おとうさんのほうき episode
9氏
あらすじ
いつの間にか消えていたコロナちゃんのほうき。父の形見を無くしてしまった事に驚くバド。
大騒ぎしている時に家に帰ってきたサボテン。歩くサボテンを目撃してさらに驚くバド。
2階に上がったサボテンからコロナちゃんのほうきはゴミ山に捨てて行った事を知るユウ(主人公)。
その話を隠れて聞いていたコロナちゃんはゴミ山へ飛び出していってしまいました。
バドと一緒にゴミ山へ向かうユウ。コロナちゃんを発見するも、突如ゴミ山に眠っていた怨念が悪魔の姿になって襲い掛かります。
苦闘の末にそれを撃退したユウとバド。だが、コロナちゃんのほうきはボッキリ折れてしまっていたのでした。
父の形見が壊れてしまった事を嘆くコロナちゃんに、ユウとバドはこう言ったのです。
「直せばいい!」と。
お父さんのほうきより
1日目 ジン曜日
「師匠〜、直せそう?」
マイホームの資料室で、耳の尖った少年 バドが、
目の前で、ほうきと本を交互に睨めっこをしている赤い帽子をかぶった青年に問いかけていました。
師匠と呼ばれた青年 ユウはひとしきり調べ終わったのか、ほうきを大切そうに机に置いて、バドの方に身体を向けます。
少し不安そうな顔をしている目の前の少年を安心させるために、ユウは笑顔で頷きました。
「うん、どうやらこれはバイゼル金で出来ているようだな。まずは材料を探そうか」
その答えにバドはパッと明るい顔をして
「オッケー!」
と元気良く返事をしたのでした。
「あ、ユウさん、バド……」
外に出ると、そこにはバドと同じく耳の尖った少女 コロナちゃんが立っていました。
恐らくほうきが直るかどうかを聞きに来たのでしょう。
「コロナ! これからちょっと出かけてくる!!」
「えっ、どこ行くの?」
突然のお出かけ宣言を聞いて困惑するコロナちゃん、彼女の疑問にはユウが答えます。
「直すための材料を調達しにね」
言い終えるとユウはコロナちゃんの前にしゃがみこみました。
ユウの瞳が間近に迫ってきて、どぎまぎしてしまうコロナちゃん。顔もちょっぴり赤いです。
「コロナ、悪いんだけどしばらく留守を任せていいかな?」
まるで子供をなだめるような言い方に、ほんのちょっとだけムッとしましたが、
「はい、お留守番ですね」
さすがはしっかり者の姉、ユウの言うことも素直に聞きます。
そんなコロナちゃんの頭を、ユウは優しく撫でてあげました。やっぱり子供扱いしています。
「すぐに帰って来るよ」
「コロナ〜 しっかり留守番してろよ〜」
2人はそう言うと、マイホームを後にしました。それを見送るコロナちゃんの顔はちょっぴり寂しそうでした。
それから一週間ほど経って、ユウとバドが帰って来ました。その手にバイゼル金や他の材料の入った袋を担ぎながら。
9日目 ウンディーネ曜日
カンカンカーン!
家の裏にある作成小屋で、ハンマーの叩く音が響いています。
「ふぅ……」
ハンマーを振るっていたユウは、額の汗を拭うと、もう一度コロナちゃんのほうきを見直しました。
バイゼル金は扱いがやや難しい金属です。ましてや今回の獲物は彼女たちの父親が残した大切な形見。
それ故に、より完璧に修復するため、ユウはいつも以上に慎重に作業を進めていました。
「師匠〜!」
「ユウさ〜ん!」
そんな彼に飛びつく双子の姉弟の姿が。
「っとと!」
思わぬ不意打ちに思わずユウはつんのめりました。
何とか姿勢を立て直しながら、ユウがちょっと困ったような口調で2人を叱りました。
「こらこら、イキナリ飛びついたら危ないだろ?」
「エヘヘ、ごめんなさ〜い」
コロナちゃんはすぐに謝りましたが、バドはそんな事はお構いなしに用件を告げます。
「師匠! 晩ご飯っす!」
「あれ? もうそんな時間なのか?」
どうやら作業に没頭し過ぎたユウ。
どうも武具の部屋では作成や改造に集中してしまうためか、時間の感覚が狂います。
そんなユウに今度はコロナちゃんの方が叱りました。
「ユウさん、あんまりムチャしないでください」
そんなコロナちゃんの顔を見て、ユウは苦笑しながら答えます。
「ごめんごめん。ご飯はみんなで食べたいよね」
「そういうことを……」
言ってるんじゃなくて、という言葉は最後まで続きませんでした。
ユウがさっさと部屋から出てってしまったからです。
そんなユウの後ろ姿を見て思わず溜息が一つ。
