「勝利を!義の勝利をー!」
ああ、あの人はまた一人で燃えている。
清廉潔白な性格を表すかのような無垢の法衣をまとい、一度見たら忘れられない特徴的な兜の男。
眉目秀麗な外見からは想像しがたい、雄々しく力強い声が今日も戦場に響く。
その声が彼の云うところの“愛する上杉の兵士諸君”に伝わるや、おもしろいほど士気が上がっていくのだから、人心を掌握する資質があるのだろう。もしくは、かの謙信公の御威光か。
「愛するあの子よ!この義戦、共に切り抜けよう!」
如何に他人を冷静に見ることができようとも、そう言われると、私も気分が高揚してしまうのを止められない。
「はい、兼続様」
私の場合は、惚れた弱みというやつだ。
彼の“愛”だの“愛する”だのという言葉はきっと、枕詞みたいなものなのだ(もちろん、人一倍兵士を想う気持ちが強いのはわかっているが)。
兼続にとって私も兵士諸君も同じ括りの中にいて、そこに私が勘違いしそうな特別な感情など入っているとは思えない。
「このあの子が、命に代えても兼続様をお護り致します」
この場でできる精一杯の好意を口にする。
護衛兵としての最大限。その言葉に、私の胸にある思いを乗せて。
「共に、と言ったはずだぞ。あの子も私も必ず生き残らねば、成せぬ」
この男は、人を失うのを嫌う。それが例え名もわからないような足軽一人だったとしても、心に悼み、悲しむ。
それが慕われる所以であるのは間違いないだろうが、彼の人に対する愛は全てにおいて深いのだ。それを忘れては、いけない。
「…はい。生きましょう、共に」
一生を、共に。
そう言えたら、兼続はどう捉えるだろうか。
私は、ずっと…怖くて聞けないでいるのだ。
口にしたら最後、もうこの関係には戻ることができないのだから。