リースとエリオット

575氏



ある日、エリオットが以前と少し変わったと言う者が出るようになってきた。
以前のエリオットは非常に誠実で真面目な王だったが、何処かでその過剰なまでの優しさが決断を鈍らせている…そんな場面があった。
たが、今のエリオットはそんな片鱗をみじんも感じさせない。
まるで何かを悟ったかのようなその迷い無き様は、威圧感すら感じられる。
それは頼もしくも感じられたが…
人は、急に変われるものだろうか?
エリオット「こんな所にいたら風邪ひきますよ?お姉さま」
リース「エリオット…」
人目から離れるように城の地下にいたリースに、
満面の笑みを浮かべながらエリオットが口を開く
エリオット「今日もお姉さまの部屋に伺いますね。」

  あの戦いから2年。エリオットは、ローラント復興のため、幼いながら暇もなく国事に務めていた。
リースとしては、本当は自分が女王となり、国を治めれればいいのだが、アマゾネスの長として武の全てを任されきっている自分がそれだけの事を出来るはずはなく、出来る事といえば弟の相談相手・政治上のアドバイザーになる事くらいだった。
毎日毎日、ありとあらゆる悩みを持ち掛けてくるようになってきた弟。
「僕、真面目過ぎるのかな…」とか、泣きじゃくる日まで出てきて。
大変だったけど、リースはそんな可愛い弟が大好きだった。
そしてある晩、弟が眠れないから一緒に寝て欲しいと言ってきた。
リースもエリオットも、寂しかった。
何かの歯車が狂い…そして一回だけの過ち。
二人は越えてはいけない一線を越えてしまった。
そしてその日からエリオットは、性格が変わった。何かがふっ切れたかのように、男らしさが出てきた。

  あの日から毎晩、エリオットはリースの部屋に行くようになる。
リースは拒まない。頭じゃこんな事を続けるのはいけないと分かってるが、しかし体は正直。
仕草でお互いの関係がバレてしまわないよう、日中はなるべくエリオットから避けるようにしている。いけないと分かりつつ、本当に幸せな毎日。

  だが、そんな日々は長くは続かなかった。

あの歯車が狂った一夜から3ヶ月。エリオットの元に、リースが訓練中に突然倒れたとの知らせが入った。
エリオット「…いや、まさか。」

  リースは倒れる際に軽く頭を打ったらしく、自室に運ばれ静かに眠っていた。
近くにいた女医にエリオットが尋ねる。
エリオット「お姉さまの容態は?」
女医「エリオット様…突然の事で驚かれると思いますが…」

  女医「リース様は、お子様を妊娠されています。倒れたのはつわりの影響だったのでしょう」

  怖れていた事が起こってしまった。
当然、エリオットの子供だなんて考える人はいない。
女医「おめでとうございます…でよろしいのでしょうか?」
複雑な笑みを女医は浮かべる。
エリオット「…」
女医「エリオット様?」
エリオット「…。ああ、いや…ハハッ。そうかそうか、お姉さまに子供が出来たなんて。おめでたい話だね」
エリオット「お姉さまは、いつの間に恋人を作ってたんだ?はは…は…」
エリオットは自分で自分が何を言ってるのか、よく分からなかった。
最後の方の言葉は酷く口ごもっていたが、女医はそれには触れず、静かに席を外す。

  数分後リースが目を醒ます。
リース「エリオット…」
エリオット「お姉さま…実は…」
リース「…自分でも分かってたの。何ヶ月も来てなかったものね」

リース「ねぇエリオット、私達…許されるのかしら」
エリオットは何と答えればいいか分からなかった。
と言うより、急に現実に引き込まれ、困惑していたという方が正しいか。

  エリオット「許されないだろうね…神にも、そして民にも」
リース「そうね…私達は地獄に落ちるかもしれない」
エリオット「…」 
兄弟での契り。そんな事がローラントの民に知れ渡ればどうなるか。
皆から後ろ指を差され、最悪国を追われるかもしれない。 
答えなど出しようもなかった。
だが、決めなくてはならない。
こんな状況にも関わらず、リースは微笑んでいる。それは無理に笑ってるようには見えなかった。
リース「私は、エリオットとの子供が出来た事が嬉しくて仕方ないの」
リース「私は、エリオットいれればそれで幸せ。」
エリオット「お姉さま…」
それは賭け。だが、覚悟は決まったようだ。

  翌日、ローラントの民に、リースは原因不明の体調不良を起こし、伝染の恐れがあるため面会は拒絶するという発表がなされた。
そして城のごく一部の重要な者達にのみ、真実が知らされる。
当然、その者達は誰もが驚愕・絶句の表情を浮かべた。
が、それでも皆黙認を了承してくれた。
ローラントでは兄弟での結婚をしてはいけないという法律があったので、
生まれてくる子供は公には出さず、侍女の子供として育てられるという事も決定した。
そして、あの一夜から300日、リースは女児を出産した。
女児の名はリデルと名付けられ、心配された障害もなく健康。
だが…やはり神は怒っていた。

リース「私は幸せだったから…」
リデルを産んで1週間後、リースは高熱が下がらず、治療のかいも虚しく静かに息を引き取った…。

  15年の月日が流れる…
ローラントは偉大なる王君・エリオットによりまさに栄華を極めていた。
だが、王は30を超えた今でも伴侶を決めていない。
国民は誰もが不思議がっていた。
そして、遂にその日が来た。
エリオット王の妃となる人は…リデルという金髪の文武両道の才を持つ美女だという知らせが響きわたり、国中がローラントの後継ぎが出来た事に歓喜する。
結婚が決まった際に、何人かの高貴族が謎の処刑を受けたという本当かどうかわからない噂が出たが、もう誰も気に留めてなどいない。
今日もローラントの中心街にはリースを型どった黄金の女神像が静かに輝きを放っていた。

END




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