ホークリ

372氏



「っくは〜〜っ!生き返るなぁ」

早朝。早起きしたオレは、オアシスの水で顔を洗って、ぐっと伸びをした。
長くここから離れていたせいか、オアシスの水が、この乾いた空気がとても懐かしい。
前はなんとも思わなかったのに、不思議なモンだ。
とにかく、この朝、オレの気分は最高だった。
「おう、ホークアイ、こんな所にいたのか」
お、この声はデュランか。ちょっとからかってやろう。
「聖剣の勇者様、ご機嫌いかがですか?」
「何ふざけてるんだ」
あれー、反応がイマイチだな。
もっと、こう、慌てるとかしてほしいんだけど。

何が悪かったか、としょうもない事を考えてると、そいつはいきなり切り出した。
「あのさ、リースのこと、どう思う」
「は?」
…いきなり何を聞いて来るんだコイツは。
結論から言えば、好きだ。デュランに対してのものとは別に、女性として。
けど、こんなこと言えないよなぁ、流石に。
「えーと、マジメで優しくて、からかい甲斐があってー」
「おい、オレはそういう事を聞いてるんじゃないぜ」
ええ、わかってますとも。
そこまで顔真っ赤にして聞いて来るんだから。
というか…あーあ…。こりゃ、もうダメかなぁ。

鈍いコイツは気づいてないだろうけど、リースも多分コイツが好きなんだと思う。
もちろん異性として。
お互い、相手の気持ちに気づいてない分はまだ勝ち目があると思ってたんだけど
こういう質問してくるくらいだから、勝負に出る気かなぁ。

「なーに、顔真っ赤にしちゃって。あ、まさかお前」
けど、心情とは逆にオレは笑った。感情を隠すのは得意なんだぜ、これでも。
「リースが好きとか?」
「…いや、その…まぁ、うん」
「ひゅ〜っ♪」
心底うれしそうな顔をつくってやる。
いいさ、お前は親友だ。
「おー、いいねぇいいねぇ。いいじゃん、告白しちまえよ!」
敢えて背中を押してやる自分が馬鹿みたいだ。
けど、他にどうしろって言うんだよ。
「オレは応援してやるからな!」
心にも無いことを…いいさ、ウソをつくのは得意だから。


その日、オレ達は神獣の一匹、ザン・ビエを倒した。
ま、この辺は割愛。
いつもよりデュランとリースの連携がスムーズだった気もするけど割愛。
二人がしゃべってる時に意味もなくイラッとする自分もいた気がするけど割愛。

…オレ、まさにピエロだなぁ。


宿に戻ってきて、翌日の予定を立てて、
ちょっと散歩に行くって言った二人を、オレは笑顔で送り出した。
他にできることはないから。
で、二人は手をつないで戻ってきた、と。
「おかえりーっ!早かったな!」
「ちょっとそのあたりを回っただけですから」
「ふたりっきりで?うっひょー、仲がいいこって!」
「何言ってんだよ!」
二人は顔を真っ赤にする。
「もう、からかわないでくださいね!」
後から考えれば、オレの理性もこのへんで限界だった気がする。
だからだろう。オレはもう、宿の自室に戻ることにした。
「悪いけど、オレは先に寝るわ。流石に疲れた」
「おー、ゆっくり寝ろよ」
デュランは何事もなかったように肩をぽんと叩いてきた。
少しイラッと来たのを、一応申し添えておこう。


部屋に戻ったオレは、着替えもせずにベッドに倒れこんだ。
何もする気力が起きない。
本当に冗談にしてほしい。
リースの目には、アイツしか映ってなかったんだろう。もうずっと前から。
それでもこうやって思い続けたオレはなんなんだろう。
デュランを応援してやったオレはいったいなんなんだ。
やべー、泣きそ。
しばらくベッドに突っ伏した後、悪魔のような考えが頭に浮かぶ。
…そうだ。
どうせ、手に入らないなら
盗んでしまえばいい。
思いついてからは早かった。
どうせオレは盗賊だ。
ダメだと叫ぶオレもいたけど、今のオレには正義とか、友情とか、どうでもいいことに思えた。
時間も、もう結構遅くなってるだろう。
オレは、部屋を出た。

そっと、リースの泊まっている部屋に入る。
カギなんてちょろいもんだ。
足音も立てず、オレは部屋に忍び込んだ。
視線を左右に振ると、隅のベッドの上でリースが寝ているのが目に入る。

気配を消して近き、そっと布団をはがした。
リースの上に圧し掛かると、リースが軽く身じろぎをする。
「ん…うん、あ、ホークアイさん?」
警戒も全くなしに、透き通った青い目がオレを見る。
「どうしたんですか、こんな時間に…!?ちょっと、何してるんですか!」
自分の状況を把握したのか、オレを軽く押しのけようとする。けど、テコでも退いてやらない。
「んー、何だと思う?」
まったく、そういう事だなんて考えもしないんだから。
だからからかいたくなるんだ。


また何か言おうとする唇を、オレは奪ってやる。
デュランの後かもしれないけど、まあ仕方ない。
リースはというと、言葉も出ないようで、口を開いたり閉じたりしている。
「わかった?王女様。」
手首をつかんで、ベッドに押し付ける。
「オレも、デュランと同じ気持ちだったんだ」
「そんな…」
本気で驚いているようだ。
無理もない。オレにはジェシカがいると、本気で思っていたのだから。

