先に戦刃むくろを殺したクロ……黒幕を当てろと、モノクマは話を切り替えた。
 せっかく一つ謎が解けたところだったけれど、仕方なしに私たちはいったん先導された話題に移った。
 黒幕が情報処理室の奥でモノクマを操作していたことは、苗木くんと朝日奈さんが操作室を発見したことで明らかになっていた。
 だから黒幕は絶対に学園内にいる。
 そして、話し合っている私たち7人以外……。
 だけど、生きているのが7人だと思うと、私たちの誰かが黒幕なのではと疑いが向いてしまう。


 戦刃むくろ殺しの謎を解けば言い争う必要もないと、霧切さんはまず戦刃むくろの致命傷についての議論を促した。
 学園長室にあった在校生名簿に“傷ひとつ無い”と記されていたのだから、死体にあった全身の傷は入学後にできたもの。そして、霧切さんが改めて死体を調べたところによると、腹部の傷も後頭部の傷も死後に受けたものだったという。
 ならば、致命傷は“全身の傷”以外に考えられず、モノクマファイルにあるように「全身の傷はここ数日のものではない」のなら……戦刃むくろは“すでに数日前に殺されていた”ことになる。

 苗木くんは事件前夜に覆面の人物に襲われたと言っていたけれど、その人物は戦刃むくろではなく偽装工作を兼ねた黒幕だったのだ。
 疑念を一身に集めたモノクマは大笑いをすると、傍観姿勢を一変させて議論に参加し始めた。
「大人しく聞いているのも飽きたから、そろそろ、ボクも参加させてもらおうかなー!」
 証言台にいる以上、黒幕にも“議論”の参加権があるということを見せつけるように、モノクマは“苗木くんを襲った覆面で顔もわからない人物”が自分ではない可能性を次々と挙げた。

 しかし苗木くんが見た襲撃者の右手には、戦刃むくろの特徴であるフェンリルのタトゥーはなかった。モノクマ解体組には全員アリバイがある。唯一アリバイがない霧切さんも手袋を外して……その手の特徴が襲撃者になかったことを苗木くんが確認した。
 霧切さんが手袋をしていた理由は、かつての失敗で残ってしまった“火傷の痕”のせいだった。
 「探偵として駆け出しの頃に――」そう明かした霧切さんの告白に、私は初めて彼女の“超高校級”の正体を知った。
 鋭い観察眼、緻密な捜査、論理的な頭脳、冷静な心構え……その全てが“探偵”に適した才能だったのだ。



 では、数日前から死んでいた戦刃むくろの死体はどこにあったのか。死体を隠せて、保存できる場所といえば――。苗木くんは、ここしかないとばかりに挙げた。
「厨房……」
「なッ!? 厨房の冷蔵庫か!? そうなんだな!!」
「はっ!? そんな、人の死体なんて、入ってなかったよ!!!」
 苗木くんの呟きを拾って断定する葉隠くんに、私は慌てて全身全霊の否定をした。
「そんな事、聞いちまったら、明日から楽しく食事できねーべ!」
「入ってなかったってば!! 安心して食事して大丈夫だから!!」

 証言台から身を乗り出して、葉隠くんに違うと叫んだ。そんな私を横目で見た十神くんは、呆れ返った様子で苗木くんに言葉を投げた。
「……苗木、お前が原因だぞ。」
「あり得ないわね。」
「し……しまった……」
 霧切さんにも氷点下の面持ちで切り捨てられた苗木くんは、バツが悪そうに頬を掻いた。

「あの冷蔵庫に収まるとは思えない。……そのままの姿ではね。」
「そ、それって……ヒッ、ヒィィィッ!! やめてくれーっ!!」
「だから! 切断死体なんて! どこにもないから!!」
「あー……灯滝ちゃん言っちゃった……」
「……テリトリーを侵された、番犬か何か……? ほ、本当、食に関してだけは、キャンキャン吠えてくるわね……」
 霧切さんが根拠を話し、葉隠くんはいっそう喚き、私は必死に安心安全な食環境をアピールした。
 朝日奈さんと腐川さんの声は、私にはあんまり聞こえなかった。



 状況は仕切り直され……、苗木くんは今一度考えなおして、その場所を挙げた。
 そこはプール……でもなく、生物室だ。
「そうだよ、生物室だよ……。だって、壁面に遺体をしまう冷蔵庫が設置されてた……」
「ほ、ほんの少しの間違いだったんだ、ゴメン灯滝さん……。なんていうか、カーソル移動を間違えたっていうか……」
 生物室は、私がまず捜査しに行った場所だ。忘れるわけがない。
 苗木くんがそんな大ボケをこんな重大な学級裁判の場でするとは思わなかった……そんな思いを込めて、ちょっと恨めしげに私が補足すると、苗木くんは心底すまなそうに弁解した。


 でも苗木くんは、その根拠までちゃんと示してくれた。植物庭園にあったビニールシートが、生物室の備品であったのだ。
 犯行に使われたビニールシートが、その時黒幕以外には立ち入れなかった生物室のものなら、私たちが犯人ではない証拠にもなる。
 モノクマは話題の焦点が生物室に向いてから、言いがかりをつけたり議論の妨害に走り始めた。
 “生物室の矛盾点”を指摘されるのを避けようとしている――そう言った霧切さんの言葉の意味が、私にはわかった。

