「はい、一塁側アルプスです。見てください、この大応援団。学校の生徒、OB、選手のご家族などでギッシリ埋まっています。」
「いやあ、本当ですねえ」
 テレビを付けると、ちょうど高校野球中継をしていた。
 こんな真夏の8月に、屋外で人が寿司詰め。応援団員と野球部員の後ろで、Tシャツ・帽子・メガホンをチームカラーに揃えた集団が揺れていた。
 カメラは歩く若手アナウンサーを追って、彼の手の指すほうにクローズアップする。

「決勝戦ということで、暑い中ですが非常に気合の入った応援が続いています。その中でですね、こちらの方にお話を聞きたいと思います。」
 画面に映ったのは、そんなTシャツと帽子を揃えた一人の少女だった。
 夏空よりも澄んだ水色の瞳と、帽子から覗く赤髪が特徴的な彼女は、太陽で火照った肌に汗を浮かせて、首から下げたメガホンを握りしめていた。

「ここまで毎試合、投打で大活躍している、エースで4番の桑田選手の妹さん――英恋(えれん)さんです。英恋さんは地方大会からこの決勝戦までの全ての試合に、お兄さんの応援に来ているんですよね?」
「……そうですか、ずいぶん熱が入っていますねえ」
 若手のアナウンサーの説明を引き継ぐように、放送席のベテランアナウンサーが感心したように返した。
 マイクを向けられているにも関わらず、照れるようにコックリと頷いた彼女は、肩掛けタオルで目の下を隠すように当てていた。
 彼女――桑田英恋は、LL学園史上最高、いや高校野球史にも残るであろう逸材・桑田怜恩の妹だった。


英恋さんどうですか、今の心境は」
「……すごい、わたしまで緊張しています……」
 若手アナは段取り通りに、英恋にインタビューを始めた。
 消え入るような彼女の声を拾おうとマイクを更に彼女に寄せ、終わったと気づくと慌てて自分に戻す。

「……私にもその緊張が伝わってくるようです。普段のお兄さん――桑田選手は、英恋さんにとってどんなお兄さんなんですか?」
 英恋は言いにくそうに口を開いた。が、それは急激に変化していった。
「いつもは……なんかその、チャラくて……わたしより勉強できないし……で、でもっ、野球をしてると全然違うんですっ!」
 差し出されたマイクを両手で握り、カメラに向かって大声で主張した。


「真剣で、楽しそうで、……とにかくお兄ちゃんは世界で一番格好いいんです!!」
「……そ、そうなんですね……」
「なるほど。妹さんにとって桑田選手はヒーローなんですねえ」
 英恋の勢いに若手アナはタジタジといった様子だったが、それに被せるようにベテランアナから補足が入った。一見のんびりと返しているだけのオジサンにも聞こえるが、若手をしっかりフォローしつつ、英恋の発言を“兄妹愛”として仕立てている。……侮れない。

「……えー、では最後に、お兄さんに向かって何かエールを送ってください!」
 気を取り直した若手アナは、最後のインタビューに自分の仕事の成功を懸けた。
 英恋は潤んだ瞳で上目遣いになり、カメラを兄かのように見つめると、祈るように叫んだ。
「お兄ちゃん……英恋は信じてる。最後にマウンドで最高の笑顔を見せてくれるって……絶対、信じてるからっ!!」
「……い、以上っ、勝利を信じるっ一塁側アルプスからお伝えしました!」
 どもる若手アナ……しかも途中、声が裏返っていた。


「妹さんのお兄さんへの気持ちに、なんだか甘酸っぱくなってしまいましたね……」
「そうですね、あれだけ応援されていると選手も心強いでしょう」
 英恋に感化され、しみじみ感想を述べるベテランアナ。……ああ。もう一度フォローしてくれれば、世間は“ちょっとお兄さん好きな妹”程度の認識で済んだかも知れないのに……。
 そして解説者はただの鈍感スルーで、どうしようもない。おそらくこの人は野球しか感性が鋭くないタイプだ。

「……えー。桑田選手はここまで、投げては3回を無失点。7奪三振が光りますね。打つほうは2打席をヒット1本とフォアボールひとつ。」
「連戦の疲労を感じさせない、見事なピッチングだと思いますよ。バッティングのほうも合ってきていますしね、……ベンチもそろそろ仕掛けてくるんじゃないでしょうか」
「さて、これから回は4回を迎えようというところです。」
 ……野球に興味のない私は、選手に画面が切り替わったところでテレビを消した。


英恋……これであんたまで全国区ね」
 冷房の効いた室内で、独り言を漏らした。
 “超高校級の野球選手”の妹が、超高校級のブラコン。ネットでは音速でスレが伸びていることだろう。
 兄の怜恩には、あの希望ヶ峰学園が目を付けていると専らの噂だ。……もしかしたら、英恋もこれで希望ヶ峰学園の目に留まって、スカウトを受けたり――?
 ……そんなことあるわけないか、と頭を振った。
 だけど……万が一そうなったら、英恋にとっては兄に付いて行けて願ったり叶ったり、なのかもしれない。
 ……彼女の親友としては、そろそろ兄離れした方がいいと思うのだけれど。

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【超高校級】LL桑田の妹がブラコンカワイイ 11試合目(037)


参考:花◯東のブラコン妹さんに関するついーと(7/21)

(140815加筆修正)

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