャルロットの声が高く跳ねる。ケヴィンの浅黒い肌と、シャルロットの白い肌が、明瞭な対照を織り成していた。
ざわり、と風が通り過ぎる。仄かな森の香りが、二人の鼻をくすぐった。
「はぁ、ケヴィンしゃん、気持ち、いいでちか? ……ケヴィンしゃんの、きゅう、おっきくって、気持ちいいでち」
「オイラも、き、気持ちいい……ふうっ、シャルロットの、あったかくって、柔らかくって……」
段々と、ケヴィンの動きが早くなる。奥の方を突かれて、思わずシャルロットが甲高い悲鳴を上げた。――それが、ケヴィンを一層、高ぶらせる。
「ふあ、ケヴィンしゃん、んっ、激しいでちよう、はあう、きゃふっ!」
「オイラ、もっともっと、シャルロットに気持ちよくなって、欲しいから……あう、だから……」
繋がっている部分から二人の粘液が伝い落ちる。ぬるぬるとした粘膜がこすれあって、濡れた水音が夜の静寂に響き渡る。
打ちつけるように、抉るように、ケヴィンのそれが、シャルロットの奥を勢いよく叩く。そのたびに、二人の身体がびくりと震える。
息が荒くなる。どくんどくんと心臓が鳴る。けれど、《ケモノ》はもう大丈夫だ。――シャルロットが、いてくれるから。
とろけるような熱い感覚が、身体の隅々で弾ける。
「ん、オイラ、気持ちよくって……ダメ、出そう!」
「まだ、まだでち! もっと、ふああんっ、ケヴィンしゃんを感じたいでちっ!」
溢れる感情と駆け巡る感情が、頭の中を真っ白に染める。もう、お互いを感じることしか考えられない。
下腹に熱いモノがこみ上げる。シャルロットの中に、いっぱい出してしまいたい。
でも、できるだけ長く、できるだけ気持ちよく、二人で繋がっていたい。
ぽろぽろと涙を零し、眉をきゅうっとたわめ、ケヴィンとシャルロットはお互いを求め合う。
「シャルロット……もうオイラ、限界だよう!」
「シャルロットも、きゅふっ! もう、イクでち! ふあ、ああうっ!」
どんどん高みに昇りつめてゆく。二人で一緒に、頂点を目指して。
そして。
痛みを覚えるくらいに充満していた体液が、一気にシャルロットの中を迸った。
びゅくびゅく、びゅるうっ! びゅるううっ!
「きゃふううううぅぅううううんんんっっっ!!!」
「ぐう、ん! んん、うあ……!」
ケヴィンは反射的にシャルロットの身体を抱きしめた。そして、全ての想いを体内に注ぎ込む。
「あっ、あっ、あうううううっっ、い、いいでちよおお!!!!」
「オイラ、まだ、出ちゃう、うああっ!」
びゅうううっ!! びゅく、びゅくびゅくっ!!
痛みを覚えるほどの快感が、体中を駆け巡る。熱い迸りがケヴィンの竿の先から溢れ、シャルロットを貫く。
「い、いっぱいでちっ! ケヴィンしゃんで、いっぱいでちっ!」
内側を満たす熱い想いを感じて、シャルロットは上ずった声で叫ぶ。蠢く粘膜に激しくこすりあげられて、ケヴィンはいつまでも煮えたぎった精を吐き出し続けた。
やがて――。
「う、ううん……ふあ……」
ケヴィンは、シャルロットの上に、ゆっくりと崩れ落ちた。
はあ、はあ、と荒い息を吐きながら、二人はお互いをしっかりと抱きしめ――そして、唇を軽く重ねた。
微かな吐息が、ふわりと顔にかかる。
ケヴィンが唇を離すと、シャルロットは柔らかく微笑みながら云った。
「ケヴィンしゃん……ちゃんと、《ヒト》でいられたでち。――だから、もう大丈夫でちよ」
「うん、オイラ……うれしい。シャルロットのおかげで、強くなれた」
しっかりとした口調で――ケヴィンは、シャルロットの言葉に応えた。金色に輝く瞳が、穏やかに笑っていた。
ひんやりと涼しい夜風が吹きぬけ、二人の身体と心はゆっくりと凪いでゆく。
「――そう云えば、ケヴィンしゃんに、お返事してなかったでち」
「返事?」
きょとん、と疑問符を浮かべるケヴィン。ちょっとだけ、間が抜けた表情だった。
シャルロットはくすりと笑うと、ケヴィンの耳元で、そっと、囁いた。――自分も、ケヴィンのことが大好きだ、と。
ケヴィンの顔が、赤く染まる。――消え入りそうな声で、ありがとう、と云った。
銀色の影が、深々と二人を照らしている。その清らかな光の中に――黒と銀のコントラストが、明瞭に浮かび上がっている。
「ケヴィンしゃん、お月様――好きでちか?」
唐突に、シャルロットが云った。――夜空を仰いで、目を細めながら。
ケヴィンも、柔らかな草の上にごろんと、仰向けにねっころがった。そして、星月が輝く天を見上げた。
夜空に浮かぶ月――あの頃から全く変わっていないはずの、あの月は。
「少しだけ、好き」
何故かは解らないけど……少しだけ、前より綺麗に見えた。
<了>