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 世界に平和が戻ってからは城壁を越えて移動する者も増え、以前のように闇雲にモンスターが襲ってくることもなくなれば、貴族達も馬車を走らせて巡礼地へと向かうようになった。特にサントハイム郊外から更に西へと進んだ先にある巡礼地には多くの人が訪れるようになった為、聖地までを結ぶ巡礼路には修道者が騎士となって旅人の安全を守っている。
「物騒ではありませんこと」
 護身といえば聖母のスカプラリオを身に付けるだけだった筈の修道士達が重厚な銀の鎧を纏っている姿は、貴婦人の瞳には野蛮に映るのか、槍を手にした彼等に馬車を止められた時、彼女は明らかに怪訝な顔を見せた。修道士は行き先を訊ねるだけのつもりが貴婦人が駄々を捏ねた為に長く引き止めていると、そこにもう一人、馬に乗った男が近付いてくる。
「ご婦人の安全を守る為です。どうかお許しを」
 落ち着いた声に彼女が視線を移すと、そこには簡素な修道服にも麗姿の窺われる青年が、口元に穏やかな薄笑を乗せてやってくる。彼はここで修道者達が巡礼の案内や旅人の警衛をしている事を丁寧に説明したが、その柔らかい語り口や理知的な佳顔など、気品漂う彼の物腰に魅了されてしまった彼女は聞く耳も忘れ、みるみるうちに顔を輝かせて惚けてしまった。
 婦人は無意識のうちに銀貨の入った皮袋を侍女より取り、半ば蕩けるような視線で「神の御加護を」と自らこれを差し出す。すると馬上の青年は、馬車より伸びた手を優しく制しながら言った。
「此処はまだ御礼拝所ではありません」
 献金には早いと、冗談交じりに微笑する様にも優美さが漂い目が眩む。
 既に護衛を配した貴婦人の馬車は修道騎士の随行を丁寧に断ることになったが、尚も銀貨を収めぬ彼女に対し、青年は「その銀貨は盗賊に襲われた時の命代わりとして使った方が良いでしょう」と、麗顔を柔らかく崩して見送った。
 再び走り出した馬車の中で、貴婦人は一連の出来事と青年の玉姿に浸りながら溜息混じりに呟く。
「なんて素敵な御方」
 恍惚の表情を浮かべて彼女がそう漏らすと、「今の御方は竜の神に導かれし8人のうちのおひとりで」と傍に控えていた侍女が静かに口を開いた。
「サントハイム王女の恋人、クリフト様でございます」
 
 
 
 
 
 
「皆さんがお変わりなくて何よりです」
 辺境の巡礼地に領主サントハイム王の愛娘であるアリーナ王女が行啓とは、彼女がこの修道会の最大の寄進者であったとしても大層な事だ。しかし身分ある彼女を修道士達が然程動揺することなく盛大に出迎えたのは、騎士団を統率する長であるクリフトと彼女が懇意であることを知っているからである。
 既に平和の世が訪れて久しく、今日日の平穏を齎した8人の勇者のひとりであるアリーナ姫も、その拳で魔王を殴り倒したとは思えぬ程女性らしくなった。無論ここで修道生活を営む彼等にとっては、尊敬の念が募り止まぬクリフトが嘗てその手に印を結び、剣を振るって戦ったとは想像もつかぬ事であったが、今目の前で薔薇の微笑を浮かべる麗しの姫君が、モンスターを相手にカカト落としを見舞っていたとは尚理解に苦しむというもの。華奢な体躯をローブで覆い、その隙間から覗く流れるような衣は聖母のそれで、アリーナを迎えた院内が春風が舞い降りたかのような空気に変わると、凡そ浮世を離れた隠者とて笑顔を綻ばせよう。既に彼女はお転婆姫ではなかった。
 アリーナは幼い修道志願者に手を預け、大聖堂でのミサ聖祭に預かる。司祭の説教の時に紹介を受けた彼女は、此処に集う全ての修道者に敬意のまなざしを注いで「此処に来るのを待ちわびておりました」と言ったが、最後に彼女の視線がゆっくりとクリフトの姿を捉えるのを見て、若い騎士達は今夜の彼は眠れまいと内心冷やかした。
 
 
 
