893氏
マタンゴ国の森の中、僕は木を背もたれにし座っている、そして僕の膝の上には疲れたのだろう枕がわりに静かに眠るポポイ。
木漏れ日が彼女を照らし、時折喋る寝言が元から可愛い彼女をさらに愛らしく見せる。
僕は彼女の頭をやさしく撫でる。
先ほど僕たちはここで結ばれた。
冒険の仲間としてではなく、愛する人として。
長旅の疲れを癒すため、僕たちはマタンゴ王国に降り立った。
プリムは美容のため早速眠ると言い宿に向かい、ポポイは国王のトリュフォー様とフラミーの所に行き、僕は足りなくなった道具類の買い足しに向かう。
プリムが休憩、ポポイが遊び、僕が買い物。
休憩時におこなういつもと変わらないこの習慣、いつも買い物を押し付けられるけど僕は好きだ。
生死をかけた戦いに身をおく僕たち、その中で安らぎを得られるこの瞬間がとても幸せに思う。
道具屋に着き、まず最初に魔法のくるみの値段をみる。
相変わらず高い、なんでこんなに高いんだろう。
2人とも魔法連発して、疲れるとすぐくるみを食べちゃうもんだから、いっつも土壇場で足りなくなる。
そんなわけで多めに買っておかないと駄目なんだけど、高いし・・・・
ポポイも気にするなって言うけど、気にしちゃうよまったく。
文句を言ってても仕方が無いので、ぱっくんちょこ、プイプイ草、魔法のくるみを買えるだけ買い、道具屋から出る。
外にでた途端、少し湿っているが、ここちの良い風が流れた。
「気持ちいいな〜」
木々の間に見える空を見上げる。ちょこっと雲があったけど、いい天気だ。
風に揺れる僕の前髪がまたなんとも気持ちがいい。
ん?ポポイの声だ。
僕は声が聞こえた方向へ視線を動かす。
長い髪の毛、特徴のある髪飾り、小さい身長、可愛い顔、ポポイだ。
「ポポイ?どうしたの王様と一緒じゃなかったの?」
とりあえず、ここに居る理由を聞いてみる。
「う〜ん、なんて言うか、あの2人?2匹?の間に入る余地なんて無いって言うか、邪魔しちゃわるいと思ってさ」
ポポイが苦笑いを浮かべながら僕の質問に答える。
フラミーにとって王様は親みたいなもんだし、王様もフラミーに溺愛してる。
たしかに入り込む余地はないだろう。
「まぁ確かにそうだね」
僕は思ったことを伝える。
「だろ?・・で、あんちゃんさ、このあとどうすんの?」
どうしたんだろ、ポポイが僕に予定を聞いてくるのは珍しい。
「いや、とくになんも無いけど。」
自慢じゃないが、僕が予定を立てたことなんて・・・無い。
自分から先に進みたがる人が2人もいるんだ、僕の考えなんて殆ど無視されるにきまってるじゃないか。
「じゃあさ、あっちの方に気持ちがよさそうな場所があるんだ、さっき見つけたんだけど、いっしょに行こう」
今の瞬間でも十分気持ちがいいが、気持ちがよさそう場所と聞いては僕もいてもたってもいられない。
この気候+気持ち良い場所、考えただけで眠くなりそうだ。
「いく、いくよ」
そんな場所につれてってくれるって言うんだ嫌だなんて言うわけないじゃないか。
「オイラここで待ってるから荷物置いてこいよ」
ポポイは僕の抱える荷物を指差す。
「うんわかった」
早く置いてこなきゃ。
僕はあわてて宿に向かった。
「ここ、ここ」
ポポイに案内され、僕はその場所へとやってきた。
そんなに広くないけれど開けた場所で光が差していて、中央には大きな木が一本立っていてる。
風も道具屋の前で感じた風より全然気持ちがいい、湿気がすくないみたいだ。
そして地面に生える草、まるでじゅうたんみたいだ。
確かに良い場所だ、まさかここにこんな所があったなんて。
「へぇ〜〜よくこんな場所みつけたね」
僕は本当に感心する。
「まぁ、オイラにしてみりゃこんなところ見つけるなんて簡単なもんだって」
ハハ、ポポイって褒めるとすぐにこれなんだから。
「ポポイは凄いよ」
すぐに舞い上がっちゃうのがポポイの悪い癖なんだと思うけど、下手に変なことを言わない、ポポイが自慢げに喋ってる時は褒めておいたほうがよい。それが今までの旅から得た、ポポイの扱い方の一つで、この後どうなるかというと・・・
「へへっ」
ポポイは左手で鼻の下をこする。
照れちゃうのだ、こうすると罵声を浴びせられるとかしなくてすむ。
「あそこに座ろうよ」
僕は中央に立つ木の下の日陰部分を指差し歩く、その後をポポイが追ってくる。
「よいしょ」
僕は木を背もたれ代わりにし、そこに座る。
「・・・・・・」
ポポイも僕の横にくっつくよう座る。
僕は目を瞑る。
かすかに聞こえる動物の鳴き声、身体を撫でる風、草木の香り。
その自然の全てがまるで僕と重なるように感じられ、とても気持ちが落ち着く。
本当に気持ちが良い。
「あんちゃん・・」
「ん?」
ポポイが話しかけてきたので目を開ける。
「あんちゃんそのな・・・」
ポポイは両手の人差し指をくっつけては離し、くっつけては離しをくりかえしている。
なにか言いたいことでもあるのかな。
「どうしたの?」
気になるので聞いてみる。
「あんちゃんさ、オイラのこと好きなのかな・・・・」
「ふぇっ???」
え〜と、なに? ポポイは何を言ったんだ?