「も〜、どうしてそんなふうに解釈するかなぁ」
「うちの師匠って、ちょっと天然だよな」
コロナちゃんの言葉に頷くバド。
弟子も弟子なりに色々と苦労しているんです。
さらにコロナちゃんの話は続きます。
「もっと体を大切にして欲しいなぁ…私そこまでしてユウに無理をしてもらいたくないのに…」
いつの間にか愚痴のようで、実はそうでないコロナちゃんの言葉は、バドの物言いたげな視線で中断されました。
視線に気付いて思わず口を止めた彼女に対して、感情の抑えた声でバドが尋ねます。
「……コロナってさ」
「な、なに?」
弟の平坦な声を聞いて咄嗟に身構えるコロナちゃん。
こういうときの弟は何か良からぬ事をたくらんでいる事を彼女は経験上知っていました。
何が起こっても驚かぬよう毅然とした態度で臨まんとします。
ところが、
「……師匠の事、好きなんだろ?」
「…………な!!!!!!」
あまりにも予想外な質問に顔を赤くするコロナちゃん。
好き、すき、スキ……コロナちゃんの頭の中でそんな恥ずかしい言葉がグルグル回ります。
そんな姉の様子を見て、バドは嬉しそうにはしゃぎ始めました。
「あー! 顔赤くなったー!! 図星なんだ!!」
「ち、ちがうよ!!」
図星であると指摘されてますますヒートアップするコロナちゃん。
必死に言い訳を考えますが、好きと言う言葉が言い訳をことごとく破壊します。
その焦りも+αになって、もう気の毒なくらいに真っ赤になるコロナちゃん、わずかに涙目になっています。
「あやしー! あやしーぞー!!」
普通の良識のある子供ならここでやめるものですが、
残念ながらバドにそんなものを求めるほうが無理ってものです。
滅多に見れない姉の顔を少しでも長く継続させようと彼女の周り走りまわりながら、煽り続けます。
これは一見子供じみているように見えますが、実はまるで言いふらしているように見える視覚的効果もさることながら、
走りながら大声で何回も叫ぶことで、意中の人に聞かれやしないかという心理的効果も兼ね備えた恐ろしい攻撃なのです。
もし困らせたい人がいたら是非行いましょう(注:もしそれで人間関係にヒビが生じても責任は負いません)。
「ちがうったら!!!」
まるでクジラトマトのようになりながらも必死に言い聞かせようとするコロナちゃん。
「ユウなんて、あんな男だか女だか良くわかんない顔していて、男のくせにサラサラ髪してて、一見しゅると女の子みたいな体の人、
好きになるわけないでしょ!!」
彼女はここまでを一息で言ってのけました。何だか微妙に悪口の内容が偏っていましたが、
はっきり言ってそんな余裕が7歳の子供に持ち合わせているわけありません。察してあげましょう。
さて、2人とも大声で言い争いをしていますが(コロナちゃん劣勢)、そんな双子を扉の前で待っている影がいた事を彼らは知りませんでした。
その影は深い溜息を吐くと、ボソリと独り言を漏らします。
「やっぱり、俺って女の子っぽく見えるのかな………」
自分の言葉でさらにガックリと影の肩が落ちます、どうやらコロナちゃんの言った事は全部彼が気にしていた事みたいでした。南無。
あぁ、それとコロナちゃんの様子には全く気にも留めていませんでした。というか聞いちゃいませんでした。
結局、その日の夕食は
コロナちゃんは妙にモジモジしていて、バドはホッペを真っ赤に腫らしながら、ユウはくらーい表情のまんまという実に嫌な晩餐でした。
翌日の事です、今日の作業はバドとコロナちゃんも一緒に作業しました。
3人とも一生懸命になってほうきを修理しようとしますが、思ったように作業ははかどりません。
バドが「どうせだからカッコ良くパワーアップさせようぜ!」とか言ったのもありますが、主な原因はそこではありません。
と言うのも、ほうきの外観を損なわないようにすると強度が弱く、頑丈にしようとすると別物のようになってしまうからです。
何とかほうきとしての形を残したままに、頑丈な物に作りたいのですが、どうして、どうして、これが大変難しいものだったのです。
その日は様々な事を試しましたが、結局満足した結果を出すことが出来ませんでした。やがていつものように夜も更けていきます……
その日の深夜、
ユウとバドは2人で武具作成室に篭っていました。
じっと設計図(ユウが作った)を睨みながら、打開策を巡らすユウをバドはシパシパした目で見守ります。
