「ンフフ、実ノ梨ちゃん……今日って何の日か知ってる?」
 花村輝々は上機嫌に、灯滝へ問いを投げかけた。
 学食で相席する二人は、二人ともが“超高校級の料理人”。花村が1期差で先輩、灯滝が後輩の間柄だ。
 この希望ヶ峰学園に同じ肩書きの生徒が複数在籍することは、“超高校級の幸運”以外では珍事らしい。
 同分野の、いわばライバルでもある花村と灯滝は、互いの性格が幸いしたのか敵視することもいがみ合うこともなく、切磋琢磨し合いながら友好的な関係を築いていた。

「さあ……」
 先の花村の質問に、灯滝は見当がつかないと首をひねる。
 十中八九そんな反応だろうと花村は思っていたが、あえて残念そうな声を上げてから答えを告げた。
「嫌だなあ、知らないの? 今日はね……ぼくの誕生日なんだ」
「えっ、そうなんですか。お誕生日おめでとうございます、輝々先輩」
 慌ててお決まりの台詞を唱える灯滝に花村は、言葉だけでは足りないよ、と言いたげな顔で見た。

「……あれあれ? それだけなの?」
「と言っても、今知ったところなんで……。プレゼント出来るものを持っていないんですよね」
「だったら君を貰い受けるしかないね。それしか道はないねっ!」
「見境ないですね……相変わらず」
 知らない人間が聞けばおそろしく大胆な花村の発言を、灯滝は慣れた対応であしらう。
 花村の近くにいるとこれくらいの発言は序の口だった。そして、灯滝はこんな台詞が自分にだけ向けられているものではないことも、知っていた。

「氷点下の対応も相変わらずだね……。でもさ、君はそう言うけど、ぼくはちゃーんと、みんなを愛しているんだからね? 平等に深い愛を注いでいるんだよ? もちろん男女関係なくっ!」
「輝々先輩のそういうところ、尊敬してますよ。真似はしませんけど……」
 とにかく花村の守備範囲は広く、そして深いのだった。全人類がストライクゾーンといっても、嘘ではないのかもしれないとすら、灯滝は感じていた。


実ノ梨ちゃんにも愛する人ができたらいいのにね。料理も新しい世界が開けるよ、きっと」
 可能な限りの時間を料理に費やしてきたのは花村も灯滝も同じだったが、こと恋愛においては(特殊な方向性が少々災いしてはいるものの)花村のほうが一枚上手だった。
 その差は育ちなのか、気質なのか。灯滝は一瞬考えたが、すぐに答えが出るようなものでもないと中断した。
 灯滝は別の答えを――今の自分にあるものを、自分の料理には何があるのかを、口にした。

「私の料理は、師匠と親と取り巻く人たちへの感謝でできてます」
「そこに、ぼくも入ってる?」
「入ってます」
 きっぱり言い切る灯滝に、花村は悪くないという顔で「ふーん」と返した。
「ぼくの料理は、故郷のお母ちゃんたち家族と、あらゆる人への愛でできてるよ。もちろん君への愛も入ってる」
 花村は灯滝を愛していた。それは“あらゆる人”に向ける愛の一つでありながら、想いの通じない相手に向ける愛でもあり、同じ道を邁進する可愛い妹分に対する愛でもあった。

 色の違う花束のようなその想いが本気であるのは、灯滝にも伝わっていた。
 だが、数多を愛し、愛を願う花村に応えるには至らないのも、彼女の真意だった。
「輝々先輩って……なんていうか惜しいですよね」
「今のところ、ぼくはこのスタンスでいいと思ってるからさ。」
 灯滝が応えないことにも、花村は堪える様子は微塵もなかった。
 彼は切ない片思い男にも、妹分が恋愛を知る瞬間を楽しみに待つ兄貴分にもなれるのだ。



 次の授業の時間が近づき、二人は別れの挨拶を交わして学食を出た。
「……じゃ、今夜は君のために空けておくよ」
「あれ、クラスの人たちと誕生日パーティーとかしないんですか」
 そっと誘い文句を告げられ、灯滝は驚いて聞き返すと、花村は思わせぶりに笑った。
「主役が抜け出すパーティーって……ほら、情熱的な予感がするでしょ?」
「……他の先輩たちに警戒するようにって、後で言っておきますね」
 ――そう、こういう茶目っ気が油断ならないのだ。
 最初と変わらない上機嫌で去る花村の姿に、灯滝はため息を一つ吐いて教室へ向かっていった。
 

【Happy Birthday!! Teruteru Hanamura 9/2】

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