「ごめん、もう1度言ってくれない? ちょっと聞こえなかった」
「……」
あ、ポポイ真っ赤になって怒ってる…どうしよう…
「……あ、あんちゃんのことが好きだって言ったんだよ! 2度も言わせるな!」
好き? え? 何? 僕のことが好き? ポポイが? 僕を?
「え〜と、す、好きなの?」
どうして告白されたのか全然わからないのでもう1度聞いて見る。
「……コクリ…」
ポポイが静かに頷いた。僕が好きだってのは本当みたいだ。
「え、え〜〜〜〜」
ポポイから告白、お、女の子から告白! は、初めてだよ告白なんかされたの!
じわ〜っと僕の顔が熱くなってくる。たぶん今、僕の顔は真っ赤になってるに違いない。
「あのさ、だからさ、オイラのことあんちゃん嫌いかな……」
ポポイも真っ赤な顔してる。それにちょっとだけ震えてる…
きっと本気なんだ!
「好きじゃないなら、そう言ってくれよ…」
ポポイが俯く、なんか…泣きだしそうだ。
どうしよう、今ちゃんと答えないと絶対ポポイを悲しませちゃう。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
「……やっぱり、オイラみたいのじゃだめなのかな……言葉だって男みたいだし…ちんちくりんだし…」
まずい! まずい!泣いちゃいそう、どうにかしないと……うぅ…しかたない、ええーい!
「す、すすす、好き、好きだ…よ」
く、口がちゃんと動かない!
「ぼ、僕もポポイが大好きだから」
うわ、言っちゃった!
「あ、あんちゃん……」
「だから、泣かないで、ね」
ポポイが僕をじっと見てる。
「う…うわーーーーん!」
あ、泣き出した、ど、どうしよう。
ドサッ!
ポポイが飛び掛ってきた。
できることをしようと思い僕はポポイを抱きしめた。
「あんちゃん! あんちゃん! 好き! 好き! 大好き! 」
僕の胸に顔を埋めて好きだと泣きながら何度も叫ぶ。
「うん、僕もポポイが大好きだから」
頭を撫でる。小さな赤ん坊をなだめるようにやさしくやさしく。
「ひぐっ…ひぐっ……」
ポポイが僕を見上げる、小さく可愛い顔が涙でぐしゃぐしゃだ。
…こんなになるまで僕のことが好きなんだ。もしかして、ずっと思いつめていたんじゃないか?
そう思った途端ポポイがとても愛おしく思えてきた。
「ポポイ」
ポポイを見つめる。
ポポイの美しい肌、赤く映える髪。彼女の全てが美しく見える。
なんだろう、胸がどきどきして心の奥からどんどんど熱い何かが沸いてくる。
「あんちゃん…」
ポポイが目を瞑る。たまった涙が頬を伝わって落ちる。
…恋愛経験が無い僕だってわかる、今何をすればいいのか。
そう
チュッ…
キスだ。
僕の始めてのキス、ポポイとのキス。
彼女の小さな唇は、僕の頭と心を溶かす。
いや、爆発してしまいそうだともいえる。
しばらくして、いや、一瞬だったのか、長時間だったのかも全くわからない。
僕たちは唇を離した。離した後も感触が残っている気がする。
「あんちゃん…」
余韻にひたる僕をよそ目に、ポポイが喋りだす。
「う、うん…な、なにかな?」
まだ少し名残惜しい。
「あのさ、このままさ、続きもしちゃおうよ」