「ししょお〜、コロナのほうき、なおりそう?」
奇しくもほうきを直すと決めた日と、同じ会話をしてしまうバド。
そしてユウもまた、あの日と同じように笑顔を浮かべながら答えます。
「もちろん。後は俺がやるから、バドはもう寝なさい」
若干の疲労の影を見せながらそれでも相手を気遣うユウ。
彼は休みなしで修理を行っているため、その疲労度は尋常ではないはずですが、持ち前の精神力でどうにかこらえていました。
「やだ〜、おれもてつだう〜」
「おいおい、コロナと同じこと言うなよ……」
そう、実は3時間ほど前にコロナちゃんも今のバドと同じ状態になってしまい、ユウとバドが無理矢理寝かしつけたのでした。
バドもがんばってユウについて来ていたのですが、慣れない作業とまだ成長していない体は、とうとう彼に限界通知を発したようです。
「おれも…てつだ…う…ししょうと……い……っしょ…に……」
それを最後にポテリと倒れるバド、程なくして規則的な寝息が聞こえてきました。
「……お疲れ様」
そう言ってバドを労うと、ユウはバドを抱っこしてマイホームに向かうのでした。
扉を開けて、バドをベッドに運ぶユウ。やがてベッドに入れると、眠っている2人の姿を眺めました。
バドは大口を開けて眠っています。ギリギリまで粘っていたせいでしょう。起きる気配は全くありません。
一方、パジャマ姿のコロナちゃんも自分の体を抱え込むような姿で寝ていました。その姿はまるで母親の体の中で眠る胎児のようです。
そんな2人を見て、ユウはとても優しい顔になります。
(ありがとう。言葉には出来ないほど、2人には本当に救われているよ)
実際この双子の姉弟との生活は、騒がしつつも実に楽しいものでした。
この2人のやりとりを見ているとユウも知らず知らずの内に笑顔になります。
帰って来た時にはいつもサボテンだけに一方的に語りかけていた、あの空しい生活には戻りたくありません。
(がんばるからね)
そう心の中で言うと、ユウは再びマイホームを出たのでした。
「……ユウ?」
ガチャン、という扉の音でコロナちゃんの目が覚めました。
よろよろと立ち上がると、そっと窓から外の様子を伺います。
そこにはユウが肩を叩きながら裏の方にまわっていくのが見えました。
「まだ、がんばるんだ……」
コロナちゃんのハートがキュンと高鳴ります。
無理はして欲しくはないけれど、自分の為にあんなにがんばってくれるのはやっぱり嬉しいものです。
(何かお手伝い、してあげたいな…)
きっと普通に後を追うのでは、ユウさんのことだ、また無理にでもマイホームに帰そうとするに違いない。
なんとか無下に断ることの出来ないような状況にしなくてはならないんだけど……どうしたらいいかな?
一緒に住んでいるのだけあって、すでにユウの性格を把握しているコロナちゃん。将来有望なお子様です。
(そうだ!)
と、ここでコロナちゃんに名案が思い浮かびました。
胃に優しいスープを持っていってあげよう。それと軽くつまめるものも持っていってあげよう。
お腹が空いているならユウさんもきっと喜んでくれる。そうでなくてもスープくらいならきっと飲んでくれるだろうし、
何よりあの人優しいから、食べ物だけ持っていってお前だけ帰れだなんて絶対言わないハズ!
と、好意と打算を兼ね備えた完璧な作戦を考えたコロナちゃんは、さっそく行動を開始しました。
道具袋から果樹園で栽培した野菜を使ってスープを作り、さらには余った食材で簡単なサンドウィッチを作ります。
「できた〜♪」
今回はユウに差し入れをしてあげるという思いも手伝って、いつも以上の手際の良さで、瞬く間に料理を完成させてしまいました。
10日目 サラマンダー曜日の真夜中
月明かりの中、パジャマのまま、先ほどの料理をバケットに詰めて、コロナちゃんはユウの所に行きました。
(……大丈夫かな)
その道程の最中で、調理をしていた時とは打って変わって、ドキドキは興奮から不安になっていました。
部屋に入った途端に怒られやしないだろうか、とか、
料理だけもらってお前は帰れとか言われないだろうか、とか、
がんばって作ったけど、今日に限って料理がまずいとか言われたらどうしよう、とか、
普段の状態なら絶対に抱かない不安も抱いてしまいます。
(ううん、ユウはそんな人じゃない!)