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 結局、それも国民の前だけということか。それとも今の姿がクリフトの前だけということか。
「あー疲れた!」
 彼の執務室に入るなりグッタリと肩を落としてソファへと吸い込まれたアリーナは、途端変容を遂げた彼女に苦笑を溢すクリフトを見ながら横臥する。
「姫様のお変わり様には私も驚きましたよ」
 皆が変わりなく何よりと挨拶をした彼女自身が最も美しく成長したと、誰もが口を揃えてその美貌を讃えたものが、緊張の糸を解いた今はそれを翻したかのような有様だ。どれだけ百合の如き麗人を装っていても、持って生まれたお転婆気質は変わる筈もなく、心を許した者の前では自由気儘に寝そべっている。
 葡萄酒をテーブルに用意したクリフトは、ソファに横になったままのアリーナに一瞥して微笑すると、部屋の奥から柔らかい毛布を持ち出して彼女の肩にかけようとする。
「クリフト」
 瞬間、アリーナが掛けたローブの隙間から細い腕が覗き、ソファに近付いたクリフトを捉えようと伸びた。横になっていた彼女は半身を起こして彼に迫り、両腕を差し出して抱擁を乞う。
「姫様」
 それを拒むクリフトではない。彼は毛布ごと彼女を包み込んで抱き締めると、ようやく二人は互いにしか見せ合わない姿を晒すことになった。
「3ヶ月ぶりに貴方を抱き締める」
「会いたかった、クリフト」
 久しぶりに聞く彼の声が胸に沁みる。耳元で囁く低音はアリーナの全身を甘く擽り、熱く震える小さな身体は彼の腕が強く抱き締める。存在を確かめるようにクリフトの胸元をキュッと握れば、それに返すように腕の力は強くなり、アリーナは安心したように口元を緩ませた。
「王宮は変わりありませんか」
「全然……、ん」
「サントハイム王は」
「ちょっと老けた、かしら……
 内容は至って普通の会話であるのに、声音は痺れるほど色っぽい。すぐ耳元で発せられた魅惑の声はそのままキスの音になり、返事をしたアリーナの声もまた色香を帯び始めていた。
「ブライも元気よ」
「それは何より」
「あと百年は大丈……ぁ、んん」
 首筋に優しい唇を落とされ、思わず顎を天に突き上げて喘ぐアリーナ。そうして露になった白い咽喉に魅入られたクリフトは、唇の隙間よりそっと差し出した舌でそこを愛撫する。
「っあ、ぁ」
「アリーナ」
 彼が愛する者の名を呼ぶのはその慕情に炎を宿す時。何よりも慈しむように呼ぶ声は心地良く、アリーナは名を呼ぶ彼の唇を求めるようにキスをした。
「ん、……っん」
 以前もこの部屋で抱かれた。あの時は彼の寝床だった。別れを惜しみ、離れることを拒むように繋げた身体は陽を見ても熱を収めることはなかったが、クリフトと唇を重ねるアリーナの脳裏に、まさに3ヶ月前の情景が呼び起こされて胸が昂ぶる。
 恍惚に酔い痴れて震える目蓋をうっすらと開けば、鎖骨から胸元へ鮮やかな朱の花弁を散らすクリフトが、次に白い乳房を含もうとしていた。これに弱い嬌声を漏らしたアリーナは、彼の大きな手が全身に触れるのを感じ、甘い声で囁いた。
「ねぇクリフト、気付かない?」
 胸元で愛撫を繰り返す彼の髪を撫でながら、伏せられた瞳を窺うように前髪を掻き分けてアリーナが言う。これを聞いたクリフトは何がと思案して愛撫を続けるが、彼女の意図するものが分からない。
「触って」
 探るように全身に触れ回る彼の大きな手の感触を愉しみながら、アリーナは誘うように蠱惑的な声で彼を促した。「もっと下」
クスリと笑ってアリーナはクリフトの手を取り、導くように己の肌の上を滑らせる。彼が気付くようその手に手を合わせて何度か擦ってみれば、
「膨らんでいるでしょう?」
そこにはみるみるうちに表情を変えていくクリフトがあった。
「アリーナ」
 燃えるような情欲に艶やかな表情を浮かべていたクリフトは、醒めるような眼差しで恋人を見つめながら、彼女の腹部を何度も何度も撫でる。
「そう」
 その様子に彼もまた己の身に起きたことを理解したのだと悟ったアリーナは、大切なものに触れるかのようにそこを撫で続ける彼の手に手を重ねながら、驚くほど慈しみに満ちた笑顔を湛えて囁いた。
「ここに命があるんだよ」
 3ヶ月前、岐路の馬車では泣き崩れて帰ったアリーナに齎された幸運。彼の居ない王宮で全てを引き裂きたくなる情動に駆られた自分が神から授けられたのは、クリフトと契りを交わした証だった。
 アリーナ自身もこの福音に与ったのは数日前の事。身体の変化に気付いた時は、直ぐにでもキメラの翼を投げてクリフトの胸元へ飛び込むつもりが、ブライからは「正式な訪問を」と釘を刺されたのである。あの時は何故(どうして)と焦燥したものだが、驚きと喜びのうちに言葉を失う彼を前にした今、老魔導士の言葉の意味がよく理解る。
「私達、もう隠さなくていいんだよ」
 それぞれの世界で高位に就く公人の二人が恋仲にあることは、巷では既に知る者も少なくないが、王家として正式に発表はしていない。それはクリフトがまだ修道院と騎士団の組織作りの道半ばであるという理由からであったが、仲間達からは「まだか」という催促染みた冷やかしも受けていた。
「この子と一緒に、皆に打ち明けて良い?」
 膨らんだ下腹にそっと手を当てたままのクリフトの指をキュッと握り、アリーナはやや不安気な面持ちで上目がちに問う。3ヶ月前は、今この時期に婚約者として王家に入るのは、修道会に対する庇護を乞う様な形になるから避けたいと言っていた彼である。
 アリーナの可憐な眼差しを注がれていたクリフトは、彼女の肌の上で重ねた手はそのままに、心配そうに唇を結んだアリーナにそっと近付いて口付けた。
「勿論です」
 ふわりと優しさの漂う、全てを包み込むような微笑は、アリーナが初めて彼に恋をした時と同じもの。愛しさのあまり何度も唇を啄む彼に胸を熱くさせたアリーナは、太陽のように輝かしく花顔を綻ばせた。
「嬉しい」
 成程修道士達に見せた聖母の如き微笑は作り物であったが、それも間違いなくアリーナのものだったのだ。命を宿す聖女となった彼女の深さを知ったクリフトは、あの時注がれた慈愛の眼差しを思い出して心を焦がす。
「結婚式を挙げよう! クリフト!」
 朗らかにそう言ったアリーナの言葉は、次の瞬間に深く口付けたクリフトの唇の中に消えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【あとがき】
王家のデキ婚ってあるかなぁと思いますが、
有名な所ではピピン3世(ペパン=ル=ブレフ)とベルトラーダ妃。
現在の結婚とは価値観が違うから、結構あったかもしれません。
自分では考えないネタだっただけに凄く楽しめました!
リクエストどうもありがとうございます〜☆
 
 
 
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