「あなたには、ジェシカさんが」
ほらな。
「ジェシカは、親友の妹で大事な人だよ。けど」
そう、リース以上に好きなものなんてないんだ
「一番は、リースなんだ。だから、奪いにきた。」
「奪いに…?」
「そっ」
まだ予測がつかないらしい。
本当に、幸せに育ったんだな。うらやましい事だ。
こんな下卑た考え、考えもつかないだろう。

「心が奪えないなら、体だけでも…って奴かな」
やっとわかったらしい。顔に赤が混ざるのが、わかる。
「そんな、どうして。やめてください」
「やめる?何で?オレは盗賊だよ」
耳元に口を持っていき、軽く舐めあげる。
リースの体が硬直するのを感じつつ、囁くように告げる。
リースにとって、おそらく絶望的なことを
「欲しい物は、奪ってでも手に入れる」
リースの顔にはじめて、恐怖の色が浮かぶ。
ああ、オレ、最低な男かも。

「嫌っ」
叫ぶリースの服を剥ぎ取り、胸元に手をいれ、乱暴にもむ。
自由な方の腕を滅茶苦茶に振り回すけど、こんなことで退いてなんかやらない。
「痛い、ああっ、嫌っ、嫌です、こんな…」
「何が嫌?」
「その行為がで…んぁっ」
先端を捻りあげると、甘い声が漏れる。
「そんな声出しといて?感じてるんじゃないの?」
「なっ、そ、そんな」
体が正直な反応を返すってのは別に珍しいことじゃないけど、
わざとこういう言い方をする。
諧謔心をそそられるって事だろうか。今にも泣きそうなリースの声が、もっと聞きたい。
そうだ、泣けばいい。そしてオレを嫌いになれば。
「よっぽどエロいんだね、王女様なのに」
これは随分効果があったようだ。
オレを押しのけようと奮闘している腕の動きが、一瞬止まる。
「デュランはどう思うだろうな、オレなんかに犯されて感じてるって知れば」
「う…あ、その…」
思い通りの反応を返してくれるリースに、笑いが止まらない。
だからこいつはからかい甲斐があるんだ。

「ひっ」
下着をずらし、そこに指を突っ込む。
なんだ、ずいぶんと濡れてるんじゃないか。
「あぁっ、嫌、いやぁっ!あぅっ」
わざと音を立てて、かき混ぜるように指を動かす。
「これなら、もう入れても大丈夫かも?」
「入れ…?あっ」
ここはわかったらしい。まぁ、ここまできたら当然とも言える。
足を押さえつけるようにまたがって、ズボンを下ろすオレを見ると
リースは狂ったように暴れだした。
「やあぁぁっ!嫌っ!やめてぇっ」
髪を振り乱して暴れるリースを見ながら、醜いオレは笑う。
親友に向けて。

…ザマーミロ。

それから、オレは
リースが痛みに暴れ、泣き叫ぶのもかまわずに
ひたすらリースを突いた。
心なんて痛まない。
それよりも、これでアイツに勝ったんだ、と、それだけ。
アイツは誰も殺されてないのに。
殺人者の汚名なんて着たことないのに。
お前にはわかるか?一番信頼していた人物を殺され、その殺人犯の汚名を着せられる気持ちが。
出身地を告げるだけで、武器を向けられる気持ちが。
英雄王に言われれば、どう感じる?お前は犯罪者だ、死刑だと。

どれもデュランには全く関係ない事だ。デュランには責任はない。
これは八つ当たりだとわかっていながらも、オレはやめられなかった。
最後の、そして本当の理由のために。
恵まれたアイツは、リースまで奪っていく。
だったらひとつ位、もらったっていいだろう。


「うっうっ、私、ホークアイさんが、好き、なのに…どうして」
「どうせデュランの次だろ?」
「………」
適当に衣服を整える間も、リースは泣きじゃくっている。
痛みのせいか、オレに裏切られたからか、デュランに申し訳ないからか、穢されたことに失望してか。
全部だろうか。
「飛び出してデュランにでも言えばいい。覚悟はできてる」
リースは答えない。
何で怒らないんだ。
怒れよ。
オレ、酷い奴だろうが。
それでも謝ることはできなかった。
オレはそれ以上そこにいることができなくなって
結局、来た時と同じように、そっと部屋を出た。

その後だけど、結局リースは、デュランに何も言わなかったらしい。
俺達三人の仲には、何の変化もない。…表面上は。
相変わらず、オレがリースをからかったり、デュランとオレが冗談を言い合って笑いあったり。
オレもリースも、あの時のことなんて無かったように振舞ってる。

ただ、あの二人が手をつないで歩くのが増えた。
二人だけで話すことも増えた。
リースがオレに向ける顔から、笑顔が少し減った。
オレはというと、何も満たされた気がしない。
美獣が死んだときと同じだ。
きっと満足するだろうと思ったこの気持ちは、虚ろなまま。
あの夜の行為で得たことは、二人への負い目。
失ったものは、リースからの信頼。
ただただぼんやりと二人についていきながら、
オレはこの戦いが終わった後、どうなるんだろうと一人考え
とりあえず、ロクな人生を歩めない事だけはなんとなく予想がついた。



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