目をつぶってユウの顔を思い浮かべるコロナちゃん。
そのユウは、いつもの彼よりもキラキラと輝いて、周りにバラの花とか咲いてましたが、妄想って得てしてそういったものですよね。
とにかく再び勇気を取り戻したコロナちゃんは、一歩一歩ユウのいる作成小屋に向かいました。
そしてコロナちゃんは、いよいよ武具作成室の扉の前まで立ちました。さすがにあと一歩という所まで来ると緊張してしまいます。
やっぱり帰ろうかな…でも、せっかく作ってきたんだし、ユウだって…でもでも、〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今までとは違ってその一歩を踏む出してしまえば、もう後戻りは出来ません。
しかし、コロナちゃんは一度大きく深呼吸すると、覚悟を決めて扉に手を掛けました。
「ユウさ…『出来たぁぁぁぁあああ!!!』
しかし、あぁ、何という運命のイタズラか。
コロナちゃんの決意はその一歩だけ遅かったのです。
突然の大声に驚くも、コロナちゃんは目の前に広がる光景を見据えます。
まず目に映るのは何やら大喜び状態のユウでした。目は興奮と疲労のせいか微妙に血走っています。
そしてその手に握られているのは、柄の部分がしっかりと繋がっているほうきが。
「ほうきが、直ってる!?」
そう、そのほうきはゴミ山の件で真っ二つに折れていたはずのほうきでした。
「あ、コロナ!」
コロナちゃんのつぶやきで気付いたのか、ユウが意気揚々に近づいて来ました。
コロナちゃんは怒られるかもと、一瞬身を硬くしましたが、ユウは嬉々として彼女に語り掛けました。
「ほら、ほうき直ったよ! 試し振りしてみなよ!!」
普段の彼にしては珍しいほどのハイテンションでほうきを渡してきます。
コロナちゃんはそのほうきを持つと何回か軽く振ってみました。
ヒュン! ヒュンヒュン!
(えっ)
コロナちゃんは大そう驚きました。お父さんのほうきは、本当に折れる前となんら変わりない振り応えだったからです。
「どうだい? うまく直ってるだろう?」
そんな様子をニヤニヤしながら誇らしげに言うユウ。普段は大人びたその雰囲気も、
今ではまるで自分一人で完成させた模型を親に自慢する少年のようなものになっていました。
「はい、すごいです。いったいどうやって?」
まさにその言葉を待ってましたと言わんばかりにユウの表情が太陽のように輝きました。
「ふふふ、実は一人になってから、接合剤に熱加工や冷却処理をしてみたんだよ!
これが大正解でね、今まで見たこともないような強力なものが完成したんだ!!」
本当に彼にしては珍しく饒舌に語り始めます。身振り手振りも加えるその様に、コロナちゃんは思わず呆然としながら
その様を見入っていました。ユウの話は続きます。
「でも、よかった! 本当によかった! これでまた一緒に……」
そこまで言ったところで、ユウの体はだんだん後ろに傾いていきました。
広いとは言えない鍛冶の部屋で大きな音が響きます。
それはユウが仰向けになって倒れてしまった音でした。
「ユウさん!?」
超展開の連続に驚きっぱなしなコロナちゃんでしたが、さすがにこれは黙って見ているわけにはいきません。
舞い上がるすすの中、慌てて倒れたユウのところに飛んでいきます。
「はは…、ちょっと、張り切りすぎたかな?」
カッコつかない姿になる自分を見て、ちょっとバツの悪そうにユウが頭をポリポリと掻きますが、
「もう! ムチャしないでくださいよ!!」
そんなユウを見てコロナちゃんは激怒しました。
彼女の顔を見てユウはギョッとしました。何故なら、コロナちゃんは今にも泣き出しそうな顔をしながら怒っていたからです。
「もっと自分の体を大事にしてもらわないと困ります!」
真剣に訴えるコロナちゃんを見て、ユウは自分のやった行動が、どれだけ相手を心配させたのかを痛感したのでした。
「ごめん……」
一度、本当に申し訳なさそうに謝ってから、しかしユウは言葉を続けます。
「でも、お父さんの形見なんだろう? だから……つい、ね」
そう、ユウが倒れるまで頑張ったのは、ほうきが折れて、ひどく落ち込んでいたコロナちゃんを見るに耐えなかったからだったのです。
まぁそれで結局、ほうきの事は別にコロナちゃんを悲しませる結果になってしまって、本末転倒な感は否めませんでしたが。
「それにさ」
と、一呼吸置いてから、ユウは本心からの想いを紡ぎます。