「点灯しているランプの数は、収容されている数……だから、亡くなった人数と同じでないとおかしいんだよね? でも……1つ足りなかった」
「うん。生物室で点灯していたランプの数は、戦刃むくろが入れられている冷蔵庫も含めて……全部で9個だけだったんだ。」
 舞園さん、江ノ島さん、桑田くん、不二咲くん、大和田くん、石丸くん、山田くん、セレスさん、大神さん、そして戦刃むくろ。全部で10人なのに、ランプは9個……。
 苗木くんと霧切さんは、戦刃むくろが収容されていたところまで確認したのだ。だから明確な矛盾点だと思ったのだろう。
 黒幕が証拠隠滅の為に死体を処分するなら、直接手を下した戦刃むくろに手を付けるはず……。それなのに、他の誰かの死体のほうが入っていなかったのだ。



 ……そもそも、誰かが“死んでいない”のか? ……そこまでは、以前に私も考えた。でも、誰が、どうやって生きていたというのか……。
「同じ人物が2回殺されているとしたら……どうなのかな……?」
 苗木くんが発した推測を、一緒に順を追って考えた。
 つまり、すでに殺されている人物を、もう一回殺したという意味だ。その人物とは……戦刃むくろ。彼女は以前に別の誰かとして殺されたのだと、霧切さんは断定していた。
 戦刃むくろは確実に死んでいる。プロフィールにある体型とも一致していたし、フェンリルのタトゥーは一朝一夕でダミーを作れるものではない。
 そして戦刃むくろの死因は、全身の多数の傷。全身に多数の傷を負って亡くなった人物は……彼女の他にもう一人だけいた。

 ――江ノ島さんだ。
 戦刃むくろが江ノ島さんに成り代わって死んだのなら、江ノ島さんは生きている。
 そして、戦刃むくろがいつから江ノ島さんと入れ替わったのかは……“最初から”以外のタイミングはなかった。
 記憶を失った私たちは、入学時まで江ノ島さんと面識がなかったから、黒幕と手を組んだ戦刃むくろが江ノ島さんとして現れても、真偽がわからない。
 さらに……苗木くんが緊急面接のDVDを見ている途中でモノクマが電源を落として、江ノ島さんの映像を見せなかったこと、ヒントとして渡した数枚の写真の江ノ島さんの顔が全て写っていないことも怪しかった。それは、私たちの知っている、戦刃むくろが化けた江ノ島さんの姿とは違うと感付かれないためだろう。


 江ノ島さん……いや、未だ姿を見せていない“本物の江ノ島盾子”が、戦刃むくろ殺しのクロであり、このコロシアイ学園生活の首謀者・“超高校級の絶望”の黒幕だと――事件の全貌を振り返った苗木くんが突きつけた。
「諦めなさい、江ノ島盾子。もう終わりよ。」
 霧切さんも、観念しろとモノクマに告げると……黙りこんでいたモノクマは、小さく笑い始めた。
「クライマックスで終了……そんな風に思っちゃった……? 違うよー! まだ続くんだよー!」
 むしろお楽しみはこれからだと言わんばかりのモノクマは、突如スモークに包まれて――それが消えると、人型のシルエットが現れた。



「待っていたわ! 私様は待っていたのよ!」
 腰に手を当ててふんぞり返り、十神くん以上に上から言い放ったかと思えば、芝居がかったポーズとクールな口調で「どういうキャラだったか自分でも忘れちゃって」と補足する。
 黒幕・江ノ島盾子は……多弁で、キャラが不安定で、雑誌で見かけた顔立ちそのままの……つまり見た目には超かわいいギャルだった。

 戸惑う私たちに構わず、江ノ島盾子はどこぞのハードコア・パンクバンドよろしく凶悪な顔と攻撃的な語気に変わったり、有能な秘書よろしくインテリ系に変わったりしながら、次々と新情報を告げた。
 戦刃むくろは双子の姉で、姉妹揃って“超高校級の絶望”である。
 コロシアイ学園生活を裏でコントロールする必要があるが、“残念なお姉ちゃん”戦刃むくろでは無理なので、自分の肩書きと入れ替えて“超高校級のギャル”として表の学園生活に参加させた。
 彼女はすぐに殺されるだろうという世間の期待に添えたくて、それ以上に自分が飽きてしまったので、戦刃むくろは殺した……。

 一方的に裏切って戦刃むくろを“見せしめ役”にしたことに私たちが非難の声を上げると、江ノ島盾子はアヒル口なぶりっ子にキャラを変えて「“超高校級の絶望”は生きることに希望なんて感じない、死ぬも殺すも大した問題ではない」と反論した。
 さらに、湿っぽく憂鬱げな喋りに変わった彼女は、「大好きなお姉ちゃんを殺せて、絶望的すぎて快感」「ただの見せしめとして実の妹に殺され、絶望しながら死んだ姉がうらやましい」……などと理解に苦しむ発言を続けて、みんなから変態とみなされた。
 ここまでのことを企てた彼女が頭脳明晰なのは、よくわかった。でも、根本的な考え方がおかしい。いわば絶望ジャンキー……。霧切さんはそれを“究極の絶望フェチ”と表現していた。

←BACK | return to menu | NEXT→

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル