がんばったおれは、ついに触れた。
くちびるとくちびるがくっつくだけだ。なのに…こんなにも頭の中がぐるぐるして、ばちばちする。…キスって、すごい。
「……」
触れていた時間はそんなに長くはないと思う。でも、おれにはこれ以上にない特別なひと時だった。
あ、でも…味はよくわからなかった。おれがすっごくキンチョーしてたせいなのかもしれない。
「ね、もう一回、してもいい?」
「いいよ」
あの子はやさしい。確かめたくて、おれはもう一回触れてみた。
…やっぱりわからなくて、いったん離れてからもう一回――今度はチュって音をさせてみたけど、それでもピンとこない。
「…クラッシュ?」
首をひねったおれを、あの子は不思議そうに見る。
「どうしたの」
「レモンの味かがわからなかった」
「…え?」
「うーん…」
あっ、もう初めてって終わってるから、ダメなのかな…?
初めてはもうないのに、わからないで終わりなんて…残念なことをしてしまった。
「あの子は、今までにキスしたこと…あるよね」
「それは…うん、ある。」
もちろんそうだと、思っていた。兄さんたちも、みんなあの子を好きだから。
「あの子のファーストキスは、何味だった?」
「ええ?!」
わ、すっとんきょーな声。おれの質問は唐突で、おかしかったのかも。
それでも真面目に考えてくれて、あじ…味?と、ひとりでうんうんうなっていた。
「そんなの…わからなかったよ」
間をおいて出てきた、その言葉。
――だって、頭の中がぐるぐるしちゃってて、考えるなんてできなかった。
…おれと、同じだ。
「わかんなかった……」
「うん。それって…気にするものなの?」
…そう聞かれると、おれもよくわからない。うーん、と右手をあごにやって、考えた。
たぶん…初めてキスをすると、みんななんだかわからないうちに終わっちゃうんじゃないかな。
あとから考えてもわからないから、誰かがテキトーにレモン味だよって言っちゃったんだ。…きっとそうだ。
なら――。
「べつに、気にしなくていいのかも。」
そう思うと、ほうっと息が出た。
あの子は、よくわからないけど、いいんじゃない?ってはにかんで言った。
間近であの子の笑顔を見て、おれはさっきの幸せなキモチが戻る。
「おれ…あの子の笑った顔、大好きだ」
「クラッシュも、いい笑顔になったね。その顔、すごく好き」
うれしい。やっぱりニコニコしているのが一番だ。あっ、こんなときこそ――!
「あの子っ!」
少し腕をのばすだけで、あの子をギュッて抱きしめられる。今日はずっとこうしていられるんだから、サイコーだ。ほっぺたにキスしたら「くすぐったい」って言われたけど、あの子はうれしそうな顔をしたままだった。
「ね、クラッシュ」
そんなあの子が上目がちに、ちょっと恥ずかしそうにして、続けた。
「わたしも、キスしたい…かな」
「えっ!…いいの?!」
あの子からしてくれるの、ほんとに?!って思ってたら、もっとうれしくなる言葉が待ってた。
「いいも何も、だって…」
わたしだって、クラッシュが好きだもんね。…だって!
心の準備とかしてないままにあの子の顔が近づいて、くちびるが重なった。最初はそっとしてたけど、何回も何回もキスしてくれた。
「…ん」
無意識に口が開いて、あの子の吐く息をそのまま吸い込む。…うまく言えないけど、いい匂いだ、と思った。
それから――え?
「ん…っ!?」
ちょっと…待って。待って?!…これって、これって…!
…オトナのちゅー、だよね!?
「…ぅ!」
どうしよ、どうしよ!
落ち着いて、落ち着かなきゃ、おれ。
「っ……」
うー、おれだってできるよ…っ!そうだ、応えて応えて。
「…んぅ…」
「ふ…っ」
えっと…こんな感じ?これでいいのかな?
「っはあ……」
…なんだ、あれ。胸のあたりが、くわーってする。…スゴイものをもらっちゃった気分だ。
なのに…フシギなことに、もっと何かがその上にあるようで…おれは物足りないような変な感じがしていた。
「クラッシュ、何味だった?」
いたずらっぽい顔でたずねたあの子は、まだ真っ赤で…はぁはぁしてた。
……あぁ!おれ――あっ、そうか。これ以上は…今日はダメなんだ。残念だな。おれはあの子が大好きなのに、こんなゼロの距離にいても、いけないんだ。
「…やっぱりわかんなかった。」
でも、キスはレモン味じゃなかったよって、今度ヒートに教えてあげよう。
あんなすっぱいのじゃない。もっと甘くって、おいしいものだ。
――あの子とのキスは、最高だった。
「あ…そろそろ寝ないと、わたし明日起きられないかも」
「え、もう、こんな時間だったんだ」
時間なんて忘れていた。おれは大丈夫だけど、あの子は眠らないとカラダを悪くしてしまう。
「わたしもクラッシュみたいに寝なくってもよかったらなぁ」
…あの子がおれたちみたいにキカイになるってこと?それは…なんだか違う気がする。
「えー、それじゃあの子じゃなくなっちゃう。このまんまでいいよ」
だからおやすみしようよ、とあの子に言った。それに…明日あの子が目にクマを作ってたら、誰かに怒られちゃうかもしれない。
「あの子…ずっとぎゅってしてていい?」
「うん。くっ付いてるのって、なんか…いいね」
ぴったり寄り添って横になる。すごい近くのあの子に、ひそひそ声で話すのも楽しい。
「近くにいれば、こんなこともできるし…」
そう言って、あの子はおれの頭をなでた。それをマネして、おれもあの子の髪の毛をさわってみた。ハンドアーム越しに、気持ちいい感触が伝わる。
「あぁ。」
こんなキモチでずっといたい。だけど、あの子はおやすみ…なんだ。
「…おやすみ、あの子」
「おやすみ、クラッシュ…」
あの子が眠るまで、おれは静かにしておくことにした。
だって…そうしたらあの子の寝顔を見られるから。それからでも、デフラグはいいかなって思った。
これはその…、書いてる人間が一番…こそばゆかったです、はい(笑。
他所様でもクラッシュを裸にしかけるSSがありました。戸惑うほうは逆ですけど…似てしまって申し訳ございません。こちらが後発です。
しかしその…無垢な子ってのは剥きたくなるものなんでしょうか…?