「コロナと、また一緒に冒険したかったからね……」
「ユウ、さん………」
その言葉を聞いたコロナちゃんは、思わず何も言えなくなってしまいました。
「……………」
部屋の中を静寂が支配します。
あれからユウもコロナちゃんも黙ったまま。ただ時間だけがゆっくりと流れていました。
数分ほど経ってから、やがてコロナちゃんが口を開きました。
「たしかに、このほうきは、私にとって大切なものです。でも」
震えるように、しかしはっきりとした声で、自分の気持ちを伝えようとします。
「でも、私にとって、いちばん大切なのは………」
そこまで語って、わずかな間が空きました。コロナちゃんの体はわずかに震えています。
顔の色も興奮しているのか、ほんのりと赤くなっていました。
「いちばん、大切なのは……」
今、ユウはどんな顔をしているのだろうか、
そう思ってコロナちゃんはチラリとユウを盗み見ました。
「Zzzzzzzz……」
「……ユウさん?」
そこには、実に幸せそうな表情で眠っているユウの姿が。
とうとう疲れがピークに達したのでしょう、完全に爆睡状態に入ってました。
「…はぁ……」
そりゃ最近ぶっ続けで、ハンマーを振っていたんだから、無理もないんだろうけど、
このタイミングで寝るのはあんまりじゃないですか!?
と、叫びたい衝動を堪えて、コロナちゃんは代わりに大きな溜息を吐きました。
せっかく勇気を振り絞ってここまで来たのに、とても大切な事を言おうとしたのに、
その全てを水泡に還されてしまいました。空気の読めなさっぷりもここまで来ると犯罪級です。
(ユウのバカ…)
心の中で悪態をついてから、そっとユウの肩を揺らします。
「ユウさん、起きてください。そんなところで寝たらカゼをひきますよ」
普通ならこれで目を覚ますのですが、今のユウの眠りはどうやら奈落よりも深いらしく、まるで起きる気配がありません。
「ユウさん! 起きてくださいってば!」
いい加減に焦れてきたコロナちゃん。今度は両手にあらん限りの力を込めてユウを揺さぶります。
首がガックンガックンと音をたてますが、やはり目覚める様子がありません。
「も〜、ほうきで引っ叩こうかしら?」
と、コロナちゃんが割と物騒なことを考え始めたその時、
「んん〜」
ユウが何やら苦しそうに唸ると、突然コロナちゃんの背中に手を伸ばして、
「えっ?」
そのまま、一気に、
「きゃ……!」
コロナちゃんを自分の体のうえに抱き倒したのです。
引っ張られるままに、コロナちゃんはそのままユウの体にへばりつくように倒れこみました。
傍目から見れば、今の2人は抱き合いながら眠る恋人同士にも見えます。
「ユ、ユウさん? 起きているんですか?」
「……スー」
ドギマギしながらコロナちゃんが尋ねていますが、返ってくるのは寝息だけ、
多少の疑惑は残りますが、どうやらさっきのは無意識にやっていたことのようです。
(心臓の音が聞こえる……)
ユウの胸に耳を当てている姿勢のために、心臓の鼓動を感じ取るコロナちゃん。
かつて自分を抱いてくれた父や母の面影を想い出して、心の中を安心感が満たします。
ツーッ
「っ……?」
その時、唐突にユウの腕が、コロナちゃんの背中から正中線を通って徐々に下の方へとさがっていきます。
そのゆっくりと肌をなぞるような動きに、敏感に反応してしまうコロナちゃん。
ユウの腕も、やがて終着駅…すなわち、コロナちゃんのお尻までたどり着きました。
やがてそれは、まるで意思を持つかのように蠢き始めます。
「ひゃっ…! あ、やぁ……」
コロナちゃんはその予想外の感覚に翻弄されながら、体をくねらせて逃れようと必死になりますが、
まるで起きているかのように、ユウの両腕が彼女の小さな体をがっしりとホールドしていました。
「ユウさん、や、めて………!」
すると、ピタリとユウの腕の動きは止まりました。
(……本当に寝てるのかな?)
そのあまりのタイミングの良さに、ますます疑惑を深めるコロナちゃん、
本当に寝ているのかしら と頭に?マークを浮かべてしまうような表情で、ユウの顔の方へ、ほふく前進のように近寄ります。
「スー、スー」
そこにあるのは、やはりいつもの寝顔でしたが、さすがにあれだけの動きを寝たまま出来るとは思えません。
起きているかどうかを試すために、ちょっとだけひたいをさすってみました。
「スー、スー」
反応がありません。本当に眠っているのでしょうか?
今度はほおをさすってみます。
「ん……」
わずかに反応あり、なんだか気持ちよさそうに顔を緩ませました。
今度はちょっと大胆に、ほおを両手で引っ張ってみました。
「うぇあうぇゆうえぅ」
それはいったい何語だ、とつっこみたくなるような言葉にならない声を漏らしました。
「クスクス…」
いつの間にか目的を忘れて、ユウの顔いじくりを楽しみ始めるコロナちゃん。
その笑顔は、まさしく無邪気な子供そのものです。
今度はどんなことをしてやろうか? と顔の上で指先を彷徨わせていると、
チョン
「あっ……」
指先がユウの唇に触れました。
思わずコロナちゃんは、その指先を自分の前まで持っていきます。
(……………)
その時、彼女の中の淡い恋心が胸のうちを支配します。
やがてそれは、コロナちゃんの心臓を静かに揺らし始めました。
(ユウが……)
コロナちゃんは心の中で言い訳をしながら、
(ユウが悪いよ)
ゆっくりとユウの方へ倒れ込みます。
(だって、寝ても、起きてても、私のこと)
その小さな手で、
(無意識に、かき乱すんだから)
ユウの頭をそっと抱えると、
(だから、)
互いの顔の距離を縮めて、、
「ユウの、バカ……」
言葉とは裏腹の、ありったけの愛しさを込めて、そっと唇を重ねました。
チュッ、チュッ…
(これが、キスなんだ……)
生まれて初めてのキスの感触に、酔いしれるコロナちゃん。
ただ唇が触れ合うだけのキスでしたが、それでも鼓動の音がどんどん大きくなっていきます。
ほおを赤く染め上げながら、部屋の掃除をしていたときに偶然見つけた本の内容を、心の棚から引き出します。
「次はたしか、舌を入れるんだよね…」
何とも大胆な内容を引き出しました。
はっきり言ってコロナちゃんには早すぎますが、そんなことは今の彼女に通じません。
チュ…クチュ、クチュ……
部屋の中に生々しい水音が響きます。
小さな女の子が眠っている青年に対してディープキスをしている様は、何とも妖艶な光景です。
(ユウの唇って、おいしい)
今度のキスは、甘酸っぱい味が口内に広がっていくかのような錯覚に囚われます。
いつまでもそうしていたいのですが、いかんせん慣れていないのと極度の興奮状態で、息が続きません。
「……プハッ! ハァ、ハァ」
限界までディープキスを味わったあと、名残惜しそうにユウの唇から離れます。
その間には彼女の抒情を表すかのように透明な糸が紡がれていました。
(あつい……)
そして、コロナちゃんの体にも大きな変化が起こり始めていました。
一旦体を横向きにさせて、ユウと抱き合うような形から、体位を変化させます。
(アソコが、ムズムズする………)
自分の体の異常を確かめるために、そっと下腹部に手を滑らせます。
パジャマのズボンとパンツを潜り抜け、問題の場所へと指を這わせてみると、ヌルヌルとした感触が。
驚いて、慌てながら指を顔の前に戻すと、そこにはなんらかの液体のついていました。
親指でこねてみたり、付けたり離したりしてみると、何やら粘着質を含んだ液体であり、小さい方では無いことが分かります。
(ひょっとして、これって)
Hな気分になると出てくるっていう、愛液なのかな。
ということは自分は今、Hな気分になっているということで、
ボッ
ふと自分の置かれている状況を認識して、頭から湯気を出すコロナちゃん。
本当に今さらですが、ユウの顔色を伺います。
「スー…」
相変わらず幸せそうに眠っていました。いかにもユウらしいと言えばその通りで、
いつもそれに振り回されているコロナちゃんも、今回ばかりはユウの性格にホッとしました。
「えっと、次は……」
と、コロナちゃんの視線がユウの下半身に向かいます。
「うわ…」
苦労してズボンを脱がすと、そこにはトランクスと、大きな筒状の膨らみがありました、
これだけでも怖気づきそうですが、何とか勇気を出して、慎重にトランクスも脱がせます。
「わ、わわ」
そしてとうとう、ユウの分身ともいうべきものが、コロナちゃんの目の前に躍り出ました。
先ほどのキスの余韻なのか、すでに戦闘状態に入っています。
「お、おっきい……」
初めて見る大人のモノを、しげしげと見つめるコロナちゃん。
その瞳は若干の怯えと、好奇心に満たされています。
しばし無遠慮に見つめてから、今度は自分の下半身を眺めます。
(入るの、かな?)
そもそも青年のユウとまだ少女のコロナちゃんでは大幅にサイズが違います。
これが自分の中に入るとは到底思えず、不安になりますが、ここまで来たらやめることなどできません。
(まずはしっかり濡らさないと痛いんだっけ)
挿入に備えるべくユウの体に跨ると、自分の性器とユウの性器を触れ合わせます。
「あんっ」
その途端、可愛らしい悲鳴をあげるコロナちゃん。
まるで電流が走ったかのように背中が跳ね上がりました。
(今の、なんだろ…?)
一瞬で起きた異変に首を傾げますが、もう一度その感覚を味わおうと、
ユウの分身の上で、もどかしく腰をうねり始めました。
そして、互いの性器をこすり合わせた時、
(ふぁぁっ)
先ほどよりも大きな電流がコロナちゃんを襲ったのです。
(こ、これ、すごいよぉ)
シュッ、シュッ
「あ ああ、ふぁあ」
何度も突き抜けてくる快感に思わず声を上げてしまうコロナちゃん、
ユウが起きてしまうことを考えて焦りますが、まだ7歳の少女には、その快感に抗う術を持っていません。
(声、止めなきゃ……!)
咄嗟にパジャマのすそを噛んで声を抑えますが、腰の動きは一向に止まりません。
シュッ、シュッ
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」
最初はぎこちなかった腰の動きも勘をおさえ始めたのか、
ズチュ、ズチュ!
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
コロナちゃんの思考とは無関係に、どんどん激しいものになっていきます。
(っだめぇ……! こんなに激しくしたら、ユウが起きちゃう……!!)
今、目を覚まされたら、絶対に言い逃れはできません。
もしもユウが起きてしまって、自分の姿を見られてしまったら……
そんなことを想像して無意識に涙を浮かべるコロナちゃん。そんなことになってしまったら、とてもじゃありませんが顔を合わせられません。
(でもっ でもっ……!)
しかし、それすらも背徳感という名の燃料になり、腰の動きを加速させます。
おま○こからはすでに溢れんばかりの愛液が流れており、コロナちゃんとユウをグッショリと濡らしていました。
(気持ちいいよ、気持ちいいよぉ!)
さらなる快感を得ようとして、前後の動きだけでなく、上下にも体を動かしたり、円を描くように腰を動かすコロナちゃん。
目に涙をたえながら、無我夢中にユウの上で踊るその姿は、ひどく美しくて艶やかなものでした。
ズッチュ! ズッチュ!
程なくして、とうとうコロナちゃんに限界がやってきます。
(アソコが、あつい……!)
体が、コロナちゃんに警鐘を鳴らします。
もっとも、まだ自慰さえしたことのない彼女にとって、それが何かわかりません。
パジャマのすそを噛む力が強まり、腰の動きもラストスパートをかけるように一層激しいものになって、
「ンンーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!」
とうとうコロナちゃんは、背中を弓状に大きくしならせながら達しました。
「ンはぁ……はぁぁぁあぁぅぅ……」
力が抜け始めたのか、声を上げないために咥えていたすそを放して、
言葉にならない喘ぎ声をもらすと、やがて崩れ落ちるようにユウの体に倒れ込みました。
( ユ ウ … )
その瞳に浮かべている涙の意味は果たして喜びか、切なさか。
本人にすらその正体はわからないまま、コロナちゃんの意識は段々と沈んでいったのでした。
11日目 アウラ曜日
小鳥のさえずりが聞こえ始めて、今日という日の朝が到来したことを告げます。
(朝……?)
体の体内時計が働いて、コロナちゃんのまぶたがゆっくりと開かれます。
そして彼女が朝一番に見たものは、
いまだに幸せそうな顔(でも微妙に顔が青い)で眠っているユウでした。
「うっわあぁ!?」
もの凄い勢いで飛び退くコロナちゃん。その瞬間、昨日のことがフラッシュバックのように思い出し始めました。
(あぁ、あのあと寝ちゃったんだ……)
自分が昨日やったことを思い出して、両頬を押さえて赤面するコロナちゃん。
そのかわいさといったら噂の赤面少女、真珠姫ちゃんとまったくヒケをとらないものだった。
もっとも、そんなレアなものを誰も見てはいませんでしたが。
と、そこでコロナちゃんはすぐに顔を青ざめます。
今は朝。恐らくユウが眠り始めてから随分な時間が経っていることでしょう。
あの時は、眠ったばかりだった上に、疲労が相当たまっていたから起きなかったのでしょうが、今は状況が違います。
「あ、後始末しないと!」
シュババッ! と効果音が出るかの速度で部屋を駆け回り始めるコロナちゃん。
急いでユウの服の着崩れを直して、ついでに自分の服の着崩れを直して、窓を少し開けて換気を行います。
「えっとぉ、他にやることは……」
「むぅ〜〜」
突然聞こえたうなり声に反射的に小さく跳ねるコロナちゃん。
視線を移すとそこには体をモゾモゾと動かしているユウが、
(!!!!!)
その瞬間、コロナちゃんは脱兎のごとく部屋を駆け出しました。
その速さたるや、穴掘り団のアナグマに迫るものがあったとか無かったとか。
ドダダダダダ! ドン! ガタン!
いきなり耳に響く物騒な物音に、慌てて飛び起きるユウ。
そこはいつものマイルームのベッドではなく、硬い床の上でした。
(そういえば、完成したあとすぐ寝たんだっけ)
ゆっくりと柔軟体操をして、ふと部屋の様子が変わっていることに気付きました。
昨日は開いていなかった窓が開かれていたり、部屋の香りも、どこか甘い匂いが漂っています。
(俺、何かしたっけ?)
頭に手を当てて必死に記憶を巡らせますが、答えは出てきません。
(うっ、なんだか、体が痛いな。寝違えたか)
意識がハッキリしてきて、腹部に鈍い痛みが走っていることが分かります。
そこは昨日コロナちゃんが××していたところですが、ユウが覚えているはずありません。
「とにかく、一旦マイホームに戻るか……」
昨日はロクにものを食べていなかったせいか、極度の空腹に陥っている腹をさすりながら、
ユウは武具作成小屋を出ようとしましたが、
「ん?」
その時、入り口付近でとあるものを見つけました。
「あ、おかえりコロナ! お前、朝からどこ行ってたんだ?」
マイホームに戻ると、すでに弟のバドが朝食の準備をしていました。
「う、うん、ちょっと、いろいろね」
「?」
いつもと違って歯切れの悪い答えを出す姉を、おかしな目で見るバドでしたが、
さして興味もなかったか、すぐに食事の準備に戻りました。
(ユウが帰ってきたら、いつも通りに振舞わなきゃ)
一方のコロナちゃんも、これから起こりうる出来事に対して身を引き締めていました。
「ただいま」
そんなコロナちゃんの決意を知る由もなく、いつもの様にマイホームに帰ってきたユウ。
その声にバドは歓迎を示し、コロナちゃんはいきなりの来訪に驚愕しながら家に迎えます。
「おかえりー!」
「お、おかえりなさいませ〜」
若干一名、不自然な挨拶になってますが、気にしないであげましょう。
「あ、コロナ」
「ひゃい! 何でしょうか!?」
突然名指しされて跳ね上がるコロナちゃん、今日だけでもう三回は驚いています。
「これ、コロナが持って来てくれたんだろう?」
ユウが掲げたものを見て、コロナちゃんは顔面蒼白になります。
彼が持っていたのは、昨日の夜に差し入れとして持って行ったバケット。
(持って帰るの、忘れてた!!)
完全にパニックになるコロナちゃん、絶体絶命です。
「あ、あの、それはですね!」
「わざわざ持ってきてくれて、ありがとう」
あわやこれまでと思いきや、事態は思わぬ方向に転がり始めます。
そこには彼女の想像の斜め上をいく答えが。
「えっ?」
「これ、朝食持って来てくれたんだろ?」
完全に誤解しているユウ。どうやら昨日の差し入れを朝食だと思い込んでいるようです。
「そ、そうなんですよ! でもユウさん眠ってたから……」
その千載一遇のチャンスに、コロナちゃんはこれ幸いと乗じます。
手を合わせてパッと表情を綻ばせながら、ユウの言うことに賛同します。
「そうか、すぐ起きてやれなくて、ごめんな」
「いえ、いいんです! あはは!」
しかし微妙に罪悪感を感じるのか、引きつった顔で笑うコロナちゃんでした。
「バド、そういうわけでスープだけくれないかな?」
「了解っす!」
やがてユウも自分の席について、マイホームにいつもの朝の風景が訪れます。
「あは、あはははは!…………はぁ」
それを見て、安心したような、残念なような、
なんとも言えない複雑な心境のコロナちゃんでしたとさ。 おしまい。
戻る